【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

122. 孤島

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第042日―6


皇帝ガイウスのもとを辞した後、ハーミルとジュノは割り当てられている幕舎へと戻り、僕だけがすぐ脇の高い塀に囲まれた広場へと案内された。
聞いていた通り、そこにあるはずの転移門は、あとかたもなく消滅していた。
眠っている間も存在し続けたあの転移門が消失したのは、やはりあの“声”との邂逅かいこうが関与しているのかもしれない。

そんな事を考えながら、僕は光球を顕現した。
そしてあのコイトスの美しい浜辺を思い浮かべながら、光球に右手を伸ばした。
瞬間、光球が消滅すると同時に空間が歪み、以前に設置したのとほぼ同じ大きさの巨大な黒い穴、転移門が出現した。
周囲の人々からどよめきが上がった。

「ちょっと、向こう側を確認してきますね」

僕は自らが作り出した黒い穴へと、足を踏み入れた。
穴の向こう側は、コイトスの浜辺であった。
どうやらコイトス側の転移門も、以前設置したのと同じ場所に出現させる事に成功したらしい。
周囲には、消滅前の転移門を守衛していたのであろう、コイトスの衛兵達が十数人、驚愕の表情を浮かべながら立ち尽くしていた。
僕は彼等に簡単に事情を説明した後、再び転移門をくぐり抜け、皇帝ガイウスの軍営へと戻っていった。


――◇―――◇―――◇――


南半球の絶海の孤島。
周囲を切り立った断崖絶壁に囲まれ、視界を完全に遮る濃霧の中に位置するその島の少し沖合に、一隻の中型の船が停泊していた。
船の甲板には、巨大な魔法陣が描かれ、その周囲に数人の人影があった。
不規則に脈動するような光を放っていた魔法陣が、一際強く輝いた瞬間、周囲の濃霧を切り裂くかのように、一条の強力な魔力の光が島に向けて発射された。
しかしその光は、島を覆い尽くす濃霧の中に減衰し、やがて消え去った。

イクタスが首を捻った。

「ううむ。中々に厄介じゃな」

ミーシアがやや諦め口調で言葉を返した。

「数千年もの長きに渡って、勇者と魔王の戦いを見届け続けてきた神龍の“御座所”ですから、そう易々とは入れてくれないのかも」

彼等が属する結社イクタスは、“守護者を護る”事のみを第一義としている。
400年前、勇者ダイスと行動を共にしていた銀色のドラゴンが語っていた“禁忌”――恐らく魔神、或いはそれと関りのあるあの触手――が、守護者にとって危険かそうで無いか、結社としては知っておく必要があった。
残念ながら結社の調査によっても、不自然な位、魔神に関する資料や痕跡を発見する事は出来なかった。
それはまるで、何者かが丹念に、細心の注意を払って全て拭い去ったかのように……
それ故、彼等は唯一の手掛かりともいうべき、あのドラゴンに直接会い、情報提供を求める事とした。
結社の構成員達の尽力により、あのドラゴンが棲むと思われる島を発見したのが、一週間ほど前。
そして3日前、彼等結社イクタスの面々――イクタス、ミーシア、ガスリン、トムソン、ネバトベ、レルムス-――の6人はここへやって来て、以来、島を護る結界の解除に取り組み続けていた。

「まったく、サツキがもう少しちゃんと色々覚えていてくれたら、こんなに苦労する事はなかったものを」
『本人の前で堂々と悪口を言うとは、さすがはイクタスだ』

イクタスのぼやきに、本部に設置された巨大なクリスタルを通じてこちらの情景を眺めているサツキが、ツッコミを入れた。
サツキはカケルと出会うまで、周囲の事物には全く無関心であった。
そのため彼女は、魔神や触手に関して、提供すべき何の情報も持ち合わせていなかった。

