【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

79. 従軍

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第029日―2


「ねえ、あの子、なんで私達の仲間になりたいんだと思う?」

ハーミルのいきなりな問い掛けに、僕は少し考えてから言葉を返した。

「それは……僕達の事を、剣聖と凄腕の魔導師って組合せだと思っているからじゃないの? 大望が有るからとかで、強い仲間と一緒に冒険して、最強の冒険者になりたいって話していたし」
「そうね。だけどそれなら、私達だけにこだわらなくても良くない? 優秀な冒険者なんて他にいくらでもいるわけだし。例えば、アレルやナイアなんかは、私達より冒険者としては、はるかに優秀でしょ?」
「たまたま、僕達がジュノを助けてあげたからっていうのもあるんじゃないのかな」
「でも、それで普通、真夜中、私達というか、カケルをじいっとストーカーする動機になるかしら?」

ハーミルの言葉を聞いた僕は、以前感じた疑問第72話を思い出した。
コイトスで襲撃された時、何故、ジュノがあそこにいたのか?

「もしかして、何か他に目的があって、僕達に付きまとっている?」
「わからないわ。ただジュノは、今の所、私達に不利になるような行動は取って無いし、敵意も無さそうよね」

それは確かにその通りだ。
ヘルハウンドの時も、コイトスの時も、ジュノは僕を護ろうと……
待てよ?
護ろうと?

首を捻っていると、ハーミルが言葉を続けた。

「だから、どうせ付きまとわれるなら、一緒に居てもらったほうが、こっちも観察しやすいでしょ?」


歩く事三十分程で、ジュノの宿泊先に到着した。
宿の主人に来意を告げると、すぐにジュノを呼びに行ってくれた。
ジュノは部屋でくつろいでいたらしく、いつものポンチョでは無く、ラフなシャツとズボンというちでやってきた。

「もしかして、用事は全て済んだのか?」

僕はハーミルの方をチラッと見てから話を切り出した。

「その事で話があってね。実は僕達、皇帝陛下から、従軍するように言われたんだ。で、ハーミルとも相談したんだけど、ジュノも一緒に行かない?」
「え!? いいのか?」

僕の言葉を聞いたジュノは前のめりになった。
その顔には、素直に喜びの表情が浮かんでいる。
やっぱり、ハーミルの考え過ぎではないだろうか?

「その代わり、事前にジュノを皇帝陛下の所に連れて行って、許可を貰わなきゃいけないんだけど」
「行く行く! すぐ準備するから待っていてくれ」

ジュノは嬉しそうに自分の部屋へと駆け戻って行った。


一時間後、いつもの黄土色のポンチョを羽織ったジュノを連れて、僕とハーミルは、トテオさんの館に戻って来ていた。

「一応、分かっていると思うけど、皇帝陛下の前で、いつもの調子はダメだよ?」
「大丈夫だ。まかせろ」

僕は皇帝ガイウスの待つ応接室にジュノを案内しながら、もう何度目かの念押しをおこなった。
ジュノの方は、気を揉む僕を他所よそに上機嫌である。

「陛下、仲間のジュノを連れて参りました」

応接室の扉を開け、僕とハーミルが作法通りに臣礼を取った。
意外な事に、ジュノもちゃんと臣礼を取っている。

「おお、そのほうが、カケル達の新しい仲間か?」
「はっ! 冒険者のジュノと申します。非才の身ではありますが、仲間と共に、陛下の付託ふたくにおこたえ出来ますよう、誠心誠意努める所存で御座います」

皇帝ガイウスはジュノに、僕達との出会いの経緯を含めて、いくつか質問を行った。
それらによどみなく、作法通りに答えて行くジュノの姿は優雅ですらあった。
もしかしたらジュノは、本当はどこか良家りょうけの出なのかもしれない。
そう考えると、いつもの自信過剰な物言いも、世間知らずの育ちのせいで説明できそうな。

そんな事を僕が考えている内に、皇帝ガイウスによるジュノに対する“諮問”は終了していた。

「よかろう。ジュノよ、此度こたびの出陣、カケル、ハーミルと共に従軍を許そう。明朝の出陣に備えて、この公館に宿替えするが良いぞ」

そう告げると、皇帝ガイウスはジュノだけ先に退室するよううながした。
ジュノの退室を確認すると、皇帝ガイウスは改めて、僕とハーミルに問い掛けてきた。

「ところでジュノは、カケルの力の事を知っておるのか?」
「霊力の事は話していません。なので、僕の事を凄腕の魔導士だと思っているようです」
「そうか……ならば、そのまま力の事は伏せておいてくれ」
「分かりました」

