179 / 239
第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
179. 旅立
しおりを挟む16日目―――1
翌早朝、まだ空に星々が瞬く時刻、僕、『彼女』、そしてシャナの三人はシャナの家を出て、村と外界とを隔てる結界へと歩みを進めていた。
『彼女』の話によれば、通常、神都は聖空の塔含めて、特に霊力による転移を阻害する結界が張られたりはしていない。
しかし今は、僕と『彼女』という二人の霊力を使用出来る存在が、神都の外で“逃亡中”という状態のはず。
ヨーデの街の時の様に、事前に霊力に対する対策を施されていないとも限らない。
だから僕と『彼女』は、まずは神都の郊外に一度転移して、街の様子を探る事にしていた。
大丈夫そうなら、日の出の時刻直前に聖空の塔直下の庭園へと再度転移、転移出来そうになければ、一旦、リーデルの村に戻ってくる。
僕達は既にそう申し合わせていた。
「聖空の塔直下の庭園で、神様と鉢合わせしたらどうしよう?」
「“門”さえ開けば問題ない。女神は“門”を通れない」
やがて村と外界とを隔てる結界の手前に辿り着いた。
僕は村に残るシャナの方を振り返り、感謝を伝えた。
「色々ありがとう」
「私の方こそ、カケルには感謝しかない。あなたが救世主で良かった」
「僕はまだ世界を救ったりしてないよ?」
「私には分かる。消滅するはずだった私をあなたが救ってくれた。だからきっと、あなたはこの世界も……」
そう話すと、シャナが僕の右手を両手でそっと包み込んできた。
彼女の手の中には、何か小さくて硬い物が握られていた。
「これは……?」
手の中に託された品について問い掛ける間も無く、『彼女』が慌てて僕達を引き離しにかかった。
そしてシャナに詰るような視線を向けた。
「ま、またお前は!」
シャナは素直に僕の手を離すと、一歩下がった。
「守護者よ、単なる別れの挨拶だ」
「別れの挨拶なら、言葉だけで良いはずだ」
『彼女』が抗議の声を上げる中、シャナが僕に囁きを届けてきた。
『私は言葉通り、私の全てをあなたに託す。あなたが願いを込めてその石に触れれば、どんなに離れていようとも、私は必ずあなたの下へ駆けつける』
一方、シャナが僕に近付く事にイライラを拗らせていたらしい『彼女』は、シャナに抗議を続けていた、
「大体お前は、口では私とカケルの仲に割り込まないと言いながら、いつも真逆の行動を取っているではないか」
シャナが小首を傾げた。
「あなたからカケルを奪うような行動は取っていないはずだけど……?」
「自覚が無いのか? 自覚無くそういう行動を取るのは、お前が邪な感情を抱いているからだ」
「人を愛するという気持ちは、邪な感情では無い」
「や、やはりカケルに邪な感情を抱いているのだな!?」
「だから、人を愛するという気持ちは……」
『彼女』とシャナが不毛な論争(?)を繰り広げる中、僕はそっと、託された右手の中の品を確認してみた。
小指の爪の半分くらいしかない小さく平らな小石。
それは浅緑色をした、彼女の瞳と同じ色に輝く美しい宝石に見えた。
シャナの囁きから推測すると、つまり彼女を“召喚”出来るアイテム、という事だろうか?
僕は以前、『彼女』から貰った紫の結晶を盗まれた時の事を思い出した。
この石は紫の結晶よりも遥かに小さい。
普通に落としてしまったらどうしよう?
そんな事を考えていると、再びシャナから囁きが届けられた。
『心配しないで。その石は決してあなたから離れない。懐にでも忍ばせておいて』
見ると、まだ『彼女』とシャナは論争(?)を続けている。
『彼女』と話しながら、同時進行で僕にも囁きを届ける事が出来るのは、さすが精霊というべきか?
