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第六章 神に行き会いし少年は世界を変える
183.出撃
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16日目―――5
「だから僕は、僕のこの力を、この世界の為に使ってみようと思う」
それまで静かに僕の言葉を聞いていたポポロが口を開いた。
「救世主様、そのお言葉、お待ちしておりました。それではこちらへお越しください」
ポポロは僕とセリエを部屋の中央に浮遊するクリスタルの所へと連れて行った。
クリスタルには、聖空の塔とその直下に広がる美しい庭園が映し出されていた。
女神が修復したのであろうか?
その場所に、先程までの戦いの痕跡は見当たらない。
朝日に照らし出された色とりどりの花々が、ただ風に揺れているだけ。
ポポロが、クリスタルの映像を指し示しながら語り出した。
「女神は恐らく、聖空の塔最上階、始原の地と呼ばれる自分の聖域にいるはずです。しかしその周囲は、強固な結界が張られており、塔の外壁側から侵入することは不可能です」
「つまり下から最上階まで、何百mか階段を登るか……或いは、階層を突破しないといけないって事?」
聖空の塔の最上部は、雲間に届いていた。
最下層からその最上層を目指して攻略……とか、よくありそうな話だ。
しかしポポロはにっこり微笑みながら、僕の予想を否定した。
「ご安心下さい。聖空の塔の構造は至ってシンプルです。庭園から内部へ通ずる入り口を潜り抜けると、すぐに大きな広間に出ます。そこに、始原の地に至る転移門を開くための仕掛けが設置されています」
「仕掛けはどうやって作動させるの?」
「通常は、女神の許可を得た者のみが、作動出来ると聞いております」
「じゃあ、僕は無理なんじゃ……」
女神からはっきり“敵”と認識されている僕を、女神がすんなり、自分の聖域に招いてくれるとは思えない。
「仕掛けは女神の力で作動します。つまり女神の力をお持ちの救世主様は、女神の意思とは無関係に、作動させる事が出来るはずです」
「その仕掛けって、見たらすぐ分かる? 作動させるのって、霊力込めたらいいのかな?」
「見たらすぐ分かると聞いています。恐らく作動も、救世主様の霊力に反応する機構に違いないかと」
僕が頷くのを確認して、ポポロは話を続けた。
「始原の地に至れば……あとは救世主様にお任せするしかありません。私達は、聖空の塔内部に干渉する事が出来ないのです」
僕は目を閉じた。
やるべきことは決まっている。
女神ともう一度“会って話す”事。
『彼女』の事、この世界の事。
だけど決裂した場合は……
覚悟は既に決めている。
とは言え、女神と戦って、勝てる気がしないのもまた事実。
色んな想いがないまぜになる中、僕の不安を察したかのように、ポポロが言葉を続けた。
「救世主様。霊力を従えてはいけません。従えようとすれば、女神には勝てません」
「どういう事?」
「この世界、特に始原の地は、女神自身が改変し創造した、女神自身にとって最も都合の良い場所です。その中で、女神の理に従って戦っても勝てません」
「では、どうすれば?」
「女神はこの世界の生命力、強い想いを奪い、それを糧に霊力を従えます。ならば救世主様は、それらをこの世界に与えて下さい。その時、この世界そのものが、救世主様に必ず勝利をもたらします」
と、ポポロがふいに思いだしたような雰囲気で、懐から何かの卵のような物を取り出した。
大きさは僕のよく知るいわゆるニワトリの卵を一回り大きくした位。
ポポロは、ほんのり虹色に輝くその卵のような物を両手に乗せて、僕の方に差し出してきた。
「救世主様、ついでと言っては何ですが、この竜王の核に、救世主様の加護を授けて頂けないでしょうか?」
「竜王の核に僕の加護を?」
聞き返してから、僕はドワーフ達の鉱山の奥で、あの銀色のドラゴンが口にしていた言葉を思い出した。
―――精霊は本来不滅の存在。仮初の肉体が滅んでも、核さえ用意しておけば再生するのじゃ。我の核は、既に汝の召喚者に……託して……
するとこの卵のような物が、あの時銀色のドラゴンが口にしていた“核”ってコトになるのだろう。
しかし僕は誰かに“加護”を与えた事は無いわけで……
戸惑っていると、ポポロが言葉を変えてきた。
「手を触れて、竜気をこの核に与えて下さい。竜王が、新しい身体を得る時期が早まるはずです」
僕はそっと、その卵のような核に手を触れた。
そして再生するであろう“未来の竜王”に想いを馳せながら、竜気を巡らせた。
それに呼応するかの如く、核が纏う虹色の輝きが次第にその色を強めていき……
―――ピシッ
核にヒビが入った!
