【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

88. 大望

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第034日―3


……
…………

「……カケル! 大丈夫!?」

どれほど気を失っていたのであろうか?
気が付くと僕は、冷たい石畳の床の上に、仰向けに横たわっていた。
心配そうな顔でハーミルが覗き込んできている。
起き上がろうとして……ふらつく僕に、ハーミルがそっと支えの手を伸ばしてくれた。
彼女の助けを得て立ち上がってみると、先程“幻視”したのと同じ、祭壇の有る部屋の中に居るようであった。
ただしメイアルラトゥ達の幻影は消え去り、代わりにこちらに安堵の表情を向けてきているノルン様とジェイスンさんの姿が有った。

ノルン様が状況を簡単に説明してくれた。

「カケルがいつまで待っても戻って来ないから、ハーミルがおぬしの様子を見に、あの黒い穴に飛び込んだのだ」

その後、黒い穴が確かに祭壇へと通じている事、そして床に僕が倒れている事を知ったノルン様とジェイスンさんも、相次いで黒い穴を通って、ここへやって来たのだという。

僕は皆に頭を下げた。

「心配かけてすみません。僕はどれ位気を失っていたのでしょうか?」
「おぬしが黒い穴に飛び込んで、今まで時間にして数分といった所だが……もしかして、何か“視えた”のか?」

ノルン様からの問いかけに、僕は今“視た”情景について説明した。
僕の話を聞き終えたハーミルがポツリと呟いた。

「カケルが“視た”っていう儀式の内容、あのミルムって子の時のと酷似しているわよね……」

400年前のあの世界で、僕の中に居たハーミルもまた、ミルムの儀式第47話をつぶさに見ていたはず。
と、ノルン様がそのハーミルの呟きを聞きとがめた。

「待て、ハーミルよ。今、ミルムと申したか?」
「あれ? そういやあの女の子の名前、カケルから聞いてなかったの? そうよ、400年前の儀式で、魔神とやらの生け贄にされそうになっていた女の子の名前がミルムよ」
「まさか……」

ノルン様の表情が急に険しくなった。
ハーミルが怪訝そうな雰囲気で問い掛けた。

「ミルムって名前に何か?」
「我が祖、初代ナレタニア皇帝ドミニス様の皇后にして、史上初めて宝珠を顕現された方の御名みなが、ミルム様だ」
「ええっ!?」

僕とハーミルはお互い顔を見合わせた。
時期や状況から考えて、単なる名前が同じなだけの別人とは考えにくい。
もしあの時のミルムが最初の宝珠の顕現者になったのだとしたら……
そこには、あの時の儀式の影響が有ったのではないか?
あの儀式そのものは、『彼女サツキ』が霊力で“魔神の触手?”を封印・変質させる事で、失敗に終わったはず。
だとすれば、宝珠とはもしや……?

僕はノルン様に、今更ながらの質問をぶつけてみた。

「あの……魔神って何なのでしょうか?」
「魔神なるものについては、全く分からぬ」

ノルン様はそう話して、隣のジェイスンさんの方を見た。
ジェイスンさんも首を横に振った。

「わたくしも魔神なるものについての記録、目にした事は御座いません」
「魔神なるものの詳細に関しては、今度ゆっくり調べてみるとして、今はともかく、ここの調査を優先しようぞ」

ノルン様の一言で、祭壇の調査が再開された。
しかし分かったのは、祭壇でメイアルラトゥが宝珠を顕現していた事、何らかの儀式が行われた事、そして当事者達は侵入した時と同じ経路を逆に辿たどって既に逃げ去った後である事等々。
つまりは、僕が“幻視”した内容が再確認されただけ。

調査を終えた僕達が報告のため皇帝ガイウスの幕舎へ戻った時、周囲はすっかり夜のとばりに包まれていた。


――◇―――◇―――◇――


夜半、ジュノは一人、幕舎の外にいた。
あたりに人の気配が無いのを確認して、ジュノは胸元のネックレスを握りしめた。
それはある一定の範囲内に居る者同士、お互いに会話を通ずることのできる魔道具であった。

