【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

113. 膝枕

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第039日―2


部屋で一人になった僕は、早速、用意してもらった水着に着替えて浜辺に出た。
どこまでも抜けるように青い空。
白い砂浜と美しいエメラルドグリーンのサンゴ礁の海。
そんな美しい風景の中で、浜辺の一角に僕が設置した巨大な黒い穴転移門だけが、場違いな異彩を放っていた。

ここはクレア様の別邸の、いわゆるプライベートビーチなので、許可されていない一般人が出入りする事は不可能な場所だ。
場所に関しては、深く考えずに設置した転移門だったけれど、意外と設置場所としては好都合だったのかもしれない。
今はその転移門を、二人のメイドが武器を片手に護衛していた。
元々普段はメイドの仕事をしている彼女達だが、いざとなったら、この建物を守る役目も担っているのかもしれない。

遠目に、僕に気付いたらしい彼女達が、会釈をしてきた。
僕も会釈を返した後、ヤシの木陰に置かれたソファの上に寝そべった。
南国特有の穏やかな時間が流れる中、僕はいつの間にか、眠りに落ちていった……
…………
……

僕は夢を見ていた。
夢の中でもやはり、コイトスの浜辺に寝そべっていた。
波打ち際に、何か丸い物がたくさん転がっているのが見えた。
ヤシの実でも打ち上げられているのだろうか?
見るとは無しに、その丸い物を眺めていると、やおら、その一つが口を開いた。

『……守護者は元々、勇者と魔王の戦いのみを調整してきた存在であったはず。あなたがガイウスに力を貸し、彼の野望を助ける事は、世のことわりに反する行為だ』

ヤシの実と思ったそれは、人の頭だった。
いや、正確には、切れ長の耳を持つハイエルフ。
僕はその顔に見覚えがあった。
それは僕が皇帝ガイウスに加担し、捕えた襲撃者達の一人。
皇帝ガイウスが、彼等の処刑を命じていたのを思い出した。
全身が総毛立ち、僕は叫び声を上げた!
……
…………

気が付くと、誰かに優しく頭を撫ぜられていた。
目を開くと、すぐ傍にクレア様の顔があった。
束の間混乱したけれど、すぐに、自分が彼女に膝枕されている事に気が付いた。
慌てて僕は飛び起き、頭を下げた。

「す、すみません。クレア様が来られているとは気付かず……」
「クレアが勝手に遊びに来ただけです。そうしましたら、うなされてらっしゃったようですので、思わず……」

夕陽に照らし出され、美しく輝く彼女の顔には、優しい笑みが浮かんでいた。


少し落ち着きを取り戻した所で、クレア様が説明してくれた。
あれからドテルミ様は、僕が設置した転移門の警備のため、改めて衛兵を配置する事にしたのだそうだ。
クレア様は彼等と共にここへやって来て、うなされている僕に気付いた、という流れだったらしい。

「カケル様の遠征先でのご活躍、お聞きしていますよ。ボレア獣王国を戦わずして降参させ、今また、あのような転移門まで設置されるとは、さすがは英雄様です」

僕がクレア様の大事にしているネックレスを取り戻して第55話以来、彼女の僕に対する評価はかなり美化されたものになっている。
本当の自分は、いつの間にか与えられていたこの力に振り回され、周りに流されているだけであるというのに。

「ですが、神話の中の神々や英雄達ですら、やはり思い悩む事があったと聞き及んでおります。カケル様も遠征では、何かと気苦労をなさっている事でしょう。クレアでは到底、カケル様のお心を癒して差し上げる事は出来ないかもしれませんが、せめてこちらにご滞在の間は、のんびりしていって下さい」

僕は思わず、はっとしてクレア様の顔を見た。
彼女の顔には、いつも通りの、のんびりとした笑顔が浮かんでいたけれど、その目には、僕への気遣いがはっきりと表れていた。
彼女と過ごした時間は長くはない。
というより、表面上の付き合いしか無かったはずだ。
しかし今、僕は自分の心の内を見透かされたかのような不思議な感じがした。
あんな夢を見ていたし、うなされていた、との事であったから、何か口走っていたのかもしれない。

「クレア様に心配かけてしまったみたいで、申し訳ないです。向こうへ戻るまでは、のんびりさせてもらうつもりですので、ご安心下さい」


それから僕達は並んで腰かけて、沈みゆく夕陽を眺めながら、他愛も無いおしゃべりを楽しんだ。
クレア様が口にする、些細な日常生活での失敗談等は、最近、戦争に振り回されていた僕には、かえって新鮮に聞こえた。
やがてマロリーさんが、食事の準備が出来た事を伝えに来てくれた。
僕は戦争とは無縁な南国の星空のもと、クレア様と一緒に、遅い夕食を楽しんだ。



