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第五章 正義の意味
125. 結婚
しおりを挟む第043日―3
イクタスと共に、ヤーウェン最寄りの街への転移の準備を始めたミーシアに、本部のサツキがそっと念話を送ってきた。
『ミーシア、やはり危険だと思うが……ガイウスは猜疑心の強い男だ。カケルにすら監視を付けている』
『あら? 他の皆は理解してくれたのに、我等が総裁だけは、まだ納得してくれてないみたいね。でも実際問題、傍にいた方が、いざと言う時、カケル君を守り易いでしょ?』
ガイウスは、ロデラ達ハイエルフの精霊魔法による攻撃で、二晩連続で大損害を被った。
だからこそ、精霊魔法に長けた者を味方にするメリットは、十分理解しているはずだ。
例えそれが、襲撃者ロデラの妹であり、神樹王国最後の王ムラトの娘であったとしても。
ガイウスに自身の素性を明かして、カケルやハーミル達と共に従軍する。
そしていざと言う時には、自身の精霊魔法でカケル達を守る。
ミーシアの提案に、最初は結社の皆が反対や懸念を示した。
が、結局はミーシアの意思を尊重する事と決していた。
『突然皇帝陛下の眼前で精霊魔法を使わざるを得ない状況に追い込まれて、実は……ってカミングアウトするより、最初に説明しておく方が、よっぽど心証いいでしょ? まあ当分は、謎の監視者達にストーカーされる事になるとは思うけれど』
『大体、カケルに向けて何者かによって放たれた光が、精霊魔法絡みかどうかまだ分からぬ』
『でも、その誰かさんは、“見付けた”って言ったのよね? どのみち、“見付けた”からには、次の行動に移るはずよ。カケル君と、ただのかくれんぼうをしたかっただけじゃ無い限りね』
『確かにその何者かが再び何かを画策した場合、貴女程の実力者がカケルの傍にいてくれれば、心強いことこの上無いが……分かった、もう何も言わぬ。しかしもし、ガイウスが貴女を害そうとすれば、我等は全力で貴女を救いに行く。これはあの日、ガイウスを暗殺しようとしていた貴女の行動を阻止して、この結社イクタスに招いた私の責務だ。それだけは承知しておいて欲しい』
第044日―1
翌朝、僕は自分達の幕舎の中で、いつものようにハーミル、ジュノ、それにクレア様達と食卓を囲んでいた。
皆の話題の中心は、当然ながら、昨晩の天空に描き出された巨大魔法陣についてであった。
ハーミルが、もう何度目かになる同じ質問を繰り返した。
「カケル、あれから体に何かおかしな事、起こってない?」
「大丈夫、昨夜もぐっすり眠れたし、体もほら、この通りいつもと変わりないよ」
「でも魔法の中には、遅効性の毒魔法っていうのもあるらしいわ。何か異常を感じたら、すぐ教えるのよ?」
「まあ知っての通り、“特異体質”だからね~。後からじわじわ効いてくる魔法でも、簡単に死んだりはしないと思うけど」
この場には、クレア様やキラさん達もいる。
彼女達に守護者の力について全てを語るわけにもいかないからこそ、自分の事を“特異体質”と表現したけれど、塵になっても復活するわけだし、当たらずとも遠からずかも。
そんな場違いな事を考えていると、キラさんが、少し心配そうな声音で問いかけてきた。
「カケル様。今、御自身が“特異体質”だとおっしゃいましたが、具体的には、どのような御体質でいらっしゃいますか? まさか、御結婚生活を送られるうえで、支障を来たすものでは御座いませんよね?」
「ゲホッ。けっ結婚!?」
僕は予期せぬ問いかけに、思わずむせてしまった。
それとほぼ同時に、金属音が響いた。
―――ガチャン!
見ると、僕の隣に座るハーミルが、使っていたフォークを床に取り落としていた。
クレア様の侍女の一人が、素早く落ちたフォークを拾い、新しいフォークをハーミルに差し出した。
「あ、あははは……ちょ、ちょっと手が滑っちゃったな~」
傍目にもぎこちない仕草で、ハーミルが新しいフォークを受け取った。
そしてクレア様がキラさんをたしなめた。
「キ、キラ! カケル様にその様に失礼な事をお聞きしては……」
「ですが姫様、こういう事は最初にきちんと確認しておきませんと!」
ちなみにジュノは、自分には関係ないといった雰囲気で、黙々と食事を続けている。
そんな中、再びキラさんが同じ質問を繰り返してきた。
「それで、どうなのでしょうか?」
「どうと聞かれましても……体質どうこう以前に、僕自身、誰かと結婚する予定自体まだ無いですし……」
キラさんの、僕的には意味不明な熱意に押し負けそうになりながら、僕はようやくそう言葉を返した。
すると、キラさんが意外そうな顔になった。
「そう言えば、この前もそのように仰っていましたね。もしや陛下からは、まだ何もお話は無いのでしょうか?」
ん?
