【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
124 / 239
第五章 正義の意味

124. 天変

しおりを挟む

第043日―2


光球を顕現した僕は、それを不可思議な紫のオーラに包まれた杖に変えた。
そしてその杖を振り上げ、天空を覆い尽くすように展開されているその魔法陣の中心部に向けて、霊力を解き放った。
杖から放たれた霊力が、天空に展開される魔法陣を貫いた瞬間、天空全体が虹色に激しく輝いた。
その光景を目の当たりにした軍営全ての人々のどよめきが、潮騒のように聞こえて来た。

しかしその直後、今度はその中心部から一筋の光が照射され、それは僕を直撃した。

「カケル!!」

ハーミルが悲鳴を上げるのが聞こえたけれど、不思議な事に、その光は僕に対して、物理的な痛みのような感覚は全くもたらさなかった。
代わりに、“声”が聞こえた。


―――ついに……見付けた!


僕には全く聞き覚えの無い、しかし何故か抑えきれない程の喜びが込められていると確信出来るその“声”を最後に、天空全体を覆い尽くしていた魔法陣は唐突に消滅した。
天空に広がる情景は、再びこの世界の星々がまたたく、何の変哲も無い夜空へと戻っていた。

呆然とたたずむ僕の胸元に、ハーミルが飛び込んできた。

「カケル! 大丈夫!?」

僕は改めて、自分の状態を確認してみた。
手、足、その他全身状態に、特に異常は感じられない。
霊力の流れにも変化は感じられない。

軍営全体がざわめく中、皇帝ガイウスが声を張り上げ、側近達に指示を出すのが聞こえてきた。

「全軍、警戒を怠るな! ジェイスン、今起こった事について、何か意見はあるか?」
「申し訳御座いません。何かの極大魔法であることは確かかと思われますが、あのような呪法、見たことも聞いたことも御座いません」
「ヤーウェンからの攻撃の可能性は?」

ノルン様が言葉を返した。

「父上、ヤーウェンとは捕虜送還について協定を結んだばかり。今この時期にいきなり攻撃してくるのは、極めて不自然かと」

皇帝ガイウスは、他の側近や将軍達からも今の攻撃(?)について、一通り意見を聞いた後、改めて僕に声を掛けてきた。

「カケルよ、あの魔法陣から放たれた光を浴びたように見えたが、大事無いか?」
「自分の感覚では、特に何も変化は感じないです。ただ……」
「ただ?」
「光の直撃を受けた瞬間、知らない誰かの声が聞こえました。“ついに見付けた”と」

僕の言葉を聞いたジェイスンさんが、困惑したような表情になった。

「おかしいですね……もしカケル殿が聞いた“声”の主が術者だったとすれば、言葉通りに受け止めれば、使用されたのは探知系統の呪法という事になりそうですが……」

そして改めて僕に問いかけてきた。

「“声”の主に心当たりは?」
「全くありません」

また少し考え込む素振りを見せた後、再びジェイスンさんが口を開いた。

「“声”の主は、どうして“見付けた”と口にしたのでしょうか? カケル殿が我が軍営に従軍している事実は広く知られているはず。今更、あれ程の大掛かりな呪法を用いて、カケル殿の居場所を探る意味は無いはず……カケル殿」
「はい」
「あの光が魔力によるものであるなら、お身体に何らかの残滓が残っているはずです。少し調べさせてもらっても良いですか?」
「構いませんよ」

僕の返答を受けて、ジェイスンさんが右の手の平を僕に向けて来た。
そして何かの詠唱を開始した。
彼の手の平から優しい光が照射され、僕の身体を包み込んで行く。
しかしすぐに彼は詠唱を中断し、首を捻った。

「? おかしいですね……全く魔力の残滓を感じません。もしや、霊力がらみでは?」

今度は僕が首を捻る番になった。

「少なくとも、あの光に霊力は感じませんでした」

霊力どころか、正直な所、全く何も感じなかった。
ジェイスンさんの分析通りであれば、魔力とも関係なさそうだし、という事は、アレは単なる光?
そんなモノをサーチライトの如く照射してきて、“ついに見付けた”と喜び? の声を上げる事に、どんな意味があるというのだろうか?

