【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

94. 要塞

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第035日―6


【彼女】は、特殊な調整液で満たされた透明な容器の中にいた。
先程の戦いで欠損した右半身が、凄まじい勢いで修復されていく。
同時に、霊力も身体に補充されていく。
粘性のある調整液にたゆたいながら、【彼女】はじっと考えていた。
自分は、何故アルラトゥを拘束から解放したのだろうか?
彼女がカケルに会いたいと“悲しんで”いたから?
彼女の“悲しい”に私は“同情”したのだろうか?
そもそも私は、何故こんな事を考えているのだろうか?
私は……?
湧きでる“感情”を制御するすべも分からず、【彼女】はただじっと考えていた。


――◇―――◇―――◇――


僕達は再び神殿の奥の祭壇、『始原の地』へと戻っていた。
魔力の残滓を調べて、メイアルラトゥがどこへ連れ去られたかを確認するためであった。
ノルン様とウムサさんが、魔力を使って転移の痕跡を探る中、僕も目を閉じて、静かに霊力を展開した。
途端に僕の脳裏には、メイアルラトゥが一度、あの“人形製作所”へ転移した後、さらに北方の要塞のような場所に転移させられたのが“視えた”。

僕はその場の人々に声を掛けた。

「メイが連れ去られた場所が分かりました」

ノルン様が意外そうな顔になった。

「なんと、もう分かったのか?」

僕はうなずいてから、言葉を返した。

「一度ナブーの研究施設に立ち寄った後、再び転移して……マルドゥクの本拠地、ラルサという要塞に連れて行かれて……そこで捕えられています!」

ウムサさんが感心したような雰囲気になった。

「この短時間の内にそこまで分かるとは、カケル殿のお力、凄まじいですな」
「もしかすると僕とメイとの間に、ここに残る霊力の残滓を介して、何かの繋がりが出来ているのかもしれません。そのお陰で色々見えるのかも」

実際、ナイアさんの居場所はさっぱり“視えない”にも関らず、メイアルラトゥが鎖に縛られている情景は、何故かありありと“視える”。

ノルン様が問い直してきた。

「カケル、メイは“捕えられて”いるのか?」

ノルン様は、メイアルラトゥが魔王エンリルの娘であり、父である魔王の為に儀式を行っているのを知っている。
だからこその疑問だろう。
そしてそれは、僕の疑問でもあった。
去り際、彼女が口にしていた“助けて”というつぶやきとあわせて考えると、もしかしたら、メイアルラトゥの魔王側での立ち位置に何か変化が有ったのかもしれない。

僕はさらに霊力でメイアルラトゥの様子を詳しく探ろうとして……

広間のような場所の一角、壁に両腕を鎖で繋がれた彼女が……僕の名を呼び、涙を流している!

僕はすぐさま霊力を展開した。
途端に、誰かが僕の右腕に抱き付いて来た。

「ハーミル!?」

彼女は悪戯っぽい笑顔のまま、僕の顔を下から覗き込んできた。

「今から行くんでしょ? 付き合うわ」

僕は少しの間逡巡した後、皆に声を掛けた。

「すみません。今から二人でメイを助けに行ってきます」


僕はメイアルラトゥが捕えられているのが“視えた”広間に、直接転移を試みた。
しかし何故か実際の転移先は、巨大な要塞のような建物のすぐ脇の空き地だった。
再度、要塞内部に転移を試みたけれど、上手くいかない。
もしかすると要塞内部に、転移を阻害するような結界でも張られているのかもしれない。

仕方なく僕とハーミルは、そのまま歩いて要塞の入り口に向かう事にした。

しばらく歩いて行くと、入り口と思われる場所が見えてきた。
守衛であろうか?
数人の魔族達が、手持無沙汰な雰囲気で立っていた。
彼等の方も僕達に気付いたらしく、しかし何故かすぐに要塞内部へと走り去って行った

