贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第6話「文化祭(準備)」

弐:昼食

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 飯沼とオカルト研究部が互いに自己紹介を済ませると、岡本は「それじゃ、続きは放課後で」と手を叩いた。
「さすがに昼食を抜くわけにはいかないからね。今のうちにエネルギーを補充しておきたまえ」
「へーい」
 一同はそれぞれの教室へ戻るため、席から立ち上がった。
「神服部ちゃん、俺達と一緒にお昼食べねぇ? この前言ってたオカルト雑誌持ってきたからさ」
「いいの? じゃあそうしようかな。飯沼さんともお話ししたいし」
 成田の提案に神服部は喜び、飯沼に笑顔を向けた。
「せっかく女の子の部員が増えたんだもん、もっと喋りたいな。主にオカルトについて」
「た、楽しみにしてるわ」
 飯沼は複雑そうな表情を浮かべ、苦笑いした。
 それが社交辞令とは思っていない神服部は「本当?!」と食いつき、目を輝かせた。
「何がいい?! やっぱ、最近の都市伝説かな?! それともUFOとか宇宙人とか陰謀論系がいい?!」
 そこへ会議が終わったのを見計らったかのように、不知火が理科室に入ってきた。片手にビニール袋を持っている。中に食べ物でも入っているのか、彼が部屋に入ってきた瞬間に美味しそうな匂いが漂った。
「あ、もう終わった?」
 不知火は陽斗達の様子を見て、岡本に尋ねた。遅刻してきたことを悪びれもしない。
 遠井がその横をすり抜けて、入れ替わりに理科室から出て行った。不知火が何か話を始めたら抜けるに抜けられなくなると踏んだらしい。他のメンバーはそのまま部屋に残った。
「はい。とりあえず、みんなに企画を伝えて、贄原君に協力を取り付けました。詳しい企画については放課後に話し合う予定です。あと、贄原君のお友達の飯沼さんも協力してくれることになりました」
 岡本は慣れっこなのか、不知火が遅刻してきたことには触れず、嬉々として報告した。
 不知火はビニール袋をガサガサ言わせながら席に座ろうとしたが、飯沼の名前が出た途端にピタッと立ち止まった。そのまま飯沼へ顔を向け、感情のない目でジッと見つめる。
「……なんですか?」
 飯沼も不知火を睨み返し、不愉快そうに眉をひそめた。
 女子生徒に怪訝に見られても、不知火は飯沼を観察し続けた。やがて何かに合点がいったのか「ふむ」と頷くと、突然彼女に尋ねた。
「君は猫が好きなのかな?」
「いえ……あまり好きではありません」
 他愛もない質問に対し、飯沼は妙に深刻そうな顔で答えた。冗談で言っているようには見えなかった。
「え?! 飯沼さん、猫嫌いなの? あんなに可愛いのに」
 意外な飯沼の好みに、陽斗は驚く。陽斗は生き物全般が好きなのだが、特に犬と猫は大好きだった。
 飯沼は陽斗の声を聞いてホッとしたのか、表情を和らげ、言った。
「ふふっ、実はそうなの。昔、ちょっと嫌なことがあってね……それ以来、見るのも嫌になっちゃった」
 それを聞いて、不知火も意外そうに片眉を上げた。
「そうなのかい? 君、変わってるね」
「……別にいいじゃないですか。好みの問題なんですから」
 飯沼は不知火への警戒心を露わに、突き放したような言い方をする。誰に対しても丁寧に接する彼女にしては珍しかった。
 友人である陽斗と成田も驚きを隠せず、互いに顔を見合わせた。
 一方、蒼劔の興味は不知火の発言にあった。
 不知火には夏休みでの七不思議調査で怪しい行動を取っていた前科がある。一見ただの世間話にしか聞こえない飯沼への質問も、何かを意味しているような気がしていた。
(不知火が無意味な質問をするはずがない……俺に何かを伝えようとしているのか? それとも、あの袋の中に何かが入っているのか?)
 不知火は「それもそうだね」と会話を打ち切ると、席に座り、ビニール袋の中へ手を突っ込んだ。しばらく中を漁り、目当ての物をつかむと、取り出した。
 それは拳大のおにぎりだった。ラップに包まれた丸いおにぎりで、全体をノリで覆っている。いわゆる爆弾おにぎりというやつだった。
「……」
 蒼劔が唖然とする中、不知火はおにぎりのラップをめくると、大きく口を開いて頬張った。具はサケだった。
 成田も不知火が食べているおにぎりを見て、ぼそっと呟いた。
「先生……それ、購買部のおにぎりっすよね? オカ研の会議遅刻して来たの、それ買いに行ってたせいっすか?」
「ふぁっふぇふぁふぇふぁふぁっふぁんふぁふぉん(訳:だって食べたかったんだもん)」
 ちなみに彼が持っていたビニール袋の中には他にも、爆弾おにぎりが2つとフリーズドライの味噌汁、ペットボトルの緑茶が入っていた。
「……本当は何も考えていないのか? それとも、あれは演技なのか?」
 蒼劔は不知火が分からなくなり、困惑する。
 何も知らないオカルト研究部のメンバーと、蒼劔の言うことを信じていない陽斗に至っては、呆れて笑っていた。
「あははっ! 何言ってるのか、全然分かんないですよ!」
「不知火先生って、ホント自由っすよねー」
「この前も部活中に蚊を捕まえに行っちゃったし」
「ま、それくらいテキトーな方が、我々としては都合がいいけどね」
 ただ1人、飯沼だけが険しい表情を浮かべていた。

