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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
155. 修復
しおりを挟む9日目―――3
「うん、この世界で光球を顕現出来る条件、何となく分かった気がするよ」
そう『彼女』に言葉を返してから、僕は自分の考えを口にした。
「今、光球を顕現出来るようになる前に、キマイラを斃した時と同じような感じで、ここの村人達の強い“想い”が僕に流れ込んできたんだ。だから仕組みは不明だけど、きっとこの世界の霊力は、そういった強い“想い”みたいなのと関係あるんだと思う」
ただし、なぜこの世界の人々の“想い”が、同じく霊力を使用出来るはずの『彼女』にではなく、この世界から見れば明らかに“異物”であるはずの僕に流れ込んで来るのかは、分からないけれど。
『彼女』がポツリと呟いた。
「強い……想い……」
僕達の会話が一段落するのを待っていたかのように、村人の一人がおずおずと声を掛けてきた。
「あなた様は……もしや、守護者様でしょうか?」
「え? あ、いや僕は……」
否定の言葉を返そうとしたけれど、それより早く、村人が突然平伏した。
「でしたら、なにとぞ、なにとぞ、私の娘を……!」
僕は慌ててその村人を助け起こした。
「止めて下さい。僕は皆さんの思うような守護者ではありません。ですが、皆さんの“想い”のお手伝いはさせて頂きます」
そう口にしてから、僕はすぐ傍に立ち、じっと僕達の様子を見守っている“本物の守護者”にも声を掛けた。
「……君も手伝ってくれるよね?」
『彼女』は先程、山賊行為は処罰対象にはならないし、そうした問題は、むしろ住民同士で解決させるのが女神の方針だ、と話していたけれど……
しかし『彼女』は意外にも、笑顔で快諾してくれた。
「お前がそうしたいなら、私は喜んでそれを手伝おう。守護者が山賊退治をしてはいけない、という規則は存在しないからな」
僕と『彼女』の会話が耳に届いたのであろう。
村人たちの間からざわめきが起こった。
「もしや、ドワーフどもから、わしらの大事なモノを……?」
「はい。ドワーフ達の集落について、もう少し詳しく教えて下さい」
村人達から詳しい情報を教えてもらった僕と『彼女』は、今夜はここに野宿して、明朝、出発する事にした。
日は既に沈もうとしていたけれど、村人達は、村内の後片付けを黙々と行っている。
僕も改めて彼等の手伝いをしようとして……略奪を受け、破壊された1軒の家の前でふと立ち止まった。
思い返してみると、あの400年前の世界で出会った『彼女』は、身分証を瞬時に複製してみせた。
『彼女』によれば、女神は霊力を使って世界の全てを創造した。
ならば……
僕は目を閉じて、右腕に嵌めた腕輪に意識を集中した。
すぐに溢れんばかりの霊力の流れを感じる事が出来た。
そして目を見開いた僕の傍に、再び光球が顕現した。
『彼女』が訝しそうな顔になった。
「カケル、何をする気だ?」
「ちょっと試したい事があってね」
僕は目の前の焼け落ちた家に手を触れた。
そして目を閉じて、数日前、セリエと一緒にこの村を訪れた時の情景を思い浮かべてみた。
村人たちの“想い”の賜物であろうか?
身体の奥底から、止めどもなく霊力が溢れ出して来た。
それは美しい流れとなり、村全体を覆い尽くしていく。
そして……
「な、なんだ!?」
「家が急に!?」
村内のあちこちから、人々のどよめきが上がった。
僕が目を開いた時、村内に立ち並ぶ十数軒の家々は、全て破壊される前の元の姿を取り戻していた!