ガスリンが嘆息した。

「それにしても、ここでこうしてもう三日だぜ? 例のドラゴンがもしこの島に今も健在なら、そろそろ向こうさんから何かあってもよさそうなもんだが……」

ガスリンの言葉を受けて、イクタスも首を捻った。

「我等の行動に気付いてないのか、或いは会いたくない理由でもあるのか……?」

濃霧に包まれた島は、ただひたすらに沈黙し続けていた。


――◇―――◇―――◇――


コイトスとの間の巨大な転移門の再設置に成功した僕は、その日は他にする事も無く、割り当てられた幕舎の中、ハーミル、ジュノ、それにクレア様達とこの世界のカードゲームをしてのんびりと過ごした。
夕食はキラさんの指示のもと、クレア様の侍女達が、コイトスから持ち込んだ食材を使って、豪華なシーフード料理を用意してくれた。
特に、軍からの配給食ばかりの食事に少々飽きが来ていたらしいハーミルは、並べられた御馳走を目にして、素直に喜んでいた。

「クレア様に感謝しないとね。最近、保存食みたいなのばっかり食べていたから、こういう新鮮な魚料理って、本当に美味しんだって、改めて再認識しちゃった」
「いえいえ、これもひとえにカケル様が、遥か遠隔の地であるはずのコイトスとこの地とを行き来できる転移門を設置して下さったお陰です」

そう口にしながら、クレア様は僕に微笑みを向けて来た。
ちょうど口いっぱいに料理を頬張っていたタイミングで、いきなり自分自身が話題にされ、しかものんびりした笑顔のクレア様と目が合ってしまった僕は、思わずむせ込んでしまった。
ハーミルが、すかさず茶化してきた。

「可愛いお姫様に笑顔を向けられてむせるなんて、カケルも随分失礼じゃない?」

僕はハーミルを軽く睨んでから、クレア様に頭を下げた。

「すみません。御馳走に気を取られていて、ちょっと慌ててしまいました」
「クレアの方こそ、申し訳ありません。カケル様のお食事、お邪魔してしまいました」
「いえいえ、そんな事無いです。これは僕が勝手に……」

言葉通りの申し訳なさそうな表情のクレア様に、僕が重ねて謝罪をかぶせていると、ハーミルが再び声を掛けてきた。

「なんか、カケルとクレア様、すっかり仲良しだね。もしかしてクレア様、カケルみたいなのがタイプだったりして」

口調とは裏腹に、ハーミルは若干冷ややかな表情になっていた。

「こら、ハーミルこそ、クレア様に失礼だぞ?」

軽くハーミルをたしなめてみたけれど、僕の視界の中、クレア様は耳まで赤くしてうつむいてしまった。
それを目にしたハーミルが、目に見えて不機嫌になっていく。
そんな僕等の姿を見かねたのか、ジュノが少々呆れた感じの声を上げた。

「おいおい、話してばかりだと、せっかくの御馳走、冷めてしまうぜ?」

最初とはなんとなく変わってしまった空気の中、僕達は黙々と食事を続ける事になった。



第043日―1


翌朝、朝食を終えたタイミングで、僕達は皇帝ガイウスから呼び出しを受けた。

「朝早くから呼び立ててすまぬな」

僕、ハーミルそしてジュノの三名を幕舎の中に招き入れた皇帝ガイウスは、思いの他、機嫌が良さそうであった。
型通りの臣礼を取る僕達に、彼が言葉を続けた。

「実は再度、軍使の一員としてヤーウェンにおもむいてもらいたい。内容は、あやつらが要求してきた捕虜の送還についてじゃ」

1週間程前第108話、ヤーウェン側は、魔王やその他の帝国に反感を持つハイエルフ達と共に、帝国軍の野営地を奇襲してきた。
その際、僕の力により昏倒させられ、捕縛された千数百人のヤーウェン側の兵士達は、今も軍営内の一角に留め置かれていた。

「前回同様、マルクに軍使を務めてもらい、カケル、ハーミル、ジュノの三名は、その護衛と言う形で同行してもらいたい」
「かしこまりました」
「それと今回は、前の戦いで捕虜となっているヤーウェンの兵士達の代表も同行する事になっておる」

そう口にすると、皇帝ガイウスは、側に立つ側近に何か小声で指示を出した。
その側近は直ちに幕舎を出て行った。

数分後、先程の側近が、目付きの鋭い、大柄な男性を一人連れて戻って来た。
その男性は、武器は所持していないものの、明らかに帝国軍とは異なる軍装を身に着けていた。

皇帝ガイウスが、その男性を改めて僕達に紹介してきた。

「この男は、ゲロンというハーフドワーフの“元”ヤーウェンの兵士じゃ」


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