【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
91 / 239
第四章 すれ違う想い

91. 道具

しおりを挟む
第035日―3


「おい、いつまでぼさっと突っ立っている? さっさと行くぞ!」

アルラトゥはナブーの不機嫌そうな声に、我に返った。

今はこの先、祭壇への結界を解除して儀式を遂行し、『彼方かなたの地』への扉を開く事に専念しよう。
彼方かなたの地』への扉を開く事に成功しさえすれば、きっと父も喜んでくれるし、周りの自分を見る目も、少しは変わるかもしれない。

幸い、崩れ落ちた瓦礫の山は、通路を完全には塞いでいなかった。
アルラトゥ達は瓦礫の山を乗り越え、再び歩き出した。
そしてついに、『始原の地』の祭壇に至る道が封印によって隠されている場所、通称一の部屋第4話へと辿たどり着いた。
その場に張られていた結界は、アルラトゥとナブーの強力な魔力により、17年ぶりに破られた。
そしてアルラトゥ達は、結界の向こうに隠されていた最後の祭壇、『始原の地』へと足を踏み入れた。


「ここが『始原の地』……」

アルラトゥ達が足を踏み入れた場所は、床こそ帝城皇宮最奥の祭壇と瓜二つの、苔むした石畳が敷き詰められているものの、周囲はごつごつとした荒削りの岩肌に囲まれた広大な空間が広がっていた。
そしてその奥に、祭壇がしつらえてあった。
今まで4ヶ所の祭壇の封印を、順番に解いてきた。
そしてこの最後の祭壇の封印を解除すれば、ついに『彼方かなたの地』への扉が開かれるはず。
かつて、今は亡き母が父エンリルやイクタス達と成し遂げた偉業。
自分がそれをなぞって、同じ事を成し遂げようとしている。
アルラトゥは記憶に無い母に、少しだけ近付けたような気がして感情が高ぶった。

そんなアルラトゥに、ナブーの苛立ちが込められた声が浴びせられた。

「何をほうけている。さっさと始めろ」

アルラトゥは一瞬不快そうに顔を歪めたけれど、すぐに持参した霊晶石を、祭壇の周りに配置し始めた。
それをナブーと彼の“人形”は手伝うでもなく、ただ眺めている。
どのみち彼等は儀式の際、霊晶石をどう配置すれば良いか知らないはず。
祭壇の封印解除に関しては、父エンリルを除いては、詳細を知るのは自分のみ。


やがて所定の位置へ霊晶石を並べ終えたアルラトゥは、祭壇の前で詠唱を開始した。
彼女の額が白く輝き、そこに白の宝珠が顕現した。
それを確認したナブーも詠唱を開始した。
アルラトゥとナブー、2人の身体から膨大な魔力が溢れ出し、広間の中を満たしていく……
…………
……
……どれ位の時間が経過したのであろうか?
アルラトゥは、いつの間にか自分が仰向けの状態で、祭壇の前で浮いている事に気が付いた。
慌てて身体を動かそうとしたけれど、金縛りにあったように、指一本動かす事が出来ない。

「なんだ、聞いていたのと違うな。半端者は意識がまだあるようだぞ?」

この場にはいないはずの、しかし聞き覚えのある人物の声の主を確認しようと、アルラトゥは無理矢理視線を動かした。
いつの間にここへ来たのであろうか?
彼女の視線の先には、にやにやした笑みを浮かべたマルドゥクが立っていた。

詠唱を中断したナブーが、マルドゥクにうやうやしく礼をした。

「これはマルドゥク様、わざわざのお越し、光栄で御座います」
「いよいよ半端者が“混沌の鍵”に成る大事な儀式だ。兄として、せめて妹の最期ぐらい見届けてやろうと思ってな」

マルドゥクの言葉に、アルラトゥは混乱した。
混沌の鍵?
私の最期??

