【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

89. 触手

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第035日―1


翌日、僕達はヤーウェン共和国へ向けて進軍する軍営中にあった。

昨晩、僕達は皇帝ガイウスの幕舎に戻ると、すぐに事の次第を報告した。
皇帝ガイウスは自身の居室に侵入者を許してしまっていた事に、ショックを受けている様子であった。
また、祭壇に関しても、それまで帝城の誰にもその存在は知られていなかったようであった。
ジェイスンさんとノルン様は、事態を重く受け止めたらしい皇帝ガイウスから、祭壇そのものについて、より詳しく調査するよう、改めて命じられた。
そして僕は、午前と午後の一日二回、帝城までの転移門を開いて、その調査を支援するよう依頼された。


行軍中は特にやる事の無い僕は馬車の中、たたんだ布団を枕に寝転がっていた。

昨日の儀式の幻影の中で、久し振りにメイアルラトゥの姿を見た。
しかしあれは、明らかに何か異常を感じさせる情景であった。
メイアルラトゥはあれからどうなったのであろうか?

そんな事を考えていると、僕と同じく、ひまを持て余しているらしいハーミルが近付いてきた。

「ねえねえ、メイの事が心配で仕方ないって顔に書いてあるわよ?」

おどけた口調で話しかけてきたハーミルに、しかし僕はすぐには返事が出来なかった。
ハーミルが軽く嘆息した。

「そんなに心配なら、メイを助けに行けばいいんじゃない?」
「助けに? でも、居場所が分からないよ」

あの時“視えた”のは、儀式の顛末てんまつのみ。
メイアルラトゥ達がどこへ去ったかまでは、“視えなかった”。

「前にカケルが捕まっていた時、ノルンは宝珠を顕現して、メイの居場所を探し当てた第60話そうよ」
「!」

救出された後、僕もその話を教えてもらっていた。
ノルン様が北の塔で宝珠を顕現し、メイアルラトゥの宝珠と共鳴させる事で、その居場所を探り当てたのだという。
もしかすると帝城皇宮最奥の祭壇でも、同じことが出来るかもしれない?

「でも居場所が分かっても、いざ助けに行こうとしたら、結構時間かかるかもしれないよ。長時間、軍営を留守にしたら、皆に迷惑掛かるんじゃ……」

長時間、例えば丸一日抜ける事になれば、僕の作り出す転移門を使って行われているノルン様達の祭壇調査に当然、影響を与えてしまうだろう。
そしてその事は、皇帝ガイウスが考えているであろう、ヤーウェン共和国に対する作戦計画にも影響を与えてしまう可能性も。

ハーミルがやれやれといった表情を向けてきた。

「前から思っていたけど、カケルって良い人よね」

僕は苦笑した。

「それって褒め言葉じゃ無さそうだ」
「まあ、半分は褒めているんだけどね。でも、良い人すぎたらストレスで胃に穴開くよ? もう少し、自分の欲求に忠実になっても良いと思うけど」
「皆に迷惑掛かるって分かっていて、我儘わがまま言えないよ」
「でも今の状態って、逆に言えば、皆がカケルの力を当てにしている。つまり、その力を良いように利用されているって言えるわよね?」
「利用されているとは思わないけど……」

実際、皇帝ガイウスやノルン様には色々お世話になっている。
その力を使って敵を壊滅させよとか命じられている訳でもないし、一日二回、転移門を作り出す程度、利用されているの内に入らないだろう。

僕が、彼女のそのやや暴論にも聞こえる言葉をたしなめようとする前に、ハーミルが再び口を開いた。

「ぐずぐずしていて、メイの額から触手生えてきても知らないわよ?」

ハーミルのその言葉は、僕にとっては、やや配慮に欠けたもののように聞こえた。
非難の目をハーミルに向けようとして……
彼女の顔がいつになく真剣なのに気が付いた。

「カケル、本当にしたい事をしたい時にしないと、後悔するよ?」


昼食のための休憩もそろそろ終わろうとする時分、僕はジュノ、そしてハーミルと共に、皇帝ガイウスの幕舎を訪れた。
開口一番、ハーミルが切り出した。

「陛下にお願いの儀が御座います」
「ハーミルよ、いかがいたした?」
「我等に、メイ救出をお命じ頂けないでしょうか?」

当然ながら皇帝ガイウスは、突然の彼女の言葉にやや驚いた様子を見せた。

「メイ救出の件は、予も一時も忘れておらぬ。が、今突然それを持ち出すのは、何か理由でもあるのか?」
「陛下に昨晩ご報告させて頂きましたように、魔王は、祭壇にてメイを使って何かの儀式を行っておりました。その際、メイに異変が見られた事もご報告させて頂きました通りでございます。このまま放置すれば、帝国にとって由々しき事態を引き起こしてしまうかもしれません」

