【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

119. 回想

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第042日―3


北の大地。
凍土に覆われた最果ての地。
極寒の暴風が吹きすさび、通常の手段では到達不能なその地に、魔王エンリルの真の居城、【魔王城】が存在した。
周囲の過酷な環境とは異なり、結界に護られた城内は、思いの他快適な空間が広がっていた。
魔力の光に照らし出された中央の広大な吹き抜けには、緑豊かな木々が生い茂り、その木々の間を縫うように、小川が流れている。
その“庭園”は、失われたかつての魔族達の故郷、理想郷として語られた地を模していた。
庭園の一角に、エンリルとマルドゥクの姿があった。
エンリルは手ずから小鳥たちに餌を与えながら、マルドゥクに語りかけた。

「魔王となる条件、お前は知っているか?」
「資格を持つ者に、天から声がかかり、それに応じる事で魔王たる力とこの居城が与えられる、と聞き及んでおりますが」

それは魔族達に代々受け継がれてきた伝承。
伝承では、魔王は虐げられた魔族達を一つにまとめ、かつての栄光を取り戻してくれる存在として、語られてきた。

「最初の魔王が誕生して以来、数千年。今まで十を超える魔王達が魔族の悲願を達成せんとしたが、全て人間ヒューマン側の勇者達により討ち滅ぼされてきた」
「しかし、父上は違います。父上なれば必ず……」

エンリルは不敵な笑みを浮かべた。

「どうであろうな。もちろん、私とて簡単に討ち滅ぼされるつもりはないが」

魔族はエルフと同様、普通の人間ヒューマンと比べて遥かに長い寿命を持つ。
数百年前に生を受けたエンリルも、一般的な魔族の中ではまだ壮年の部類に入る。
彼は四百年前、やはり魔王城にいた。
但し他の魔族達と同様、魔王ラバスこそが自分達を約束の地へと連れ出してくれると信じていた、若き一衛兵として。
しかしエンリル達の夢は、数々の苦難を乗り越え、この城に乗り込んできた勇者ダイスとあの忌々しい銀色のドラゴンにより、脆《もろ》くも崩れ去ってしまった。
魔王ラバスの絶命と共に、この城は跡形も無く無に帰した。
勇者ダイスはそれまでの勇者達が皆そうであったように、魔族を皆殺しにする事は無かった。
そのためエンリルを含めた他の多くの生き残りの魔族達は、深山幽谷に身をひそめ、ひっそりと生きて来た。

エンリルが“天の声”を聞くあの日まで。

魔王ラバスは魔神に関する研究を行っていた。
彼も当然ながら、それ以前の魔王達がことごとく勇者達に討ち倒されてきた事を知っていた。
そしてその運命を変えたい、と望んでいた。

魔神を復活させる事が出来れば、状況を変える事が出来るに違いない。

そう考えていたらしい魔王ラバスの命を受け、若きエンリルは、各地の祭壇と称されるいにしえの遺跡を調査していた。
結局、魔王ラバスは魔神に関して何かを成し遂げる前に、勇者に討ち倒されてしまった。
エンリルは、なぜ魔神を復活させる事が勇者打倒に繋がり得るのか、詳細は知らされていなかった。
だが彼はその後も、祭壇と魔神に関して調査を続けた。
そして30年前、彼はイクタスと出会った。
イクタスとの出会いは、エンリルの運命を大きく変える事になった。

“守護者”なる何者かが存在し、それが数千年に渡る勇者と魔王の戦いを“調整”してきた。

イクタスは長年の彼自身の研究の末に、失われて久しかったその事実に辿たどり着いていた。
エンリル達魔族の間でも失われていたその事実は、エンリルに一つの示唆を与えた。

四百年近いエンリルの調査にも関わらず、魔神の詳細は、いまだつかめないままであった。
なぜか魔神に関する記録は、この世界のいかなる種族の伝承からも失われてしまっていた。
しかしいずれの種族も――エルフも獣人族もドワーフも魔族も――数千年前の自分達の始祖、古代の英雄が成し遂げた偉業を伝承してきた。


