【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

227.驚愕

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第053日―4


勝利を確信していたナイアの剣は、まさにエンリルの心臓を貫く寸前、予想もしない形で突き入れられてきた第三者の剣によってはじかれ、空を切った。
同時に、タリスマンに反射され、聖なる力が加えられた魔力もエンリルのすぐ傍を通過し、床を破壊しただけに終わってしまった。

反動で崩しかけた態勢を素早く立て直しながら、横槍を入れてきた第三者が何者であるかを確認したナイアは、激しい違和感に襲われた。
横槍を入れてきたのはヒエロンだった。
ナイアの知るヒエロンは、ヤーウェンの僭主であり、つまるところ単なる政治家のはず。
剣や魔法の世界で命のやり取りなんかをしてきたタイプでは無いはず。
しかし最初に黒い水晶を狙ったダガーを叩き落す事が出来たのはともかく、今の攻撃に介入出来たのは明らかに異常な状況だ。
まるで最初から、追い込まれたエンリルが急所をずらして貫かれる方を選択し、ナイアの剣がそれに対応して、軌道を変更する事まで予見出来ていたかのような……?

ナイアはヒエロンを思いっ切り睨みつけた。

「あんた一体……」

しかし言葉の途中で、ナイアは大きく目を見開いた。

「まさか……」

ヒエロンがナイアに言葉を投げかけた。

「これで私が一般人ではない、と認めてもらえるかな?」

ヒエロンの左目が、金色こんじきの光を放ちながら輝いていた。
ナイアはそこに、勇者のみが与えられるはずの聖なる力を感じ取った。

間違いない。
あの左目は聖具!
一体、どうなっている?
もしやまだ、幻惑の檻の中?

混乱するナイアに、不敵な笑みを浮かべたままのヒエロンが語り掛けてきた。

「最初の勇者ナイアよ。改めて挨拶しよう。私が3人目だ」



メイと共に事の成り行きを見守っていた僕は、ヒエロンの言葉に驚いた。


―――私が3人目だ


ヒエロンは確かにそう告げてきた。
僕はヒエロンに声を掛けた。

「ヒエロンさん、3人目って……?」

ヒエロンが僕に顔を向けてきた時、彼の左目からは既に、金色の輝きは消えていた。

「守護者よ、言葉通りだ」

ヒエロンは、自身の左目を指差しながら言葉を繋いだ。

「1ヶ月程前、私の右手の甲に輝く紋章が現れた。私はただちに選定の神殿に向かい、試練に挑戦した。幸運にも試練を乗り越えた私は勇者として、この【聖眼】を手に入れた」
「あなたは勇者……なんですか?」
「そういう事になるね。勇者は自身が得意とする能力を、飛躍的に向上させる聖具を授かると言われている。私の場合、元々の勘の鋭さが買われて、この全てを見通す【聖眼】を授かったんじゃないかな」

ヒエロンの左目が、再び金色に輝いた。


全てを見通す目……


彼はこの力を使用して、皇帝ガイウスとの交渉を有利に進め、僕が数千年前に転移させられた事も正確に見通したというのだろうか?
それはともかく、勇者とは本来、魔王を倒す存在。
しかし今、第三の勇者は魔王エンリルと仲良く並んで立っている。

僕は当然の疑問を口にした。

「勇者であるはずのヒエロンさんは、何故、魔王エンリルと同盟を結んだのですか?」
「視えるんだよ……」
「視える?」
「この目は、今から起こる事を正確に見せてくれる。すぐ先は鮮明に、遠い先は少しかすみがかかってはいるがね」

ヒエロンは言葉を切り、僕達の反応をうかがう素振りを見せた。
ナイアがうめくように口を開いた。

「……なるほどね。その力のおかげで、あたしの攻撃を防げたってわけだ」
「その通りだよ、勇者ナイア。君は勇者としては、実に素晴らしい。魔王エンリルをあそこまで追い詰めて見せたのだから。誇っても良いと思うよ。私がいなければ、今ここに魔王のむくろが転がり、君はあらたな伝説となっていたはずだ」
「で、なんで、それを邪魔してくれたのさ?」
「言ったろ? 視える、と。魔王を必ず倒す勇者の姿が。永遠に繰り返される“茶番”がね」
「茶番……だって?」

自らに課せられた天命魔王打倒おとしめられたと感じたのだろう。
ナイアの顔が怒りの色に染まっていく。
そんな彼女を一瞥した後、ヒエロンが再び僕に向き直った。

「君は見たはずだ。世界のあるべき姿を。そして知ったはずだ。世界がこうなってしまった原因を」
「ヒエロンさん、あなたは……」


―――あなたは一を知って十を知らない。


僕はその言葉を途中で飲み込んだ。

魔王と勇者の戦いは、魔神の残した呪いの産物。
それを“茶番”と呼ぶのは、あながち間違いとは言えない。
しかし先程からヒエロンが繰り返す“世界のあるべき姿”。
そして今、彼が語った“世界がこうなってしまった原因”
彼はどこまで分かって、或いは分からずに、こうした表現を使っているのだろうか?

