【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
218 / 239
第七章 忍び寄る悪夢

218.敬愛

しおりを挟む
主人公のあずかり知らない所で、話が勝手に進んで……


――◇―――◇―――◇――


第051日―8


「例えば、だが……その想い人に、他に好きな女性がいると分かればどうする?」

ノルンが何気ない感じで口にしたその言葉に場が緊張する中、クレアの侍女、キラがいち早く反応した。

「ノルン様! カケル様にはそのような女性……」
「キラ!」

クレアが慌てた感じでキラをたしなめた。

とりあえず知りたい情報――クレアがカケルに対して抱いている感情――を知る事は出来た。
この辺が切り上げ時かもしれない。

そう考えたノルンは、クレアとキラに笑顔を向けた。

「少し興味本位で聞いてみただけだ。気にしないでくれ。どれ、そろそろ私は戻るとしよう」

そう口にしながら腰を浮かせかけたところで、クレアが静かに語り出した。

「もし、そのお方が他に好きな方がいらっしゃれば、待つと思います」
「待つ? もしかしてその想い人が、そなたに振り向いてくれるまで待つ、と言う意味か?」
「違います。あ、もちろん、振り向いて下さったら嬉しいですが、そのお方が他に好きな方がいらっしゃれば、その邪魔をしたいとは思いません」
「ならば、何を待つのだ?」
「私の、そのお方に対する想いが消えるまで、ただひたすら待つと思います」

カケルとクレアの婚儀の話は政略性の高い話。
コイトス側も、それは認識しているはず。
だからクレアもカケルに対して、そこまで強い想い入れは持っていないであろう。

ここへ来るまでは、そう考えていたノルンは、クレアの言葉に少なからず衝撃を受けた。

クレアのカケルに対する想いは、自分の想像以上に純粋で強いものであるらしい。
それを自分は、自分の都合――親友や妹の傷つく姿を見たくない――だけで、妨害しようとしている。

急に自分が小さく感じられ、その事が気恥ずかしくなったノルンはそのまま席を立った。

「今日はクレアと久し振りにゆっくり話せて楽しかった」
「いえいえ、クレアの方こそ、ノルン様とお話しできて楽しゅうございました」

クレアも立ち上がり、ノルンを見送ってくれた。
クレアから屈託の無い笑顔を向けられたノルンは、足早にその場を後にした。


――◇―――◇―――◇――


一方、メイを送り出し、ベッドに潜り込んだ第215話カケルの方は……


メイが部屋を去り、一人でベッドに寝転んでいた僕は、何とはなしにシャナの事を考えていた。
自分は帝都でこうして休暇を楽しんでいるけれど、彼女はガイウスの軍営に残っている。
あっちでうまくやれているだろうか?
自分よりよほどしっかりしているとは言え、やはりここは、彼女にとっては異世界。
心細かったりするかもしれない。
便りが無いのは元気な証拠、とは言うものの、彼女の事が気になった僕は、念話を送ってみた。

『シャナ、聞こえる?』

すぐに念話が返ってきた。

『救世主。どうしたの?』
『いや、なんとなく元気かなって』
『もしかして、私の声が聞きたくなった?』
『そういうんじゃ無いんだけど……』

返しながら、僕は苦笑した。
まあ、気になって、こうして念話で呼びかけている時点で、声が聞きたくなった、と言えなくもないのだが。

『困った事とかない?』
『大丈夫。皆、良くしてくれている。救世主は休暇を楽しんでいる?』
『うん、おかげさまで。でもごめんね。シャナは留守番だし、退屈でしょ?』
『そんな事は無い。時々この世界の精霊達と語り合ったり、クレアやハーミル達と楽しく過ごしたりしている』
『それなら良かった。今度機会を見つけて、この世界、色々案内するよ』
『ありがとう』
『そうそう、帝都に戻ってから、僕の腕輪を作ってくれたお店に行ってみたんだけど……』