隣に立つ『彼女』が目を大きく見開いた。
「カケル、これは……?」
「いや、神様が霊力で世界を創造したって聞いたから、霊力を使えば、家程度だったら直せるかなってやってみたんだけど……まさか、本当に出来るとは思わなかったよ」
自分でやっておいてなんだけど、霊力って、もしかしてとんでもない可能性を秘めた力なのかもしれない。
そんな事を考えていると、『彼女』が感心した雰囲気で声を掛けてきた。
「我等守護者ですら、霊力を使用してもここまでの奇跡は起こせぬ。まるで主が起こされる奇跡を見せられた気分だ。これならば、ドワーフ達の集落へも、一瞬で転移できるのでは?」
僕は苦笑した。
「実は前からそうだったんだけど、知らない場所への転移は無理みたいなんだ」
いくら豊富な霊力を利用出来ても、やはり『彼女』の域に達するのは、まだまだ先のようだ。
家が瞬時に修復されたのは、僕の力によるものだと知った村人達が、次々と感謝の言葉を述べてきた。
そして村長たっての要望を断り切れず、僕と『彼女』は、今夜は、村長の家に泊めてもらう事になった。
村長の家で夕食を御馳走してもらい、部屋に戻った僕は、ベッドに腰掛け一息ついていた。
そしてベッドの脇の長椅子に座る『彼女』に話しかけた。
「なんだかラッキーだったね。今夜、ベッドで寝られるとは思っていなかったよ」
最初は野宿するつもりだったし。
総意得べ最後にベッドの上で寝たのは、確か、前の世界で皇帝ガイウスの軍営内の幕舎の中だったから……
指折り数えてみようとしたところで、『彼女』が言葉を返してきた。
「そうだな。しかしカケルが、この村を元通りにしたのだ。私はともかく、カケルが野宿では、村人達が納得するはずが無かろう」
『彼女』は鎧を脱ぎ、村長が用意してくれた部屋着を身に着けていた。
女性らしい優しいシルエットが、部屋の明かりに照らし出されている。
「それにしても、夕方のあれはどうやったのだ? 傷を癒すのとは違い、一旦焼けただれた柱を元通りにして構造物へと組み上げる事等、魔法でも霊力でも不可能なはず。まさか、主がなさるのと同じように、完全に無から家々を創造したのか?」
「え~と……」
僕は改めて、村を元通りにした時の事を思い返してみた。
「ほら、一週間前に神都に行く道すがら、セリエとこの村に泊まったって話したでしょ? あの時の情景を思い浮かべながら霊力を使ったら、家が元通りになっていたんだけど……原理は分からないや」
思わず苦笑してしまった。
霊力については、僕はまだまだ知らない事だらけだ。
『彼女』がおどけた雰囲気になった。
「以前、お前が霊力の操作に習熟していないと話したが、あれは撤回しないとな。このような霊力の使い方、我等守護者でも不可能だ。その内、私の方がお前から霊力の操作を、教わらなければならなくなるかもな」
「いやいや、霊力については、君の方が絶対凄いはずだよ。あのサツキも凄かったし」
「そう言えばカケルは、サツキから霊力を継承したと話していたな。彼女から、霊力の操作を教えてもらったりはしなかったのか?」
「う~ん、前にも話した通り、自分的にはいつの間にか身に付いていたんだよね、この力。サツキがどういう状況で霊力を僕に継承させたのか、さっぱり覚えてないんだ」
「そうか……」
『彼女』がふいに考え込むような仕草を見せた。
そしてしばらくの沈黙の後、再び口を開いた。
「そのサツキ、外見が私とそっくりだ、と話していたな」
「そうだよ。外見だけじゃ無くて、いつも身に着けている鎧も、声や仕草も瓜二つ……というか、この世界が、実は僕のいた世界より過去で、君が将来、僕の世界のサツキになったんじゃないかって思ったくらいだよ」
「カケルの想像が当たっているかどうかは分からぬ。だが私は、そのサツキにはなれそうにないな」
「どうして?」
「サツキは、カケルに力を継承させた後も生きているのに、お前の前には姿を見せていないのであろう? 今の私では、自分のこの能力自体を他者に譲る術を知らぬ、という事もあるが……」
そこで一旦言葉を区切った『彼女』が、僕を真っすぐに見つめて来た。
向けられた瞳の中に、僕の顔と『彼女』の真っすぐな“想い”が込められているのが見えた。
「私なら、たとえどんな事があっても、お前の傍にいようとし続けるだろう」
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