僕達が退室すると、既に廊下にはジュノの姿は無かった。
館の衛兵が、ジュノが宿替えの為、今の宿屋に荷物を取りに向かった事を教えてくれた。

「ジュノ、意外だったね。ちゃんとした言葉使い出来るんだ」
「そうね……」

僕の問いかけに、ハーミルが気の無い返事を返してきた。
見ると、彼女は少し難しい顔になっていた。

「どうしたの?」

しかしすぐに笑顔になると、首を横に振った。

「ごめん、なんでもないわ」


第030日―1


翌朝、皇帝ガイウス率いる数万の軍勢が、メルヴィンよりボレア獣王国に向けて進軍を開始した。
このメルヴィンからだけではなく、複数の近隣都市からも一斉に進攻が開始されていた。
総計十数万の大軍は、道々要衝を攻略し、首都ボレア付近で合流する手筈てはずになっていた。
その軍中の中を進む大型の馬車に、僕はハーミル、そしてジュノと一緒に乗り込んでいた。

冒険の時と違い、心の中には少しも沸き立つ物が無かった。
考えてみれば、この世界に来て、モンスターは何頭か斃したけれど、意思の疎通が出来る存在をこの手に掛けた事は――いつぞやのウルフキングを除いて――皆無であった。
戦争となれば、敵味方に大量の死傷者が出るのでは無いか?
果たして、自分は戦場で“敵”の獣人と戦う事になった場合、相手の命を奪えるのだろうか?

色々な想いが頭の中を駆け巡る。
それが顔に出たのだろう。
ジュノがからかうような口調で話しかけてきた。

「なんだ、怖気おじけづいたか?」
「怖気づくというのはちょっと違うかな。それより、なるべく犠牲が出なくて戦争が終われば良いな~と」
「相手が簡単に降参すればな。でも獣王国側も戦備を整えているみたいじゃないか。簡単には終わらないだろうな」

僕はハーミルに顔を向けた。

「ハーミルは、今まで戦争に参加した事ってあるの?」
「私は従軍するのは初めてね。帝国自体、これ程大規模に軍を動かすのは、十年ぶり位じゃないかしら?」
「ハーミルには不安とか無いの?」
「そりゃあるわよ。そうね、いざとなったら、か弱い乙女の私を守ってね」

そう言って、ハーミルは僕に抱き着こうとしてきた。
そんな彼女を何とか押し返しつつ、そっと観察してみたけれど、彼女からは特段、不安や緊張は感じられなかった。
やはり剣に生きるハーミルにとって、戦いとは、時には相手の命を奪うもの、という前提があるようだ。

「ジュノはどう?」
「オレか? 別に不安は無い。戦争なんだ、運が無ければ死ぬだけさ」

ややぶっきらぼうに、そう答えるジュノに、僕は軽い反発を覚えた。

「死んだら終わりなんだからさ、簡単に死ぬとか言っちゃダメだよ」
「でも人は簡単に死ぬ。オレはそれを知っている」

そう言葉を返してきたジュノの瞳の中に、一瞬暗いほむらが揺れた気がした。


第032日―1


僕達は途中、大きな抵抗を受ける事なく、順調に進軍を続け、メルヴィンを出発した翌々日の昼過ぎ、ボレア獣王国の首都ボレアを遠望できる地点に到着した。
ボレアの街は城門を固く閉ざし、防備を固めているようであった。
続々と参集して来る帝国軍を待つ間、ボレアに降伏を促す軍使が派遣される事になったとの事で、僕達はその日の午後を、特にする事も無く、設営された幕舎の中で、のんびり過ごす事になった。

夕方、急に幕舎の外が騒がしくなった。
ハーミルやジュノと一緒に幕舎の外に出た僕は、手近の兵士にたずねてみた。

「何かあったんですか?」
「どうも獣人の密偵が、近くまで入り込んでいたらしいので、捜索している所です」

僕達は顔を見合わせた。
ここは皇帝ガイウスやノルン様の幕舎にも近い、本陣に当たる場所だ。
数で劣る獣人側が起死回生の策で、皇帝ガイウス達の暗殺を狙った、という可能性も否定できない。
僕は秘かに自分の右腕にめている腕輪に意識を集中した。
そして身体に霊力がみなぎるのを確認してから、自分を中心に、慎重に霊力による感知の網を広げてみた。
すると数百メートル先の茂みの中に、見知った人物の姿を発見した。

「ラキアさん!?」

それは、魔力での感知をあざむく効果を持つ魔道具を握りしめてうずくまる、あの恰幅の良い獣人の男性であった。

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