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第五章 正義の意味
103. 昼食
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第037日―2
「……で、今は詳細を調査中で、ヤーウェン共和国への進軍も停止中なんだ」
僕の話を聞き終えたハーミルとメイは、難しい顔で黙り込んでしまった。
僕は少し重くなってしまった場の雰囲気を変えようと、話の転換を図った。
「そうそう、皇帝陛下が、ハーミルはしばらくお父さんと一緒に過ごしていいよって。希望すれば、従軍を免除するって仰っていたよ」
しかしハーミルからの返事が無い。
彼女は右耳のピアスを触りながら、何かをじっと考え込んでいる様子であった。
と、メイの部屋が外からノックされた。
―――コンコン
「カケル殿、ジュノ殿おられますか? キース殿とのお話、終わりましたよ」
ドミンゴさんの声だ。
彼はメイの顔を知らないはず。
だけど念のため、僕はメイに部屋の入り口から死角になる所へ移動するよう小声で促してから、部屋の扉を開けた。
部屋の外には、ドミンゴさんと年配の女性が立っていた。
どうやらキースさんのお世話を担当している年配の女性の案内で、ドミンゴさん自ら、僕達を呼びに来てくれたらしい。
人懐っこそうな笑顔を浮かべたドミンゴさんが、口を開いた。
「皆さんお揃いで。キース殿に陛下のお言葉、無事お伝え出来ました。これで、いつでも軍営に戻れますぞ」
ハーミルが彼に言葉を返した。
「ご苦労様です。私も軍営に戻りますので、少々、準備の時間を頂けますでしょうか?」
ドミンゴさんが少し意外そうな顔になった。
「ハーミル殿には従軍せず、この家でキース殿と過ごされても良い、と陛下は仰っていましたが?」
「そのお話はカケルからも聞いております。しかし昨晩、襲撃があったとの事。私もカケルやジュノと一緒に軍営に戻ります」
ドミンゴさんが年配の女性と共に去って行った後、僕はハーミルに問いかけた。
「ハーミル、いいの?」
「あら、カケルは私が一緒に軍営に戻ったらいや?」
「そんなこと無いよ。でもせっかくお父さん元気になったんだし、しばらく一緒にいてあげた方がいいんじゃない? 軍営の方も安全とは言えないし、ハーミルに何かあったら、お父さんが悲しむよ」
「軍営が安全じゃないからこそ行くんじゃない。こんな状況で家にいたら、逆に父から叱られるわ。それに忘れたの? 私はカケルの用心棒で、カケルが行く所、どこまでも付き従うって、前に宣言したでしょ?」
僕は400年前の世界から無事帰還した時、ハーミルがそう宣言していたのを思い出した。
以来、ハーミルは言葉通り、常に僕を支えてくれている。
今更ながら、ハーミルが寄せてくれる信頼と友情に、僕は心の中で頭を下げた。
1時間後、僕、ハーミル、ジュノ、そしてドミンゴさんの四人は、キースさんと年配の女性に見送られ、馬車に乗って帝城へと向かった。
馬車の中で、隣に座ったハーミルが、僕にそっと囁いてきた。
「ドミンゴさんとジュノには先に軍営に戻ってもらって、私達だけでミーシアさんに話、聞きに行ってみない?」
「ミーシアさんに? 何の話を?」
「ミーシアさんはハイエルフよ。それに、前にカケルを一緒に救出しに行った時、彼女、強力な精霊魔法を操っていたわ」
僕はハーミルの言葉に目を見開いた。
昨晩の襲撃者達は、ミーシアさんと同族かもしれない?