僕はもう一人のサツキかもしれない謎の店主に会うため、古民家を訪れた時の事ついて、シャナに説明した。

『……そんなわけで、もう一人のサツキに関しては、謎のままなんだ』
『そう……』

そのまま少し何かを考えている雰囲気が伝わってきた後、続きの念話が届けられた。

『救世主は、まだ守護者サツキの事を愛している?』

いきなりな質問!
少し言葉に迷った後、結局、素直な気持ちをそのまま念話で返す事にした。

『そうだね。彼女はやっぱり、僕にとっては特別な存在かな』
『そう……』
『でもどうして、突然そんな事を聞くの?』
『救世主の気持ちを再確認してみただけ』
『なんか、改めてちゃんと口にすると照れるかな』
『照れる? そうか、人間は愛に関して、照れたり、嫉妬したりする』
『シャナも好きな人出来たらそうなるよ、きっと』
『私にとっては、救世主が特別な存在。でも照れたり嫉妬したりはしない。もっとも、救世主と守護者サツキが、目の前で手を繋いだり口付けを交わしたりすれば、少しは心がざわつくけれど』
『えっ?』

どういう意味だろう?

僕は、シャナが時折向けてくる親愛の情は、単に“救世主”という存在に対する憧憬、あるいは敬愛といった感情、と理解している。
しかし今の言い方だと、シャナが僕とサツキに、普通に嫉妬する事もあるような……
それって、シャナが僕の事を普通にす……あ、いや、でも、例えばある芸能人に夢中なファンなら、その時点で自分に彼氏彼女がいても、その芸能人が結婚したりすると騒いだりするし、必ずしも嫉妬の裏に、恋愛感情は必要ない……はず。

そんな事を考えていると、シャナが念話を届けてきた。

『なるほど。だから救世主は、他の女の子の気持ちに気付かない』

あれ?
もしかして、今考えていた事が、シャナに伝わってしまった?
若干の気恥ずかしさを感じつつ、一応、聞いてみた。

『それは、どういう……?』
『気にしないで。そうそう、多分明日あたり、ノルンかハーミルから、救世主に面白い話が持ち込まれるはず』
『面白い話?』
『具体的には、彼女達に聞いてからのお楽しみ』

どんな話だろう?
まあ、明日になれば分かるなら、楽しみ(?)に待つとするか。

『夜も更けてきた。救世主もそろそろゆっくり休んで』
『今夜はありがとう。シャナと久し振りにゆっくり話せて楽しかったよ』
『感謝するのは私の方。もし寂しくなったら私を呼んで。添い寝でも何でもしてあげる』
『こらこら、あんまり人をからかっちゃダメだよ』
『からかってはいないのだけど。まあいいわ。おやすみ』
『えっ? あ、おやすみ』

目を閉じると、一日思いっきり遊んだ疲れが一気に押し寄せてきた。
僕はそのまま眠りに落ちて行った……
……



第052日―1


翌朝、僕とメイが朝食を食べていると、家政婦のマーサさんが来客を告げに来た。

「ノルン様がお越しです」

急いで玄関口に向かうと、ラフな服装のノルン様が一人で立っていた。
慌てて臣礼を取る僕に、ノルン様が声を掛けてきた。

「そうかしこまらないでくれ。今日はそなたとアルメイに少し話があって来ただけだ」
「話、ですか?」

昨夜のシャナとの会話が、自然に思い起こされた。

今日あたり、ノルン様かハーミルから、僕にのもとに面白い話が持ち込まれるって教えてくれたっけ?

「まだ食事中であろう? 応接室で待つ故、ゆっくり済ませてから来てくれ」

気さくな笑顔を浮かべたノルン様は、そのまま家政婦のマーサさんに案内されてその場を去って行った。
朝食の場に戻った僕は、メイにささやいた。

「ノルン様、何か話があるって。食事が終わったら行ってみよう」



手早く朝食を終えた僕とメイは、その足で応接室へと向かった。
応接室の中、ノルン様は一人で僕達を出迎えてくれた。

「カケル、メイ、せっかくの二人の休暇を邪魔してすまない」

ノルン様に促され、彼女と並ぶようにソファに腰かけた後、僕はとりあえずたずねてみた。

「何かお話があるとか」
「ちょっと二人に、相談があるのだ」

そしてノルン様は少し声を潜めて話を続けた。

「実はな……」


そう前置きしたノルン様は、僕にとっては青天の霹靂のような内容を口にした。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...