【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

208.推測

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第049日―3


十数分程歩くと、大通りから少し入った路地裏に建つ、あの古民家風の建物の前に到着した。
以前第66話訪れた時と変わらないたたずまい。
しかしその建物を目にしたメイが、何故か怪訝そうな顔になった。
それが少し気になった僕は、メイに問い掛けた。

「どうしたの?」
「ううん、何でもない」

僕にそう言葉を返した後、メイはハーミルに、念押しするかのように問い掛けた。

「ここが、カケルの腕輪を作ってくれたお店なの?」
「うん、そうよ」

ハーミルは、メイに言葉を返しつつ、扉に手を掛けた。
しかし鍵がかかっているのか、どうやら扉は開かないようだ。
僕の方を振り返ったハーミルが、残念そうな顔になった。

「やっぱり閉まっているわね」

軽い落胆を感じつつ、僕は隣に立つメイが、何故かハーミルを凝視している事に気が付いた。
ハーミルもメイの視線に気付いたらしく、メイに顔を向けた。

「ん? 私の顔に何かついている?」

メイは軽く首を横に振ってから、ハーミルに言葉を返した。

「そういうわけじゃないんだけど……ハーミルって、このお店に最後に来たのはいつ?」
「いつって……カケルと一緒に来た時だから……」

指折り数えるハーミルに、メイが再び問いかけた。

「ここ最近は、来た事無かったの?」
「カケルと来たのが最後だけど……」

そう口にしながら、ハーミルの目が少しだけ細くなった。

「どうして、そんな事聞くの?」
「気にしないで。ただの好奇心よ」

メイはハーミルの視線を軽く受け流すと、そう答えた。

結局僕達はその後、近くのカフェでお茶をしてから家路についた。



夕食後、僕は一人、自室のベッドの上で横になっていた。
自然と頭をよぎるのは、今日の午後訪れた古民家風の建物と、引退して故郷に戻ったと聞かされたあの“謎の店主”の事だ。
仮にあの“謎の店主”が、今も『彼方かなたの地』で魔神封印の要となり続けている『彼女サツキ』が口にしていた『記憶を捨て、呼ばれて外の世界で審判を強いられる人格第192話』だとしたら……

当然ながら、400年前、僕と出会った事を覚えているはずで、
そして『彼女サツキ』が僕に、“守護者としての力”、すなわち魔神から奪った力の一部ないし、全部を継承させた可能性が高いわけで、
ならば何故、僕と直接接触しようとしないのか、謎が深まるわけで、
その前に、どうやって自分の持つ力を僕に継承させたのか、その理由も含めて、見当もつかないわけで……って、いや待てよ?

僕は自分にとっての日本での最後の記憶、そしてこの世界に来て最初の記憶第1話を思い返してみた。


突然襲って来た衝撃で階段を踏み外して、気付いたらこの世界のアルザスの街近くの草原で目を覚ました。
その後、何故か不死身になっている事、つまりこの力をいつの間にか“継承”している事に気が付いた。


さらにあの数千年前の世界へと召喚される直前第128話、イクタスさんに『彼女サツキ』について尋ねた時の、彼の返答も思い起こされた。


―――生きてはおる。が、それしか言えぬ。すまぬな……


あの時第129話、イクタスさんの顔には、確かに“苦悩”としか表現出来ない表情が浮かんでいた。
もしかすると、日本での最後の記憶、あの突然の衝撃の際、実は僕は……


僕の中で、ある突拍子もない、だけど今の事態を説明出来そうな推測が浮かび上がって来た。
しかしその考えが形を成し、まとまる前に、部屋の扉がノックされた。


―――コンコン


同時に小さな声が廊下側から掛けられた。

「カケル。入っても良い?」

扉を開けると、メイが立っていた。
また寂しくなって、話をしに来たのかもしれない。

「良いよ、入って」

部屋にメイを招き入れ、僕は彼女と並んでベッドのへりに腰かけた。
僕より先に、メイが口を開いた。

「カケル。今日の午後行ったあのお店の事、もう少し詳しく教えてくれない?」
「あのお店って、僕の腕輪を作ってくれたお店の事?」
「うん」
「どうしたの? 何か気になる事でも?」
「うん、ちょっと……」

メイの様子に少しだけひっかかりを感じたけれど、僕はとりあえず、以前、ハーミルの案内であのお店を訪れた時の事を詳しく話して聞かせた。
話を聞き終えたメイは、少しだけ考える素振りを見せた後、問い掛けてきた。