自爆したエルフと思しき銀髪の女性の顔が思い出された。
彼女の美しい顔は、帝国への憎悪で塗りつぶされていた。
彼女が文字通り、命を賭して昨晩の襲撃に参加したのには、きっと何か重大な理由があったはず。
ミーシアさんと話す事で、その一端に迫れるかもしれない。
僕はハーミルの提案に頷いた。
馬車が帝城に到着してから、僕はドミンゴさんに声を掛けた。
「すみません、僕達、後から陛下の軍営に戻っても良いですか? ハーミルと二人で少し寄り道したい所がありまして」
「まあ、遅くならなければ宜しいのでは? 陛下にはカケル殿とハーミル殿の帰還が少し遅くなる、と申し上げておきましょう」
ドミンゴさんは、僕の申し出をあっさりと受け入れてくれたけれど、ジュノは訝しげな顔になった。
「どこ行くんだ?」
「おお、そういえば、ジュノ殿も御同行の仲間でしたな。三人で行って来られては?」
ドミンゴさんの言葉を受けて、僕はハーミルにチラッと視線を向けてみた。
彼女の様子からは、ジュノの同行を嫌がる素振りは特段感じられない。
僕はジュノに言葉を返した。
「僕達がお世話になっている人と、少し話をしてこようとしているんだけど……ジュノも一緒に行く?」
「そうだな。別段、今急いで軍営に戻ってもやることないし……いいぜ、付き合うよ」
ドミンゴさんが僕の設置した転移門を潜り抜け、皇帝ガイウスの軍営へと戻って行くのを見届けた後、改めて僕達は帝都の転移の魔法陣へと向かった。
ジュノが不思議そうな雰囲気でたずねてきた。
「アルザスの冒険者ギルドの受付に会いに行くんだろ? カケルの霊力で転移すれば早いんじゃないのか?」
「僕のこの力に関しては、余り広めるなって言われているんだ。だから、アルザスまでは普通に転移しようと思ってね」
僕達三人がアルザスの冒険者ギルドに着いたのは、丁度お昼時であった。
建物の内部は、午前中に依頼をこなして帰って来た者、午後からの依頼を探して掲示板を眺めている者等、大勢の冒険者達で賑わっていた。
ミーシアさんはいつも通り、受付に座っていたけれど、僕達に気付くと笑顔で手を振って来た。
「ミーシアさん、お久し振りです」
「カケル君にハーミルじゃない。あと一緒にいるのは……ジュノちゃん? もしかして、あれから仲良くなったの?」
「……“ちゃん”づけすんなよ」
子供扱いされたと思ったのか、ジュノが少し不貞腐れた。
ハーミルはそんなジュノに構わず、いきなり本題を切り出した。
「ミーシアさん、私達今、皇帝陛下の軍に従軍しているんだけど、ちょっとミーシアさんに聞いてみたい話があって……」
ハーミルの真剣な面持ちに、ミーシアさんの切れ長の目がすっと細くなった。
「大勢の前では話しにくそうな感じね。分かったわ、もうお昼だし、一緒にご飯食べながらその話をしましょう」
ミーシアさんは僕達にそう告げると、すぐに自分が担当していた受付窓口を閉めて、奥へ下がって行った。
数分後、ラフな私服に着替えたミーシアさんが戻って来た。
「それじゃあ、行きましょうか」
彼女が僕達を連れて行ってくれたのは、あの『バルサムの力車亭』だった。
一ヶ月ぶりになるその外観を目にして、僕の心の中に、なんだか懐かしさに似た感情が沸き上がって来た。
店内は時間帯もあってか、大勢の人々が食事を楽しんでおり、ほぼ満席の状態だった。
ミーシアさんが店員さんと二言三言会話を交わすと、僕達は2階へと案内された。
2階は初めて上がったけれど、扉で完全に締め切る事の出来る部屋が十数個並んでいた。
僕はミーシアさんに聞いてみた。
「この扉の中って、個室になっているんですか?」
ミーシアさんが笑顔で説明してくれた。
「そうよ。ここはよく、他の競合相手に聞かれたくない話をする冒険者達が使ったりするの」
通常は、個室は前日までに予約が必要との事であった。
しかしギルドの職員であるミーシアさんは、ギルド用の個室を予約無しで利用出来るのだ、とも説明してくれた。
僕達四人は、注文した料理が届くまで、他愛のない会話を楽しんだ。
やがて料理が運ばれ、しばらく人の出入りの無い状態になった頃を見計らって、僕はやおら切り出してみた。
「実は昨晩、軍営が襲撃されまして……」
僕は昨晩、突如暴風雨が襲ってきた事、その暴風雨による混乱をついて、十数名の侵入者が軍営を炎で攻撃し、多大な損害が出た事、襲撃者の一人を捕縛しようとしたところ、自爆した事等を語った。
「皇帝陛下やノルン様は、ハイエルフが精霊魔法で攻撃してきた、と推測されていたのですが……」
ミーシアさんは僕が話をする間、一言も発する事無く、ただ、耳を傾けているようであった。
話を聞き終えたミーシアさんの顔に、なんとも表現しようのない複雑な感情が浮かんでいるのが見えた。
彼女はそのまま口を開いた。
「カケル君は、彼女達が自爆覚悟で軍営を襲った理由を知りたいのね」
「そうです」
あの時、目の前で自爆したハイエルフの女性の姿が、僕の脳裏を過った。
―――帝国のイヌめ!
そう口にした彼女の、憎悪に歪んだあの顔を、僕は一生忘れる事は出来ないだろう。
何が彼女をそうさせたのか?
