【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

235.内通

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第054日―4


「カケルよ。ヤーウェン側は此度こたびの合同調査を受け入れるに当たって、条件を一つ付けてきおった」
「条件? ですか?」
「こちらの調査団はヤーウェンの街中を通過しない事。つまり直接、翡翠の谷に転移して来いと要求してきたのじゃ」
「翡翠の谷へ転移門を開くのは、構わないのですが……」

皇帝ガイウスの話を聞いて、僕は少しばかり不思議な気分になった。

僕が直接翡翠の谷へ転移門を開いてしまえば、調査団“以外”もそこを通れるようになる。
以前皇帝ガイウスは、ヤーウェンの中枢区域に僕の力で転移門を開き、精鋭部隊を突入させ、この戦争を一挙に終わらせる計画を立てていた。
ヤーウェンの街中ではないにせよ、街の地下に僕が転移門を開く事の危険性を、ヒエロンは分かった上でこの話を持ち掛けてきている?

そんな事を考えていると、ナイアが再び口を開いた。

「陛下のお話から察するに、ヒエロンはこちらの意図を見抜き、何かの対策を立てている可能性がある、という事でしょうか?」
「恐らく。だからこそヒエロンめに安易な攻撃を加えるのは、控えるべきと申したのじゃ」
「承知いたしました。ところでもしゼラムの秘宝が見つかった場合、その扱いについては、何か取り決めはされているのでしょうか?」
「その場で調査した後、必要あれば、我等が持ち去っても構わないと申しておる」

ナイアの顔が怪訝に歪んだ。

「それは極めて奇妙な話ですね……」
「さよう。やつめ、必ず何かを企んでおる。故に古代遺跡の調査とは言え、こちらも万全の態勢で臨む必要がある」
「お話、よく分りました。私も微力ながら、ヒエロンに乗じられぬよう、行動する所存です」
「頼りにしておるぞ」


ナイアとの会話を終え、皇帝ガイウスが具体的な調査団の人員について説明を始めようとしたところで、僕は声を上げた。

「陛下。もう一人、同行を許可して頂きたい者がいるのですが」
「カケルが見込んだ者なれば問題ないとは思うが、それは誰じゃ?」
「シャナでございます」
「シャナ?」

皇帝ガイウスは束の間、考える素振りを見せた後、言葉を続けた。

「ああ、あの別の世界からカケルについてきてしまったエルフの少女か。別に構わぬが……どうしてまた、連れて行こうと思ったのじゃ?」
「え~とですね……」

答えようとして僕は、今更ながらの事に気が付いた。

シャナを調査団に加えて欲しい理由。
まさか正直に、翡翠の谷が数千年前、僕が召喚されたあの世界、今は魔神と化して『彼方かなたの地』に封印されている元女神が支配していた世界と関りがあるから、その時共に戦ってくれたシャナを連れて行きたいとか、説明するわけにはいかない。
特に魔神元女神について説明する事は、“その名を呼ぶ者が増えれば、力を取り戻してしまうかもしれない”という銀色のドラゴン、さらにはポポロ達の懸念が現実になってしまうかもしれない危険性をはらんでいる。
というわけで、当然ながらそういう話に触れる事無く、皇帝ガイウスに不自然さを感じさせない何らかの理由付けが必要になるわけだけど……

なんかいい感じの“言い訳”、いきなりは思いつかないわけで……

一生懸命悩んでいると、ナイアが助け舟を出してくれた。

「シャナの同行、妙案かもしれません」
「それは、なぜかな?」
「シャナは、この世界の住民ではございません。恐らくヒエロンにとってはイレギュラーな存在。やつが何か企んでいても、そこに不確定要素を生じさせる事が出来るやもしれません」
「なるほど。それもそうだな」

皇帝ガイウスが僕に笑顔を向けてきた。

「よし。ではシャナの同行も許可しよう」


結局、こちら側の調査団は、僕、ハーミル、ナイア、ジュノ、シャナそしてノルン様他4名、合計10名で構成される事になった。
向こうからは、ヒエロンを含めた同じく合計10名の調査参加者の名簿が、既に提出されていた。
僕とハーミルは以前、ボレア獣王国国王ゲシラム様から、遺跡の封印を解く方法として次のように聞かされて第77話いた。