さらにハーミルは、ノルン様の協力が得られれば、メイが今、どこに“捕らえられて”いるのか分かるかも、とも付け加えた。



ガイウスはハーミルの言葉を受けて少し考え込んでしまった。
最近、魔王の活動は活発さを増している。
次々と、こちらの思いもよらぬ手を打ってきている。
メイは恐らく、魔王にとって大事な手駒の一つなのであろう。
以前、メイを帝城内に“保護”した時も――ノルンの報告第65話によれば――魔王自ら結界を破って奪い返しに来た。
ならこの機会に、メイを再度“保護”する事が出来れば、魔王の企図を一時的にせよくじけるかもしれない。
“保護”さえしてしまえば、後は……

「良かろう。ただし二日後にはヤーウェン共和国に到着する予定じゃ。成否にかかわらず、それまでに一度戻って来るように」



皇帝ガイウスの許可を貰った僕は、その場で直ちに帝城皇宮最奥の祭壇へ通じる転移門を開いた。
ちょうど祭壇のある部屋で、調査の真っ最中だったらしいノルン様やジェイスンさん達は、いきなりな僕達の転移を、驚いたような表情で出迎えてくれた。

「予定では、午後の転移門設置は、まだ数時間程後だったはず。それに設置場所もここ祭壇では無く、上の居室だったはずだが……ジュノまで連れてきている所を見ると、向こうで何かあったのか?」


いぶかしむノルン様に、僕はメイを救出したいと皇帝ガイウスに申し出て、許可を受けた事を説明した。
そしてメイの居場所を特定するため、ノルン様に宝珠を顕現して、再びメイの宝珠との共鳴を試みて欲しいともお願いした。

話を聞き終えたノルン様が微笑んだ。

「なるほど。そう言う事なら、私も喜んで協力させてもらおう」

ノルン様は祭壇に手を触れながら、詠唱を開始した。
彼女の額が青く輝き、やがて菱形の宝珠が顕現した。
彼女はそのまま詠唱を続け、彼女の額の宝珠から凄まじい量の魔力があふれだし、部屋の中に満ちて行く。
しかし……

突然、ノルン様が絶叫をあげ、った!

傍にいたジェイスンさんや宮廷魔導士達が、慌てて彼女の背中に手を回した。
ノルン様の額、ちょうど顕現している青の宝珠から、禍々まがまがしい何か得体の知れない力が、触手のように立ち上がっているのが見えた。
それは500年前のミルム、そして昨日、ここを初めて訪れた時“視えた”メイの焼き直しのような情景!

僕はノルン様に向けて叫んだ。

「ノルン様! 宝珠の顕現を中止して下さい!」

しかしノルン様は意識が朦朧としているのか、僕の声に反応してくれない。
ジェイスンさん達も、必死にノルン様の意識を引き戻そうとしているけれど、なかなかうまくいかない。

意を決した僕は目を閉じて、右腕にめた腕輪に意識を集中した。
再び目を開けた時、僕の傍には光球が顕現していた。
その瞬間、僕は宝珠から触手のように立ち上る禍々しい何かが、実は霊力である事に気が付いた。

何故、ノルン様の額の宝珠から霊力が?

しかしとにかく、今は一刻も早く、あの禍々しい霊力と思われる力の放出を停止させなければいけない。
僕は想いを込めて、光球をノルン様の額に向けて解き放った。
光球がノルン様の額の宝珠に吸い込まれた瞬間、凄まじい閃光がほとばしった。
再び視界が戻って来た時、ノルン様の額からは、宝珠と共にあの触手のように立ち上っていた禍々しい霊力も消え去っていた。

ノルン様がジェイスンさん達の手を借りて、よろよろと身を起こした。
彼女は僕に頭を下げてきた。

「すまぬ、カケル。理由は不明だが、今回はメイの居場所を感知出来なかった」
「いえ、ノルン様のお陰で、メイの居場所が分かりました」

僕は怪訝そうな顔をするノルン様に対して言葉を続けた。

「今、ノルン様を通じて、メイのいる場所が“視えました”。彼女は今、選定の神殿にある、祭壇の部屋にいます」

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