【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

77. 蔑視

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第027日―2


「御助勢、有り難うございました」

獣人達が、僕達三人に頭を下げてきた。
と、荷馬車の幌の中から、一人の恰幅かっぷくの良い獣人の男性が顔をのぞかせた。
どうやら、この荷馬車のあるじらしい。
僕はその男性に声を掛けた。

「あなたもお怪我はなかったですか?」

その男性はホッとしたような表情を浮かべながら、僕達に軽く頭を下げてきた。

「怪我は無い。モンスターどもに襲われた時はもうダメかと思ったが、本当に助かった」


幸い命を落とした者はいなかったけれど、荷馬車の護衛を担当していた五名の獣人達の内、二名はかなりの重傷を負っていた。
獣人達は簡単な治癒魔法しか使えず、僕達の方も、ダランさんが簡単な治癒魔法を使えるだけ。
そのため、重傷者達の傷を完全には癒す事は出来なかった。
僕はダランさんに聞いてみた。

「カール村には、この方達の傷を癒せる治癒術師のような方はいらっしゃいませんか?」
「まあ、いるにはいますが……」

ダランさんのその歯切れの悪さに少し違和感を抱いたけれど、とりあえず傷が治りきっていない獣人達は、診てもらった方が良いはず。

そう考えた僕は、獣人達にその事を提案してみた。
荷馬車のあるじの男性は、僕の提案にうなずいた。

「そうだな。それでは案内をお願いしても良いだろうか?」
「分かりました。僕達の馬車は少し離れた場所に停めてあるので、一度馬車まで戻らせて貰いますね」

馬車に戻る途上で、ダランさんがささやいてきた。

「こんな時期にこんな場所をうろついている獣人どもは怪しいです」

どうやらダランさんもまた、メルヴィンの知事、トテオさん同様、獣人達に対して良い感情を持ってはいないようであった。

「もしかしたらボレア獣王国の密偵かも……いずれにせよ、気を付けた方が良いですよ」


カール村へは、半刻程で到着した。
村人達は、僕達にはにこやかに挨拶をしてくれた。
しかし一緒に村に到着した獣人達の荷馬車には、冷たい視線を向けるのみ。
獣人達は村人たちに、治癒術師に診てもらいたい怪我人がいる旨、伝えたようだけど、肝心の治癒術師が中々やって来ない。
どうやらこの地域の人々の、獣人達に対する嫌悪感が影響しているように感じられた。

「昔から獣人どもとは軋轢あつれきが多かったですからね。それに加えて、最近の獣王国の風聞。粗暴な連中ですし、かかわり合いたくないのが人情ってものですよ」

ダランさんが、そんな風に住民達の気持ちを代弁してくれた。
見かねた僕とハーミルは、村の治癒術師のもとにおもむき、無理矢理、彼を獣人達の荷馬車の所まで連れて来た。
治癒術師の老人が、明らかにやる気の無い様子で重傷者の治療に当たる間、僕とハーミルは恰幅の良い獣人の男性に改めて自己紹介を行った。

「今日は災難でしたね。僕は冒険者のカケル、こっちは仲間のハーミルです。」
「カケルにハーミルか。私はラキアと申す商人だ。カスベリの街で仕入れた商品をギリル村へ運ぶ途中だ。今日は本当に助かった。今は持ち合わせが無いが、この恩はいずれ必ず返す」
「お礼ならもう頂いていますから、気になさらないで下さい」

そう言葉を返しながら、僕は先程の大きな狼のようなモンスター達から抜き取った十六個の魔結晶が入った袋を見せた。
それら全ては、獣人達が僕達に譲ってくれた物だ。
ラキアさんが、そっとつぶやくのが聞こえた。

人間ヒューマン達にも、彼らのような者もいる。それなのになぜ……」

しかし彼はすぐに首を振った。

「あ、いやすまんな。独り言だ。ところで、ハーミルはあの剣聖ハーミルか?」

ハーミルが苦笑した。

「個人的には、その名で呼ばれるにはまだまだ力不足と思っておりますが」
「そうか、しかしこれは嬉しい偶然だ。モンスターどもに襲われた時はおのれの不運を呪ったが、こうしてカケルやハーミルという素晴らしい人間ヒューマン達と出会えたのだからな」


