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第五章 正義の意味
107. 奇襲
しおりを挟む第037日―6
いまだに地上では地鳴りが響き渡り、余震のような大きな揺れが軍営を襲う中、上空のドラゴン達が一斉に炎を吐き出した。
同時に、何者かが放つ大魔法が、陣営の至るところで炸裂し、あちこちで兵士達の悲鳴が上がった。
すぐさまジェイスンら、高位の魔導士達が、ガイウスとノルン達を守るべく、守護結界を張った。
「これはただの地震ではあるまい。昨日のやつらが、ドラゴンを連れて再度襲撃してきたのではあるまいか?」
ガイウスは上空のドラゴンを歯噛みしながら睨みつけた。
「カケルはどうした?」
「申し訳ございません。私達が気付いた時には、既に彼の姿がありませんでした」
ガイウスの問い掛けに、ハーミルが唇を噛みしめながら言葉を返した。
やがて、遠くから喊声が聞こえてきた。
混乱した様子の伝令が、ガイウス達のもとに駆けつけてきた。
「申し上げます! 何者かの奇襲を受けております! 現在、ハルサム将軍の部隊が交戦中ですが、長くはもちそうにない、との事。陛下には速やかに退避されたし、との伝言です」
「奇襲だと!?」
その場の皆の顔色が変わった。
「父上はこのまま安全な地点まで退避なさって下さい。とにかく兵を癒し、なんとか反撃の態勢を整えて参ります。ジェイスン、父上を頼んだぞ」
ノルンはそう叫ぶと、自身に治癒魔法をかけながら、守護結界の中から飛び出して行った。
慌ててハーミルとジュノ、そして何人かの将兵達がその後を追った。
ノルンは将軍達に、兵士達を統率して反撃を行うよう指示すると、目を閉じて詠唱を開始した。
彼女の額が青く輝き、宝珠が顕現した。
宝珠を顕現させた事で爆発的に増大した魔力を使って、ノルンは周囲の負傷兵達の治療を開始した。
しかしそのノルン達の努力をあざ笑うかの如く、軍営内の動揺は次第に大きくなっていく。
ハーミルがノルンの手を引いた。
「ノルン! ここは危険よ。陛下と一緒に、ここは離脱しましょう」
「だめだ! 傷付いた兵士達を見捨てて逃げたとあっては、帝国の威信にかかわる」
「ノルンや陛下にもしもの事があったら、どうするの!?」
しかしハーミルの言葉に構わず、ノルンは宝珠を顕現したまま軍営内を駆け回り、負傷兵達を次々と癒して回った。
突然、ノルンの目の前に、地響きを立てて、一頭のドラゴンが降り立った。
ハーミルとジュノが、ノルンを庇うように身構えた。
彼女達が見守る中、ドラゴンの上から、何者かが地上に降りてきた。
「お初にお目にかかる。私は魔王エンリル様にお仕えする戦士、シャマシュ」
筋骨隆々、頭部に魔族特有の二本の角を有し、2メートルは優にあろうかという巨漢のその男は、両手に背丈を超えるほどの大鎌を構えていた。
「数万を擁する軍勢と言えど、少し恐怖を与えてやればこのザマだ。人間はやはりもろいな」
シャマシュと名乗ったその魔族は、酷薄な笑みを口元に浮かべていた。
シャマシュをその背に乗せていたドラゴンは、再び空に舞い上がっていった。
それを見届けた後、シャマシュはその巨体に不釣り合いな凄まじいスピードで襲い掛かって来た。
ハーミルがノルンを庇い、手にした剣でその大鎌を弾いた。
シャマシュの目が細くなった。
「ほう……我が大鎌の一撃をこうも易々と弾くとは。名を聞こう」
「私はハーミル。私がいる限り、ノルンには指一本触れさせないわよ?」
「なるほど。お前がマルドゥク様の仰っていたハーミルか。面白い。人間の剣聖の実力、いかほどのものか見せてもらおう」
驚くべきことに、シャマシュはハーミルの繰り出す攻撃を、全てその大鎌でいなしていく。
実力伯仲とみたジュノは、ハーミルを援護するべく、クロスボウの矢を連続して発射した。
しかしシャマシュは、ハーミルの攻撃をいなしつつ、ジュノの放つ矢も全て叩き落していった。
「どうした? この程度では楽しめんぞ。もっと仲間を呼んだらどうだ?」
酷薄な笑みを浮かべたままシャマシュが何かを詠唱した。
