【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

123. 捕虜

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第043日―2


「この男はゲロンというハーフドワーフで、“元”ヤーウェンの兵士じゃ」

皇帝ガイウスの言葉を受けて、ハーミルがやや怪訝そうな顔で聞き返した。

「“元”ですか?」

ゲロンと紹介された男性が口を開いた。

「我等ヤーウェンの兵士達は、本来ならば死を賜ってもおかしくないところ、皇帝陛下の格別の恩情により、今日まで一命を助けられております。この御恩に報いるためにも、帝国とヤーウェンとの和平に尽力したい、と陛下に願い出た所、特別のお許しを頂いたところで御座います……」

話を聞いている内に、僕にも大体の事情が分かってきた。
どうやら皇帝ガイウスは、捕虜の兵士達の一部に働きかけ、何人かを帝国側に寝返らせる事に成功したらしい。
今回の軍使派遣には、そうした“元”兵士達の代表を加える事で、ヤーウェンの僭主ヒエロンに、心理的な圧力をかけ、交渉を有利に進めたいという思惑がありそうだ。


一旦、自分達の幕舎に戻り、準備を終えた僕達は、再び皇帝ガイウスの幕舎を訪れた。
そこにはゲロンと並んで、軍使のマルクさんの姿も有った。
皇帝ガイウスから、軍使である事を示す旗を授けられたマルクさんが、僕達を代表して口上を述べた。

「それでは我等一同、陛下のご期待にたがわぬよう、全力で任に当たって参ります」

型通りの激励の言葉に見送られ、僕達は再び、ヤーウェンの街へと向かった。


「守護者殿、久し振りだな」

ヒエロンは前回同様、にこやかに僕達を出迎えた。
ただし場所はやはり、前回同様、城門脇の衛兵の詰所の一室だ。

あれ第110話から五日。守護者殿がヤーウェンに忍んで転移して来ないか、ちょっと期待していたのだが」

ヒエロンは、冗談とも本気ともつかない雰囲気で、そう口にした。
僕が返す言葉を見つける前に、マルクさんが事務的に口を開いた。

「ヒエロン様、早速本題に入りたいのですが」
「捕虜返還の件だな?」
「左様でございます。捕虜の皆さんも、帝国の陣営に留め置かれて早一週間。中には、こちらのゲロンのように、帝国臣民として再出発したいと申し出てくる者も出て来ております。さしでがましいかもしれませんが、返還されるべき捕虜がいなくなる前に、交渉をまとめてしまった方が宜しいかと」

ヒエロンの顔に不敵な笑みが浮かんだ。

「なるほど。交渉が長引けば、捕虜全員が皇帝陛下の御威光のもと、ヤーウェンを見放してしまう、と言いたいわけですね。それは由々ゆゆしき事態」

しかし言葉とは裏腹に、ヒエロンの表情には何故か余裕が感じられた。
僕はそのヒエロンの雰囲気に、わずかな引っ掛かりを覚えた。

ヒエロンが自然な雰囲気で話題を変えてきた。

「ところでマルク殿。もう一つの大事な案件については、お返事は頂けないのであろうか?」
「大事な案件? ですか?」
「この無益な戦いを終わらせて、帝国とヤーウェンとの対等な外交関係を樹立しようとご提案したではないですか?」

真顔でそう口にしたヒエロンの顔を、マルクさんが一瞬、あっけにとられたような表情で見つめ返した。
しかしすぐその表情を厳しいものに変えると、静かに言葉を返した。

「……ヒエロン様、残念ながら、陛下は反乱軍と対等な外交関係をお結びにはなられない。もう少し、現実的な和平への道をお示し頂けないでしょうか?」

ヒエロンが破顔した。

「はっはっは、これは手厳しい。しかし帝国側の“現実的な”条件で和平すれば、間違いなく、このヒエロンの首は飛びますな」

場に緊迫した空気が張り詰める中、それまで無言であったゲロンが口を開いた。

「ヒエロン様、差し出がましいようですが、まずは捕虜となった我等の扱いをどうされるか、早急にお決め頂けないでしょうか? 他の兵士達も、ヒエロン様のお考えが読めず、皆不安になっております」
「それゆえ、帝国にくだった、というわけだな?」

