【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

92. 同情

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第035日―4


イリアとウムサが詠唱を開始し、それぞれ武器を手にしたアレルとエリスが、マルドゥク達に斬りかかった。
しかし彼等の攻撃は、霊力の盾を展開していた【彼女】により、全て阻まれた。

「勇者諸君、申し訳ないが我々は少し忙しい。儀式が終わるまで、そいつと遊んでいてくれ」

マルドゥクはそう話すと、その場に悠然と腰を下ろした。
ナブーはアレル達を無視して詠唱を継続している。
【彼女】は霊力の盾でアレル達の攻撃を阻みながら、右手を上に振り上げた。
そしてそのまま、アレル達に向かって、手刀のように振り下ろした。
咄嗟に危険を感じたアレル達が飛び退くと、寸前まで彼等のいた地面が不可視の力により、轟音と共にえぐり取られた。
アレル達の間に緊張が走る。

この状況は、守護者の時や霊力砲で攻撃された時と酷似している!!

慎重に間合いを取ったアレルとエリスは、イリアとウムサの魔法の支援を受けて、再び【彼女】への攻撃を試みた。
しかしその試みはことごとく、【彼女】の展開する霊力により阻まれた。



アルラトゥは薄れゆく意識の中で、アレル達の戦いをぼんやりと眺めていた。


―――メイを助けに来た。


彼等はそうは言ってはいたが、それはナイアと同じで建前であろう。
どうせ自分は宝珠を顕現出来る便利な道具。
例えアレル達に“救出”されたとしても、今度は人間達の“虜囚”になるだけ。
カケルは魔族の“虜囚”になって、霊力砲の実験台にされ、死の苦しみを味わっていた。
自分も人間の“虜囚”になれば、きっとよくて何かの実験台、悪ければあっさり殺される。
元々あの男は、生まれたばかりの自分を殺そうとした。
何か考えるのも億劫おっくうになってきた。
ああ、早く終わらないかな……
朦朧とするアルラトゥの耳に、アレルの叫び声が聞こえてきた。

「頑張るんだメイ! 君を必ずカケルの所に連れて帰る!」

カケル……そうだ!
カケルは今頃どうしているだろう?

カケルの事を考えた途端、アルラトゥの心の中を、彼と過ごした二週間が走馬燈のように駆け巡った。
彼の笑顔、声、匂い、手の温もり……
アルラトゥの想いがあふれ出す。

「会いたいよ……カケル……」

その言葉をつぶやいた瞬間、アルラトゥは突如拘束から解放され、地面に落下した。


石畳の床に、受け身を取る暇も無く打ち付けられたアルラトゥは、痛みに顔をしかめていた。
しかし先程までぴくりとも動かせなかった自分の身体が、何故か自由を取り戻している事に気が付いた。
一瞬何が起こったのか分からぬまま、部屋の中を見回すと、その場に居る全員が呆然と立ち尽くしていた。
部屋の中央に、右手でアレル達の攻撃を防ぎながら、左手を自分に向けている“人形”がいた。
もしかして、“人形”が何かしたのであろうか?

「何をしている!?」

ナブーが詠唱を中断して、狼狽したように叫んだ。
今、見間違えで無ければ、“人形”が霊力によって、アルラトゥの拘束を解除した?



一方、【彼女】の方も、不思議そうに自分の左手を眺めていた。
さっき、アルラトゥの声が聞こえてきた。


―――会いたいよ……カケル……


【彼女】は直感的に、この儀式が完遂すれば、アルラトゥの望みはかなわない事を理解した。

あんなに会いたがっているなら、会わせてあげても良いのでは?

そして気が付くと、アルラトゥを拘束から解放していた。

何故、自分は命令に無い事をしたのだろうか?
前回のナブーの“調整”に何か不備があったのであろうか?

【彼女】は自分の行動の意味が分からないまま、不思議そうに自分の左手を眺めていた。



一瞬、虚を突かれた形のアレル達であったが、救出の絶好の機会とばかりに、アルラトゥのもとに駆け寄ろうとした。
しかしそれは、再びアレル達に向き直った【彼女】と、慌てて参戦してきたマルドゥクらよって阻止された。
マルドゥクは【彼女】と共に、アレル達と交戦しながらナブーに向かって叫んだ。

「早く儀式を再開しろ!」

ナブーが素早くアルラトゥの下《もと》に駆け寄って来た。
彼女の額からは、宝珠の輝きは既に消えていた。

「もう一度宝珠を顕現しろ。早く儀式を完遂するのだ!」

ナブーの言葉を受けて、のろのろと身体を起こしたアルラトゥは、少し逡巡した後、再び詠唱を開始した。
再び彼女の額が白く輝きだし、そこに白の宝珠が顕現した。
詠唱を続けながら、アルラトゥは心の中で自嘲した。

せっかくあの恐怖から解放されたのに、またこうやって儀式を続行しようとしている。
しかし今の自分に、他にどんな選択肢があるというのか?

