【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
177 / 239
第六章 神に行き会いし少年は世界を変える

177. 捨子

しおりを挟む

15日目―――2


「ちょっと気になっていたのですが、どうしてこの村の皆さんは、シャナさんを“様”付けで呼んでらっしゃるんですか?」

僕の問い掛けに、ゼラムさんが穏やかな表情で言葉を返してくれた。

「そりゃ、シャナ様はわしらを救ってくれた大恩人で、今もこの村に恵みをもたらしてくれている聖女様だからですよ」
「聖女様?」
「そう。まさに聖女様だ」

ゼラムさんは一度紅茶に口を付けてから、言葉を続けた。

「実は、わしらは以前、ここからさらに西の洞窟に住んでおったのです。ところが神様を怒らせてしまう出来事がありましてな。神様から頂いていた洞窟から追い出されて、このジャングルに追放されてしまったのですが、その苦境からわしらを救って下さったのがシャナ様なのです」
「神様を怒らせたって……何があったのか聞いても良いですか?」
「少し長くなりますが、宜しいでしょうか?」

僕がうなずくのを確認してから、ゼラムさんが語りだした。

今から15年ほど前、まだ獣人達が洞窟住まいをしていた頃、村の若夫婦が森で赤子を拾ってきた。
赤子はエルフの女の子であった。
子供がいなかった若夫婦は、その子をまさに神様が授けてくれたものと考え、『ポポロ』と名前をつけ、大切に育てる事にした。

「……ポポロは幼い頃から利発な子でした。おまけに物心ついた頃から、わしらには見えないものが見え、聞こえない声が聞こえるようにもなったのです。ポポロはそれらを“精霊”だ、とわしらに紹介してくれました。まあ、もっとも、小さいポポロがいくら“光の渦”やら、“歌う声”について教えてくれても、わしらには、さっぱり見えも聞こえもしなかったのですが」

ゼラムさんは、その当時の事を懐かしむような笑顔になった。

「実のところ、ポポロから精霊の話を聞いた当初、わしらは、よくある子供のおとぎ話程度にしか思っていなかったのです。ところがその頃から、ポポロが触れると、淀んだ水が清らかな水に変わり、枯れかけていた畑の作物が瑞々みずみずしくよみがえるようになりました。それでわしらは、ポポロの精霊の話を信じる事にしたのです」

ポポロのお陰で、獣人達の生活環境は飛躍的に向上した。
やがて獣人達の中には、洞窟を出て、外に小屋を建てる者も現れた。
しかし幸せは、長くは続かなかった。

「5年前、突然、神都から守護者様が来られました。守護者様は、ポポロの育ての親が、実はポポロをさらった大罪人である、と話され、彼等を捕縛しました。そして、ポポロは本当の両親のもとに戻されるべき、とも話され、親子共々、神都に連れていかれてしまったのです」

それまで静かに聞いていた『彼女』が口を挟んできた。

「その守護者とは、群青ぐんじょう色の癖っ毛の男では無かったか?」
「そうです。よく分かりましたね」

ゼラムさんは不思議そうな顔をしていた。
どうやら彼は、『彼女』の事を守護者の一人だとは、まだ気付いていないようであった。
一方、『彼女』の顔には、何故か少し焦りの色が浮かんでいた。
僕は助け舟のつもりで口を開いた。

「実は僕達、前に守護者の方々をお見掛けした事があったんですよ」

別に嘘は言っていない。
ヨーデの街の外、『彼女』に失神させられる直前、僕は中空に浮かぶ『彼女』以外の4人の守護者達と対峙していた。
彼等の中に、確か群青色の癖っ毛の男性の姿もあった。

茶菓子を口に運んで一息ついたゼラムさんが、話を再開した。

「わしらはどうしてもその若夫婦が、ポポロを誘拐してきた、とは信じられなかった。それで皆で相談して、ポポロがわしらの村に来た経緯を再調査して頂くよう、神都に嘆願書を出す事にしたのです」