ヒエロンに鋭い視線を向けられて、ゲロンがうつむいた。
そんなゲロンの様子を少しだけ観察する素振りを見せた後、ヒエロンが言葉を継いだ。

「まあ、作戦失敗の責は全て私にある。奇襲に参加して捕虜となった兵士達の一部が、帝国に降るのも仕方ない事ではある……では、いまだヤーウェンへの忠誠を保ち続けてくれている捕虜全てを、帝国の言い値で買い戻そう」
「了解しました。身代金に関しては、交渉の余地がございますぞ。それと、捕虜の送還方法ですが……」

この世界では、古来より、捕虜の交換や送還は、中立地帯の都市、或いは両軍の主力が見守る中、原野で行われてきた、と聞いている。
しかし皇帝ガイウスは、今回の捕虜の送還に関して、マルクさんにある提案を与えていた。
マルクさんが、その提案に沿って話し始めた。

「古来通りの作法に従うにしても、現在、中立の都市も、我が軍とヤーウェンとの間に、千を越える捕虜の交換が可能な原野もございません。そこで捕虜を巨大な檻車かんしゃでヤーウェンに送還しますので、檻車が到着しましたら、双方の担当者が、捕虜の人数及び身代金を確認、交換を実施してはいかがでしょうか?」

ヒエロンの目がすっと細くなった。

「ほう……帝国には、千を超える当方の同胞達を送還できる程の、巨大な檻車があるのかな?」

マルクさんが言葉を返した。

「さすがに全員を一度に乗せる事は不可能です。複数回に分けて送還しますので、ご確認頂ければ」

その後、昼食を挟んで、具体的な身代金の金額、現在確認が取れている送還人数等についての詰めの交渉が行われた。
全ての交渉が妥結し、僕達がヤーウェンの城門を出た時には、既に日は西に大きく傾いていた。


軍営に帰着後、僕達はマルクさんと共に、直ちに皇帝ガイウスの幕舎を訪れ、今日の交渉の結果を報告した。
捕虜の送還については、おおむね帝国側の主張に沿った形で妥結しており、皇帝ガイウスも満足そうであった。

「では早速、明朝から捕虜送還の準備を開始するように」

皇帝ガイウスの言葉に臣礼で応じ、僕達は幕舎を退出した。
マルクさんに別れを告げ、隣の自分達の幕舎に戻ろうとして……

ふと空に目をやると、既に星がいくつか輝きだしていた。

僕の隣でハーミルが大きく伸びをした。

「う~ん、疲れた……私って、やっぱり軍使向いてないわ」

ヤーウェン側との交渉自体は、ほぼマルクさんが一人で取りまとめていったので、僕達はむしろ、逆に正直少し手持ち無沙汰であった。
特にハーミルは、暇を持て余していたようで……

僕はからかい半分でハーミルに声を掛けた。

「だからって、交渉中に居眠りしちゃだめだよ」
「あら、居眠りなんかしてないわよ?」
「だって、目をつぶって、寝息立てていたよ?」
「フッフン、あれは瞑想! 武術の修練の一環よ。ほら、常在戦場ってね」
「そっか、ハーミル流剣術では、瞑想の時に船をこぐんだね」

苦笑しながら何とはなしに、もう一度空を見上げると……

「な、なんだ、あれ!?」

先程までは、何の変哲も無かったはずの夜空が、何故か全体的に不自然に脈動するように発光していた。
やがてそれは、全天を覆う程に巨大な魔法陣らしき幾何学模様へとゆっくり収束し始めた。
異変に気付いたらしい軍営の兵士達も、空を見上げながらざわめき出し、その騒ぎは次第に大きくなっていく。
外の騒ぎに気付いたのか、それとも伝令が知らせたのか、いつの間にか皇帝ガイウスも、ノルン様やジェイスンさん達を伴って、幕舎の外へと出て来ていた。
彼は空を見上げながら、傍らに侍る宮廷魔導士長のジェイスンさんに問い掛けた。

「何事が起っている? まさか、またヤーウェンかハイエルフどもからの魔法攻撃か?」
「分かりません。ですが念のため……」

ジェイスンさんと他の宮廷魔術師達が、直ちに魔法障壁を展開するための詠唱を開始した。
皇帝ガイウスが、僕に声を掛けてきた。

「カケルよ、あれが何かの極大魔法として、前回のハイエルフ共の攻撃の時のように、散じる事は可能か?」
「分かりません。ですが、やってみます」

天空を覆い尽くすように展開されている巨大魔法陣の目的や効果は不明だけど、放置しておいて、また大勢の命が奪われる事態だけは絶対に避けなければいけない。

僕は目を閉じて、右腕に装着している腕輪に意識を集中した。
再び目を開けた時、僕の傍には光球が顕現していた。

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