【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

116. 恋話

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第041日―2


カケル達が退出した後、ノルンがガイウスにそっと近寄った。

「父上、あのような戯言ざれごとは……少々、肝を冷やしましたよ」
「ん? 戯言とは?」

すっとぼけた感じで聞き返してくるガイウスに、ノルンは軽くため息を吐いた。

「クレアの縁談云々の話で御座います」
「何か問題があったか?」
「大ありで御座います。ハーミルのいる場であのようなお戯れは……彼女は、カケルの事を好いております。父上の戯言を聞いた時の彼女の表情、お気付きになられませんでしたか?」

ノルンの言葉に、ガイウスはやや大袈裟に驚いて見せた。

「ほう……それは気付かなんだ。ノルンは、ハーミルよりその事、直接聞いたのか?」
「聞かずとも、態度を見ていれば分かります。彼女はカケルの事になれば、周りが見えなくなる位に御座います」
「では万一、カケルが帝国と敵対した場合、我らが剣聖は迷う事無く、カケルの側に立つ、ということじゃな?」

ガイウスの過激な“もしも”の話に、ノルンの顔が強張った。

「そこまでは申しておりませんが……」
「ははは、冗談じゃ。カケルが帝国と敵対するとは、予も思っておらぬ」

ガイウスは、しかしそこで少し真剣な表情になった。

「ただ、カケルの今の状態は、帝国に取って不都合とは思わぬか?」
「不都合? ですか?」
「うむ。力ある者が、自身を支えてくれる者達と共に帝国の埒外らちがいにいる、というこの現状じゃ。その力は、街一つを簡単に滅ぼし、強大な結界を無視して予の居室にまで転移してくる事を可能にする。カケル自身が望まずとも、カケルの力を利用し、或いは彼をそそのかして、帝国に挑戦してくる者が現れぬ、とも限らぬ」

ガイウスはノルンの反応を確かめる素振りを見せながら、言葉を続けた。

「そのような懸念を払拭するには、誰が見ても、カケルと帝国とが、強固な絆で結ばれている事を示す事が肝要じゃ。カケルと帝室に連なる誰かとの婚姻第86話は、一番分かりやすくそれを示せるとは思わぬか?」
「もしや、クレアをカケルに預けるのは、その為の布石……でしょうか?」
「そうじゃ。クレアは予の従姉妹、シェリルの娘。そなたから見れば、再従姉妹またいとこじゃ。一旦、予の養女にしてカケルとめあわせれば、カケルと帝国との結びつきを疑う者はいなくなるであろう」

ガイウスの言葉はノルンを困惑させた。
確かに帝国の将来を考えれば、カケルが今後も帝国側に立ち続ける、との保証が欲しい所であろう。
しかしカケルとクレアが結婚すれば、ハーミルは酷く傷つくであろう事は、間違いない。
そして恐らく、妹のメイも……
いずれそのような話が避けられないとしても、もう少し時間をかけて進めるべきではないか?

ノルンが意見を述べようと顔を上げた時、ガイウスが先に言葉を続けた。

「実はコイトス側には、それとなく話を伝えてある。クレアの結婚相手、帝国の方で紹介させてもらえないか、とな。まあ、カケルが既に誰かと恋仲になっているのであればともかく、今のところ、そういう相手はいないのであろう?」
「……確かに、カケルが誰かに執心しているとは聞きませんが……こういうお話は、慎重に進められては?」
「予も無理矢理好き同士でも無い者を添い遂げさせようとは思わぬ。そんな事をすれば、却って逆効果じゃ。だが、予の聞くところによると、カケルとクレアは中々、良い雰囲気であるそうな」

ノルンは、そこではっと気がついた。
そう言えば、最初にカケル達に、コイトスでのバカンスを強く勧めたのは、父、ガイウスであった。
また今回も、カケルをわざわざ“一人で”コイトスに派遣し、クレアと過ごせるよう仕向けている。
カケルにクレアの“監視”を任せるという不自然さも含めて、もしかするとかなり前々から、こういう方向へと道筋を作りにかかっていたのかもしれない。

