【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

96. 羨望

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申し訳ございません。第102話がなぜか一時的に公開状態になっておりました。
話が飛び過ぎてるぞ! と混乱された方には、深くお詫び申し上げます。
第103話は一度非公開にして、少し推敲を加えた後、後日再公開いたします。





第035日―8


魔王エンリル達が転移の光に包まれ消え去ったのを確認した僕は、ようやく一息つく事が出来た。

「びっくりしたよ。まさか魔王自ら現れるなんて」
「そう? せっかくだから、私達でやっつけちゃっても良かったんだけどね~」

ハーミルは冗談めかした感じで口にした後、傍にメイがいる事を思い出したらしく、少しばつの悪い顔をした。
魔王エンリルは、メイの実の父親でもある。
メイが少し寂しそうに笑った。

「気にしなくても良いわ。もう私は魔王側の存在じゃないし。父が誰かに倒されるなら、それが運命だと思って受け入れるわ」

僕は雰囲気を変えようと、わざと明るい声でメイに話しかけた。

「でも良かったよ。メイがちゃんと戻って来てくれて」
「カケル、ホント? ホントに私が戻って来て良かったって思っている?」
「当り前じゃないか。そうじゃ無かったら、命がけで助けに来ないって」

まあ、実際は塵からでも復活しちゃうけど、気持ちだけは命がけだったのは本当だし。

そんな僕を、メイが潤んだ瞳で見上げてきた。

「私には、もうカケルしかいないから……ちゃんと一生守ってね」
「ああ、一生……ってハーミル!?」

僕とメイの間に、いきなりハーミルの剣が振り下ろされた、

「いや~、まだ敵地だからね~。剣の素振りでもしとこうかと思って」

だからと言って、素振りをわざわざ自分とメイとの間で始める必然性は無いのでは?
部屋の中は結構広いし。

「人がいる傍で刃物を振り回したら危ないよ?」

ハーミルが何故か口を尖らせた。

「私の素振りより、もっと危ない事が起こりそうに見えたんですけど?」

素振りより危ない事?
もう敵の気配は感知出来ない。
ハーミルの思い過ごしではないだろうか?
しかし唐突に素振り(?)を始めたハーミルは、何故かとても怖い目をしている。
理由不明だが、物凄く機嫌が悪くなっている事だけは理解出来た。

「取り敢えず帰ろうか? 確かにまだ敵地だし」

苦笑しながら、僕は転移の為に霊力を展開した。
しかしその展開した霊力に、僕以外の存在が放つ霊力による僅かな干渉を感知した。
それが何者であるのか、感知を試みて……

【彼女】がこの広間に向かって歩いてきている!

僕はその事を二人に告げた。
ハーミルが剣を構え直した。

「良い機会だから、ここで迎撃しちゃおう」

ハーミルの言葉に、僕とメイもうなずいた。
神殿奥の祭壇、『始原の地』で、彼女の身体を半分吹き飛ばしたけれど、やはりあれは致命傷にはならなかったようだ。
しかし今の僕なら、【彼女】を霊力で“無力化”出来るかもしれない。
“無力化”出来れば、“処分殺す”以外の選択肢も探れるのでは無いだろうか?

そんな事を考えている内に、【彼女】が広間に入って来た。
束の間、不思議そうに広間の様子を眺めた後、【彼女】は僕達に視線を向けて来た。
何故か戦意は感じられない。

今の内に霊力で拘束してしまおう。

そう考えた矢先、【彼女】が口を開いた。

「あなたは、結局カケルに会えたのね」

ん?
どういう意味だ?

一瞬、首をひねったけれど、それはメイに向けられた言葉だったようだ。
メイが言葉を返した。

「ええ、カケルに助けてもらったわ」
「助けてもらった……?」

【彼女】はメイの言葉をすぐには理解できない様子で、考え込んでいる。
そんな【彼女】に、メイが逆に問いかけた。

「ねえ、祭壇で私を拘束から解き放ってくれたでしょ? 何故?」
「祭壇で?」

何の話だろう?

いぶかしむ僕の様子に気付いたらしいメイが、『始原の地』での出来事を手短に説明してくれた。

【彼女】がメイを助けた?

