【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

115. 人質

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第041日―1


翌朝、僕達が朝食を食べ終えた頃、国王のドテルミ様自ら、僕達の宿舎を訪ねて来た。

「ドテルミ様? どうされたのですか?」

驚く僕達に、ドテルミ様は笑顔で声を掛けてきた。

「先遣隊がここから出征するので、慣例通り、閲兵しに来ただけだよ」

コイトスの先遣隊は、宿舎の近くの浜辺に僕が設置した転移門を潜り抜けて、皇帝ガイウスの軍営に向かう事になっていた。
ドテルミ様は僕達とひとしきり談笑した後、少し真剣な表情で切り出した。

「そうそう、今回の出征には、クレアが同行する事になっていてね。妹の事、宜しくお願いします」
「クレア様が?」

彼女は身分こそ、国王ドテルミ様の妹ではあったけれど、軍を率いる事が出来そうな感じには見えない。
もしかすると、彼女は建前上の司令官で、実際の軍の指揮は配下の将軍がする、とかだろうか?

僕の疑問に、ドテルミ様が笑顔で答えてくれた。

「クレアは軍に“同行”するだけだよ。今回ここ、コイトスは、カケル殿の転移門で戦地と直結された。皇帝陛下は、後方支援の拠点としてのコイトスが、万全であることのあかしを求めておられるんだ」
あかしですか?」

首を捻っていると、ハーミルが小声で耳打ちしてきた。

「人質って事よ」
「人質!?」

ハーミルのその言葉に、僕は少なからず衝撃を受けた。
狭い場所に軟禁され、母国が裏切れば、あっさり殺される、というありがちな人質像が、僕の脳裏に浮かんだ。

僕達のヒソヒソ話に気付いたらしいドテルミ様が、苦笑した。

「今回のヤーウェン討伐は、皇帝陛下からすれば、謀反の鎮圧だ。第二第三のヤーウェン出現を防ぐためにも、参陣する諸侯があかしを求められるのは、寧ろ当然の処置だよ。それに……」

ドテルミ様が、僕の反応を確かめるような視線を向けてきた。

「皇帝陛下からは、クレアはカケル殿の預かりになるだろう、とのお言葉を頂いている。カケル殿も知っての通り、妹は根がのんびりしている。カケル殿や共に従軍するハーミル殿やジュノ殿に、何か迷惑をかけるような事があれば、遠慮なく叱ってやってくれ」

僕達が人質としてのクレア様を預かる?
ドテルミ様の言葉を受けて、僕は思わず、ハーミルやジュノと顔を見合わせた。


やがて先遣隊の出征準備が整ったとの知らせがもたらされた。
僕達は帰り支度を整えた後、ドテルミ様と一緒に宿舎を出て、転移門が設置されている浜辺へと向かった。
不思議な揺らめきに縁取られた、巨大な半円形の黒い穴転移門は、昨日と変わらぬ大きさで、そこに存在し続けていた。
転移門の前の浜辺には、既に100名程の重武装の兵士、それに何台かの輜重の荷馬車も整列して、ドテルミ様の到着を待っていた。

ドテルミ様が、兵士達に激励の訓示を述べる中、クレア様とキラさんが僕達の下《もと》にやってきた。
クレア様は僕の顔を見ると、笑顔になった。

「カケル様、今回はクレアも同行いたします。あちらでは、宜しくお願いします」

いつも通り、のんびりした雰囲気で頭を下げる彼女の姿に、僕は少し拍子抜けしてしまった。
僕は思わず問いかけてしまった。

「クレア様、顔をお上げ下さい。まだ直接、陛下から何もお聞きしてないのですが、クレア様は、その……人質として、北方におもむかれるんですよね? ご不安ではないですか?」
「カケル!」

さすがに質問が直球過ぎた?
ハーミルがたしなめるような雰囲気で声を上げた。
しかしクレア様は笑顔のまま、言葉を返してきた。

「ハーミル様、大丈夫です。カケル様も私を気遣きづかって下さいまして、ありがとうございます」

束の間の沈黙の後、クレア様が言葉を続けた。

「そうですね。不安が無いと言ったら嘘になります。でも、あちらでもカケル様とご一緒出来るのでしたら、クレアには、そちらの方が楽しみに御座います」


数分程で、ドテルミ様の閲兵と激励の訓示は終了した。
僕はハーミルやジュノと一緒に、コイトスからの先遣隊とクレア様達を先導する形で、転移門へと足を踏み入れた。
くぐり抜けた先は、一昨日に僕が転移門を設置した、あの高い柵に囲まれた大きな広場だった。
大陸南岸のコイトスから。大陸北部の皇帝ガイウスの軍営まで、一瞬にして移動する形になった先遣隊の兵士達が、一斉にどよめいた。
僕達はあとの事をその場を守衛している帝国軍兵士達に任せ、先遣隊の部隊長とクレア様を伴って、皇帝ガイウスの幕舎へと向かった。