同時に、あたりの地面から次々とゴーレム達が召喚されて現れた。
「魔王エンリル様から“ようやく”許可が下りた。ノルンを捕えよ」
ノルンに襲い掛かるゴーレム達に気付いた周囲の兵士達が、次々とノルンの前に盾となって立ちはだかった。
周囲は混戦状態に陥った。
兵士達は疲れを知らないゴーレム達の攻撃により、一人、また一人と倒されていく。
シャマシュと交戦中のハーミルとジュノには、ノルンのみを護る余裕はない。
そこへ何者かが放った、強力な大魔法が襲い掛かって来た。
ノルンは咄嗟に守護の結界を展開した。
しかし宝珠を顕現し、魔力が爆発的に増大しているとはいえ、ノルンの得意な魔法は、人々を癒す神聖魔法。
強力な大魔法に対抗出来る程強固な守護の結界は、彼女の得意とする分野では無かった。
威力を相殺しきれなかったその攻撃によって、ノルンは吹き飛ばされてしまった。
したたかに地面に打ち付けられたノルンが、痛みに耐えながら顔を上げると、ハーミルやジュノ、それに兵士達も同時になぎ倒されていた。
どうやら敵には、恐るべき大魔法の使い手がいるらしい。
地面から起き上がろうとするノルンに、ゴーレム達が襲い掛かって来た。
虜囚になる位なら、自害するか?
ノルンの脳裏を、自らの死がちらりとよぎった。
次の瞬間、今度はゴーレム達が一斉になぎ倒された。
「メイ!?」
ノルンと同じく、しかしノルンのそれとは色違いの、白の宝珠を額に顕現したメイが、ノルンの傍に立っていた。
「ノルン、怪我は?」
「大したことは無い。それにしても、どうしてここへ……?」
「理由は分からないけれど、部屋で寛いでいた私の宝珠がいきなり顕現したの。その途端、宝珠を顕現しているあなたに、命の危険が迫っているのが“視えた”わ。あなたやハーミルに何かあったら、カケルが悲しむでしょ? だから転移してきたの。今、どういう状況?」
「敵の奇襲を受け、味方は混乱の極みにある」
二人の会話に割り込む声が上がった。
「おや? 半端者がこんな所に……ニンゲンごっこは楽しいか?」
声の方に視線を向けると、シャマシュがこちらに近付いて来ている所であった。
「ちょうど良い。お前も連れて帰……」
シャマシュの言葉が終わるのを待つ事無く、メイが無詠唱で強力な攻撃魔法を解き放った。
シャマシュがそれを躱した瞬間、身を起こしたハーミルが裂帛の気合いと共に、再びシャマシュに斬り掛かった。
「戦っている最中に余所見なんて、なめられたものね」
態勢を崩しながらも、シャマシュはなんとかその攻撃を大鎌で受け止めた。
再びシャマシュとハーミルが、凄まじい勢いで斬り結び始めた。
メイが詠唱を開始した。
周囲を凶悪な魔力が包み込み、先程に数倍する強力な魔法攻撃が、シャマシュ目掛けて再び解き放たれた。
シャマシュが舌打ちしながらそれを躱し、そこへジュノの矢とハーミルの刃が襲い掛かった。
防戦一方に追い込まれたシャマシュが、左手を上げた。
それが合図になったのか、上空から複数のドラゴン達が、ノルンやメイ達目掛けて連続して炎を吐いてきた。
メイがそれを氷雪の魔法で相殺した。
そして改めて上空のドラゴン達を魔力で攻撃しようとして……
彼女の傍らが淡く輝いたかと思うと、カケルが姿を現した。
「カケル!?」
「メイ!」
メイは突然の僕の出現に驚いたのであろう。
目を大きく目を見開いている。
僕はすぐさま、周囲の人々を護るように霊力の盾を展開した。
そして目を閉じて右腕の腕輪に意識を集中した。
再び目を開けた時、傍らには光球が出現していた。
ノルン様が問いかけてきた。
「カケル! 今までどこに行っていたのだ?」
「ノルン様、すみません。どうやら僕の力を煩わしく思う集団に、うまくここから釣り出されてしまっていました」
「釣り出されて?」
「昨日の襲撃者達が、和平の話をしようと持ち掛けてきたので、彼等と会っていました。ですが彼等の本当の狙いは、僕がいない間に、ここをこうやって攻撃するための時間稼ぎをしたかっただけだったみたいです」
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