「おおっと! そう言えばこいつは、自分の運命を知らされていなかったな」

わざとらしくそう口にすると、マルドゥクは祭壇の前で中空に浮き、身動きできないアルラトゥに近付いてきた。
彼の顔には、残忍そうな笑みが浮かんでいた。

「お前はこの儀式が、ただ『彼方かなたの地』への扉を開くためだけのものとでも思っていたのか? それなら何故霊晶石をわざわざ用意する必要がある? そもそも霊晶石をこの世界にもたらした第52話のは、『彼方かなたの地』にて見出された守護者だ。つまり17年前、『彼方かなたの地』への扉は、霊晶石無しで開かれた……」

マルドゥクは、アルラトゥの反応を楽しむかのような素振りを見せながら言葉を続けた。

「お前は知らないだろうが、宝珠には魔神の力の一部が封じられている。この儀式は『彼方かなたの地』への扉を開くだけではなく、宝珠の真の力を開放する事も目的の一つだ。儀式が終われば、『彼方かなたの地』への扉は開かれ、お前は“混沌の鍵”となって死ぬ。だが喜べ。半端者のお前でも、“混沌の鍵”として、我が父エンリルと我等魔族の悲願達成に貢献出来るのだからな」

始めて聞く情報の嵐に、アルラトゥの頭の中は一瞬真っ白になった。
マルドゥクの話が本当であれば、自分は自分の入る墓穴はかあなを掘らされていたという事か?

アルラトゥはこの異常な拘束状態から抜け出そうと試みた。
しかし出来たのは、首を動かして、かすかなうめき声を上げる事のみ。
マルドゥクはそんなアルラトゥの様子を愉快そうに眺めた後、ナブーの方を振り向いた。

「それにしても霊力の凝集が不十分なのではないか? 聞いていた話では、儀式の間、半端者の意識は消失しているはずだが」
「申し訳ございません。伝承と現実の儀式との間に差異があるのやもしれませぬ。この前の帝城の祭壇でも、こやつは何故か中途で覚醒してしまいました」
「ともかく、儀式を完遂させよ。小一時間もすれば、魔王エンリルもここへ来よう」

マルドゥクの言葉を受けて、ナブーは再び詠唱を開始した。
同時に、割れるような頭痛がアルラトゥを襲ってきた。
自分が自分でなくなるようなあの感覚も、彼女の意識を侵蝕してくる。
結局、父エンリルも、所詮自分の事を宝珠が顕現出来る便利な道具としかみなしていなかった、という事であろう。

この世界に自分の居場所は無い。
ならば混沌の鍵とやらになって、最後に父の悲願に貢献できるのも悪くないかな……

彼女が諦めて、自身を侵蝕する何かに意識全てを預けようとした時、轟音が鳴り響き、祭壇のある広間が大きく揺れた。
驚いた彼女の視線の先には、よく見知った4人の人物の姿が有った。
彼等を率いる青年が名乗りを上げた。

「僕は勇者アレル。皇帝陛下の命により、メイを助けに来た!」



勇者ナイアとは別行動で、北方の探索を行っていた勇者アレル達――アレル、イリア、ウムサ、エリスの4人――であったが、二人の勇者はナイアの使い魔を介して、連絡を取り合っていた。
二日前、アレル達はナイアから、近々選定の神殿奥の隠された祭壇で、魔族達が儀式を行う可能性が高い、と伝えられていた。
そこで二人の勇者は今日この地で落ち合い、一緒に魔族達の儀式を阻止する事を申し合わせていた。
しかしアレル達が選定の神殿に到着してみると、約束の刻限を過ぎてもナイアは現れなかった。
そこでアレルは自分達だけで神殿の奥、隠された祭壇に通ずる場所に向かう事にした、
慎重にダンジョンの奥へと進んで行くと、目的の場所まで十数mという場所で、通路の一部が崩落しているのを発見した。
あたりにはナイアの使い魔達と思われるモンスターの死骸が転がっていた。
その場所をウムサとエリスが調査し、ナイアと魔族達がつい先程まで今場所で交戦していた事が判明した。
そこでアレル達は瓦礫の山を乗り越え、そのまま祭壇が隠されている一の部屋に向かって進んだ。
一の部屋から隠された祭壇に通ずる場所は、アルラトゥとナブーにより、結界が張りなおされていた。
それをアレルが聖剣で打ち破り、彼等は今まさにアルラトゥが生け贄にされかかっている祭壇へと足を踏み入れたのだ。



アレル達に気付いたマルドゥクが、不敵な笑みを浮かべながら言葉を返した。

「勇者アレルよ、初めまして。私は、魔王エンリルの息子にして代弁者、マルドゥクだ」

既に臨戦態勢を取っていたアレル達は、マルドゥク、そしてナブーと【彼女】に向かって一斉に攻撃を開始した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...