ハイエルフの始祖ポポロは、歴史上初めて精霊と交信し、闇を打ち払った。
獣人族の英雄ゼラムは、闇に閉ざされていた同族達を、光あふれる地へと導いた。
ドワーフの指導者ガルフは、闇の束縛から同族達を解放した。
最初の魔王エレシュは、魔族達と、そして世界を偽りの夢から解放し、理想郷へと導いた。


伝承はそれぞれ一見無関係な物語に見えて、しかしいずれも、種族の存亡を賭けた戦いがかつて行われた事実を示唆していた。
エンリルは一つの結論に到達していた。

かつて確かに存在していた魔神は、数千年前、古代の英雄達の手によって、いずこかの地に永遠に封じられた。

数千年前、いずこかに封印された魔神。
数千年前から突如語られ出した魔王と勇者の物語。
数千年間、『彼方かなたの地』なる異界より到来し、常に魔王と勇者の戦いを調整し続けてきた“守護者”。
そして必ず勝利する人間ヒューマン達の勇者。

それらの事項に何の関係も無いとすれば、それこそが不可思議としか言いようが無いではないか?

エンリルは、“運命”を変えるため、自身の野望と魔神についての全てを隠してイクタスと協力した。

やがてエンリルとイクタスは、ディースという宝珠の顕現者の協力を得る事に成功した。
そして17年前、ついに『彼方かなたの地』への扉が開かれた。

彼方かなたの地』へとイクタス、エンリル、そしてディースが足を踏み入れた時、それは起こった。
突如ディースが悲鳴を上げて、意識を失ったのだ。
慌ててイクタスが彼女を抱き起そうとしたけれど、彼女は不自然に硬直したまま痙攣するのみ。
周囲の霊晶石が不規則に脈動する光を放つ中、彼女は横たわったまま、中空に不自然な姿勢で浮かび上がった。
彼女の額には宝珠が顕現し、そこから不可思議な力が妖しく立ち昇るのが見えた。
イクタスとエンリルが為す術も無くそれを見守る中、突如閃光がほとばしり、それがディースの宝珠を貫いた。
ディースの額の宝珠は消え、同時に彼女は地面に投げ出された。

「騒がしいな。何事だ?」

イクタスとエンリルの視線の先、ディースを謎の拘束から解放した“守護者”が、美しい黒髪をなびかせてそこに立っていた。

イクタス達の求めに応じて、『彼方かなたの地』を出た“守護者”は、彼等の研究に協力する姿勢を見せた。
一方、エンリルは『彼方かなたの地』にて、魔神の痕跡を探ろうとした。
どこまでも深く白い濃霧に視界をさえぎられたその先に、エンリルは、固く封印された古代の遺跡のような建造物を見出した。
しかしその詳細を探ろうとした矢先、突如“守護者”は『彼方かなたの地』への扉を再び閉ざしてしまった。
それが、エンリルの発見した古代の遺跡のような建造物と関係するのか、または全く別の理由によるものか。

「『彼方かなたの地』への扉を開き続ける事は、この世界に良くない影響を与える」

“守護者”は、ただそう語ったのみ。

やがて、エンリルの野望の一部に気付いたイクタスと守護者は、エンリルとたもとを分かった。
その後も独自に『彼方かなたの地』と魔神について研究を続けたエンリルに、ある日突然“声”が囁きかけてきた。


―――なんじ、力を欲するか?


そしてエンリルは、魔王としての力とこの居城を手に入れた。


――◇―――◇―――◇――


自分の幕舎に戻った僕は、クレア様達の区画を訪れ、少し出かけてくる事を伝えた。
その後自分の部屋に戻り、いざあの記憶の中の、400年前の祭壇があった場所を心に念じるため目を閉じようとして……

自分の服の裾をしっかり掴んでいる両脇の二人に声を掛けた。

「えっと……二人共一緒について来ちゃったら、クレア様の“お世話”、誰がするの?」
「あら、聞いてなかったの? クレア様の“監視”は、ちゃんと皇帝陛下が手配するっておっしゃっていたじゃない?」

そう話しながら、服の右裾を掴むハーミルが、悪戯っぽい笑顔で僕の事を見上げてきた。

「オレは元々一緒について行くって言っていただろ?」

そして服の左裾を掴むジュノも、ぶっきらぼうな感じで、そう口にした。
僕は苦笑しつつ、改めて霊力を展開して、そのまま転移を試みる事にした。


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