あれ?
もしかして、竜気流し込み過ぎた……とか?
若干焦りながら、そっとポポロの様子を確認してみたけれど、彼女に慌てた雰囲気は感じられない。
そして……
―――ピィィィ!
核の殻を破って、銀色の幼竜が這い出て来た。
ポポロがその幼竜の背中を優しく撫ぜながら、僕に微笑みかけてきた。
「さすがは救世主様です。通常でしたら、1年近くかかるはずなのですが」
この幼竜が、やがて自分に出会う事になる、あの銀色のドラゴンへと成長する。
『彼女』の存在、
銀色のドラゴンの存在
やはりこの世界は、間違いなく僕が前にいた世界に繋がっていく。
僕はその幼竜に話し掛けた。
「お久し振りです……って、この場合は、復活、お目出とうございます、でしょうか?」
―――ピイィ?
あれ?
なんか、期待していた反応じゃない……
首を捻っていると、ポポロが噴き出した。
「救世主様。いくら古き竜王とはいえ、まだ再生したばかり。記憶の再定着まではもうしばらく時間が必要かと」
……つまり今、ここでピイピイ可愛い声で鳴いているのは、“見た目通り”の幼竜で、あの威厳(?)ある状態に戻るのには、もうしばらく時間が掛かるという事のようだ。
それはともかく……
僕は改めて、浮遊するクリスタルに映し出された聖空の塔とその周囲に広がる庭園の映像へと目を向けた。
ポポロが、そしてニコニコしながら僕達の成り行きを見守っていたセリエもまた、クリスタルへと目を向けた。
僕は一度大きく深呼吸した後、口を開いた。
「じゃあそろそろ“門”を……って、明日の朝まで開けなかったっけ?」
シャナから聞かされていた話によれば、ポポロが外界と繋がる“門”を開けるのは、日の出を挟んだ短い時間だけのはず。
しかしポポロは、ゆっくりと首を横に振った。
「実は“門”を開く事自体は、いつでも可能です。ただ、今までは女神の影響を可能な限り避けるため、女神の力が最も弱まる日の出を挟んだ数分間のみに時間を限定してきました。ですが今日、この世界は解放されます。今更、女神の影響を気にする必要はありません」
「また負けて戻ってくるかもよ?」
口にしてから、僕は苦笑した。
我ながら縁起でもない。
ポポロがまっすぐに僕を見つめてきた。
「有り得ません。あなたは必ず勝利します」
僕はチラっとセリエに視線を向けてから、ポポロに声を掛けた。
「ポポロさん、セリエの事、宜しく頼みます」
「お任せください」
ポポロが何かを歌うように口ずさみ始めた。
それに合わせるかのように、部屋の隅の空間が渦を巻いて歪んでいく。
数秒後、僕が霊力で創り出す転移門とそっくりな見た目の、高さ2m位の“門”が出現した。
足を踏み出そうとした僕に、セリエが飛びついてきた。
「カケル、必ずまた戻って来てね。一緒に皆の所に帰らないと」
「ああ、そうだね。一緒に帰ろう」
「約束だよ?」
「うん」
僕はセリエをそっと離すと、二人に声を掛けた。
「それじゃあ、行ってきます」
“門”を潜り抜けた僕は、女神に一度敗北した、まさにその場所に立っていた。
風にそよぐ美しい花々。
しかしその完成された美しさの中には、本来あるべき瑞々しさ、生命が備えてしかるべき“揺らぎ”は少しも見当たらない。
ただ美しく一様に揺れるさまは、まるでこの世界の有り様そのものに感じられて……
その時になって僕は、塔に入り口が開かれている事に気が付いた。
僕はその入り口を通って、内部へと足を踏み入れた。
入ってすぐの場所は、聞かされていた通り、天井の高い巨大な広間のような空間になっていた。
壁や天井が、神々しさを感じさせる位、ひたすら白く輝きを放っている。
何者かが待ち受けていた。
「また会ったわね、冥府の災厄さん」
数十人の武装した集団と、4人の守護者達を従えた代行者エレシュが、冷たい微笑を浮かべたまま、話し掛けてきた。
「だから僕は、僕のこの力を、この世界の為に使ってみようと思う」
それまで静かに僕の言葉を聞いていたポポロが口を開いた。
「救世主様、そのお言葉、お待ちしておりました。それではこちらへお越しください」
ポポロは僕とセリエを部屋の中央に浮遊するクリスタルの所へと連れて行った。
クリスタルには、聖空の塔とその直下に広がる美しい庭園が映し出されていた。
女神が修復したのであろうか?
