【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

126. 送還

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第044日―2


「マルク殿。今回の捕虜送還、一見、ヤーウェンの戦力回復に寄与するように見えてそうではない。逆に我が軍の行動を縛ろうという意図が見え隠れしております」

ヒエロンの言葉を受けて、マルクさんが問いかけた。

「何故、そう思われるのでしょうか?」
「皇帝陛下は、前回、帝国側に寝返った元我が軍の兵士、ゲロンをわざとあなた方に同行させた。それによって、もしかすると送還されてくる捕虜達の中にも、ゲロンと同様、既に帝国側に寝返っている兵士達がまぎれ込んでいるかもしれない、という疑念を抱かせようとなさっている」

僕はヒエロンの言葉に軽く衝撃を受けた。
少なくとも僕は何も聞かされてはいないけれど、もしやこの捕虜送還、“そういう計略”の一環、と言う事だったのだろうか?

ヒエロンは束の間、僕達の反応を確認するような素振りを見せた後、言葉を継いだ。

「そういった疑念がある以上、今後送還される総計1,225人の兵士達を、おいそれとは戦場に復帰させられない。むしろ背後から斬られるのを防ぐため、この戦争が終わるまで、全員に監視を貼り付けないといけないかもしれない。ふふふ、皇帝陛下もなかなかお人が悪い」

マルクさんが口を開いた。

「……そう思われるのでしたら、今回、どうして捕虜送還を受け入れられたのでしょうか?」
「簡単な話です。送還されてくる兵士達の中に紛れ込んでいる裏切り者達は、こちらから送り返そうと思っているからですよ」
「そのような者はいないと思いますが……ちなみにヒエロン様は、どうやってその者達を判別しようとお考えなのでしょうか?」
「見れば分かる、とだけ申しておきましょう。恐らく今回の第一陣、20名程は連れて帰ってもらう事になりますので、宜しく」

そう話すと、ヒエロンは破顔した。


詰め所の一室での簡単な手順の確認の後、実際の捕虜送還が開始された。
城外に留め置かれていた6台の檻車は、厳重なチェックを受けた後、1台ずつ城内に引き込まれ始めた。
ヒエロンの立会いのもと、主たる手続きはマルクさんとヤーウェン側の係官との間で進められ、僕達三人は、その雑務を手伝っていく。
特にトラブルも無く、粛々と進められていく捕虜送還の合間を見計らったかのように、ヒエロンが僕に声を掛けて来た。

「そう言えば守護者殿は、私が帝国から離反を決意した正確な理由を御存じかな?」

いきなりの核心をつく質問に、サッと緊張が走った。
しかしヒエロンの方は、そんな僕を愉快そうに眺めながら言葉を続けた。

「はっはっは、そう身構えなくても。ハイエルフのロデラから前に聞いたのだが、守護者殿は出来れば流血無しに、この戦争を終わらせたがっているとか」

どうして今更、そんな話を?
ヒエロンが今すぐ、帝国側の条件を飲んでこの戦いを終わらせようという雰囲気は、全く感じられないけれど。
心の中に生じた違和感を押さえながら、ともかく僕は言葉を返した。

「……そうです。ですがロデラさんからは、あなたが……自分の野心のために魔王軍と手を結んだ、ともお聞きしました」
「野心……? まあ、当たらずとも遠からず、かな。ところで守護者殿は、ゲシラム殿から下賜されたアレを今お持ちかな?」

ゲシラム様から下賜されたアレ、と言われれば、心当たりは一つしかない。

一対のタリスマン第77話

太陽が中天にある時、ハーミルの持つもう一対のタリスマンと共に、翡翠の谷の入り口に設置されている石板に捧げれば、獣人族の英雄ゼラムの秘宝が眠るという、その遺跡への扉が開くと聞かされている。
しかし何故、ヒエロンは僕がタリスマンを下賜された事を知っているのだろうか?
まあ、ボレア獣王国との和平交渉の時に城門の兵士達に見せたし、その誰かから情報を得た、とも考えられるけれども。

それはともかく、どうしてここで、急にタリスマンの話が出てくる?
もしかして、意図不明に見せてくれとか言ってくる?