僕はその事実に驚いた。
【彼女】はどうしてそんな行動を取ったのだろう?
とりあえず、僕は【彼女】にお礼を言ってみた。

「……メイを助けてくれたんだ。ありがとう」

突然【彼女】が、得心したような顔をした。

「そうか、私はカケルに会いたいと言って悲しがっていたあなたに同情したわけじゃない。カケルがあなたを助ける事が出来るかどうか確かめたかったんだ」
「?」

【彼女】の言葉は、僕には若干理解不能であった。
しかし【彼女】の心の内では、何か整合性の取れた納得があるようであった。

“心”の内……?

イクタスさんやハーミルは、【彼女】を道具だと言っていた。
そもそも生きてはいないのだと。
道具に心が宿るものであろうか?
心が宿れば、それはもはや……

【彼女】が再びメイに問いかけた。

「あなたには助けてと願えるカケルがいて、そのカケルは、あなたを実際に助ける事に成功した。あなたの人生は、これで変わる?」
「変わるわ。私はもう、半端者のアルラトゥじゃない。カケルと共に歩んでいくメイになったの」

【彼女】の目がすっと細くなった。

「これが“羨ましい”って感情ね……私には、助けてと願える相手がいない。私は、きっといつまでも“人形”のまま……」

そう口にする【彼女】の表情は、僕が今まで見た誰よりも寂しそうであった。
と、【彼女】が踵を返して、部屋を出て行こうとした。
肩透かしを食らった格好の僕は、その後ろ姿に声を掛けた。

「君はその……ここへは何をしに?」

【彼女】が足を止めて振り向いた。

「ナブー様から、ラルサの要塞に行って、マルドゥク様の指示に従え、と命令された。でもマルドゥク様はもうここにいないようだから、戻ろうかと」

そして再び歩き出した。
僕はその後ろ姿に問いかけた。

「君は……誰かに助けてもらいたいの?」

一瞬、【彼女】の足が止まりかけた。
しかし結局、こちらを振り返る事無く、そのまま歩き去って行った。


僕とハーミルが、メイを連れて選定の神殿に戻ってきたのは、既に夕日が沈もうとする頃合いであった。
待ち受けていたノルン様やアレル達は、歓声を上げて僕達を出迎えてくれた。
僕は皆に、マルドゥクの要塞での顛末を簡単に説明した。
話を聞き終えたノルン様が、真剣な面持ちで口を開いた。

「皆、すまぬがメイと二人きりで話をさせてもらいたい」



カケル達と共に戻って来たメイの姿を目にした時、ノルンの心の中を万感の想いが去来した。

父は違えど、同じ母、ディースから生まれた妹。
自分が真実を知らず、帝城で何不自由なく過ごしている間、彼女は苛烈な運命を背負わされ、生きてきたのだ。

メイを皆から大分離れた場所にいざなったノルンは、改めて問い掛けた。

「……メイ、そなたはこれからどうしたい?」

メイは、怪訝そうな顔になった。

「どうしたいって……私を帝城には連れて行かなくても良いの?」
「そなたがそれを望まない事は知っている。そなたが魔王エンリルの娘である事も知っている。そして……そなたが、私の実の妹である事も知っている」

メイは目を見開いた。

「……いつから?」
「そなたがカケルを連れ去った時、イクタス殿が全てを教えてくれた。事実を知った時は、それにどう向き合えば良いか、分からなくなった。正直に言えば、いまだに答えは出ていない」

メイはじっとノルンの目を見つめながら、ただ静かに話を聞いている。
ノルンは言葉を続けた。

「しかしそなたと私の母が同じであるという事実だけは変わらない。そなたがどう思おうと、私は自分の事を、勝手にそなたの姉だと思っている」

ノルンもまた、自分に向けられているメイの視線をまっすぐに受け止めていた。

「姉としては、妹の幸せを一番に願いたい。それゆえ、そなたの希望を聞きたい。そなたはこれからどうしたい?」

メイが静かに語り出した。

人間ヒューマン達は私を拒絶した。母は私の片角を折って、私の出自を否定しようとした。あなたの父親は、生まれたばかりの私を殺そうとした。そして魔族達も……結局私の事を、宝珠を顕現できる便利な道具としてしか見てくれなかった。でもカケルは違う。宝珠を顕現して、彼と繋がった時、彼が本当に、何の打算も無く、私をただ助けたいと願ってくれている事が分かったの」

メイはそこで言葉を区切った。

「だから私は、カケルと一緒にいたい」
「そなたの気持ちはよく分かった。そなたがカケルと共にいる事が幸せであるならば、私はそれを全力で応援するのみ。帝国へは、そなたは行方知れずと報告しておこう」

ノルンは優しい表情で、メイにそう告げた。

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