「そうね、こんな昔話があるわ」
そう前置きしてから、ミーシアさんは、ゆっくりと静かに話し始めた。
「……で、今は詳細を調査中で、ヤーウェン共和国への進軍も停止中なんだ」
僕の話を聞き終えたハーミルとメイは、難しい顔で黙り込んでしまった。
僕は少し重くなってしまった場の雰囲気を変えようと、話の転換を図った。
「そうそう、皇帝陛下が、ハーミルはしばらくお父さんと一緒に過ごしていいよって。希望すれば、従軍を免除するって仰っていたよ」
しかしハーミルからの返事が無い。
彼女は右耳のピアスを触りながら、何かをじっと考え込んでいる様子であった。
と、メイの部屋が外からノックされた。
―――コンコン
「カケル殿、ジュノ殿おられますか? キース殿とのお話、終わりましたよ」
ドミンゴさんの声だ。
彼はメイの顔を知らないはず。
だけど念のため、僕はメイに部屋の入り口から死角になる所へ移動するよう小声で促してから、部屋の扉を開けた。
部屋の外には、ドミンゴさんと年配の女性が立っていた。
どうやらキースさんのお世話を担当している年配の女性の案内で、ドミンゴさん自ら、僕達を呼びに来てくれたらしい。
人懐っこそうな笑顔を浮かべたドミンゴさんが、口を開いた。
「皆さんお揃いで。キース殿に陛下のお言葉、無事お伝え出来ました。これで、いつでも軍営に戻れますぞ」
ハーミルが彼に言葉を返した。
「ご苦労様です。私も軍営に戻りますので、少々、準備の時間を頂けますでしょうか?」
ドミンゴさんが少し意外そうな顔になった。
「ハーミル殿には従軍せず、この家でキース殿と過ごされても良い、と陛下は仰っていましたが?」
「そのお話はカケルからも聞いております。しかし昨晩、襲撃があったとの事。私もカケルやジュノと一緒に軍営に戻ります」
ドミンゴさんが年配の女性と共に去って行った後、僕はハーミルに問いかけた。
「ハーミル、いいの?」
「あら、カケルは私が一緒に軍営に戻ったらいや?」
「そんなこと無いよ。でもせっかくお父さん元気になったんだし、しばらく一緒にいてあげた方がいいんじゃない? 軍営の方も安全とは言えないし、ハーミルに何かあったら、お父さんが悲しむよ」
「軍営が安全じゃないからこそ行くんじゃない。こんな状況で家にいたら、逆に父から叱られるわ。それに忘れたの? 私はカケルの用心棒で、カケルが行く所、どこまでも付き従うって、前に宣言したでしょ?」
僕は400年前の世界から無事帰還した時、ハーミルがそう宣言していたのを思い出した。
以来、ハーミルは言葉通り、常に僕を支えてくれている。
今更ながら、ハーミルが寄せてくれる信頼と友情に、僕は心の中で頭を下げた。
1時間後、僕、ハーミル、ジュノ、そしてドミンゴさんの四人は、キースさんと年配の女性に見送られ、馬車に乗って帝城へと向かった。
馬車の中で、隣に座ったハーミルが、僕にそっと囁いてきた。
「ドミンゴさんとジュノには先に軍営に戻ってもらって、私達だけでミーシアさんに話、聞きに行ってみない?」
「ミーシアさんに? 何の話を?」
「ミーシアさんはハイエルフよ。それに、前にカケルを一緒に救出しに行った時、彼女、強力な精霊魔法を操っていたわ」
僕はハーミルの言葉に目を見開いた。
昨晩の襲撃者達は、ミーシアさんと同族かもしれない?
