【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

171. 行商

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13日目―――3


夕食は、仕留めてきたイノシシを適当に焼いて食べる事にした。

「調理器具とか何もないからね。しばらくは、焼き物ばっかりになっちゃうかな」
「カケルは調理器具があれば、料理出来るのか?」
「えっ? そういう訳でも無いんだけどね」

僕は苦笑した。
前の世界はもとより、日本にいた時も、殆ど料理をする機会は無かった。
下宿だったから食事は付いていたし、自分で何か作るとしても、せいぜいカップ麺にお湯注ぐか、レンジで冷凍食品をチンする程度。
しかしここでしばらく暮らすなら、こんな環境だし、道具が揃えられるのなら、料理に挑戦しても良いかもしれない。

イノシシの焼肉にかぶりついていると、『彼女』が声を掛けてきた。

「では、調理器具が手に入れば、私が作ってやろうか?」
「えっ? 作れるの?」
「作った事は無い。しかしこの世界の住民達は、主に女性が調理を担当すると聞いたぞ。私でも練習すれば、何とかなるだろう」

う~ん、『彼女』の手料理って食べてみたいような、食べてみたくないような。
漫画や小説だと、こういうのって、謎の爆発が起こって、得体の知れない何かが出来上がるか、凄まじく手の込んだ絶品料理が完成するかの両極端だったりするよな……

取り留めもない事を考えていると、『彼女』が、若干不安そうな顔でこちらを見ているのに気が付いた。

「もしかして、私が料理に挑戦してはダメか?」
「そんな事無いよ。君の手料理、食べてみたいな~って」
「とんでもない物が出来たりしないか不安だって顔をしていたぞ?」

霊力って、まさか心を読んだりは出来ないよね?

焚火の明かりに照らし出された僕達は、夜が更けるまで、他愛も無い話を楽しんだ。



14日目―――1


翌朝、僕は前日手に入れておいた果物を朝食代わりにしながら、『彼女』に聞いてみた。

「このあたりって、近くに大きな街は無くても、誰かが住んでいる村か集落って無いのかな?」
「村程度なら、恐らくジャングル抜ければありそうだが……もしかして、魔結晶を換金して家具を買おうと言う話か?」
「うん。それに、日用品も買えるなら手に入れたいしね」
「では、適当にジャングルを東の方に向かってみようか?」


朝食後、僕達は前日手に入れた鹿やイノシシ、それに魔結晶を袋に詰めて、ジャングルへと分け入って行った。
袋の重さは霊力でほぼゼロにして、僕がサンタクロースのように担いでいる。
絵面えづら的には、かなりコミカルな印象を相手に与えそうだけど、他に運搬手段が無い以上、仕方ない。
途中で時折出て来るモンスターを倒しながら、ひたすら東に進んで行くと、お昼過ぎに杣道そまみち(※木こりのような人達しか通らない細くて険しい山道)に突き当たった。

「この道の先には、村か集落、ありそうだね」

さらに進む事30分程でジャングルは終わり、粗末な木柵に囲まれ、民家が密集している開けた場所に到着した。
僕はちょうど木柵の出入り口付近で立ち話に興じている住民らしき人々に声を掛けた。

「すみません。ここはなんという場所ですか?」
「おや? 行商の人かい? ここはイーサの村だよ」

担いでいる袋の大きさからそう判断したのだろう。
初老の男性がそう教えてくれた。
僕はその初老の男性に聞いてみた。

「どこか、動物や魔結晶、買い取ってくれる場所、知らないですか?」
「魔結晶は分からんが、動物なら、セイマの店で買い取ってくれたはずだ」
「ありがとうございます」

その初老の男性にお礼を言って、僕と『彼女』は木柵の出入り口から村内へと足を踏み入れた。
村はざっと見た感じ、マーバの村の2倍ほどの規模がありそうだった。
そして住民達ほぼ全てが、僕と同じ、この世界では人間ヒューマンと呼ばれる種族に見えた。


初老の男性が教えてくれた“セイマの店”は、村で一軒だけの雑貨屋さんであった。
僕達が店内に入ると、愛想のよい中年の女性店主、セイマさんが出迎えてくれた。

「いらっしゃい、旅の方。うちはこの辺じゃ一番の品揃えだよ」

店内には所狭し、と様々な品々が並べられていた。

「あの、買い取りお願いしたい品物あるのですが」
「じゃあ、見せてもらおうか」

僕は袋の中の品々をセイマさんに見せてみた。

「鹿2頭にイノシシ2頭。それにこれは……へえ、なかなか良い魔結晶だね。旅人さん、相当腕が立つでしょ?」

セイマさんは、てきぱきと買取の計算をしながら、僕達に値踏みするかのような視線を向けてきた。
モンスターは、霊力で瞬殺に近い形で倒していたので、実際の強さは不明だった。
もしかすると倒したモンスターの中に、相当強力なのも混ざっていたのだろうか?
僕達の今の状況――半分、逃亡者状態――を考えると、あまり目立ち過ぎるのは良くないかもしれない。