第040日―1


翌朝、僕は起床するとすぐに、浜辺の一角に昨日設置した転移門の様子を確認しに行ってみた。
不思議な揺らめきに縁取られた巨大な黒い穴転移門は、昨日と変わらぬ大きさでそこに存在し続けていた。
周囲を数名の衛兵が固めている。
今の所、この転移門を維持するのに、著しく霊力が消耗している、といった感覚は無かった。
この程度の転移門なら、例え眠っていても、僕自身に何かない限り、半永久的に維持し続ける事が出来るのかもしれない。


朝食を食べ終えると、クレア様が訪ねて来た。

「カケル様、お早うございます。昨晩は、ゆっくりお休みになられましたか?」
「お早うございます。お陰様で、のんびりさせてもらっています」
「兄が申すには、明日の朝には、先遣隊の出発準備が整うとの事です。カケル様は今日、何かご予定、御座いますか?」
「特には何も無いです。明日に備えて、今日も一日、のんびり過ごそうかと」

クレア様がにっこり微笑んだ。

「それでは、海をご案内させて頂けないでしょうか? とっても美しい場所があるんですよ」

天気も良いし、特に予定もないし、クレア様に海を案内してもらうのも良いかもしれない。

「お誘い、ありがとう御座います。せっかくなので、お言葉に甘えさせて下さい」
「はい。きっと、カケル様にも気に入って頂ける場所ですよ」


1時間後、僕とクレア様は、クレア様の別邸近くの桟橋に来ていた。
桟橋では、この前、マリサの滝へ同行してくれたのと同じ侍女達が僕達二人を出迎えてくれた。
桟橋には、十メートル位の白い瀟洒しょうしゃな小型のクルーザーのような船が停泊していた。
内部は、大人10名程が十分くつろげるような広さがあった。

そう言えば、この世界に来て船に乗るのは、これが初めてだ。

内装は、元の世界のそれと大差無さそうに感じられた。
ただし、僕が実際乗った事のある船は、庶民的なフェリーであり、こういうお洒落なクルーザーのような船は、テレビでしか観た事は無いのだけど。

きょろきょろ辺りを見回していると、クレア様が声をかけてきた。

「もしかして、船に乗られるのは、初めてでいらっしゃいますか?」
「初めてでは無いんですが、こんなお洒落な船には乗った事無いもので」
「まあ、カケル様はお世辞もお上手ですね」

クレア様は笑顔で、簡単にこの船について紹介してくれた。
帆船タイプのこの船は、通常は普通の海風を受けて動くが、必要があれば、風向きと無関係に、魔力の風で動かす事も出来るらしい。

「そう言えば、船長さんっていらっしゃらないんですか?」
「ふふふ、この船はキラ達が動かしてくれるんですよ」

キラ第56話さんは、クレアが一番信頼している“ばあや”であった。
侍女達を取り仕切るだけでなく、なかなか多才な人物のようだ。


やがて必要な物資を積み終えた船は、海上を滑るように動き出した。
よく晴れて波も穏やか。
僕とクレア様は、甲板に出て海上の景色を楽しんだ。

しばらくすると、行く手に小さな島が現れた。
サンゴ礁に囲まれたその小島の手前で船は停泊し、そこからは小舟に乗り換えて、その島に上陸した。
島には管理所のような場所があり、初老の男性が僕達を出迎えてくれた。
クレア様の話によれば、ここは王家所有の小島であり、今は24時間交代で、管理人が常駐しているけれど、元々は無人島だったらしい。

人手がほとんど加えられていないこの島の情景は、クレア様の別邸周辺の浜辺以上に美しかった。
どこまでも白い砂浜と、その先に広がるエメラルドグリーンの海。
全てが日の光を受けて、この世の物とも思えない位、キラキラと輝いていた。
遠く対岸に、僕達が出発してきたナレタニア大陸がかすんで見えていた。

僕達は早速、水着に着替えて海に飛び込んだ。
クレア様は、淡い水色のビキニタイプの水着を身に着けていた。
女性的な曲線美で縁取られた、スタイルの良いその姿に思わず見とれてしまった僕の視線に気付いたらしいクレア様が、少し顔を赤らめた。
慌てて視線を逸らした僕は、思わず謝ってしまった。

「す、すみません」
「謝って頂く事は何も……ただ、あまりじっと見つめられると照れてしまいます」

お昼は、キラさんがてきぱきと侍女達を仕切って用意してくれたバーベキューを、皆で楽しんだ。
こうして南の海を満喫していると、僕は束の間、戦争の事を忘れる事が出来た。

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