【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

217.確認

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主人公のあずかり知らない所で、話が勝手に進んで……


――◇―――◇―――◇――


第051日―7


午前中に引き続き、再度自身の区画を訪れたハーミルを、シャナは快く迎え入れた。

「ハーミル、どうしたの?」
「シャナ。実は聞きたい事があって!」

入ってくるなり、いきなり前のめりになっているハーミルの様子に、シャナは軽い違和感を抱いた。

「落ち着いて。慌てなくても、私はどこにも行かない」

ハーミルが少しバツの悪そうな顔になった。

「ごめんね、急に」
「構わない。それで?」
「えっと……」

一旦言葉を切ったハーミルは、少しの間、何かを考える素振りを見せた後、言葉を継いできた。

「あなたとカケルって、付き合っていたり……しないよね?」
「付き合う?」
「そう、こ、恋人同士? みたいな」

急にどうしたのだろうか?

とりあえずシャナは、一般論に置き換える形で言葉を返してみた。

「恋人同士とは、恋愛感情を軸にした特別な関係をお互いの間で形成し、お互いを束縛しあうという事? それなら私とカケルは、そういう関係には当てはまらない」
「? ちょ、ちょっと難しいけど、要するにシャナはカケルに対して、特別な感情を持ってはいないって事よね?」
「カケルはともかく、私にとってはカケルが全て。そういう意味では、私はカケルに対して、特別な感情を持っている」
「そっか。良かった……って、ええっ!?」

ハーミルが大きくった。
まあ、シャナにとっては想定内の反応だ。
とりあえず、そのままハーミルに言葉を掛けた。

「どうしたの?」
「どうしたのって……それって、カケルの事、好きって事でしょ? その……異性として、みたいな感じで……」
「私がカケルに対して特別な感情を持っている。それを言い換えれば、愛という言葉になる。ただそれだけの話」
「……カケルは、それを知っているの?」
「さあ……? でもカケルはきっと、私の事を恋愛対象としては見ていない。カケルには……」

言いかけて、シャナは考えた。

精霊である自分と違って、人間達は愛する者を独占したがる傾向にある。
ハーミルは自分の見るところ、救世主カケルに対して相当程度強い愛情を抱いているようだ。
しかし当の救世主カケルは、あの守護者サツキと相思相愛の関係下にある。
その事をここでハーミルに伝えても、余計な軋轢あつれきを生じさせるだけで、全く意味は無いであろう。
それにわざわざ自分が守護者サツキのために、救世主カケルに言い寄る女性を排除する役目を買って出る義理もないわけで。

だからシャナは、自分の気持ちのみをハーミルに伝えることにした。

「安心して。私はカケルを独占したいとか、そういう感情は持っていない。ハーミルがカケルを好きなら、決してその邪魔はしない」
「それは……私がカケルと付き合っても気にしないって事?」
「私は気にしない。人を愛するという感情はとても素敵。世界を救う原動力にも成り得る」

守護者サツキは救世主カケルを愛したからこそ、自ら、魔神封印のかなめとなる道を選んだ。
自分も救世主カケルを愛しているからこそ、消滅する事もいとわず、全てを彼に捧げる覚悟を持つ事が出来た。

とはいえ、そうした自分の気持ちは当然の事ながら、ハーミルには伝わってはいないはずで……

果たして、リズムを狂わされた感じのハーミルが、しどろもどろで言葉を返してきた。

「そ、そう? え~と……」

シャナは構わず問い掛けた。

「それより、急にどうしてそんな事を聞きに来たの?」

ハーミルは一度大きく深呼吸してから、意外な――もちろん、シャナにとってという意味だけど――言葉を口にした。

「私、カケルと付き合っているの」

そして彼女は耳まで真っ赤にして、うつむいてしまった。

ハーミルの言葉とその様子を目にしたシャナの目が、自然に鋭くなった。
シャナの見るところ、救世主カケルと守護者サツキは、お互い強い想いで結びついていた。
救世主カケルの性格からして、同時進行で複数の相手との間で愛情をはぐくむ事は出来そうにない。
するとこれには、何か裏が有るという事になる。
無いとは思うけれど、万一、救世主カケルの身に危険が及ぶ話かどうかは、一応確かめておくべきだ。