二週間ほど前、ある人物がジュノに接触してきた。
その人物は自身の身分を明かした上で、ジュノの大望の一部を成就させ得る条件を提示してきた。
それはとある少年の護衛と監視の任であった。
いつものように、今日起こった出来事について報告した後、ジュノは既に何度か行っている質問を持ち出してみた。

「おい、あのカケルってやつの力、あれは何だ?」
『前にも話したが、君はそれについて深く知らないほうが良い。知る事は君の大望成就の妨げとなる』
「なんか大事そうなことは、いつもそうやってはぐらかすんだな」
『これも前に話した事だが、気になるならカケル自身に聞いてみたら良い。彼が自ら話す分には、我々も止めようがない』
「今のところ、カケルは凄腕の魔導士って自称している」
『じゃあ、それで良いんじゃないかな?』
「オレも最初はそうかなって思っていたさ。だけどさすがに何度もあの力を見せられたら、あれが魔法では説明がつかない力だって事位分かる。あんた達がオレにあいつの護衛と監視を依頼したのも、あいつのあの力が関係しているんだろ?」
『その件に関しては、これ以上何も話せない。君がきちんと仕事をこなしてくれる限り、我々は必ず君の祖国再興という大望のお手伝いをしてあげるよ』


男との会話を切り上げたジュノは再び幕舎の中へと戻って行った……
…………
……


夜中、パチパチと何かがぜる音と、嫌な煙の臭いで彼女は目を覚ました。
周囲に目を向けると、同じ部屋で寝ていたはずの両親の姿が見えない。
眠い目をこすりながら廊下に出てみると、そこは既に火の海であった。
まだ6歳の彼女には、状況が理解出来なかった。
彼女は昨日、両親に連れられて、二人の兄弟と共に帝都へやってきていた。
それまでダリオ王国から出た事の無かった彼女にとって、それは生まれて初めての、そしてとても楽しい家族旅行になるはずのものであった。

「母様……? 父様……?」

炎で真っ赤に照らし出され、熱風が吹き抜ける廊下を、それでも彼女は家族を探して歩いて……

……廊下で血まみれになって横たわる両親を見つけた。

急いで駆け寄ったけれど、幼い彼女はどうすれば良いか分からない。
思わずその場にへたりこみ、動かない両親の身体にすがって泣き始めた。
と、そこへ12歳の兄がやってきた。

「ジュノ、良かった。無事だったんだな」
「兄様!? 母様と父様が……」

ジュノの兄は無言でジュノを抱え上げると、炎の廊下を駆け出した。

「いたぞ!」

廊下の向こうから声がかかり、兄が方向転換しようとした。
その時、兄の胸元に抱えられていたジュノは、目の前、彼女ぎりぎりに突然刃が生えるのを見た。
と、同時に廊下に投げ出されてしまった。
驚いて身を起こすと、兄が背中から剣で貫かれ、その剣先が胸元から飛び出しているのが見えた。
呆然と成り行きを見守るジュノの目前で、兄は胸元から真っ赤な血を吹き上げながら、廊下に崩れ落ちた。
兄を刺し貫いた若い兵士は、ジュノにも剣を向けて来た。

「待て! 王族なれば、幼き女子は助命されるのが慣例のはず」

その声に、ジュノに剣を向けていた若い兵士が後ろを振り向いた。

「しかしキース様、陛下は全員殺せ、と」
「その少女は帝国剣術師範たる私が、陛下のもとに連れて行き、直々に陛下の御意志を確認させてもらおう」

眼光鋭い、キースと呼ばれた壮年の剣士はそう口にすると、ジュノの方にゆっくりと近付いてきた。
…………
……

「っ!」

ジュノは声無き声をあげ、飛び起きた。
まだ周りは暗い。
少し混乱していた頭が落ち着いていくに従って、自分がガイウスの軍営中の幕舎の中にいる現状が思い起こされた。
あの日から、彼女は“王女であった過去”を捨てた。
そして今まで十年間、厳しい監視のもと、自身の大望をひた隠しにして生きてきた。

「力が必要だ。強くなければ国家の再興も、その先にある自分の大望も決して果たされる日は来ない!」

ジュノは暗がりの中、一人つぶやいた。

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