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第四章 すれ違う想い
78. 親征
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第028日―2
その日の午後、メルヴィンの街が見えてきた。
周囲の様子は、一昨日、僕達がヴィンダへ向かった時とは一変していた。
街の外には延々と幕営が連なり、続々と兵士達が到着しているようであった。
街の城門をくぐると、メルヴィンの知事、トテオさんが僕とハーミルを出迎えてくれた。
ダランさんが一礼をして下がった後、トテオさんは改めて僕達に声を掛けてきた。
「カケル殿にハーミル殿、調査ご苦労様です。お疲れでは無いですかな?」
「トテオ様、お気遣いありがとうございます。街の外に兵士が集まっているようですが?」
「実は、獣王国の反意が明らかになりましてな。陛下自ら御出陣なさるとの事で、軍の集結が行われているのです」
皇帝ガイウス自ら!?
つまり大きな戦争が始まる、という事だろうか?
驚く僕達の反応を確かめる様な素振りを見せながら、トテオさんが言葉を続けた。
「明朝、陛下ご自身が、転移の魔法陣を使用してメルヴィンにお越しになられるとの事です。カケル殿とハーミル殿には、その際、今回の調査結果を奏上して欲しいとの知らせが届いております」
今夜の宿泊先として、僕達は街の中心部に程近い、トテオさんの館に案内された。
館は他の街で目にした知事公館と同様、レンガ造りの三階建てであった。
夕食までまだ少し時間があるとの事で、僕とハーミルは割り当てられた部屋に荷物を置き、メルヴィンの中心街を散策してくる事にした。
街を歩きつつ、僕はハーミルに話を振った。
「なんだか大変な事になってきたね」
兵士達が郊外に集結しつつある現状を反映してか、街中の人々の表情も心なしか硬い。
「私が小さい頃はともかく、ここ数年、陛下が親征するような戦争って起こってなかったからね」
「ボレア獣王国と戦争するって事だよね?」
「まあ、このままいけば、そうなるんじゃないかしら。もしかしたら、陛下はボレア獣王国とヴィンダの件が関っていると考えているのかも」
その点に関しては、僕にもはっきり分からなかった。
ヴィンダの街で“視えた”のは、【彼女】が街を滅ぼした情景のみ。
その背景、そして【彼女】がどこから来て、どこへ去ったかは“視えなかった”。
「ラキアさん達大丈夫かな?」
帝都やアルザス等、他の地域では、何人かの獣人達を目にする機会があった。
しかしこの地域で見かけたのは、ラキアさんの一行のみ。
獣人に対する風当たりが強そうなこの地域で、獣王国と戦争する気満々の兵士達と行き会って、諍いが発生してなければ良いのだけど。
そんな事を話しながら二人で中心街の店を見て回っていると、意外な人物の姿を見付けた。
「ジュノ!?」
なんと、偶然入った道具屋の中で、いつもの黄土色のポンチョを羽織ったジュノが商品を物色していた。
僕の声に振り向いたジュノも、やや驚いた顔をしていた。
「カケルにハーミルか。お前らが中々帰って来ないから、こっちから探しに来てやったぜ」
ジュノらしい言葉と行動に、僕は思わず苦笑した。
「ごめん、ジュノ。ちょっと用事で、今夜はこの街に泊まらなきゃいけないんだ。帝都に戻るのは明日以降かな」
「例の調査か? なんなら、オレが手伝ってやるぜ」
「調査は終わったんだけど……」
言い掛けて、僕はハーミルの顔を見た。
しかし彼女は澄まし顔のまま、僕とジュノとの会話に参加しない意思を態度で示していた。
まあ、皇帝ガイウス親征は周知の事実みたいだし……
そんな風に考えながら、僕は言葉を続けた。
「明日、調査結果を皇帝陛下にお伝えしなきゃいけないんだ。だから、帝都に帰るのはそれからになると思う」
「……やっぱり、獣王国と戦争になるって噂は本当だったんだな……」
ジュノはそう言うと、怒りとも悲しみともつかない複雑な感情を浮かべたまま、何かをじっと考え込む素振りを見せた。
そんなジュノに、僕は声を掛けた。
「そういう訳だから、一緒には行動できないんだ」
「まあいいさ。お前ら、今夜はどこに泊まっているんだ?」
「知事のトテオ様の館だよ」
「そうか……じゃあ明日、暇になったら、絶対連絡してくれよ?」
ジュノは自分の今夜の宿泊先を告げると、意外にあっさりと引き上げて行った。
「なんか、何考えているのかよく分からない子ね」
「単に、僕達と一緒に冒険してみたいだけなんじゃないのかな」
「それだけだったらいいけど……」
ハーミルは何故かじっと考え込んでいる。
「気になる事でも?」
僕の言葉に、ハーミルは、はっとしたように顔を上げ、すぐになんでもないと微笑んだ。
第029日―1
翌朝、僕とハーミルは、ヴィンダに転移してきた皇帝ガイウスとノルン様に、トテオさんの館の応接室で対面した。
「カケル、ハーミル、此度はご苦労であった。して、首尾は?」
僕はヴィンダで“視た”情景を、皇帝ガイウスに説明した。
皇帝ガイウスとノルン様の顔が、驚愕の色に染まっていく。
「その者は、たった一人で街を滅ぼしたのか!?」
「はい。“視えた”範囲内では、【彼女】以外に街の攻撃に参加していた者はいなかったようです」
「う~む……」
皇帝ガイウスはそのまま押し黙ってしまった。
しばしの沈黙の後、彼は再び口を開いた。
「この事、他の者には?」
「霊力に関する部分は伏せて、概略は現地の先遣隊の隊長にご報告しましたが……」
話しながら、僕は若干不安になった。
もしかしたら、皇帝ガイウス以外には告げるべきでは無かったか?
いやでも、皇帝ガイウスからは、現地の先遣隊に協力を仰ぐよう、指示を受けていたわけだし……
皇帝ガイウスは、苦笑を浮かべながら言葉を返してきた。
「話してしまったものは仕方ない。しかしこの事、これ以上は他言無用で願いたい」
僕とハーミルは頷いた。
「それと、もう知ってはいると思うが、ボレア獣王国が離反した。影響を最小限に食い止めるため、明日には出陣し、予自ら、大軍で一挙に攻め滅ぼしてやるつもりじゃ。ただ、ヴィンダを滅ぼした者の件もある。ついては、カケルとハーミルも従軍して、いざと言う時には、予とノルンを助けて欲しい」
戦場に自分が?
もしかすると、【彼女】が現れた時の戦力として、であろうか?
しかし霊力を使って戦った経験が殆ど無い自分に、ヴィンダを滅ぼす程の力に抗う事は、果たして可能なのであろうか?
僕が即答できずに口ごもっていると、ハーミルが口を開いた。
「お言葉、しかと承りました。つきましては、従軍に当たって、一つお願いがあるのですが」
「よい。申してみよ」
「最近、私達と共に行動したいという者が現れました。実は勝手にこの街まで私達を追いかけてきているのですが、その者の同行もお許し頂けないでしょうか?」
僕は驚いてハーミルの顔を見た。
確か、彼女はジュノを嫌っていたはず。
何故急に、ジュノの同行をわざわざ皇帝ガイウスに頼むのであろうか?
皇帝ガイウスの目が心なしか細くなった。
「ほう、ハーミルが見込んだ者であれば異存はない。が、一応連れて参れ」
僕とハーミルは皇帝ガイウスの前から退出し、改めてジュノを帯同して戻って来る事になった。
トテオさんの館を出てジュノの宿泊先に向かう道すがら、僕はハーミルに聞いてみた。
「さっきの話だけど、急にジュノを連れて行こうって……どうしたの?」
「だって、あの子あんなについてきたがっていたじゃない。だから、ダメもとで頼んであげたのよ」
それは奇妙な話だ。
昨日、道具屋で会った時、会話すら交わそうとしなかった相手を、急に同行させてあげようなんて、ハーミルは一体、どういうつもりだろう?
