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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
157. 集落
しおりを挟む10日目―――2
マーバの村を出立した僕はと『彼女』は、遠方に見える岩山の中腹、ドワーフ達の集落へと向かった。
ドワーフ達は昨日、交易上のトラブル――聞いた限りだと、明らかにドワーフ達に非がありそうだけど――からマーバの村を襲撃した。
彼等は村の女性や子供達を攫い、金品を強奪して村を破壊していった。
僕は道々、今更ながらな事を『彼女』に聞いてみた。
「ドワーフ達って、どうしてマーバの村を襲ったんだろうね?」
「マーバの村人達が、ドワーフ達とは取引しない、と宣言した腹いせであろうな」
「でもさ、それって少し変だよね。以前は普通に良質な鉱石を売りに来ていて、特に村人達ともめたりしてなかったっていうのも聞いたよ。なのに、急に粗悪品持ってきて、あげく、山賊まがいの行動に出るのって、なんでだろう?」
「元々粗暴な連中であったのであろう」
「そうなのかな?」
僕は心の中に、妙なひっかかりを覚えた。
「ドワーフ達って、他でも山賊行為を働いたりしているのかな?」
「さあ、どうであろうな?」
「守護者って、この世界の治安維持に当たっているって聞いたけど、こういった感じのゴタゴタ、解決して欲しいって頼まれたりはしないの?」
「我等守護者は、主に命じられなければ、基本的に神都の外には出ない。神都の外は、それぞれの種族が、各々の領分を守って暮らしているからな。それに昨日も話した通り、彼等の問題は彼等自身に解決させよ、というのが主の方針だ」
「でも君の神様が、全世界を統治しているんだよね?」
少なくとも、セリエはそういう認識だったけれど。
『彼女』が頷いた。
「その通りだ。主が全世界を統治なさっている。まあ、実際の細々とした政は、代行者が行うが」
「代行者もやっぱり、神都外のもめ事にはあまり関心が無いって事?」
「代行者の任務は、主の御意志を汲んで、統治の実務を担う事だ。だから住民達が主の定められた規則に従い、神都に貢納が滞りなく届いておれば、外の住民達の些細なもめ事に干渉する必要性を感じないであろうな」
どうやらこの世界は、ナレタニア帝国と比べて、随分支配がルーズだ。
その分、弱肉強食っぽい事も横行してそうだけど。
そこまで考えて、僕は違和感を抱いた。
「そう言えばさ。この世界って、こうして道を歩いていても、いきなり山賊団が襲ってきたりとかしないよね?」
これだけ支配がルーズであれば、もっと世紀末的な状況になっても良さそうなのでは?
「それは勿論、主の御威光が、あまねく世界を照らしているからだ。モンスターどもは森の奥で息をひそめ、山賊のような行為を生業にしよう等という輩は、勝手に自滅する」
『彼女』は、やや得意げに胸を張ってそう答えてくれた。
しかし僕は、『彼女』の話を聞いて、昨日も抱いた想いが、段々と確信に変わって行くのを感じた。
『この世界の人々は、何をおいても、神様が第一になってしまっている。自分を取り巻く状況が悪くなっても、それをおかしいと感じたり、変えたいと願ったりする“想い”が希薄過ぎる』
だからどんなにジメジメした洞窟からも出ないし、お腹が空いても神都の酒場に押し寄せないし、好奇心があっても神都の外には出かけないし、村が破壊されても座り込んでいるだけ。
そんな世界なら、犯罪者集団も誕生し得ないであろう。
ある意味、あの女神は実に巧妙な方法で、この世界の住民達を縛っている、と言えなくもない。
あ、でもそう考えれば、昨日、マーバの村を襲ったドワーフ達は、まだむしろ、この世界の住民にしては、覇気が有ったって事だろうか?