僕は改めてヒエロンの顔をまじまじと見た。

彼の金色に輝く左目に、一瞬、狂気の炎を見た気がした。

ヒエロンが静かに語り掛けてきた。

「私はこの茶番を終わらせて、世界をあるべき姿に戻したいのだよ。この力を得てすぐ、魔王エンリルも同じ考えを持っている事が分かった。だから彼と手を組んだ」

ヒエロンは僕の目を真っ直ぐに見つめながら、言葉を続けた。

「守護者よ。君があの世界で見てきた事を教えてくれないだろうか? そしてこの世界をあるべき姿に戻すのを、手伝ってくれないだろうか?」

僕も彼の目を見つめ返しながら、静かに言葉を返した。

「ヒエロンさん。あなたのその目の力を使えば、僕がそれにうなずくかどうか、分かるはずですよね?」

ヒエロンの口の端がわずかにゆがんだ。
その瞬間、ナイアが地面を蹴った。

「カケル! この男は危険だ! 頼む、手伝ってくれ!」

ナイアはそう叫びながら、ヒエロンに魔力を乗せた剣を全力で突き出そうとして……

彼女の身体がぜた。

「ガハッ……!」

ナイアは全身から血を噴き出しながら、地面に倒れ込んだ。
それをヒエロンが、冷ややかな目で見降ろした。

「勇者ナイア。頭に血が上っていると、目の前に張られた罠にすら気付かなくなるものだ。それに、魔王に勇者は殺せなくても、勇者同士ならそういった制約は存在しない」
「ナイアさん!」

僕は慌てて、ナイアに駆け寄った。
彼女は全身から血を噴き出し、呼びかけに応じる事が出来なくはなっているものの、まだ生きていた。
ヒエロンが声を掛けてきた。

「安心したまえ。彼女は助かるよ。何故なら君が今すぐ彼女を連れて、帝都に転移するからね」

僕はヒエロンに厳しい視線を向けた後、ナイアを抱え上げた。

「メイ!」

僕の声に応じて、メイが駆け寄って来た。
彼女が腕を絡めてくるのを確認してから、僕は霊力を展開した。
そのまま、以前訪れた事のある帝都の治療院第13話へと転移しようとして……

突然転移したら、やっぱりパニックかな?

少し不安が脳裏をよぎったけれど、今は一刻を争う緊急事態だ。

次の瞬間、僕の視界は、大勢の患者で賑わう治療院の真っただ中へと切り替わった。
はたして予想通り、院内は直ちに大騒ぎになった。
って、いきなり3人の人間が虚空から出現して、その内の一人は全身を血に染めていれば、そりゃそうなるよね……
だけど今は説明の時間すら惜しい状況だ。
半分パニックに陥っている人々をかき分けるようにして、僕は手近に居た治療師と思われる人物を呼び止めた。

「すみません、急患なんです! すぐに診てもらえないですか?」
「き、君達、今、突然出現しなかったかい?」
「あとで説明しますので、この人、お願いします。勇者のナイアさんです」
「なっ!?」

血まみれで虫の息の人物が勇者ナイアだと知った周囲の騒ぎが、益々大きくなった。
すぐに複数の治療師達が駆け寄ってきた。
そしてその中の一人が、僕に声を掛けてきた。

「君は、確か……」

僕の方も、彼の姿には見覚えがあった。
この世界に来て最初の頃第13話、自分とメイを診察してくれた人物。
確か……治療師兼神官のクルト、と名乗っていたっけ?
彼はナイアの状態を確認しながら、素早く問いかけてきた。

「状況を教えて下さい」
「敵と交戦して、何かの攻撃を受けた、としか……」

ナイアがいきなり爆ぜた時、僕にはその攻撃の正体がよく分らなかった。
ヒエロンは、罠がどうとか話していたけれど……?

クルトが周囲の治療師達を、大声で呼び集めてくれた。

「とにかく、治療を!」

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