陛下から?
首を捻りながら、僕はたずねてみた。
「何のお話でしょうか?」
「それは、カケル様の御結婚相手について……」
「キラ!」
クレア様が珍しく少し大きな声を上げテ、キラさんの言葉を遮った。
キラさんは、ハッとしたような表情になり、クレア様に頭を下げた。
「すみません、姫様。出過ぎた真似を致しました」
と、それまで黙って話を聞いていたハーミルが口を開いた。
「キラさん、そのお話、すごぉ~く気になります。是非詳しくお聞きしたいのですが」
ハーミルはいつぞやの時と同じく、一見笑顔に見えて、目は笑っていないという、器用な表情をしていた。
しかも彼女が先程受け取った新しいフォークが、右手の中でギシギシ変な音を立てている。
そんな彼女に、クレア様が言葉を返した。
「ハーミル様、申し訳ありません。キラが勝手に勘違いしているだけなんです。多分、ハーミル様が気にされるようなお話、この場の誰も承知していないと思いますよ。ですので、ご安心ください」
「そ、そんな、クレア様が謝るような話じゃ無いですし。安心も何も、カケルが誰と結婚するかとか、そんな話が気になる……わけでは無いというか……」
クレア様からのんびりした笑顔を向けられて、ハーミルの若干意味不明な返しの言葉が腰砕けになる中、ジュノがやれやれといった雰囲気で口を開いた。
「喋ってばかりだと、せっかくの朝食、冷めちまうぜ?」
午前中、割り当てられた幕舎の中でのんびり過ごしていた僕、ハーミル、そしてジュノの三人は、昼食後、皇帝ガイウスからの呼び出しを受けた。
彼の幕舎を訪れると、そこにはマルクさんの姿も有った。
型通りの臣礼を取る僕に、皇帝ガイウスが労わるような口調で話しかけてきた。
「昨夜は災難であったな。その後調子はどうじゃ?」
「おかげさまで、今のところ何の不調も感じておりません」
「それは何よりじゃ。ところで此度来てもらったのは、例の捕虜送還の件じゃ。第一陣の準備が整ったので、マルクと共にヤーウェンへの送還に同道してもらいたい」
1週間程前に行われたヤーウェン側の奇襲失敗により、帝国側には、ヤーウェンの兵士達千数百人が捕虜となっていた。
そのうち200名程は、帝国側に帰順したものの、残りの捕虜達を身代金と引き換えに、ヤーウェンへ送還する協定が、昨日締結されていた。
昨夜の巨大魔法陣騒ぎはあったものの、皇帝ガイウスは予定通り、今日から捕虜の送還を開始する事としていた。
第一陣は、約600名。
送還される予定の捕虜たちは、既に1台につき、100名収容可能な檻車6台に分乗済みであった。
僕、ハーミル、ジュノ、そしてマルクさんの4人は、檻車護送の兵士達とともに、早速ヤーウェンへ向かう事となった。
「ようこそお越し頂いた。昨夜のアレには、お互い驚かされましたな」
一足先にいつもの(?)城門脇の詰め所の一室に通された僕達は、そこでヒエロンの出迎えを受けた。
因みに檻車の車列は、護送の兵士達とともに、城門外に一旦留め置かれている。
実際の手続き開始と共に、1台ずつ城内に引き入れ、双方の担当者立会いの下、捕虜の引き渡し、及び身代金の支払いが行われる事になっていた。
口元に微笑を浮かべながら、ヒエロンが語り掛けてきた。
「それにしても皇帝陛下は、手の込んだ事をなさる」
マルクさんが怪訝そうな表情になった。
「と、申されますと?」
「マルク殿。今回の捕虜送還、一見、ヤーウェンの戦力回復に寄与するように見えてそうではない。逆に我が軍の行動を縛ろうという意図が見え隠れしております」
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