【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

82. 復権

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第033日―2


次々と縛り上げられていく獣人達を眺めながら、僕は昨日の事を思い返していた。

昨日、僕はアルザスでミーシアさんを介して、レルムスから彼女のローブを“借り受けて”いた。
彼女は初め、ローブを脱ぐ事に関して、断固拒否の姿勢であった。
そこで僕はミーシアさんのアドバイス?に従って、レルムスの手を握り、優しく語りかけてみた。

「レルムス、僕のために君のローブを貸してもらえないかな。お礼に、何でも君の言う事を聞くよ」

するとレルムスは耳まで真っ赤になった後、僕の手を振り払い、何故かいつぞやのようにカクカクと怪しい動きを見せて卒倒してしまった。
その隙に、ミーシアさんが素早くローブをレルムスからぎ取り、僕に手渡してくれた。
あの時は、ゲシラム様をアルザス近郊の丘の上に待たせたままだったし、あとをミーシアさんに任せてしまったけれど、レルムスはあれから大丈夫だったのであろうか?


その場にいた獣人達全ての制圧を見届けた後、ハーミルが笑顔を向けてきた。

「意外と上手くいったね」
「ここからが本番だよ。まずはゲシラム様の帰還を告げて、王宮内を掌握しないと」

僕達は、直ちに王宮内でゲシラム様が帰還した事を触れて回った。
その言葉に応じるかのように、続々と衛兵達がやってきて、ゲシラム様の前でひれ伏した。
それと入れ替わるように、王宮内にまだ残っていたクーデター派の獣人達は、僕達とゲシラム様に忠誠を誓う衛兵達により制圧されていった。
ゲシラム様は小一時間もかからない内に、王宮を掌握する事に成功した。
その後直ちに、街の住民や衛兵達にもゲシラム様の帰還が告げられた。

こうして正午前には、ゲシラム様は一人の死者も出す事無く、名実共に、ボレア獣王国国王の座に返り咲いた。


街を見渡せる王宮内の塔の一つに僕達を案内したゲシラム様が、僕達に頭を下げてきた。

「再びここに戻れるとは、正直思っていなかった。カケル、ハーミル、ジュノ。お前達には返しきれない程の大恩を受けてしまったな」
「いえ、ゲシラム様をちゃんと慕っている人々がいたからこその成功ですよ。ここに乗り込んで、ベヒマさん達をやっつけても、誰もゲシラム様の元に駈け付けなかったら、そこで終わっていましたからね」

実際、僕の計画は、タリスマンを見せれば城内に入れるだろう、霊力展開すれば、クーデター派を圧倒できるだろう、王宮内にゲシラム様を慕う者達が残っているだろう、の完全“だろう”作戦であった。
どれか一つでも歯車が狂っていたら、決して成功しなかったに違いない。

ゲシラム様が表情を引き締めた。

「さて、最後の大仕事に取り掛かるとしよう」

僕達とゲシラム様は、既に昨夜のうちに、皇帝ガイウスに提示する降伏文書を作製していた。
そこには、獣王国に属する金鉱山を含む地域の帝国への割譲、ベヒマ達クーデター派の帝国への身柄引き渡し、ゲシラム様の退位と息子への譲位、そして一定期間の帝国軍による保障占領といった条項が並んでいた。
これなら、事前に僕が皇帝ガイウスより聞かされていた降伏条件と合致しているはず。

「獣王国の存続が保証されるなら、私の身柄を帝国に預ける事を書き加えても良いが」
「それは交渉の過程での譲歩内容として、留保しておいた方が良いと思うわ」

ゲシラム様の言葉に、ハーミルが返事をした。

「あと、私達とゲシラム様が出会った経緯についてだけど……」

ハーミルの提案で、話がややこしくなるのを防ぐため、ゲシラム様は僕達とカールの村で別れた後、単身、城内に戻って、隙を伺っていたという事にした。
そしてゲシラム様が、僕達とクーデター派の交渉の場に乱入。
僕達がゲシラム様に加勢、共にクーデター派を鎮圧した、と説明する事になった。