その場所に、先程までの戦いの痕跡は見当たらない。
朝日に照らし出された色とりどりの花々が、ただ風に揺れているだけ。
ポポロが、クリスタルの映像を指し示しながら語り出した。
「女神は恐らく、聖空の塔最上階、始原の地と呼ばれる自分の聖域にいるはずです。しかしその周囲は、強固な結界が張られており、塔の外壁側から侵入することは不可能です」
「つまり下から最上階まで、何百mか階段を登るか……或いは、階層を突破しないといけないって事?」
聖空の塔の最上部は、雲間に届いていた。
最下層からその最上層を目指して攻略……とか、よくありそうな話だ。
しかしポポロはにっこり微笑みながら、僕の予想を否定した。
「ご安心下さい。聖空の塔の構造は至ってシンプルです。庭園から内部へ通ずる入り口を潜り抜けると、すぐに大きな広間に出ます。そこに、始原の地に至る転移門を開くための仕掛けが設置されています」
「仕掛けはどうやって作動させるの?」
「通常は、女神の許可を得た者のみが、作動出来ると聞いております」
「じゃあ、僕は無理なんじゃ……」
女神からはっきり“敵”と認識されている僕を、女神がすんなり、自分の聖域に招いてくれるとは思えない。
「仕掛けは女神の力で作動します。つまり女神の力をお持ちの救世主様は、女神の意思とは無関係に、作動させる事が出来るはずです」
「その仕掛けって、見たらすぐ分かる? 作動させるのって、霊力込めたらいいのかな?」
「見たらすぐ分かると聞いています。恐らく作動も、救世主様の霊力に反応する機構に違いないかと」
僕が頷くのを確認して、ポポロは話を続けた。
「始原の地に至れば……あとは救世主様にお任せするしかありません。私達は、聖空の塔内部に干渉する事が出来ないのです」
僕は目を閉じた。
やるべきことは決まっている。
女神ともう一度“会って話す”事。
『彼女』の事、この世界の事。
だけど決裂した場合は……
覚悟は既に決めている。
とは言え、女神と戦って、勝てる気がしないのもまた事実。
色んな想いがないまぜになる中、僕の不安を察したかのように、ポポロが言葉を続けた。
「救世主様。霊力を従えてはいけません。従えようとすれば、女神には勝てません」
「どういう事?」
「この世界、特に始原の地は、女神自身が改変し創造した、女神自身にとって最も都合の良い場所です。その中で、女神の理に従って戦っても勝てません」
「では、どうすれば?」
「女神はこの世界の生命力、強い想いを奪い、それを糧に霊力を従えます。ならば救世主様は、それらをこの世界に与えて下さい。その時、この世界そのものが、救世主様に必ず勝利をもたらします」
と、ポポロがふいに思いだしたような雰囲気で、懐から何かの卵のような物を取り出した。
大きさは僕のよく知るいわゆるニワトリの卵を一回り大きくした位。
ポポロは、ほんのり虹色に輝くその卵のような物を両手に乗せて、僕の方に差し出してきた。
「救世主様、ついでと言っては何ですが、この竜王の核に、救世主様の加護を授けて頂けないでしょうか?」
「竜王の核に僕の加護を?」
聞き返してから、僕はドワーフ達の鉱山の奥で、あの銀色のドラゴンが口にしていた言葉を思い出した。
―――精霊は本来不滅の存在。仮初の肉体が滅んでも、核さえ用意しておけば再生するのじゃ。我の核は、既に汝の召喚者に……託して……
するとこの卵のような物が、あの時銀色のドラゴンが口にしていた“核”ってコトになるのだろう。
しかし僕は誰かに“加護”を与えた事は無いわけで……
戸惑っていると、ポポロが言葉を変えてきた。
「手を触れて、竜気をこの核に与えて下さい。竜王が、新しい身体を得る時期が早まるはずです」
僕はそっと、その卵のような核に手を触れた。
そして再生するであろう“未来の竜王”に想いを馳せながら、竜気を巡らせた。
それに呼応するかの如く、核が纏う虹色の輝きが次第にその色を強めていき……
―――ピシッ
核にヒビが入った!