ジュノの熱心さに負けて、絆されたって感じでも無さそうだし。
僕はとりあえず言葉を返した。
「まあ、ジュノは喜ぶだろうけど……」
「もしかして、カケルは反対なの?」
「そんな事はないよ」
それっきりしばらく会話が途切れた後、ハーミルが、少し声を潜めて再び話し出した。
「ねえ、あの子、なんで私達の仲間になりたいんだと思う?」
その日の午後、メルヴィンの街が見えてきた。
周囲の様子は、一昨日、僕達がヴィンダへ向かった時とは一変していた。
街の外には延々と幕営が連なり、続々と兵士達が到着しているようであった。
街の城門をくぐると、メルヴィンの知事、トテオさんが僕とハーミルを出迎えてくれた。
ダランさんが一礼をして下がった後、トテオさんは改めて僕達に声を掛けてきた。
「カケル殿にハーミル殿、調査ご苦労様です。お疲れでは無いですかな?」
「トテオ様、お気遣いありがとうございます。街の外に兵士が集まっているようですが?」
「実は、獣王国の反意が明らかになりましてな。陛下自ら御出陣なさるとの事で、軍の集結が行われているのです」
皇帝ガイウス自ら!?
つまり大きな戦争が始まる、という事だろうか?
驚く僕達の反応を確かめる様な素振りを見せながら、トテオさんが言葉を続けた。
「明朝、陛下ご自身が、転移の魔法陣を使用してメルヴィンにお越しになられるとの事です。カケル殿とハーミル殿には、その際、今回の調査結果を奏上して欲しいとの知らせが届いております」
今夜の宿泊先として、僕達は街の中心部に程近い、トテオさんの館に案内された。
館は他の街で目にした知事公館と同様、レンガ造りの三階建てであった。
夕食までまだ少し時間があるとの事で、僕とハーミルは割り当てられた部屋に荷物を置き、メルヴィンの中心街を散策してくる事にした。
街を歩きつつ、僕はハーミルに話を振った。
「なんだか大変な事になってきたね」
兵士達が郊外に集結しつつある現状を反映してか、街中の人々の表情も心なしか硬い。
「私が小さい頃はともかく、ここ数年、陛下が親征するような戦争って起こってなかったからね」
「ボレア獣王国と戦争するって事だよね?」
「まあ、このままいけば、そうなるんじゃないかしら。もしかしたら、陛下はボレア獣王国とヴィンダの件が関っていると考えているのかも」
その点に関しては、僕にもはっきり分からなかった。
ヴィンダの街で“視えた”のは、【彼女】が街を滅ぼした情景のみ。
その背景、そして【彼女】がどこから来て、どこへ去ったかは“視えなかった”。
「ラキアさん達大丈夫かな?」
帝都やアルザス等、他の地域では、何人かの獣人達を目にする機会があった。
しかしこの地域で見かけたのは、ラキアさんの一行のみ。
獣人に対する風当たりが強そうなこの地域で、獣王国と戦争する気満々の兵士達と行き会って、諍いが発生してなければ良いのだけど。
そんな事を話しながら二人で中心街の店を見て回っていると、意外な人物の姿を見付けた。
「ジュノ!?」
なんと、偶然入った道具屋の中で、いつもの黄土色のポンチョを羽織ったジュノが商品を物色していた。
僕の声に振り向いたジュノも、やや驚いた顔をしていた。
「カケルにハーミルか。お前らが中々帰って来ないから、こっちから探しに来てやったぜ」
ジュノらしい言葉と行動に、僕は思わず苦笑した。
「ごめん、ジュノ。ちょっと用事で、今夜はこの街に泊まらなきゃいけないんだ。帝都に戻るのは明日以降かな」
「例の調査か? なんなら、オレが手伝ってやるぜ」
「調査は終わったんだけど……」
言い掛けて、僕はハーミルの顔を見た。
しかし彼女は澄まし顔のまま、僕とジュノとの会話に参加しない意思を態度で示していた。
まあ、皇帝ガイウス親征は周知の事実みたいだし……
そんな風に考えながら、僕は言葉を続けた。
「明日、調査結果を皇帝陛下にお伝えしなきゃいけないんだ。だから、帝都に帰るのはそれからになると思う」
「……やっぱり、獣王国と戦争になるって噂は本当だったんだな……」
ジュノはそう言うと、怒りとも悲しみともつかない複雑な感情を浮かべたまま、何かをじっと考え込む素振りを見せた。
そんなジュノに、僕は声を掛けた。
「そういう訳だから、一緒には行動できないんだ」