「ともかく、まだ決まった話ではない。が、ノルンもそういう話があるものとして、心得ておいてくれ」

ノルンは、父の言葉に黙って頭を下げた。


――◇―――◇―――◇――


皇帝ガイウスの幕舎を退出した僕達は、一旦、元の幕舎に戻ってきていた。
そして引っ越す為の荷作りをしつつ、引越し先の幕舎の設営を待つ事になった。
二度にわたる襲撃で、軍営内の予備の幕舎が心許こころもとなくなっていた。
兵士達の中には、幕舎無しの野営を強いられる者達も出始めていた。
そのため今回、皇帝ガイウスはコイトスに対し、他の軍需物資と共に、多量の幕舎の供出も命じていたようだ。
僕達の引っ越し先である、大きめの幕舎もまた、コイトスから持ち込まれた物と聞いていた。

ちょうどお昼ご飯を食べ終えた頃、僕達の新しい幕舎の設営が終わった、との知らせが届いた。
僕、ハーミル、ジュノ、それにクレア様達、コイトスからの“客人”数名は、案内の衛兵に連れられて、新しい幕舎へと向かった。
新しい幕舎は、皇帝ガイウスの幕舎のすぐ隣に設置されていた。
外観は他の幕舎と同様、地味な色合いだったけれど、内部は、それまで僕達の滞在していた幕舎の倍ほどの広さがあった。
また、簡単な仕切りしかなかった前の幕舎とは異なり、内部はしっかりとした壁と扉で区切られ、さながら仮設住宅のような造りになっていた。

質素なテント暮らしに若干飽きが来ていた感じのハーミルは、内部の造りを見て、素直に喜んでいた。

「すごいね~。これってきっと、クレア様も滞在するからだよね。何だか役得って感じ」
「一番奥の区画は、クレア様とコイトスの方々がご使用下さい。カケル様、ハーミル様、ジュノ様は、それぞれお好きな部屋をお使い頂くように、との事で御座いました」

案内の衛兵が去って行った後、僕達は、各々に与えられた部屋で荷解にほどきを行った。
その後、六畳ほどの広さのある自分の部屋で一息ついていると、扉を誰かがノックした。


―――コンコン。


ハーミルかな?

「どうぞ」

しかし僕が扉を開くと、そこにはクレア様の姿があった。
彼女は、キラを伴っていた。

「クレア様? それにキラさん、どうされました?」

僕の問い掛けに、クレア様がにっこり微笑みながら言葉を返してきた。

「いえ、しばらくお世話になりますので、ご挨拶を、と思いまして」
「お世話だなんてそんな。クレア様達こそ、色々窮屈きゅうくつな思いをされてらっしゃるのでは?」

僕は二人を部屋の中に招き入れた。
型通りの挨拶の後、僕達はひとしきり談笑した。
のんびりとした雰囲気で会話に応じてくれているクレア様からは、人質にされているといった雰囲気は感じられない。
僕はその事に、少しだけホッとした。

そんな事を考えていると、キラさんが話題を変えてきた。

「ところでカケル様は、随分とハーミル様と仲が良さそうですね。お二人は、どのようなご関係ですか?」
「キラ! その話はまだ……」
「いえ、姫様、こういう事は最初にはっきりさせておきませんと」

キラさんの唐突な問い掛けと、それをたしなめるかのようなクレア様のやりとりに、少し違和感を覚えたけれど、とにかく僕は率直な気持ちを言葉にして返してみた。

「ハーミルですか? 大切な仲間ですよ。いつも僕の事を気遣きづかってくれて、彼女には本当に感謝しています」

キラさんが、探るような視線で質問を重ねてきた。

「深い仲におなりになってらっしゃるとかは……」

深い仲?
もしかすると、恋人同士と勘違いされているのだろうか?

「それはないですよ。って言うより、ハーミルからしたら、僕はそういう対象に入ってないと思いますが」

思わず苦笑してしまった僕の言葉を聞いたキラさんは、少し意外そうな顔になった。

「それではカケル様は、どなたかとご結婚されるご予定は?」
「結婚!? ですか?」

彼女のその言葉に、先程の皇帝ガイウスの“冗談”が自然に思い起こされた。
一瞬、上ずってしまった声を押さえながら、僕は言葉を続けた。

「結婚も何も、僕はまだ17歳ですよ」
「もう17歳でいらっしゃるなら、そろそろご結婚を考えられてもおかしくない年齢だとは思いますが。結婚まではいかなくとも、想い人のような方はいらっしゃらないのでしょうか?」

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