―――太陽が中天にある時、遺跡の入口にある石板にこのタリスマンを捧げると、扉が開かれる


そのため明朝11時には現地に集合し、太陽が中天に達する正午に封印解除を試みる事になった。
追加事項として、集合時或いは調査時に、どちらかの欺瞞行為が発覚した場合は調査を即刻中止する、との約定やくじょうも交わされていた。



夜、僕が自身の区画で一人ベッドに寝そべっていると、シャナからの囁きが届いた。

『救世主、起きている?』
『もうベッドに横になっているけど、まだ起きているよ』
『明日の翡翠の谷調査の件だけど』

僕は夕方、皇帝ガイウスの幕舎から戻った後、シャナも明日の調査に加わる事が許可された事を、既に伝えていた。

『どうしたの? 何か聞き忘れていた事でもあった?』
『ジュノとヒエロンには、気を付けて』
『ヒエロンさんはともかく、ジュノに気を付けてって、どういう事?』
『ジュノは、ヒエロンと通じている』
『えっ?』

驚く僕に、シャナは昨晩、ジュノがヒエロンやロデムとひそかに会っていた事。
その際、ジュノの監視を頼んでいた同胞精霊が攻撃を受けた事について教えてくれた。

『……ジュノやヒエロンさんは、シャナが精霊の力を使用出来る事、知っているの?』
『それは知らないはず』
『それにしてもジュノは、ヒエロンさんと何を話したんだろう?』
『話の内容は聞く事が出来なかった。だけど状況から考えて、明日は必ず何かを仕掛けて来る。でも安心して。私は私の全てを掛けて、救世主を守り抜く』
「だめだよ!」

僕は思わず大きな声を出してしまった。

周りに響かなかったであろうか?
しばらく聞き耳を立ててみたけれ、誰かが僕の大声に反応している感じは無い。

僕は再び心の中で、シャナに念話を送った。

『もしジュノやヒエロンさんが何かを計画しているとして、君が全てを掛けて守らなきゃいけないのは、君自身だよ。僕は霊力を持っているから、最悪、死んでも復活できるけど、君はそうじゃ無いんだから』

初めて会った時、シャナはあの女神が送り込んできたモンスターに殺され、消滅第173話しかかっていた。
定命じょうみょうの運命を受け入れ、実体化した彼女は、実体無き精霊だった頃とは違い、不滅の存在ではなくなっている。

『だけど私にとって、救世主は特別な存在。彼等が何らかの方法で救世主の力を阻害したり、どこかに封印しようと試みたりしないとも限らない。だから私は、私の全てを掛けてあなたを守る』
『シャナ。僕にとっても君は特別な存在だ。君が僕を大事に思ってくれている以上に、僕だって君の事を大事に思っている。だから僕の為にも、君にはちゃんと自分自身を守って欲しいんだ』
『救世主。その言い方はずるい』
『えっ? ずるい?』
『そんな言い方をされたら私でも勘違いしそうになる。気を付けた方がいい』
『えっと……何の話?』
『……気にしないで。でも救世主がそう考えてくれているのは、素直に嬉しい』
『う、うん。とりあえず、明日は転移門も設置出来るし、危なくなったら無理しないで、転移門通って皆で逃げ帰って来ればいいんじゃないかな』
『分かった』
『ま、明日も早いし。寝ようか?』

シャナは精霊だけど、守護者である『彼女サツキ』と違い、睡眠は必須第175話のはず。
彼女から優しい囁きが戻って来た。

『うん。おやすみ』
「おやすみ、シャナ」

僕は目を閉じた。
明日は翡翠の谷。

遺跡の封印を解いて調査する事で、もしかしたらゼラムさんやセリエがその後幸せに暮らせたのか、分かるかもしれないな……

目を閉じた僕は、いつの間にか夢の世界へといざなわれていった……
…………
……


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