重傷者の回復を見届けた僕とハーミルは、ラキアさんに別れを告げて、今夜の宿に向かった。


宿で荷解にほどきをした後、僕はハーミルと一緒に、気晴らしに村の散策をする事にした。
二人で話しながら歩いていると、村の広場に止まっているラキアさん達の荷馬車が見えてきた。
遠目に、獣人達が慌ただしく物資を積み込んでいるのが見てとれた。

「ラキアさん達、今夜はどこに泊るんだろう?」
「荷馬車、結構大きかったし、荷馬車の中で寝るのかもね」

街道を行く行商人達は経費節減のため、村や街に到着しても、必ずしも宿に泊るとは限らないのだ、とハーミルが教えてくれた。

そのまま荷馬車に近付くと、僕達に気付いた獣人達が笑顔を向けてきた。
僕は獣人達の一人に声を掛けた。

「こんばんは。今夜は荷馬車の中で泊るんですか?」

しかし意外な答えが返ってきた。

「いや、先を急ぐので、もうしばらくしたら出発する予定なんだよ」

その時、荷馬車のほろの中からラキアさんが顔をのぞかせた。
僕は彼にも話しかけてみた。

「ラキアさん、こんばんは。もう出発されるんですね? 重傷者の方もいらっしゃいましたし、今夜はここでゆっくり休まれるのかと思っていました」
「まあ、ちょっと事情があってな……それにこの村の住民達も、我々には早く出発してもらいたいみたいだしな」

そう口にしたラキアさんの顔には、自嘲気味の笑みが浮かんでいた。
他の地域の事情は分からないけれど、どうやらこの地域の人々が獣人達に向ける悪感情は筋金入りのようだ。
かといって、僕達にはどうする事も出来ないのだけど。

「そうだ! 二人には世話になった。礼は改めて必ずさせてもらうが、餞別せんべつ代わりに、これをやろう」

ラキアさんが懐から、タリスマンのような物を二つ取り出した。
それらは組み合わせる事で、一つの紋章をかたどっているようであった。
ラキアさんが、そのタリスマンを僕達に手渡してきた。

「これは獣人族の秘宝が眠る遺跡へ入るための鍵だ。太陽が中天にある時、遺跡の入口にある石板にこのタリスマンを捧げると、扉が開かれる」
「ええっ!? 何かとても大事そうな物じゃないですか。そんな大事な物、頂けませんよ」
「ハハハ、冒険者ならともかく、どうせ商人の私には無用の物。それにその遺跡の正確な位置は、獣人族の中でも一握りの者しか知らんと言われている。カケル達も相当な幸運に恵まれなければ、遺跡に辿たどり着く事さえ出来ないだろう」

なるほど。
出所・真偽不明な埋蔵金みたいな話だ。

「そうそう、一応このタリスマン、そうやって分割して、二人で分けて持っておくと良いぞ。縁結びの効果があるとかないとか」

僕はすぐにそれを懐にしまったけれど、ハーミルは「縁結び……」とつぶやきながら、じっとタリスマンを眺めている。
僕は苦笑しながら彼女に声を掛けた。

「ハーミル、ラキアさんにからかわれているんだと思うよ」
「そ、そうよね? あは、あはは……」

ハーミルは慌てたような笑顔を浮かべて、それを懐にしまった。
そんな僕達を、何故か生暖かい視線で眺めていたラキアさんが口を開いた。

「では、二人共達者でな」
「ラキアさんも、道中お気をつけて」


第028日―1


翌朝、僕とハーミルは、ダランさんの操る馬車で、メルヴィンへ向かって出発した。
メルヴィンに近付くにつれ、物々しい武装に身を固めた兵士達を追い抜く機会が増えてきた。
一昨日、同じ道をヴィンダに向かう時には見られなかった状況だ。
僕は御者台のダランさんに声を掛けた。

「何かあったんでしょうか?」
「どうも、メルヴィンに向けて軍が集結しているようですね」

ダランさんが、兵士達の様子を観察しながら言葉を続けた。

「ここはボレア獣王国にも近いですし、これはもしかすると……」

ボレア獣王国と戦争になるかもって意味だろうか?
僕とハーミルは思わず顔を見合わせた。

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