そんな事を考えている内に、やがて道は険しい上り坂へと変わって行った。
なおも道なりに進んで行くと、行く手に粗末な木柵で囲まれた集落が見えてきた。
木柵に設けられた出入口を、何人かのドワーフ達が出入りしているのが見えた。
女子供も多い。
どうやらあそこが目的地らしい。
しかし僕はその、のどかな風景に少し拍子抜けをした。
「なんだか遠目には、普通の村っぽく見えるね」
「それは、そうだろう。ドワーフの集落なのだから、村に見えて当然と思うが」
「山賊の砦みたいなのを想像していたんだけどね」
「山賊の砦? なんだそれは?」
“山賊の砦”がイメージできないらしい『彼女』が、怪訝そうな顔をした。
「もっとこう……物見やぐらみたいなのが林立していて、武装した荒くれ集団が陣取っているとか、そういうイメージだったんだけど……」
自分で口にしてから苦笑が漏れた。
この世界では、むしろそういう場所が存在する方がおかしいだろう。
そのままドワーフ達の集落へ近付くと、道端で腰を下ろしていたドワーフの老婆が声を掛けてきた。
「おや、珍しいね。鉱石を買いに来たのかい?」
「こんにちは」
僕は彼女に挨拶しながら、行く手の集落を指差した。
「あっちに見えるのって、ドワーフさん達の集落で合っていますよね?」
「そうだよ。最近、鉱山で事故が頻発していてね。良い鉱石も取れなくなってきたから、お二人さんは、久し振りのお客さんさ」
鉱山の事故?
もしかすると今回、ドワーフ達が山賊行為に及んだ原因と関係しているかもしれない。
僕達をどうやら鉱石を買いに来た客と勘違いしているらしい老婆にたずねてみた。
「鉱山の事故って、何があったんですか?」
「落盤だよ。3日前にも、一番良い鉱脈に通じていた坑道が、完全に崩れちまったよ」
「中で働いていた人達は、大丈夫だったんですか?」
「何人か埋まっちまったけど、まあ、神様の思し召しさね」
僕達は老婆に別れを告げ、集落へと向かった。
集落の入り口には、守衛と思われる体格の良いドワーフの男性が一人立っていた。
彼が僕達に声を掛けてきた。
「ここはドワーフの集落だ。鉱石を買いに来たのか?」
僕は隣に立つ『彼女』に一度視線を向けた後、目の前に立つ守衛の男性に用件を伝えた。
「ちょっと、昨日のマーバの村の件でお話があって来ました」
守衛の男性の目付きが一気に鋭くなった。
「なんだ、お前ら、あの村の者か?」
「そういうわけじゃ無いんですが、昨日、村の人達から盗っていった物を返してもらいたいな、と」
僕達の会話が届いたのであろう。
周囲のドワーフ達にざわめきが広がり、その場の緊張が高まっていくのが感じられた。
と、『彼女』が僕を庇うように前に出た。
「私は守護者だ。お前達の族長と話をしたい」
「しゅ、守護者様!? なんで、そんなおエライさんが俺達の集落へ?」
『彼女』の言葉を聞いた守衛の男性は、慌てたように後退った。
「俺達は、何も神様の規則を破ったりしてねえはずだが」
『彼女』は微笑みを浮かべつつ、言葉を返した。
「安心しろ。主の命でここに参ったわけではない」
話していると、村の中心方向から、周囲のドワーフ達より、さらに頭一つ飛び抜けて体格の良いドワーフの男性が、こちらへゆっくりと近付いて来る姿が目に飛び込んできた。
周囲のドワーフ達が、彼の為に慌てて道を開けた。
「族長が来たぞ!」
近付いて来る族長らしき男性の顔に、改めて視線を向けてみた僕は……ってあれ?
戸惑っていると、その男性が周囲のドワーフ達に声を掛けた。
「どうした、何をもめている?」
守衛の男性が声を上げた。
「族長! 実は……」
彼は、僕と『彼女』を指差した。
「こちらにいらっしゃる守護者様ご一行が、昨日の件で話がある、と仰っているんですが……」
「何?」
守衛の男性の指さす先、『彼女』、続いて僕に視線を移した所で、族長らしきドワーフの男性が固まった。
「お、お前は……!」
僕は彼に軽く頭を下げた。
「お久し振りです。“剛腕のガルフ”さん」
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