シャナはつとめて何でもない風に、言葉を返してみた。

「そう。それは構わないのだけれど。カケルはその話、承知しているの?」

話しながら、シャナはそっとハーミルの手を取り、自身の精霊としての力を展開した。
相手に触れ、精霊の力を使う事で、シャナは相手の言葉に嘘や悪意が含まれていないかどうかを見極める第173話事が出来る。

「えっ?」

シャナの言葉と行動の意味をはかりかねたらしいハーミルが、戸惑ったような様子を見せた。
お互いの間を精霊の力が巡り、シャナはハーミルの言葉が真実では無いにせよ、悪意は一切、含まれていない事を確認する事が出来た。
という事は、これは何か事情があって、ハーミルが救世主カケルと恋人同士であるという芝居を演じる――救世主カケルがその話を承知しているかどうかまでは分からないけれど――事になった、と判断してよさそうだ。
いずれにせよ、守護者サツキにとってはどうだか知らないけれど、少なくとも救世主カケルにとっては危険な話ではない。

シャナはハーミルの手を離した。

ハーミルがおずおずと問い掛けてきた。

「今のは?」
「おまじないみたいなもの。気にしないで」

シャナはにっこり微笑みながら、言葉を続けた。

「それよりこれは、あなたにとって良い機会」
「機会? 何の?」
「最初はうつわだけでも、中身を満たせば本物になる事もある。あなたの本当の気持ちをカケルに伝える大義名分が出来た」
「な、な、な!?」

ハーミルが素っ頓狂な声を上げた。

「私はその……別段カケルの事が、す、好きってわけじゃ……あ、違った! わ、私はカケルと付き合っていて、か、か、彼女なわけで……あれ?」

すっかり調子が狂ってしまったらしいハーミルは、別れの挨拶もそこそこに、シャナの区画を退出していった。



「どうであった?」

行きとは対照的に、すっかり大人しくなって帰ってきたハーミルに、ノルンが声を掛けた。

「話は聞けたわ……」

ハーミルが、シャナとの会話の一部始終を説明してくれた。
ハーミルの話を聞いたノルンは少し驚いた。
どうやらシャナは、ハーミルとの短い会話の中で、今回の計画の一部を見抜いたようであった。

「シャナと言う娘、中々したたかな面を持っているな」



ノルンは計画について、ハーミルと、より詳細な打ち合わせをした後、今度はクレアの区画へと向かった。
事前にノルンの来訪に気が付いていたらしいクレアが、キラや侍女達と共に、区画の外で出迎えてくれた。

「ノルン様、ようこそお越し下さいました」

臣礼を取るクレア達に、ノルンは笑顔を向けた。

「クレア。堅苦しい礼儀は無用にして欲しい。今日はそなたと、ゆるりと話をしに参っただけだ」


中に入り、ソファに腰を下ろしたノルン達の前に、コイトス産のジュースや果物が並べられた。
ノルンとクレアは、ひとしきり、昔一緒に遊んだ話などで盛り上がった。
自然な話の流れの中で、ノルンはさりげなく切り出した。

「ところでクレアは、誰か想い人はいないのか?」
「想い人、ですか?」

クレアは赤くなってうつむいた。

「その様子だと、誰か意中の人物がいるようだな?」

もしクレアに、カケルでは無い、誰か別の想い人がいれば、話は簡単になる。
ノルンはそう考えたのだが……

「はい。もう心に決めた方はおります」
「そうか。それはコイトスのお人か?」

しかしノルンの期待も空しく、クレアはあっさり首を横に振った。

「違います。陛下もノルン様もよくご存じのお方です」

ノルンは心の中で嘆息した。

考えてみれば、父ガイウスはクレアに、機会を作っては、カケルと一緒に過ごせるように仕向けてきた。
クレアは箱入り娘。
小さい頃から、家族以外の男性と接する機会はほとんど無かったに違いない。
そんなクレアの心の中で、カケルの存在が大きくなるのに、時間はかからなかったのであろう。
その恋路を今から妨害する形になるノルンは、心の中でクレアに謝罪した。

「例えば、だが……その想い人に、他に好きな女性がいると分かればどうする?」


ノルンの問い掛けに、その場にいた者達が一斉に緊張した。

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