僕が霊力を操れる事を知っていて、無駄な戦いを避けた?
それとも……

ハーミルが口を開いた。

「何かおかしいわね。入り口も普通に開いているし……カケル、霊力で探ってみてくれない?」

言われて、僕は霊力による感知を試みた。
しかし何故か要塞内部の状況が感知出来ない。
もしかしたら、要塞内部に霊力による転移が出来ない事と関係しているのかも。

僕の話を聞いたハーミルが難しい顔になった。

「カケル、ここは一度引き返して、イクタスさんやミーシアさんと……ってそういうつもりは無いみたいね」

雰囲気で察してくれたのだろう。
ハーミルが言葉の途中で肩を竦めた。
僕が “視た” メイアルラトゥは、両腕を鎖で縛られ、他の誰でも無い、僕の名を呼んで涙を流していた。
だからこそ、僕が、一刻も早く、彼女を助け出しに行くべきだ。

ハーミルが再び口を開いた。

「とりあえず中に入ってみましょう。一応月並みな言い方だけど、十分気を付けてね」
「ありがとうハーミル」

ハーミルが剣を抜いた。
そして僕も慎重に霊力を展開しつつ、要塞内部へと足を踏み入れた。


内部は、黒光りする大理石のような素材で出来た通路が長く続いていた。
壁には、無数の霊晶石がめ込まれ、ほのかな霊力の光を発している。
内部に入っても、やはり霊力による感知は上手く働かないようであった。
僕はハーミルにその事を告げてから、目を閉じて右腕の腕輪に意識を集中した。
再び目を開けた時、僕の傍に光球が顕現していた。
その状態で僕は今一度、周囲の感知を試みた。
今度は朧気ながら、内部の様子を把握する事が出来た。
僕はハーミルに声を掛けた。

「メイが捕らえられている広間の場所が分かったよ」
「霊力での感知が出来るようになったの?」
「ぼんやりとだけどね。とにかく進もう」

僕はハーミルを先導する形で、広間へと慎重に近付いて行った。
そして十数分後、途中何も起こらず、誰とも遭遇する事無く、広間に通じる大きな扉の前に到着した。

ハーミルが小声で話し掛けてきた。

「どう考えても罠ね。カケル、何かおかしな気配は感じない?」
「今のところ、霊力が展開しにくい以外は、特に異常は感じないよ。建物内に複数の魔族がいるみたいだけど、皆、僕達から相当離れた場所にいる」
「まあ、ここまで来たら、さっさとメイを助けて帰りましょ」

そう口にしながら、ハーミルが僕に笑顔を向けてきた。
彼女の言葉通り、ここまで来たら、罠でもなんでも無理矢理突破するしかない。

僕は覚悟を決めて、メイアルラトゥが捕えられている広間に通じる扉を押し開けた。
扉の先、広間は天井が高く、体育館程の広さがあった。
そして僕達が入って来た場所から一番遠い壁際に……

「メイ!」

彼女は僕が“視た”ままの状態で、壁に鎖で固定されていた。
うつむいていた彼女が、僕の声に反応して顔を上げた。
彼女の泣きぬれた顔が一瞬明るくなったけれど、すぐに強張った。

「カケル! 来ちゃダメ、マルドゥクの罠よ。逃げて!」

僕は構わずに駆け寄ろうとしたけれど、広間の真ん中で、いきなり眩暈めまいを感じて膝をついてしまった。
全身から力が抜けていくような異様な感覚。
僕の異変に気付いたらしいハーミルが駆け寄ってきた。
彼女が肩を貸してくれたお陰で何とか立ち上がったけれど、足元が覚束おぼつかない。
僕はハーミルに囁いた。

「霊力を……吸われているのかも……」

ハーミルがゆっくりと僕を床の上に座らせた。

「カケルはここで休んでいて。メイを助けてくるわ」

彼女はメイアルラトゥに駆け寄り、裂帛の気合と共に剣を振り抜いた。
しかし鈍い音が響いただけで、どうやら鎖の破壊には至らなかったらしい。
彼女は続けざまに鎖の破壊を試みているようだけど、中々上手くいかない。
その間も、僕の全身からは力が抜け落ちていく。
そしてついには維持出来なくなった光球が、淡く点滅しながら消えてしまった。

と、広間の入り口方向から声が掛かった。

「ようこそ、我が城へ。ここは気に入って貰えたかな?」

声の方に視線を向けると、数人の魔族達を従えたマルドゥクが、ニヤニヤしながら立っていた。


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