あれ?
もしかして、竜気流し込み過ぎた……とか?
若干焦りながら、そっとポポロの様子を確認してみたけれど、彼女に慌てた雰囲気は感じられない。
そして……
―――ピィィィ!
核の殻を破って、銀色の幼竜が這い出て来た。
ポポロがその幼竜の背中を優しく撫ぜながら、僕に微笑みかけてきた。
「さすがは救世主様です。通常でしたら、1年近くかかるはずなのですが」
この幼竜が、やがて自分に出会う事になる、あの銀色のドラゴンへと成長する。
『彼女』の存在、
銀色のドラゴンの存在
やはりこの世界は、間違いなく僕が前にいた世界に繋がっていく。
僕はその幼竜に話し掛けた。
「お久し振りです……って、この場合は、復活、お目出とうございます、でしょうか?」
―――ピイィ?
あれ?
なんか、期待していた反応じゃない……
首を捻っていると、ポポロが噴き出した。
「救世主様。いくら古き竜王とはいえ、まだ再生したばかり。記憶の再定着まではもうしばらく時間が必要かと」
……つまり今、ここでピイピイ可愛い声で鳴いているのは、“見た目通り”の幼竜で、あの威厳(?)ある状態に戻るのには、もうしばらく時間が掛かるという事のようだ。
それはともかく……
僕は改めて、浮遊するクリスタルに映し出された聖空の塔とその周囲に広がる庭園の映像へと目を向けた。
ポポロが、そしてニコニコしながら僕達の成り行きを見守っていたセリエもまた、クリスタルへと目を向けた。
僕は一度大きく深呼吸した後、口を開いた。
「じゃあそろそろ“門”を……って、明日の朝まで開けなかったっけ?」
シャナから聞かされていた話によれば、ポポロが外界と繋がる“門”を開けるのは、日の出を挟んだ短い時間だけのはず。
しかしポポロは、ゆっくりと首を横に振った。
「実は“門”を開く事自体は、いつでも可能です。ただ、今までは女神の影響を可能な限り避けるため、女神の力が最も弱まる日の出を挟んだ数分間のみに時間を限定してきました。ですが今日、この世界は解放されます。今更、女神の影響を気にする必要はありません」
「また負けて戻ってくるかもよ?」
口にしてから、僕は苦笑した。
我ながら縁起でもない。
ポポロがまっすぐに僕を見つめてきた。
「有り得ません。あなたは必ず勝利します」
僕はチラっとセリエに視線を向けてから、ポポロに声を掛けた。
「ポポロさん、セリエの事、宜しく頼みます」
「お任せください」
ポポロが何かを歌うように口ずさみ始めた。
それに合わせるかのように、部屋の隅の空間が渦を巻いて歪んでいく。
数秒後、僕が霊力で創り出す転移門とそっくりな見た目の、高さ2m位の“門”が出現した。
足を踏み出そうとした僕に、セリエが飛びついてきた。
「カケル、必ずまた戻って来てね。一緒に皆の所に帰らないと」
「ああ、そうだね。一緒に帰ろう」
「約束だよ?」
「うん」
僕はセリエをそっと離すと、二人に声を掛けた。
「それじゃあ、行ってきます」
“門”を潜り抜けた僕は、女神に一度敗北した、まさにその場所に立っていた。
風にそよぐ美しい花々。
しかしその完成された美しさの中には、本来あるべき瑞々しさ、生命が備えてしかるべき“揺らぎ”は少しも見当たらない。
ただ美しく一様に揺れるさまは、まるでこの世界の有り様そのものに感じられて……
その時になって僕は、塔に入り口が開かれている事に気が付いた。
僕はその入り口を通って、内部へと足を踏み入れた。
入ってすぐの場所は、聞かされていた通り、天井の高い巨大な広間のような空間になっていた。
壁や天井が、神々しさを感じさせる位、ひたすら白く輝きを放っている。
何者かが待ち受けていた。
「また会ったわね、冥府の災厄さん」
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気になった方は是非読んでみてください。
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