「ねえ、カケルのその腕輪って、その店主が作ってくれたのよね?」
「うん、多分」

僕があの謎の店主に紫の結晶を渡し、その後、完成した腕輪を同じ謎の店主から受け取った。
正確には、謎の店主は奥に十数分ほど引っ込んでいたから、そこに別の職人さんがいた可能性……は排除出来ないけれど。

「だけど数千年前の世界でカケルが出会った“守護者アルファ”も、同じ腕輪を身に着けていた」
「うん」
「じゃあその店主が、カケルの言う、この世界にいるはずの“もう一人のサツキ”って事になるんじゃないの?」
「でも確証が無いよ。それにもしそうだとすると、なんでわざわざ認識阻害のローブなんて着込んでいたのか……」

先程、心の中に浮かび上がってきていたあの突拍子もない推測へと、再度回帰しそうになったところで、メイがおずおずといった感じで切り出した。

「ハーミル、少し嘘ついているかも。だって彼女、4日前にもあのお店を訪れているわ」
「えっ?」

僕はメイの意外な言葉に驚いた。

「いや、あのお店、4日前には閉まっていたはずじゃ……」

ミーシアさんの話通りなら、僕がこの腕輪を受け取った日、つまり約1ヶ月前だけど、その直後に謎の店主は店を閉め、故郷に帰ったはず。

「えっとね……」

メイが、若干バツの悪そうな雰囲気になった。
そして4日前第144話の夕方、魔力の感知網でハーミルの行動を追跡してしまった事を説明してくれた。

「その……悪気は無かったんだけど、カケルがいなくなっちゃて、すごく精神的に不安定になっていたから……」

項垂うなだれたメイに、何か声を掛けようとした矢先、いきなり扉がノックされた。


―――コンコン


そして掛けられる声。

「カケル、いる? メイがいないんだけど、そこに来ていない?」

今、話題にしていたハーミル本人だ!
僕はとっさに、言いつくろってしまった。

「いや、来てないけど。どっかお手洗いにでも行っているんじゃないかな」

言葉を返してしまってから後悔した。
しかし今更修正出来ない。
僕はメイの方を振り向いて聞いてみた。

「転移の魔法で自分の部屋に戻れない?」
「えっ? でも魔法使えば、多分、廊下にその光が漏れちゃうわ」

メイもかなりあせっていた。
廊下から再びハーミルが声を掛けてきた。

「開けるよ?」

残念ながらこの部屋の扉には、第203話はついていない!

「ちょっと待って! 片付けるから」

そしてメイに小声でささやいた。

「とにかく、どこでもいいから隠れて!」

メイは小さくうなずくと、ベッドの中に潜り込んだ。

「えっ? そこ?」

一瞬戸惑ったけれど、とにかくハーミルを戸口で追い返してしまう事が出来れば、あとは僕の転移能力でメイを部屋に送り届けるとか、色々方策はある……はず!
気を取り直した僕は、部屋の扉に向かった。
そして入り口から中を覗き込まれないような位置に立って、扉を開けた。

「どうしたの?」
「それが、メイが部屋にいないのよ……」

話しながら、ハーミルが怪訝そうな顔をした。

「って、カケルこそどうしたの?」

やはり僕の立っている場所が、不自然に思われたのかも?
しかし今は、ハーミルを可及的速やかに追い返すのが最優先なわけで。

「いや、ちょっと散らかっているからさ。また後でハーミルの部屋に行くよ」

ハーミルは一瞬考える素振りを見せた後、見事な身のこなしで僕の脇をすり抜け、部屋の中に入ってしまった。

「ちょ、ちょっと、ハーミル!?」

ハーミルは僕の部屋の中をぐるりと見渡してから、なんだか拍子抜けしたような顔になった。

「何よ、別に散らかってなんかないじゃない」

話しつつ、ハーミルが僕のベッドの上に勢いよく腰を下ろした。
そこはちょうど、小さく丸くなって隠れているメイの直上だったようで……


―――きゃっ!


「きゃっ?」
「あ、ハーミル、ちょっと待って!」

止める間も無く、ハーミルはベッドの上の掛け布団を、思いっきり取り去った。


……うん。
僕は、というか、僕達は何かやましい事をしていたわけでもないし、次回、別段、騒ぎにはならない……はず。


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