「まあいいさ。お前ら、今夜はどこに泊まっているんだ?」
「知事のトテオ様の館だよ」
「そうか……じゃあ明日、暇になったら、絶対連絡してくれよ?」
ジュノは自分の今夜の宿泊先を告げると、意外にあっさりと引き上げて行った。
「なんか、何考えているのかよく分からない子ね」
「単に、僕達と一緒に冒険してみたいだけなんじゃないのかな」
「それだけだったらいいけど……」
ハーミルは何故かじっと考え込んでいる。
「気になる事でも?」
僕の言葉に、ハーミルは、はっとしたように顔を上げ、すぐになんでもないと微笑んだ。
第029日―1
翌朝、僕とハーミルは、ヴィンダに転移してきた皇帝ガイウスとノルン様に、トテオさんの館の応接室で対面した。
「カケル、ハーミル、此度はご苦労であった。して、首尾は?」
僕はヴィンダで“視た”情景を、皇帝ガイウスに説明した。
皇帝ガイウスとノルン様の顔が、驚愕の色に染まっていく。
「その者は、たった一人で街を滅ぼしたのか!?」
「はい。“視えた”範囲内では、【彼女】以外に街の攻撃に参加していた者はいなかったようです」
「う~む……」
皇帝ガイウスはそのまま押し黙ってしまった。
しばしの沈黙の後、彼は再び口を開いた。
「この事、他の者には?」
「霊力に関する部分は伏せて、概略は現地の先遣隊の隊長にご報告しましたが……」
話しながら、僕は若干不安になった。
もしかしたら、皇帝ガイウス以外には告げるべきでは無かったか?
いやでも、皇帝ガイウスからは、現地の先遣隊に協力を仰ぐよう、指示を受けていたわけだし……
皇帝ガイウスは、苦笑を浮かべながら言葉を返してきた。
「話してしまったものは仕方ない。しかしこの事、これ以上は他言無用で願いたい」
僕とハーミルは頷いた。
「それと、もう知ってはいると思うが、ボレア獣王国が離反した。影響を最小限に食い止めるため、明日には出陣し、予自ら、大軍で一挙に攻め滅ぼしてやるつもりじゃ。ただ、ヴィンダを滅ぼした者の件もある。ついては、カケルとハーミルも従軍して、いざと言う時には、予とノルンを助けて欲しい」
戦場に自分が?
もしかすると、【彼女】が現れた時の戦力として、であろうか?
しかし霊力を使って戦った経験が殆ど無い自分に、ヴィンダを滅ぼす程の力に抗う事は、果たして可能なのであろうか?
僕が即答できずに口ごもっていると、ハーミルが口を開いた。
「お言葉、しかと承りました。つきましては、従軍に当たって、一つお願いがあるのですが」
「よい。申してみよ」
「最近、私達と共に行動したいという者が現れました。実は勝手にこの街まで私達を追いかけてきているのですが、その者の同行もお許し頂けないでしょうか?」
僕は驚いてハーミルの顔を見た。
確か、彼女はジュノを嫌っていたはず。
何故急に、ジュノの同行をわざわざ皇帝ガイウスに頼むのであろうか?
皇帝ガイウスの目が心なしか細くなった。
「ほう、ハーミルが見込んだ者であれば異存はない。が、一応連れて参れ」
僕とハーミルは皇帝ガイウスの前から退出し、改めてジュノを帯同して戻って来る事になった。
トテオさんの館を出てジュノの宿泊先に向かう道すがら、僕はハーミルに聞いてみた。
「さっきの話だけど、急にジュノを連れて行こうって……どうしたの?」
「だって、あの子あんなについてきたがっていたじゃない。だから、ダメもとで頼んであげたのよ」
それは奇妙な話だ。
昨日、道具屋で会った時、会話すら交わそうとしなかった相手を、急に同行させてあげようなんて、ハーミルは一体、どういうつもりだろう?
ジュノの熱心さに負けて、絆されたって感じでも無さそうだし。
僕はとりあえず言葉を返した。
「まあ、ジュノは喜ぶだろうけど……」
「もしかして、カケルは反対なの?」
「そんな事はないよ」
それっきりしばらく会話が途切れた後、ハーミルが、少し声を潜めて再び話し出した。
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気になった方は是非読んでみてください。
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