僕は言われた通り、その宝石を懐に入れてみた。
すると、まるで磁石の様に身体にその宝石が吸い付くのを感じた。
どんなに動いても決して外れない。
しかし手で触ると、すぐ取れる。
そして決して、地面に落下しない。
僕にとっては、少し不思議で面白い感覚。
つい調子に乗って、色々試していると、それに気付いたらしい『彼女』が怪訝そうな声を掛けてきた。
「カケル? どうしたのだ?」
「あ、ごめんごめん。大丈夫だよ」
僕は慌てて何でもないという感じで、腕をわざと大きく動かして見せた。
しかし『彼女』の表情は、逆に険しくなった。
「カケル……まさかその奇妙な動き、精霊の邪術によるものか?」
そして『彼女』は、再びシャナに詰め寄った。
「見ろ、お前の邪術でカケルがおかしくなっているぞ? 早く術を解け!」
「私は邪術など掛けていない」
このままでは、的外れな会話が再開される。
危険を感じた僕は、慌てて『彼女』の手を引いた。
「さあ行こう。時間が勿体ないよ?」
「そ、そうだな……」
『彼女』はそのまま、引いた僕の手に自分の腕を絡めてきた。
そして少し頬を染めて俯いた。
その様子を目にしたシャナが、呟くのが聞こえた。
「なるほど、これが嫉妬と言う感情……」
その呟きがよく聞こえなかったらしい『彼女』が問い返した。
「む? 何か言ったか?」
「少しあなたの気持ちが分かったから、安心して。これからは、あなたが見ている前では、カケルの手を握ったり唇を重ねたりしない」
「な、な、な、何を言っているのだ、お前は!?」
シャナの不穏な言動に、真っ赤になって再び声を荒げる『彼女』を宥めながら、僕は結界を抜け、村の外へと足を踏み出した。
結界を抜けた瞬間、視界が切り替わった。
湖畔ののんびりした獣人達の村は消え、どこまでも深く濃い緑のジャングルが広がっていた。
リーベルの村が幻想であったかのような錯覚に捕らわれた僕は、思わずシャナに念話を送っていた。
『シャナ……』
『カケル、何かあった?』
すぐに囁きが戻って来た事に少し安心した僕は、思わず苦笑してしまった。
「あ、ごめん。何でもないんだ。ちょっと間違えて……」
シャナと村が幻で無かったかどうか確認の念話を送った、と正直に説明するのは少し気恥ずかしかった僕は、“間違い電話のふり”をする事にした。
『さっき別れたばかりなのに、もう私の声が聴きたくなった?』
『え? いや、そういうわけじゃ……』
『冗談よ。じゃあ気を付けて』
シャナの思わせぶりな囁きに、思わずしどろもどろの念話を返してしまったけれど、とにかく気持ちを切り替えた。
そして隣の『彼女』に声を掛けた。
「さあ、行こう」
僕達は手を取り合い、霊力を展開した。
次の瞬間、僕達は神都の北の橋のたもとに転移していた。
周囲に視線を向けてみたけれど、空が白み始めるこの時間帯、幸い人影は見当たらない。
そして街の中心方向に視線を向けると、天を衝く威容を見せる、あの聖空の塔が聳え立っているのが目に飛び込んできた。
久し振りの神都。
自然と、心の中を様々な想いが掛け巡る。
しかし今はまだその感傷に浸る時ではないはずだ。
気を取り直した僕は、前方の神都中心部に向けて霊力の感知の網を広げてみた。
聖空の塔周囲まで感知網を広げてみたけれど、特に異常は感じられない。
強いて言えば、異常を感じないのが異常、という気がしないでもなかった。
女神は、僕と『彼女』が神都にやってくるとは、予想していなかったのだろうか?
僕は隣で身を固くしている『彼女』に囁いた。
「じゃあ、聖空の塔直下へ転移しようか?」
『彼女』が緊張した面持ちで頷いた。
夜明けまであと10分少々のはず。
シャナの言葉通りであれば、間も無くポポロが“門”を開く事の出来る時間帯。
僕は『彼女』と手を取り合い、再び霊力を展開した。
次の瞬間、聖空の塔直下の庭園に立っていた。
僕は『彼女』と共に霊力を展開しながら、周囲に警戒の視線を送ってみた。
しかし僕達の緊張感とは裏腹に、美しい花々が風に優しく揺れるだけ。
「なんだか、平和だね……」
「油断するな。まだ分からぬ」
最悪、女神か守護者達が待ち構えていると覚悟していた僕は、少し拍子抜けした。
このまま何も起こらなければ、ポポロが開く“門”を通って、彼女に会いに行くだけ。
と、その時……
上空から光輝く何かがゆっくりと降りて来るのが見えた。
それに気付いた『彼女』が呆然とした顔になった。
「主が……」
「もしかして、君の神様?」
僕の言葉が耳に届かないのか、『彼女』は光り輝く何かをただじっと見つめている。
やがてその輝きは、地上すれすれで停止すると、次第にその光を弱めだした。
それと同時に、輝きの中から細身の女性の姿が浮かび上がって来た。
身を包むは、ゆったりとした白く輝く不可思議な衣装。
美しく纏め上げられ、装飾品で彩られた金色の髪は輝きを放ち、
エメラルド色の双眸に優しい笑みを宿し、
しかし有り得ない程に完成され、均整の取れた顔に浮かぶ表情には、少しも温もりを感じる事は出来ず……
女神が直接、僕達に語り掛けてきた。
「久し振りじゃな。アルファ、そして冥府の災厄よ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる