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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
154. 山賊
しおりを挟む9日目―――2
「霊力って、死んだ人を復活させたり出来るの?」
僕の問い掛けを聞いた『彼女』が首を横に振った。
「主ならいざ知らず、少なくとも我等守護者の霊力では不可能だ」
「それは、君の神様みたいに霊力が強ければ、死者の復活も可能って事?」
「ゼラムの前でも話した通り、無から我等を創造して下さった主なれば、死者復活は当然容易いに違いない。しかしその際用いられるのが、霊力だけなのか、それとも主のみがお持ちの特殊なお力なのか、我等には窺い知る事は出来ない」
やがてマーバの村が見えてきた。
しかし前回訪れた時と比べて、どうも様子がおかしい。
粗末な木柵の一部が破損し、村のあちこちから煙が上がっている。
「何かあったのかな?」
僕と『彼女』は、急いで村の方に駈け出した。
村内は、惨状が広がっていた。
元々十数軒しか無かった民家の殆どが、焼き討ちにあったかのように壊れ、燻っていた。
道端に呆然と座り込む何人かの村人達の姿も見えた。
僕はその中の一人に声を掛けた。
「何があったんですか?」
その村人は、虚ろな瞳で僕を見上げて来た。
「……ドワーフどもが……」
その村人の話によると、マーバの村から少し山間に向かった場所には鉱山があり、そこで働くドワーフ達が集落を作って暮らしているそうだ。
彼等は掘り出した鉱石を、ここマーバの村も含めて周辺の村や街に持ち込み、売り捌く事で生活の糧を得ているのだという。
ところが最近、彼等が持ち込む鉱石の質が急に悪化して、取引の度にトラブルが生じるようになった。
今日も午前中、数人のドワーフ達がやって来たのだが、彼等が持ち込んだ鉱石は、今までの中でも一番の粗悪品だった。
しかも彼等は、それら粗悪な鉱石を法外な値段で売りつけて来たので、村人たちは協議の末、今後一切、そのドワーフ達とは取引を行わないと宣言し、彼等を村の外に叩き出した。
すると午後になって、ドワーフ達は仲間と共に村を襲撃して来た。
そして家々に火を放ち、金品、そして女子供を攫って行ったのだという。
話を聞き終えた僕は、しばらく絶句してしまった。
話通りとすれば、それはもはや山賊となんら変わりないのでは?
僕は視線の先でしょんぼり俯いている村人に、改めて聞いてみた。
「ドワーフ達の集落って、どこにあるんですか?」
「あそこに見える岩山の中腹あたりだが……」
丁度西日の射す方向を指差しながら、その村人がやや怪訝そうな雰囲気になった。
「なんでそんな事を聞くのかね?」
「ちょっとそのドワーフ達に掛け合ってこようかと」
僕は微弱ながら霊力を使用出来るし、守護者である『彼女』もいる。
僕達ならドワーフ達が奪った金品と、彼等に攫われた女性や子供達を取り返せるのでは?
そんな気持ちから申し出てみたのだけど。
村人が力なく言葉を返してきた。
「気持ちは嬉しいが旅の方、これも神様の思し召しだ。わざわざ危険に近付く事は無い」
彼のその言葉は、僕がこの世界に来て、これまでにも何度か抱いた違和感を思い出させた。
いくら“神様”が絶大な権威を持っているとは言っても、こんな目にあってさえ、“神様の思し召し”で済まそうとしているのは、おかしい。
そもそもあの女神は、セリエを簡単に殺したり、僕と『彼女』を罰と称して妙なダンジョンに閉じ込めたりするくせに、こうした“悪行”は、放置なのだろうか?