話が一段落ついたところで、僕とハーミルはゲシラム様に、以前下賜されていたタリスマンを差し出した。

「ゲシラム様、これ、お返しします」
「それは既にそなた達の物だ。私が持っていても、どの道役には立たない」
「でもゼラムさんって、数千年前にしいたげられていた獣人族を、闇から解放した大英雄なんですよね? そんな凄い人の秘宝に至る鍵なら、やはりゲシラム様が持っているべきだと思うのですが」
「前にも申した通り、翡翠の谷に関する知見は我等の間でもほぼ失われて久しい。獣人であるなしにかかわらず、そなた達のような真の英雄が幸運に恵まれ、秘宝を手にするなら、それこそ始祖ゼラムの心に沿うというもの。まあ、もし実際に秘宝を手に入れたら、ちょっとだけ、私にも見せてもらえれば有り難いがな」

ゲシラム様が若干おどけた風な表情を見せた。
僕も苦笑しながら言葉を返した。

「分かりました。では、しばらく僕とハーミルとでお預かりしておきますね」


さらに若干の細部を詰めた後、僕、ハーミル、ジュノの三人は、昼前には、ゲシラム様の書状をたずさえて、帝国側の軍営へと戻ってきた


「ご苦労であった。して、首尾の方は?」

僕達を幕舎の中に招き入れた皇帝ガイウスは、早速、午前中の“交渉”の結果を尋ねてきた。
彼の傍らには、ノルン様や数人の側近達も控えていた。
僕達は事前の打ち合わせ通りの状況説明を行い、合わせてゲシラム様からの書状を皇帝ガイウスに差し出した。
彼はそれを一読すると、周囲のノルン様達にも読むようにうながした。

「すると此度こたびくわだてには、ゲシラムはかかわっておらなんだ、と?」
「はい、全てはクーデター派の陰謀によるものだったようです。ゲシラム様は、今回の事態の収拾に手間取り、陛下のお手をわずらわせる結果になった事を、痛く恥じ入っておられました」



ガイウスは腕を組み、目を閉じてじっと考え込んだ。
カケル達の報告に、そんなにおかしな点は見当たらない。
恐らく、ゲシラムは本当に一時的に実権を奪われ、城外に出ていたのであろう。
ゲシラムの書状からも、彼の恭順を示す姿勢が読み取れた。
ここはこの条件での降伏を許し、ノルンのいう『威徳と恩愛』を示した方が得策かもしれない。
ガイウスの頭には、不穏な動きを見せるもう一つの国、ヤーウェン共和国の事もあった。
ボレア獣王国の問題がこれで決着するならば、直ちにヤーウェン共和国への対処に専念できる。
また、もし、かの国内でも同じような分裂が起こっていれば、ここで皇帝としての度量を見せる事で、親帝国派を勇気づける事が出来るかもしれない。



皇帝ガイウスが目を開き、決を下そうとしたその時……!


―――ドゴォォォン!


突然轟音が響き渡り、地面が揺れた。
幕舎の中に緊張が走った。
僕、ハーミル、ジュノは、皇帝ガイウスに一礼すると、確認のため、外へ飛び出した。

それとほぼ同時に、再び轟音が響き渡り、僕の視界の先、十数m程の場所の地面がえぐられ、土煙が上がるのが見えた。

「ボレアからの攻撃だ!」

兵士達の怒号と悲鳴が辺りを埋め尽くし、周囲は騒然とした雰囲気に包まれていく。
彼等の言葉通り、どうやら攻撃はボレア方向から行われているように感じられた。
しかし、あれ程和平を望んでいたゲシラム様が、急に心変わりするとは考えにくい。
クーデターに加担していたボレア側の兵士の一部が、暴発しているのだろうか?

その間も断続的にボレア方向からの攻撃が行われ、そのたびに、軍営に被害が出ているようであった。
いつの間にか、皇帝ガイウスやノルン様達も幕舎から出てきていた。

「何事が起きているのか、ただちに確認せよ!」

皇帝ガイウスに命じられた側近達が、慌てて駆け出していく。
僕はそっと目を閉じた。
そしてそのまま、ボレア方向に意識を集中してみた。

「!」

ボレアの城壁の上に、能面のような無表情でたたずむ【彼女】の姿が“視えた”。

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