【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

209.天秤

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第049日―3


「あ、ハーミル、ちょっと待って!」

止める間も無く、ハーミルがベッドの上の掛け布団を、思いっきり取り去った。
そこには当然、小さく丸くなっているメイがいるわけで……

「……ハーミル、おはよう」
「メイ、おはよう……じゃな~~い!」

ハーミルの絶叫が響き渡った。



数分後、うなだれて座る僕達二人の前に、ハーミルが仁王立ちしていた。

「で、何していたのかしら、お二人さん?」

僕は努めて平静を装いながら、言葉を返してみた。

「何もしてないよ」
「何もしてないなら、なんでメイが来てないって嘘ついたの?」
「いやその……つい……」

まさか、ハーミルが嘘をついているんじゃないかって話をしている最中に、当の本人がやってきたから、慌てて、取りつくろった返答をしてみただけ、なんて説明するわけにいかない。
それにこの状況下だと、ハーミルこそ嘘ついていたんじゃないの? って言い返せば、話がエスカレートして、もはや収拾つかなくなるだろう。
というわけで、僕は結果的にしどろもどろな言葉しか返す事が出来ないわけで。

ハーミルが煮え切らない僕にではなく、メイに問い掛けた。

「大体、なんでメイが、カケルの布団の中にいるのよ?」
「ハーミルが……急に来たから……」

どうやらこちらも、僕とあまり変わらない精神状態のようだ。
ただしメイの場合、ハーミルが嘘をついているのでは? と思ったきっかけが、自分のストーキング行為だったわけで、ある意味、僕よりも動揺しているのかもしれない。

ともあれ、ハーミルの顔が険しくなった。

「ま、まさか、二人して……!?」

ハーミルの言葉に、メイがチラッと僕の顔を見てから、真っ赤になってうつむいた……って、え?

「ちょ、ちょっと、メイ!?」

ここは別段、赤くなってうつむく場面じゃないよね?
慌てる僕を尻目に、ハーミルの瞳にみるみる内に涙が溜まっていく。

「二人とも……酷いじゃない……」
「ハーミル?」
「何も、私の家の中でそんな事しなくても……」
「えっ?」

メイの様子を目にして、すっかり何かを勘違いしてしまったらしいハーミルをなだめるのに、それからたっぷり、30分以上掛かってしまった。


ようやく落ち着いたハーミルが、改めて問い直してきた。

「……つまり他愛も無いお喋りしていたら、急に私がたずねてきたから、勢いでメイは来てないって答えちゃったっていうのね?」
「そ、そうだよ。ごめんね。メイと二人っきりで部屋にいるとこ見られたら、ハーミルが誤解するかもって思って」
「本当に誤解されるような事はしてないのね?」
「してない。してない。ね、メイ」

僕は同意を求めるため、メイに話を振った。

しかし……

「うん、別にやましい事はしてないわ」

そう言うとメイは、僕にそっと身を寄せてきた。
それを目の当たりにしたハーミルのテンションが、再度跳ね上がる。
対照的にメイの方は澄まし顔のまま。

……

もしかしてメイ、わざと?
ハーミルの反応見て楽しんでいる、とか?

「メイ。ここはふざけていい場面じゃないよ」

ささやきながら、メイをそっと引き離した。
しかしメイは軽く落胆したような顔で、囁き返してきた。

「別にふざけているわけじゃないんだけど」

一方、僕達の様子を見ていたハーミルが、再びうつむいて、今度はとうとう、大粒の涙をポロポロ流し始めた。

「私だって、カケルが別の世界に連れ去られて……全然寝られなくて……なのに……」

僕は慌てて、ハーミルに言葉を掛けた。

「ハーミル? ちょっと、本当にごめん。何だか分からないけど、きっと僕が悪いから、お詫びにハーミルの言う事、何でも聞くよ」

うつむいていたハーミルの肩が、ぴくっと動いた。

「何でも?」
「うん、何でも。ハーミル、何か僕にしてもらいたい事って無いかな?」

ハーミルが上目遣うわめづかいになった。

「じゃあ明日は、一日私に付き合って」
「なんだ、それ位。お安い御用だよ」
「メイ抜きで」
「いいよ」

ホッと一息つこうとしたところで、メイに袖を引っ張られた。
視線を向けると、今度はメイの瞳に涙が溜まっている。
僕はメイに囁いた。

「ハーミルは明日で休暇終わりだからさ。最終日くらい、ハーミル孝行させてね。その代わり明後日からは、ちゃんとメイのために時間作るから」


こうして、すっかり機嫌が直った感じのハーミルと、逆にしょんぼりしてしまったメイの二人は、それぞれ自分達の部屋へと戻って行った。


――◇―――◇―――◇――


場面変わって、深夜の結社イクタス本部……

巨大なクリスタルが浮遊する広目の書斎のような場所で、サツキ、イクタス、そしてミーシアの三人が話をしていた。

「ほう……カケルが“謎の店主”に関心を示していた、と?」

イクタスの言葉に、ミーシアがうなずきを返した。

「ええ、なんだか妙に、“謎の店主”の事を知りたがっていたわ」

ミーシアは結社イクタスの面々に、今日の午後、カケル、ハーミル、メイの三人が冒険者ギルドまで、自分を訪ねて来た事を既に伝えていた。

「このタイミングで“謎の店主”にこだわりを見せる、と言う事は、やはりカケルの拉致された世界での経験が影響している、と見るのが妥当じゃろうな」

そこで言葉を切ったイクタスは、サツキの方を向いた。

「サツキ。そろそろ真実をカケルに……」

それをサツキがやんわりとさえぎった。

「その件に関しては、私に一任してくれるという事になっていたはず」
「まあ、それはそうじゃが……」

イクタスが言いにくそうに言葉を継いだ。

「しかしいずれ分かる時が来るぞ? それが先延ばしになればなるほど、お互いつらくなるとは思わぬか?」
「私に万一の事があっても、『彼方かなたの地』にはもう一人の私がいる。カケルならきっと大丈夫だ」

イクタスはなお少しばかり何かを言いたそうな雰囲気を見せた後、話題を変えてきた。

「ところでサツキ。カケルに与えたあの腕輪、実際はどのような由来なのじゃ?」
「ただ、紫の結晶と組み合わせる事で、所持者の霊力を飛躍的に増大させる事が出来る代物しろもの、という事しか分からぬ」
「おぬしが元々所持しておったのじゃろう? 自分で造ったわけではないのか?」
「どうであろうな……? 霊力を保持しておった頃の私なら、造ろうと思えば造れたとは思うが。実際なぜ私があの腕輪を所持していたのかは、さっぱり思い出せぬ」

二人の会話を黙って聞いていたミーシアが言葉を挟んできた。

「カケル君、私達に全てを話してくれているわけじゃ無いわよね?」

イクタスが、ミーシアの言葉を肯定した。

「そうじゃろうな。カケルの判断と言うより、あのシャナと言う娘の判断と思うが」
「シャナちゃん、見た目とは裏腹に、なかなかしたたかな子ね」
「わしも全く同じ意見じゃ。我等との対応、『彼方かなたの地』への扉が閉まる前後の行動、いずれを取っても、ただの15歳のエルフの娘では無い事は、明らかじゃ」
「彼女とは、ゆっくり話がしてみたいわね……」
「ちと機会を作ってみるとするか……」
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