【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

176. 儀式

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14日目―――6


シャナの話を聞き終えた僕は、驚きと共に、今までに何度か抱いた違和感の一部が解消されるのを感じた、


―――この世界の人々は、何をおいても、神様が第一になってしまっている。現状を変えようとか、この現状はおかしいとか思う気持ちが希薄すぎる


シャナの語る内容が正しいとするならば、これは女神の力で、強制的にそういう状態にされてしまっている、という事だろう。

一方、『彼女』はシャナを厳しい表情で睨みつけたまま、問いただした。

「百歩譲って、お前達精霊がしゅより先に存在していたとしても、今の話、敗者のやっかみ、或いは虚言ではない証拠はどこにある?」
「証拠は、救世主が女神を打倒した時、明らかになる」
「なっ……!」

恐らく、銀色のドラゴンも同じような事を話していたのを思い出したのだろう。
『彼女』が絶句した。
シャナは改めて僕に向き直ると、静かに言葉を続けた。

「救世主よ、女神を打倒し、この世界を解放して欲しい。そのためなら、私を使い潰して頂いて構わない」

シャナの真摯な態度と言葉に僕は圧倒された。
だから僕は、今の正直な気持ちをシャナに伝える事にした。

「……ごめん。僕は君の考えるような救世主にはなれそうにない。話した通り、今もあの神様から逃げ回っているだけの弱い存在だよ」

しかしシャナは静かに首を振った、

「あなたは弱くない。セリエのために涙を流し、ヨーデの街の人々を傷つけないように行動し、自分を殺そうとしていた守護者の苦悩も全て受け入れた」
「僕は弱いよ。弱いから、小さな事でくよくよするんだ。こんな僕が神様なんかに勝てるわけがない」

シャナが、ふっと表情を緩めた。

「救世主よ、ならば、あなたはどうして私達を責めない?」
「責める?」
「私達は、あなたを自分達の都合のみで、この世界に召喚した。あなたは本来なら、すぐさま元の世界に戻せ!と主張しても構わない立場のはず」
「それは……」

僕は返答に詰まってしまった。
言われてみれば、どうして僕は、銀色のドラゴンやシャナに対して、元の世界に戻せと要求しなかったのだろう?
もし仮に、彼等が元の世界に戻してあげる、と提案してきた場合、何と返事するのだろう?
セリエを死んだまま放置して帰れるのだろうか?
この世界の真実を知らされたのに、ただ『彼女』だけを連れて帰れるのだろうか?
“すぐさま元の世界に戻せ!”と要求するには、僕はこの世界に深く関わり過ぎたのかもしれない。

シャナが再び口を開いた。

「救世主よ、一つだけはっきりしている事がある」
「それは?」
「この世界で、女神がどうしても書き換える事の出来なかったことわりが一つある、という事」

シャナは、僕の目をじっと見つめながら、言葉を続けた。

「それは、連綿と続く時の流れの中で起こりし事象は、決して変えられないという真理まことのことわり。数千年後の、あなたが元いた世界には、女神は存在しなかった。つまり私達精霊が、女神に世界を奪われたという過去の事実を変える事が出来ないのと同じように、女神もまた、自身が放逐されるという未来を変える事は出来ないという事。そして私は、私達は、あなたこそが女神を打倒してくれる救世主だと信じている」


いつの間にか、日は大分西にかたむいていた。
シャナは、僕と『彼女』に泊まっていくよう勧めてきた。

「ここには女神の力が及ばない。むしろここに居た方が、救世主と守護者は安全」

女神の力が及ばない?
どういう意味だろう?

「さっきも、この村が神様の影響を受けないって話していたよね。それは、村の周りの結界と関係あるの?」
「そう。精霊達の結界に少し細工をしてある。女神とその眷属達は、決してこの地に入り込めない」