自爆したエルフと思しき銀髪の女性の顔が思い出された。
彼女の美しい顔は、帝国への憎悪で塗りつぶされていた。
彼女が文字通り、命を賭して昨晩の襲撃に参加したのには、きっと何か重大な理由があったはず。
ミーシアさんと話す事で、その一端に迫れるかもしれない。
僕はハーミルの提案に頷いた。
馬車が帝城に到着してから、僕はドミンゴさんに声を掛けた。
「すみません、僕達、後から陛下の軍営に戻っても良いですか? ハーミルと二人で少し寄り道したい所がありまして」
「まあ、遅くならなければ宜しいのでは? 陛下にはカケル殿とハーミル殿の帰還が少し遅くなる、と申し上げておきましょう」
ドミンゴさんは、僕の申し出をあっさりと受け入れてくれたけれど、ジュノは訝しげな顔になった。
「どこ行くんだ?」
「おお、そういえば、ジュノ殿も御同行の仲間でしたな。三人で行って来られては?」
ドミンゴさんの言葉を受けて、僕はハーミルにチラッと視線を向けてみた。
彼女の様子からは、ジュノの同行を嫌がる素振りは特段感じられない。
僕はジュノに言葉を返した。
「僕達がお世話になっている人と、少し話をしてこようとしているんだけど……ジュノも一緒に行く?」
「そうだな。別段、今急いで軍営に戻ってもやることないし……いいぜ、付き合うよ」
ドミンゴさんが僕の設置した転移門を潜り抜け、皇帝ガイウスの軍営へと戻って行くのを見届けた後、改めて僕達は帝都の転移の魔法陣へと向かった。
ジュノが不思議そうな雰囲気でたずねてきた。
「アルザスの冒険者ギルドの受付に会いに行くんだろ? カケルの霊力で転移すれば早いんじゃないのか?」
「僕のこの力に関しては、余り広めるなって言われているんだ。だから、アルザスまでは普通に転移しようと思ってね」
僕達三人がアルザスの冒険者ギルドに着いたのは、丁度お昼時であった。
建物の内部は、午前中に依頼をこなして帰って来た者、午後からの依頼を探して掲示板を眺めている者等、大勢の冒険者達で賑わっていた。
ミーシアさんはいつも通り、受付に座っていたけれど、僕達に気付くと笑顔で手を振って来た。
「ミーシアさん、お久し振りです」
「カケル君にハーミルじゃない。あと一緒にいるのは……ジュノちゃん? もしかして、あれから仲良くなったの?」
「……“ちゃん”づけすんなよ」
子供扱いされたと思ったのか、ジュノが少し不貞腐れた。
ハーミルはそんなジュノに構わず、いきなり本題を切り出した。
「ミーシアさん、私達今、皇帝陛下の軍に従軍しているんだけど、ちょっとミーシアさんに聞いてみたい話があって……」
ハーミルの真剣な面持ちに、ミーシアさんの切れ長の目がすっと細くなった。
「大勢の前では話しにくそうな感じね。分かったわ、もうお昼だし、一緒にご飯食べながらその話をしましょう」
ミーシアさんは僕達にそう告げると、すぐに自分が担当していた受付窓口を閉めて、奥へ下がって行った。
数分後、ラフな私服に着替えたミーシアさんが戻って来た。
「それじゃあ、行きましょうか」
彼女が僕達を連れて行ってくれたのは、あの『バルサムの力車亭』だった。
一ヶ月ぶりになるその外観を目にして、僕の心の中に、なんだか懐かしさに似た感情が沸き上がって来た。
店内は時間帯もあってか、大勢の人々が食事を楽しんでおり、ほぼ満席の状態だった。
ミーシアさんが店員さんと二言三言会話を交わすと、僕達は2階へと案内された。
2階は初めて上がったけれど、扉で完全に締め切る事の出来る部屋が十数個並んでいた。
僕はミーシアさんに聞いてみた。
「この扉の中って、個室になっているんですか?」
ミーシアさんが笑顔で説明してくれた。
「そうよ。ここはよく、他の競合相手に聞かれたくない話をする冒険者達が使ったりするの」
通常は、個室は前日までに予約が必要との事であった。
しかしギルドの職員であるミーシアさんは、ギルド用の個室を予約無しで利用出来るのだ、とも説明してくれた。
僕達四人は、注文した料理が届くまで、他愛のない会話を楽しんだ。
やがて料理が運ばれ、しばらく人の出入りの無い状態になった頃を見計らって、僕はやおら切り出してみた。
「実は昨晩、軍営が襲撃されまして……」
僕は昨晩、突如暴風雨が襲ってきた事、その暴風雨による混乱をついて、十数名の侵入者が軍営を炎で攻撃し、多大な損害が出た事、襲撃者の一人を捕縛しようとしたところ、自爆した事等を語った。
「皇帝陛下やノルン様は、ハイエルフが精霊魔法で攻撃してきた、と推測されていたのですが……」
ミーシアさんは僕が話をする間、一言も発する事無く、ただ、耳を傾けているようであった。
話を聞き終えたミーシアさんの顔に、なんとも表現しようのない複雑な感情が浮かんでいるのが見えた。
彼女はそのまま口を開いた。
「カケル君は、彼女達が自爆覚悟で軍営を襲った理由を知りたいのね」
「そうです」
あの時、目の前で自爆したハイエルフの女性の姿が、僕の脳裏を過った。
―――帝国のイヌめ!
そう口にした彼女の、憎悪に歪んだあの顔を、僕は一生忘れる事は出来ないだろう。
何が彼女をそうさせたのか?
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気になった方は是非読んでみてください。
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