         ・

 陽斗達は教室に戻ってくると、少し遅い昼食を取るため陽斗と飯沼の席に集まった。成田と神服部は近くの席から椅子を借り、座る。
 陽斗が弁当箱をカバンから出し、机の上に置くと、飯沼は「今日の贄原君のお弁当はいつもより重そうね」と陽斗の弁当箱を見て言った。
「えっ、何で分かったの?」
「机に置いた時の音がいつもより少し低かったのよ。それで、今日はどんなモヤシ料理を持ってきたの?」
「モヤシ料理?」
 神服部は不思議そうに首を傾げた。
「モヤシの料理ってそんなに種類あったっけ?」
「陽斗は節約のためにモヤシだけの弁当をよく持ってきてるんだよ。モヤシの漬物とか、炒め物とか、みじん切りにしてご飯にしたりとか」
「……みじん切りにしても、モヤシはモヤシなんじゃないの?」
「見た目はご飯そっくりだから、大丈夫だよ。ちょっとシャキシャキしてるご飯だと思えばね。でも、残念でしたー! 今日の僕のお弁当はモヤシ弁当ではありません!」
 そう言うと陽斗は弁当箱のフタを外し、得意げに中身を見せた。
 そこには玉子焼きや唐揚げ、タコの形に切ったウインナーといった定番のおかずがぎっしり詰まっていた。俵型に握られたおにぎりも、モヤシのみじん切りではなく白米だった。いつもは必ずと言っていいほど入っているモヤシが、何処にもない。
 半信半疑だった成田と飯沼は彼の弁当箱の中身を見て、目を丸くした。
「ふ、普通だ! 普通に美味しそうな弁当だ! どうしたんだ、これ?!」
「とうとうモヤシに飽きて、お米を買ったのね?! でも、お金は大丈夫なの?」
「もう、2人とも大袈裟だなー。そんなに僕が普通のお弁当持ってくるのが珍しい?」
「「うん」」
 2人は真顔で頷く。特に飯沼はおかず1個1個の出来を鋭い眼光で観察していた。
「冷凍食品でもなさそうだし……もしかして、誰かに作ってもらったの?」
「そうだよ。うちのアパートに新しく来た人がすっごく料理上手でね、その人に作ってもらったんだー。良かったら、飯沼さんも食べる?」
「頂くわ」
 飯沼は自分の箸を使い、陽斗の弁当箱から玉子焼きをつまみ上げると、ひと口食べた。
 途端に、悔しそうに顔を歪めた。
「……美味しい。冷めてるのにふわふわで、出汁に深みがある。これならいくらでもご飯が進むわね」
「そんなに美味いのか?!」
「私も食べたい!」
 料理上手な飯沼のお墨付きとあって、成田と神服部も陽斗の弁当に興味津々だった。既に自前の箸を持ち、スタンバっている。
「どうぞ、どうぞ。ちょうど4個あるし、1個ずつ食べていいよー」
「よっしゃ!」
「いただきます!」
「贄原君、他のおかずも味見していいかしら?」
 結局、陽斗の弁当は4人でシェアして食べた。さすがに1/4の弁当の量では満腹にならず、陽斗は飯沼に作ってもらってきていた自分用のお弁当を食べて腹を満たした。
 弁当箱は2段に分かれており、1段目に温野菜のサラダとシュウマイ、2段目に白米の上に豚の生姜焼きが一面に敷かれた生姜焼き弁当が詰まっていた。
「やっぱ、飯沼さんが作ったお弁当が1番美味しいや。なんか、朱羅さんが作ったお弁当にはない美味しさがある気がする。飯沼さんには悪いけど、これからも作ってもらってもいい?」
「ふふっ、ありがとう。そんなに喜んでもらえるなら、作りがいがあるわ」
 陽斗と飯沼は互いに微笑み合う。他者を寄せつけない、2人だけの空間がそこにはあった。
 完全に部外者と化した成田と神服部は2人を眺めながら、コソコソと囁き合った。
「……あの2人、あれで付き合ってないんだぜ? ビックリだろ?」
「えー?! 好きでもない相手に毎日お弁当なんて、作ってくるわけないじゃん! 絶対、飯沼さんは贄原君のことが好きなんだよ!」
「だよな! 俺もそう思う! でも、肝心の陽斗が鈍感過ぎるんだよ……飯沼ちゃんが弁当作ってきてくれるのも、飯沼ちゃんがいい子だからだと思ってるし」
「……これは私達がなんとかしなきゃいけないね、成田君」
 神服部は口の前で手を組み、深刻そうに呟いた。
 成田も眉根を寄せ、口の前で手を組む。
「そうだな……神服部ちゃん。俺達がアイツらの恋のキューピットになってやろうぜ」
 2人は互いに視線を合わせ、静かに頷いた。
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