嘆願書を持って神都に向かった村の若い獣人は、何日待っても帰ってこなかった。
皆が心配していると、2週間後、村に兵士達を率いた代行者エレシュが現れた。
彼等によって、獣人達は女神の裁定に疑いを挟んだ大逆人として洞窟を追われ、このジャングルへと追放されてしまった。
モンスターのはびこる瘴癘しょうれいのジャングルの中で、獣人達は神様を怒らせてしまった事を激しく後悔した。
彼等はただ、静かに死を待っていた。
そこへ、突如シャナが現れた。

「実は、シャナ様は、ポポロとお姿がそっくり同じなのです。だから最初、シャナ様が現れた時、わしらはポポロが帰って来たかと思った位でしたよ」

しかし彼女は、自分はポポロでは無く、彼女に協力してきた精霊である、と語った。
シャナはまた、精霊は形ある存在を介してしかこの世界に力を及ぼせない事、
今までは、ポポロを介して獣人達を手助けしてきた事、
しかしポポロが連れ去られてしまったので、これからは彼女自身が実体化して、彼等を助けていくつもりである事等を順々に語った。
そして彼女は、彼等をこの結界に守られた静かな湖畔の地へと導いてくれたのだという。

「シャナ様のおかげで、わしらは洞窟に住んでいた時以上に、良い暮らしをさせてもらえています。正直、なぜ精霊であるシャナ様が、ここまでわしらに良くして下さるのか分からないのです。聞いてもニコニコしてらっしゃるだけなので」

話を聞き終えた僕は、気になる事を聞いてみた。

「ポポロとそのご両親は、結局、どうなったのでしょうか?」

ゼラムさんが表情を曇らせた。

「それが……神都に嘆願書を持って行った若者共々行方知れずのままなんですよ」
「そうなんですね」
「皆、どこかで元気にしていれば良いのですが……」

そのゼラムさんの言葉が言わるか終わらないかの内に、『彼女』が口を開いた。

「ポポロと申す少女のその後に関しては分からぬが、それ以外の者達は皆、しゅによって処断された」
「えっ!?」

僕とゼラムさんが、同時に絶句した。
『彼女』の顔は蒼白であった。
『彼女』がゼラムさんに向き直った。

「店主よ、実は私は守護者だ。だから5年前に仲間の守護者ガンマが、その若夫婦を神都に連行してきた事も、大罪を犯したとして、しゅの命で処断された事も、その後嘆願書を持ってきた若者が、しゅの裁定に異を唱えたという事で、やはり処断された事も全て覚えている。お前達が洞窟を追われ、ジャングルを彷徨さまよう事になった事までは知らなかったが……」

ゼラムの顔をしっかりと見ながら話す『彼女』の顔が歪んだ。

「あの時の私は……しゅの裁定に何の疑念も抱かなかった……だから……すまない」

『彼女』の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ出た。
そんな『彼女』の背中にそっと手を添えた時、背後から声を掛けられた。

「守護者よ、あなたは、自分を責める必要はない」

振り返ると、店から部屋への上り口にシャナが立っていた。
どうやらゼラムさんが話していた村の見回りを終え、戻ってきたところのようだ。
ゼラムさんが、シャナに軽く会釈をした。

「シャナ様、おかえりなさい。ご苦労様です」

シャナは静かに笑顔を返してから、僕達3人が座る部屋へと上がって来た。
シャナに気付いた『彼女』は少し嫌な顔をして、慌てて涙を拭った、
そんな『彼女』の傍に腰を下ろしたシャナが『彼女』に語り掛けた。

「あなたが私を好ましく思っていないのは知っている。だけど、これだけはあなたに伝えておきたい」

シャナは言葉を切り、改めて『彼女』をまぶしそうに見つめた。

「名も知らぬ獣人達が殺された事に涙できる今のあなたに、私は敬意を表する。そんなあなただからこそ、救世主はあなたと出会い、あなたを選んだのだと思う。あなたこそ、救世主を救世主たらしめる存在。私には先読みの力は無いけれど、なぜかそれだけは確信出来る」

『彼女』はちらっとシャナの方に視線を送った後、再びそっぽを向いた。
そしてそのまま、シャナに問い掛けた。

「……お前は、昨日もカケルを救世主と呼び、しゅを打倒して欲しい、と話していたな。やはり、お前達からこの世界を奪ったしゅが憎いので、復讐したいという事なのか?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...