そんな事が頭をよぎって若干不安になって来たけれど、セイマさんの方はそんなに気にしている風でも無く、計算を終わらせると買取金額を告げてきた。

「全部で神聖銀貨22枚ってとこだね」

ケルベロスの魔結晶は、確か1個で神聖銀貨20枚になったはず。
と言う事は、倒したモンスター達は、そんなに強力では無かったのだろう。

僕は逆の意味でほっとした。

「それじゃあ、それでお願いします。あと、色々買い揃えたいのですが……」

僕が『彼女』と一緒に店内の家具や日用雑貨を物色し始めたのを見たセイマさんが、声を掛けてきた。

「もしかして、新婚さんかい?」
「いや~そういうわけでは……」
「しんこん?」

やんわり否定しようとする僕の言葉にかぶせるように、『彼女』が口を挟んできた。

「カケル、しんこんとは何だ?」
「それは……」

僕がうまい説明の言葉を見つけ出す前に、セイマさんが口を開いた。

「家具やら日用雑貨やらをまとめて買い込もうとしているからさ。てっきり、今から新生活始めるお二人さんかと思ったんだけどね」
「二人で新生活……」

『彼女』が少し考える素振りを見せながら言葉を返した。

「それなら、カケルと私はそれに当てはまるな」
「じゃあ、新婚さんだね」
「そうなのか、カケル?」

セイマさんの言葉の意味の確認を求めて、『彼女』が僕の方に顔を向けてきた。
二人の会話が絶対に僕の得意じゃない方向に脱線して行く気配を感じた僕は、慌てて軌道修正を試みた。

「二人で住むのはそうなんですが、まだ結婚はしてないというか……」

しかしセイマさんが、勝手に何かを得心した顔になった。

「なるほど。もしかして周りから結婚反対されて、見切り発車で一緒に暮らす事にしたってとこだね。うんうん」
「え~と、ですから結婚とかは関係なくて……」

彼女の“誤解”をなんとか解こうとする僕に、しかしセイマさんがずいっと顔を近付けて来た。

「こら、こういう場合は男がしっかりしなくちゃ。彼女を守ってあげないとダメだよ?」
「は、はぁ……」

セイマさんは、どうやら世話焼き“過ぎ”タイプの女性のようだ。
仕方ない。
ここは早めに買い物を済ませてさっさと退散しよう。

そう考えた僕はセイマさんを無視して、必要な品々の物色を再開した。
背後でセイマさんが、今度は『彼女』に話しかけるのが聞こえてきた。

「子供はまだなのかい?」
「子供?」

『彼女』はセイマさんの言葉に首をかしげている。
このままでは、またややこしい話が始まりそう。

そう考えた僕は、改めて二人の会話に割り込んだ。

「セイマさん、ホント、お気遣いなく。僕達急いでいるんで」

しかし僕の意図が全く伝わっていないらしい『彼女』が、不思議そうな顔になった。

「カケル、何か急用でも出来たのか?」
「いや、だから……」

セイマさんは、僕と『彼女』の会話を聞きながら、何故か一人でうんうんうなずいている。
そして一旦、奥へ引っ込んでいった。

ようやく“解放”してくれたかな?

そう思う間も無く、セイマさんが再び姿を現した。
彼女は、手の平に乗る位の大きさの、石で出来た何かの動物をかたどったらしい置物を持って出てきた。

「これはサービスだよ、お二人さん」

僕は若干の嫌な予感を感じながら、とりあえず聞いてみた。

「なんですか? これ」
「子宝のお守りさ。寝室に置いとけば、御利益あるよ? なにせあたしなんか、5人も育てたからね」
「僕達には、そういう予定まだ無いですから!」
「子宝……」
「えっ?」

慌ててセイマさんの勘違いを正そうとする僕のかたわらで、『彼女』がその石の置物をじっと見つめていた。

「……私も、母になる事が出来るのだろうか?」
「えっと……あんまり真に受けない方が……」
「なれるわよ。ただし、彼氏さんにも頑張ってもらわないといけないけどね」
「そうか。ではカケル、宜しく頼む」
「ちょ、ちょっと、絶対意味わかってないでしょ?」
「こっちの、ナンカイヤモリの燻製もサービスするよ。彼氏に食べさせてあげな。夜、寝かせてくれなくなるよ」
「なにやら凄そうだな。カケル、これも貰って帰ろう」
「すみません、もう勘弁してください!」

なんとか買い物を済ませた僕と『彼女』が、泉の傍に転移して戻って来た時、辺りはすっかり暗くなっていた。

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