【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

131. 召還

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第044日―7


『何という事じゃ! 世界が終わるぞ』

銀色のドラゴンの念話は、焦燥感に満ちたものとなっていた。
構わずイクタスさんは、言葉を続けようとした。

「わしらの推測では、禁忌とは、魔神に……」


―――オオオォォン!


しかし、イクタスさんの言葉にかぶせるように、銀色のドラゴンが、再び凄まじい咆哮を放った。



魔力とも霊力とも異なる、しかし明らかに何らかの力がこもったその咆哮は、大気を震わせた。

『やめよ、人間! アレは、心をかてに力を得る。汝らのその想念こそが、世界の破滅に繋がると知れ。それ以上知ろうとするなら、汝らを滅さねばならなくなる』

咆哮の圧をまともに受けたらしいイクタスさんが、珍しくたじろぐのが見えた。

「りょ、了解した。禁忌の具体的内容について、これ以上知ろうとはせぬ。ただ一つだけお聞きしたい」

イクタスさんは、上空を旋回する銀色のドラゴンの様子をうかがいながら、言葉を続けた。

「その禁忌が守護者に与える影響は?」

銀色のドラゴンは、しばらく無言のまま上空を旋回し続け……

ふいに僕に顔を向けて来た。

『汝は、あれから汝自身が“サツキ”と名付けた守護者に再会したか?』

急に話を振られた僕は、慌てて首を振った。
それを一番望んでいるのは、僕自身でもあるのだけど。

『まだ会っておらぬのか。ではわしが汝に彼女の……』

突然、銀色のドラゴンの念話が止まった。
そして何故か、今度はミーシアさんに視線を向けた。

しばらく謎の沈黙の時間が続く。

ややあって、再び銀色のドラゴンが、皆に念話を送ってきた。

『なるほど……汝らの事情は了解した』

そして再び僕に顔を向けてきた。

『では古き盟約に従い、汝に我が“竜気”を授けよう。汝は我を結界から解放してくれた。また、もし禁忌がこの世界に災いをもたらす時が来てしまった時の、最後の希望でもある。受け取るがよい』

その瞬間、僕の右腕にめられた紫の水晶が光り輝いた。
霊力とは明らかに違う何かが、紫の水晶を通じて、僕の身体にゆっくりと染み渡っていく。

「これは?」
『我の加護のような物じゃ。これからの汝の旅路にて、必ずや必要となる時が来よう』

そして悠然と僕達の乗る船の上空を一度旋回すると、念話で別れを告げてきた。

『ではさらばじゃ。我は勇者アレルやナイア達に会いに行く。禁忌を犯さんとする魔王エンリルの企みを阻止せねばならぬ』

銀色のドラゴンが北方に向きを変え、僕達がそれを見送ろうとした矢先……!

「あれはっ!?」

その場の皆の表情が凍り付いた。
空全体が、再び不規則な発光を開始していた。
しかしそれは先程出現した物とは異なり、瞬く間に巨大な魔法陣へと収束していく。

「カケル!」

ハーミルの悲鳴のような叫び声が届くより前に、僕は自身の霊力を増幅してくれるという、魔法陣の真ん中に素早く移動した。
光球を顕現し、霊力の盾を展開した直後、上空の巨大魔法陣が早くも完成した。
そしてその中心から、先程をも上回る凄まじいまでの“力”の奔流が発射された。
イクタスさんやミーシアさん達が慌てて詠唱を開始する中、その“力”の奔流が僕を直撃した。

霊力の盾が前回以上に軋む!

僕は極限まで霊力を展開し、なんとかその“力”にあらがおうと試みた。
やがて、周囲に配置された霊晶石が、先程と同様、僕の霊力に呼応するかのように、不規則に点滅し始めた。
そして足元の魔法陣全体が強烈な閃光を発し、増幅された霊力が凄まじいまでの威力で、天空から放射された“力”を押し返し始めた。

その時、上空に再び異変が生じた。
複数の巨大魔法陣が、折り重なるように次々と展開し始めたのだ。
同時に、展開された巨大魔法陣それぞれからも、次々と凄まじい“力”の奔流が、僕目掛けて発射された。
それは魔法陣によって、極限まで増幅されていたはずの僕の霊力を容易に圧倒した。
霊力の盾の周囲を、虹のきらめきが取り囲む中、僕の……意識は……



その場に居る者たちは、折り重なった魔法陣のさらに上空に、突如として、闇よりも黒い巨大な“穴”が出現するのを見た。

「まさか、召喚門!?」

イクタスらが目を見張る中、生成された複数の巨大魔法陣からも、次々と“力”の奔流が、カケル目掛けて発射されていく。
やがてカケルを守る霊力の盾の周囲に、それを覆うように謎の黒い力場が形成されていった。
そしてその黒い力場は、カケルを霊力の盾ごと包み込むと、ゆっくりと浮上し始めた。

「カケル!!」

周囲の静止を振り切って、ハーミルがカケルのもとへ駆け寄よろうとした。
しかし黒い力場の直前で、彼女は、不可視の障壁に弾かれ吹き飛ばされてしまった。
その間も、カケルを包み込んだ謎の黒い力場は、ゆっくりと上昇を続けていく。
したたかに甲板に叩きつけられたハーミルは、顔を歪ませながら身を起こした。
その視界に、上空にいまだ留まっている銀色のドラゴンの姿が飛び込んできた。
彼女は銀色のドラゴンに向けて絶叫した。

「お願い! カケルを助けて!」

しかしハーミルの言葉が届かないのか、銀色のドラゴンは、悠然と上空を旋回するのみ。
なすすべも無く、一同が見上げる中、カケルを包み込んだ黒い力場はさらに上昇を続け……

ついに、そのまま上空の巨大な黒い穴へと吸い込まれるように消えていった。

カケルが消え去った直後、上空の巨大な黒い穴と、折り重なるように展開されていた複数の巨大魔法陣もいきなり消滅した。
後には、星のまたたく夜空が広がるのみ。

「そんな……カケル……」

呆然とそれを見送ったハーミルは、やがてその意識を手放して、甲板の上に倒れ込んでしまった。

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