詠唱が自身の葬送曲に聞こえて来た時、彼女は突然、額の宝珠を通じて、カケルの存在を強く感じた。
カケルの自分を想う真摯しんしな気持ちも流れ込んできた。
不思議な事に、彼女はカケルが裏表なく、ただ自分を助けに来ることが確信できた。
そして……

その確信は現実になった。


広間の一角で凄まじい爆発が起こり、辺りに濛々もうもうと土煙が立ち込めた。
その土煙の中から飛び出して来た何者かが、凄まじい勢いでマルドゥクに斬り掛かった。
マルドゥクはアレル達と対峙しながらも、咄嗟に霊晶石で加護の補強を張り、その攻撃を弾き返した。

「剣聖か!?」
「久し振りね、マルドゥク。相変わらず加護の陰に隠れてないと、女子供とも戦えないようね」

初撃を弾かれたハーミルは、剣を構えたまま、油断なくマルドゥクから距離を取った。
遅れて土煙の中から、光球を顕現したカケル、ジュノ、そしてノルンの三人が姿を現した。



転移門も使わず、幻視しただけの場所へ強行転移したせいであろうか?
ここへ出現する時、どうやら空間そのものが“爆発”したようだけど、とにかく『始原の地』への転移は成功した。
そして土煙が収まると、視界の中、白の宝珠を顕現したメイが呆然とした様子で立ち尽くしていた。

「メイ!」

メイアルラトゥの額の宝珠が吸い込まれるように消えていくのと同時に、彼女の目に涙が溢れ出すのが見えた。

「……カケル!」

僕はメイアルラトゥに駆け寄ろうとした。
しかし目の前に、あの【彼女】が立ち塞がった。

「その少年を倒せ!」

ナブーの叫びに応じて、【彼女】が霊力を増大させていく。
覚悟を決めた僕も霊力を展開し、【彼女】の胸元の霊晶石に手を伸ばそうとして……

その手を止めた。

ハーミルの叱咤が飛んだ。

「カケル、何をためらっているの? それはナブーの道具よ!」

しかし僕は、【彼女】の顔に浮かぶ、悲しみともあきらめともつかない表情を見てしまった。
道具がこんな表情を見せるだろうか?

「……通してくれないかな? 僕はメイを助けに来たんだ。君と戦うために来たんじゃない」
「あなたを倒せと命令された。通せない」

以前はオウム返しの言葉しか発しなかった【彼女】と、会話が成立している!?

驚く僕を他所よそに、【彼女】は増大させた霊力を、僕に向かって爆発的に解放しようとした。
しかし一瞬早く、僕はそれを展開していた霊力で相殺した。
恐らく僕が展開した霊力が、彼女がこちらに向けて放とうとした霊力を上回ったためだろう。
相殺された霊力は虹の煌めきを放ちながら霧散し、余った霊力は、【彼女】を数m程吹き飛ばした。

「くっ! やはり“人形”では本物の守護者にかなわぬか」

歯噛みしたナブーが、アルラトゥの腕を掴んだ。
そしてアレル達と対峙しているマルドゥクに声を掛けた。

「マルドゥク様、ここは一旦、引き上げましょう」

マルドゥクはナブーの言葉にうなずくと、直ちに身をひるがえし、ナブーとアルラトゥの下《もと》に駆け戻った。
アレル達が追撃しようしたけれど、再び戦いに加わってきた【彼女】が霊力でそれを妨害した。

ナブーとマルドゥクは合流すると、直ちに何かの詠唱を開始した。
僕は傍に浮遊する光球に右手を伸ばした。
光球は手の中で紫色に揺らめく不可思議なオーラに包まれた一振りの剣へと姿を変えた。
僕はそれを頭上に振り上げた。

本物の守護者のみが振るう事を許された、凄まじいまでの殲滅の力が剣に宿っていく……

「そいつをなんとしてでも食い止めろ!」

ナブーが引きつったような声で【彼女】に命令を出すのが聞こえた。
僕はそれに構わず、殲滅の力をナブーとマルドゥクのみを標的にして解き放った。


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