シャナはそう話した後、僕にだけ囁き声を届けてきた。

『この村の中では、女神は守護者を監視で出来ない。つまり、あなた達二人の話も盗み聞きされない』

僕はすっかりふさぎ込んでいる『彼女』に声を掛けた。

「どうしようか?」
「カケルに任せる。ただし……」
「ただし?」
「あの精霊と同じ屋根の下で一晩過ごすのは嫌だ。カケルと二人っきりが良い」

『彼女』の言葉を聞いたシャナが、『彼女』に提案してきた。

「私は、今夜は他の村人の家に泊まる。この家を二人で好きに使って構わない」

『彼女』がジロリとシャナを睨んだ。

「何か仕掛けがあって、私達を監視したりはしないだろうな?」
「女神でもあるまいし、そんな覗き趣味は無い。心配なら、霊力で家探やさがししたらいい」

僕は二人の会話に割り込んだ。

「ここはシャナさんの家だ。シャナさんを追い出して、僕達が泊まるのはおかしいよ」
「救世主、そんな気遣いは無用だ。実は元々、村人の家で夜を過ごす事も多い」

僕はシャナにそっと念話を送った。

『ありがとう』
『お礼は不要。それより、守護者はきっと混乱している。一度にたくさんの情報を与えすぎた。『彼女』を支えてあげて』

シャナは、手早く夕ご飯の準備を始めた。
『彼女』がシャナの料理を食べる事を拒否したので、僕の分だけ用意すると、シャナは僕達と夕食を共にすることなく、家を出て行った。

「今夜は、昼間に行った雑貨屋のゼラムの所に泊まるつもり。起きたら呼びに来て。あなた達が呼びに来るまで、私からは決してこの家に戻ってこない」



15日目―――1


まだ朝靄に包まれた村内を、シャナが一人で歩いていた。
彼女は村を外界と隔てる結界のすぐ近くまで歩いて行くと、ふと足を止めた。
そこには、彼女のみが認識できる形で、神器が配されていた。
村内外の境界付近にいくつか配された、その神器こそ、女神の目をあざむくこの結界のかなめであった。
その神器は、神都にいる“協力者”から託されたものであった。


―――あの獣人達を救って欲しい


“協力者”と“あの少女”は、そう願った。
シャナもまた、彼等を救いたいと願った。
だから彼女は、形無き不滅の存在である事を捨てた。
実体化し、定命じょうみょう(※あらかじめ限られた寿命)の運命を受け入れた。
彼女は、神器に手をかざすとそっと何かを呟いた。
彼女の手の平に、きらめく光の渦が現れた。
そしてそれが、神器へと吸い込まれていく。
これは彼女が、獣人達をこの地に導いた後、欠かさず行う日課。
この村に女神の力が及ぶのを阻止し、生きとし生けるもの全てが、本来の生を謳歌できるようにするための、神聖な儀式……


――◇―――◇―――◇――


翌朝、僕はあらかじめシャナが作り置きしてくれていた朝食を食べた後、『彼女』と共に、昨日の雑貨屋へと向かった。
早朝の村内は、まだ戸外に出ている獣人達も少なく、清々すがしがしい雰囲気に包まれていた。
たまにすれ違う彼等と挨拶を交わしながら、湖畔の道を歩く事10分程度で、昨日の雑貨屋に到着した。

「こんにちは」

僕と『彼女』が雑貨屋の扉を開けると、既に店主――ゼラムさん――は、店内で開店準備を行っている所であった。
彼は僕達に気付くと、笑顔で挨拶を返してくれた。

「おや、いらっしゃい、お二人さん。昨夜はゆっくり出来ましたか」
「はい、お陰様で……って、なんだかシャナさんを追い出してしまった形になっちゃって」

申し訳ない気分で一杯になる僕に、しかしゼラムさんはニコニコしながら言葉を返してきた。

「気にしなくても大丈夫ですよ。シャナ様は元々、急にふらりと村人の家を訪ねて、そのまま泊っていかれる事も多いお方だ」

昨晩、シャナ自身もそんな話をしていたのを僕は思い出した。

「それで、シャナさんはいらっしゃいますか?」
「ちょうど今しがた、村内の見回りに出て行かれた。1時間もすれば帰ってこられると思いますよ。良かったら上がって、中でお待ち下さい」

ゼラムさんは僕と『彼女』とを家の中に招き入れると、紅茶と茶菓子を出してくれた。
今回は、『彼女』もそれに口をつけた。

「……確かに、美味しいな」

『彼女』は、口ではそう言いながら、なぜか表情は優れない。
僕は気になってたずねてみた。

「どうしたの?」
「あ、いや……」

少し口ごもった後、『彼女』は改めて答えてくれた。

「得体の知れない精霊が出した物ならともかく、この店主が出してくれた物までこれ程美味しいとなると、昨日の精霊のげんに、いくばくかの真実が含まれているのかも、と考えてしまったのだ。しかしそれは、私にとっては気分の良い話ではない」

茶菓子が美味し過ぎるせいで、すっかり意気消沈している『彼女』に掛ける言葉が見つからない僕は、話題の転換を図ってみた。

「ちょっと気になっていたのですが、どうしてこの村の皆さんは、シャナさんを“様”付けで呼んでらっしゃるんですか?」

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