僕は『彼女』の方に顔を向けた。
「神様って、こういうのは、裁いたりしないの?」
しかし『彼女』は意外な言葉を返してきた。
「主が定められた規則には、住民同士、戦ってはいけない、という条項は無い」
「えっ? じゃあ、山賊まがいの事をしても、別に罰とか無いの?」
日本はおろか、ナレタニア帝国でも、そうした行為は犯罪として、厳しく法律で規制されていたはず。
「主は神都以外の住民達には、常に試練が必要である、と仰っていた。不便であっても、与えられた環境で最善を尽くしたり、モンスターや山賊等にも自ら対処したりする事で、その魂が磨かれ、より高みを目指せる、と」
「え~と……もう一度確認しておきたいんだけど、つまり神様は、ドワーフ達を罰して罪を償わせたりはしないって事? かな?」
『彼女』が不思議そうな顔になった。
「何を言っているのだ? 村人達の現状には同情するが、単に、ドワーフ達が知恵と力で、ここの村人達を圧倒出来たというだけの話であろう? 村人達は、次からは学習して、このような事態を避けるように努力しなければならない。主が一方に介入すれば、それはむしろ依怙贔屓した、と捉えられてしまうだろう」
僕は一瞬混乱した。
なんだ?
どういう事だ?
今まで生きて来た僕の常識と照らし合わせてみれば、マーバの村人も『彼女』も、その考え方は何かがおかしい……はず。
あれ?
でも、もしかしておかしいのは僕の方?
いや、そんなはずは……
そこまで考えて、僕はようやく気が付いた。
『この世界の人々は、何をおいても、神様が第一になってしまっている。自分を取り巻く状況が悪くなっても、それをおかしいと感じたり、変えたいと願ったりする想いが希薄過ぎる』
だから僕は、自分の娘を攫われた、と話してくれた村人に向き直り、あえて聞いてみた。
「娘さんを攫われたって言っていましたよね? 悔しくないんですか? 悲しくないんですか?」
「そりゃ、悔しいし悲しいよ。でも神様の思し召しなら、仕方ないじゃないか」
「でも神様の声で、直接“思し召し”を聞いたわけじゃ無いですよね?」
「それは、そうだが……娘が攫われたのが、神様の思し召しで無かったら、何だというんだ?」
「神様の“思し召し”なんか関係ない。山賊が、理不尽にあなたの大事なモノを奪っていった。ただそれだけですよ。娘さん、今頃きっと、ひどい目に合って泣いているかも」
村人の顔色が変わった。
「なんて事言うんだ! あんた、わしに何か恨みでもあるのか!?」
声を荒げる村人を見て、僕は少し安心した。
やっぱり、心の奥底にあるものは、この世界の住民達も僕もそう変わらない。
僕は頭を下げた。
「ひどい事言ったのは謝ります。だから、あなたの本当の気持ちを聞かせて下さい。本当はどうしたいですか? 神様を持ち出すのは無しでお願いします」
「そりゃ……わしは……」
その村人は、目を泳がせながら、押し黙ってしまった。
僕は他の村人達にも、次々と同じような質問をぶつけてみた。
皆、最初は神様の“思し召し”を持ち出してくるけれど、最後は一様に、自信なさげに押し黙ってしまった。
しかしやがて、その内の一人が意を決したように声を上げた。
「わしは……やっぱり納得いかない。こつこつ貯めた大事な財産だったんだ!」
「……俺も納得いかない。いくら神様でもあんまりだ。娘を返してくれ!」
村人達が、思い思いに声を上げていく。
突然、僕は不可思議な感覚に襲われた。
―――娘にもう一度会いたい!
―――恋人を取り返したい!
―――あれは長年コツコツ貯めたお金で買った宝物だったんだ!
村人たちの“想い”が奔流となって僕の中へと流れ込んできた。
同時に凄まじい勢いで霊力が身体の中を駆け巡る。
それはまるで、獣人達の洞窟でキマイラと対峙した時の焼き直しのような感覚。
僕は目を閉じて、右腕に嵌めた腕輪に意識を集中した。
再び目を開けた時、僕の傍には燦然と輝く光球が顕現していた。
光球が驚きで固まる村人達の顔を照らし出していた。
隣りに立つ『彼女』が問いかけてきた。
「カケル、光球をまた顕現出来るようになったのか?」
僕は『彼女』に笑顔を向けた。
「うん、この世界で光球を顕現できる条件、何となく分かった気がするよ」
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