身構えた僕に、ヒエロンは予想の斜め上の提案を投げかけて来た。

「実はここだけの話、守護者殿さえ良ければ、翡翠の谷へ案内する事が出来るよ。あ、勿論、ハーミル殿とはよく相談してから決めてもらって結構だ。どのみち、彼女が持つもう一対のアレが無ければ、秘宝への道は開かれない訳だし」

僕の心の中に、衝撃が走った。

ヒエロンが?
翡翠の谷に案内出来る!?
しかし……

「……翡翠の谷って、獣人族の皆さんの間でも、どこにあるか、正確な場所はほぼ分からなくなっているってお聞きしていますが」

ヒエロンがニヤリと笑った。

見付けた第109話んだよ。この街の地下奥深くに封印された入り口がある。ちなみにその封印を解けば、獣人族の英雄ゼラムの秘宝が手に入るだけではなく、私が離反した真の理由も知ることが出来るよ。もしかしたら、守護者殿の望む無血和平への糸口になるかもしれないね」



「どう考えても怪しすぎでしょ?」

捕虜送還の雑務の合間に、僕から話を聞いたハーミルは、眉根をひそめてそう言葉を返してきた。
ヒエロンは再び捕虜送還の現場に戻っており、ジュノは少し離れた場所でやはり雑務を手伝っているところだ。

「でも翡翠の谷の封印を解く事で、本当にヒエロンさんがこの戦争を起こした理由が分かるなら、話に乗るのもありかなって」
「もし本当にヒエロンが謀反を起こした理由が分かっても、それが必ずしも和平交渉に繋がるとは限らないわ。むしろミーシアさんから神樹王国の話を聞いた後みたいに、カケルがうじうじ悩む種が増えるだけかもよ?」
「それは……そうかもしれないけれど」
「それにもしかしたら、単なる謀略かもしれないし」
「謀略?」
「ヒエロンって、いちいち“勘”が鋭すぎるじゃない。最初の時だって、カケルの転移能力使った帝国側の奇襲の意図を見抜いていたし、今日だって、真偽は不明だけど、帝国側に帰順した兵士がこっそりこの街に送り込まれてくる可能性、指摘していたし」
「確かにマルクさんも、ヒエロンさんって洞察力優れているって話していたけれど……」
「ヒエロンの“勘”では、自分の謀反理由分かるかもよ~とカケルの関心引けば、翡翠の谷の封印を解除させる事が出来るってなったのかも。実際、カケルはこの話に乗り気だし。もしかすると封印解いたら、カケルの力すら圧倒出来る超古代兵器が登場! とかなっちゃうのかもよ?」
「う~ん……でも、そうなら何故わざわざ、ヒエロンさんはハーミルとも相談してねって言ったんだろう? “勘”が鋭いなら、僕がハーミルに相談すれば、反対されるってのも分かるんじゃ……」
「そうね……そう考えると、ますます不気味ね。反対される事も織り込み済み……? それとも単に、ヤーウェンの地下に翡翠の谷があるって情報だけ、私達に伝えたかった?」

しばらく頭をひねっていたハーミルが、顔を上げた。

「ねえカケル。カケルなら、霊力使って、この街の地下に、実際に翡翠の谷があるかどうかって調べられない?」
「地面の下を探るのに霊力使った事ないけど。試してみようか?」

さすがにここで光球を顕現する訳にはいかないけれど……

僕は目を閉じて、右腕に嵌められた腕輪に意識を手中した。
そして光球を顕現させないまま、ゆっくりと霊力による感知の網を、この街の地下へ向けて広げていった。

唐突に、街の地下奥深くに巨大な空間があるのが“視えた”。
高さ10m以上はあるかと思われるその空間の天井からは、大小様々な鍾乳石が釣り下がっている。
そしてその壁の一角に、巨大な扉があるのも“視えた”。
扉の両脇を護るように、特徴的な一対の獅子のような動物を模した石像が配置されている。

「この街の地下に、確かに何かの遺跡の入り口みたいなのが“視えた”よ」

僕は、今“視えた”情景について、ハーミルに説明した。
ハーミルが少し思案顔になった後、言葉を返してきた。

「それじゃあ、やっぱり翡翠の谷はこの地下にあるのね」
「正確にいうと、そこが翡翠の谷かどうかは分からないよ。巨大な遺跡の入り口っぽいのが“視えた”だけだからね」

もしかすると光球を顕現すれば、遺跡の名称含めて、もっと“視える”のかもしれないけれど。
今分かるのは、街の地下に謎の遺跡の入り口っぽいのがあるという一点のみ。

結局僕はハーミルと相談の上、今回は翡翠の谷へは行かない、とヒエロンに伝える事にした。

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