その時、伝令が皇帝ガイウスの下に駆け寄って来て、臣礼を取った。

「ヤーウェンより軍使が到着しております」
「何? ヤーウェンからだと?」



ガイウスは、ヤーウェンからの軍使を自身の幕舎の中で引見した。
カケル達は既に自分達の幕舎に戻っており、ガイウスの傍らには、ノルンやジェイスン達側近が控えていた。

「この度の正体不明の攻撃に対する陣中見舞いでございます」

ヤーウェンからの軍使は、開口一番こう切り出した。
ガイウスの目が鋭くなった。

「ほう……するとヤーウェン、或いは魔王軍は、あの魔法陣には一切関与してない、と。こう申すのだな?」
「左様でございます。我等も全天を覆うばかりの異変に、初めは帝国側からの攻撃を疑った位にございます」

ヤーウェンの空をも覆ったとすれば、あの魔法陣は規格外の巨大さだった事になる。

「して、我等からの攻撃を疑った割には、早々に陣中見舞いに来るに至ったのは何故なにゆえじゃ?」
「ヒエロン様が、あれは帝国からの攻撃では無い。逆に帝国側が疑心暗鬼になっているであろうから、早々に軍使を送れ、とおおせせられたのです」
「ヒエロンがのう……軍使が来るタイミングから逆算すると、あの魔法陣が天空を覆い始めた直後には、おぬしらはヤーウェンの城門を出ていたはず。やつは何故にそれ程早く、帝国が無関係と見切れたのじゃ?」

早々に見切れるのは、やはりヤーウェン側があの魔法陣に関わっているからでは無いか?
言外にその意をにじませながら、ガイウスは、厳しい視線を軍使に向けた。
しかし軍使は、淡々と言葉を返した。

「逆に申し上げますと、もし我等からの攻撃であれば、今頃、陛下の陣営に被害が出ているはず。そんな中、のこのこやって来て、陣中見舞いを口にする軍使など、ありえなくは無いでしょうか?」

軍使の言葉には一理あった。
結局、後は儀礼的な言葉の交換を行っただけで、軍使はヤーウェンへと帰っていった。


――◇―――◇―――◇――


―――南半球の絶海の孤島

周囲を切り立った断崖絶壁に囲まれ、視界を完全にさえぎる濃霧の中に位置するその島の少し沖合、一隻の中型の船の上。
結社イクタスの面々――イクタス、ミーシア、ガスリン、トムソン、ネバトベ、レルムスの6人――は、重苦しい雰囲気に包まれていた。
彼等がこの島を覆う結界の解除を試み始めてから、既に4日。
未だに結界解除の見通しも、あの銀色のドラゴンが自ら姿を現す兆候も見られない。
しかし彼等を包む重苦しい雰囲気は、それだけが理由では無かった。
彼等はつい今しがた、ハーミルからの念話で、ヤーウェン近郊に出現した巨大な魔法陣について知らされたところであった。

イクタスが口を開いた。

「全天を覆う程の強大な術式を展開して、“声”を乗せた光線一筋か……意図がまるで読めん。わしがその魔法陣そのものを目にしておれば、或いは何か分かったやもしれんが」

ミーシアが言葉を返した。

「精霊魔法を使えば、魔力の痕跡を残さずに、探知系統の通常魔法と同様の結果を得る事も可能だけど……」
「だとすれば、巨大な魔法陣は不要、という事じゃな?」

イクタスの問いにミーシアがうなずいた。

「そもそも精霊魔法を使用して、カケル君の所在を探りたい人物に心当たりがないわ」

精霊魔法の使い手そのものが、この世界では希少。
使い手は神樹王国の王族であったハイエルフに限定され、その生き残りは、多く見積もって10名以下のはず。
その中でカケルと積極的に関わりあいを持つ人物と言えば、ミーシア自身と彼女の兄、ロデラ位。
そして二人とも、カケルの所在を今更大掛かりに探さないといけない動機が無い。

「やれやれ、ここの事も気になるが、やはりわしが、カケル達のもとおもむくか……」

イクタスが船体後尾に設置されている転移の魔法陣に向かおうとするのを、ミーシアが呼び止めた。

「イクタスさん、待って。今回は私が行くわ。もし精霊魔法がからんでいるのなら、私の方が適任のはずよ」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...