皇帝ガイウスは、ノルン様や側近達と共に、上機嫌で僕達を迎え入れてくれた。

「転移門の設置とコイトスへの使者の務め、ご苦労であった。あちらで少しは骨を休める事は出来たかな?」

どうやら今回のコイトス行き、彼なりに少し僕に休暇を与えようという目算もあったようだ。

「お陰様で久し振りに……」

感謝の気持ちを伝えようとして、僕は隣のハーミルから、少しだけ冷ややかな視線を向けられている事に気が付いた。

あんまりこの話を引っ張らない方が良いな。
結果的に、僕がコイトスで“骨休め”している間、ハーミルはこの地で置いてけぼりを食らった形になっていたわけだし。

そう判断した僕は、皇帝ガイウスの心遣いに対し、簡潔な言葉で感謝の気持ちを伝えてから、コイトスでのドテルミ様とのやりとりの詳細を、事務的に報告した。
僕の報告が終わるのを待っていたかのように、クレア様が皇帝ガイウスに書状を差し出した。

「兄より書状を預かっております」

受け取った書状を読み終えた皇帝ガイウスは、満足そうにうなずいた後、クレア様に笑顔を向けてきた。

「元気そうで何よりじゃ。マクサイクレアの父殿やドテルミ殿も息災かな?」
「はい、お陰様で家族皆、すこやかに過ごすことが出来ております。父などは、隠居した後の方がかえって元気になられたようで、毎日庭いじりなどなさって過ごしておられます」
「それは何より。時にクレアは、いくつになったかな?」
「今年で18で御座います」
「そうか。そなたの母シェリルが、コイトスへ嫁いだのも確か18の時であったな……」

皇帝ガイウスの従妹第65話に当たるシェリル様は、10年前、若くしてこの世を去ったと聞いている第71話
皇帝ガイウスの言葉に、場が少ししんみりとなった。
そんな場の空気を変えたかったのか、皇帝ガイウスが、少し明るい口調でクレアに問いかけた。

「時にクレアよ、そなたには良い縁談等は無いのかな?」

クレア様は、少し頬を赤らめた。

「私のような不調法者ぶちょうほうもの(※何かと細かい事に気付かず、配慮が足りない者)、もらって下さるというようなお話はまだ御座いません」
「そなたはシェリルに似て、容姿、気立てとも十分なものを備えておる。いまだ縁に恵まれぬとは、世の男共に見る目が無いのであろう」

皇帝ガイウスは、おどけたような口調でそう語ると、今度は僕の方を向いた。

「そう言えば、カケルは今いくつだったかな?」
「17です」
「ほう……ではクレアと同い年だな。どうじゃ? クレアを嫁にもらっては? もし二人に縁があれば、似合いの夫婦になれそうじゃ」

皇帝ガイウスの“冗談”に、クレア様が耳まで真っ赤になってうつむくのが見えた。
彼女のそんな様子に、彼女と洞窟で夕陽を一緒に見た時の事を思い出してしまった僕もまた、自然と顔が赤くなってきた。
思わずクレア様から視線を逸らした僕の視界に、ハーミルの姿が飛び込んできた。
僕の隣にいる彼女は、顔は笑顔になっているものの、目が笑っていないという器用な表情をしていた。
そんな彼女の表情が、やや場違いに感じられた僕は、思わず噴き出しそうになってしまった。
僕の視線に気付いたらしい彼女は、僕にだけ分かる感じで少し怒った顔をした後、プイっとそっぽを向いた。

場の雰囲気がすっかりなごやかになった?所で、皇帝ガイウスが、改めてクレア様の軍営での処遇について、僕達に話を始めた。

「カケルよ。話は変わるが、実はクレアは“客人”として、しばらく軍営内に留まってもらう事になっておる。ついてはクレアの事、お願い出来るであろうか?」

事前に聞いていた通り、やはりクレア様は“人質”であり、僕がその“監視役”を任されることになるようだ。
否応なく、ココが戦場である事を実感させられたけれど、気を取り直して言葉を返した。

「かしこまりました」
「ではカケル達には、もう少し大きな幕舎に移ってもらおう。ハーミルとジュノも、引き続き、カケルの事を助けてやってくれ」

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