贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第10話「ブラック・クリスマス」

拾伍:共同作戦

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「で、暗証番号は?」
 異形と化していた金庫が元の古びた金庫に戻ったのを確認すると、蒼劔は五代に金庫の暗証番号を尋ねた。
 五代は『当ててみろよメーン!』と挑発しようとしたが、嘘をつけない体質のせいで、素直に答えてしまった。
『いちにーにーろく』
「ご苦労」
『はー、おもんな! 何で黒縄氏がその番号にしたのか、謎解きしてもらおうと思っとったのに!』
 エセ関西弁でブーブー文句を垂れる五代をよそに、蒼劔はダイヤルを回し、鍵を解除する。
「ちなみに、理由は何だ?」
『いちにーにーろく……十二月二十六日は、クリスマスが過ぎた日付のこと。クリスマス嫌いな黒縄氏が街に待ってる日ってことさ』
「今の奴が選びそうな数字だな」
 扉を開けると、中で三角座りしていた陽斗がパッと顔を上げた。
 不安そうだった表情が、蒼劔の顔を見た瞬間、一気に明るくなった。
「蒼劔君!」
「陽斗! 無事だったか?!」
「なんとか……黒縄君にちっちゃくされちゃったけど」
「安心しろ。不知火にすぐ治させるからな」
 蒼劔は陽斗を優しくつかみ、手のひらに乗せる。少しでも力を加えれば、潰れてしまいそうだった。
 すると、五代が耳を疑うような一言を口にした。
『あ、不知火氏じゃ、陽斗氏にかけられた術を解くのは無理っすよ?』
「……どういうことだ?」
 蒼劔は眉をしかめ、五代に聞き返す。
 陽斗は五代の声が聞こえないため、
「蒼劔君がイヤホンつけてる! なんか、新鮮!」
 と、蒼劔がワイヤレスイヤホンをしていること自体に感動していた。
『陽斗氏にかけられた術は、術をかけた本人……すなわち、黒縄氏にしか解けないぽよ。それに、不知火氏は白石聖美を追っているから、それどころじゃないんだぽよ』
「全ては朱羅次第……というわけか」
 蒼劔は宝石店のディスプレイに飾られていたブランドもののスケルトン地のウェストポーチを手に取ると、中に陽斗を入れ、肩から提げた。
 ちょうど、胸元に陽斗が来るようになっており、陽斗もいつもと同じ視点で外の景色を見ることが出来た。
「いいだろう……俺は俺で、やることをするさ」
「蒼劔君、さらっと泥棒しちゃダメだよ」
「借りただけだ。後で、必ず返す」

      ・

『蒼劔氏には異形になった物体達を狩りつつ、人間達を救助して欲しいんだ。助け出した人間達は暗梨氏が安全な場所へ転移してくれる』
「暗梨が?」
「僕達に協力してくれるの?!」
 思わぬ協力者に、陽斗と蒼劔は驚く。陽斗にも五代の声が聞こえるよう、ワイヤレスイヤホンは耳から外し、ウェストポーチに近づけて聞いていた。
 いくら不知火に飼われているとはいえ、陽斗達や人間をよく思っていない暗梨が素直に協力するとは思えなかった。その上、飼い主である不知火は今、白石の捜索に専念している……何も起きないとは限らない。
「本当だろうな? また陽斗を辺鄙へんぴな場所へ送ったりしないか?」
「け、ケーキ買ってくれたし、本当はいい子だよね?! ね?!」
『今のところは大丈夫じゃない? なんか、異常にやる気出てるみたいだし』
 五代は曖昧に答えた。彼にも気まぐれな乙女心は理解しきれていないらしい。
『とりあえず、駅前にいる暗梨氏と合流して、計画を練ってちょ。ちな、人間を全員救出し終えたら、蒼劔氏の妖力でそこいら一帯を囲って、一気に異形を殲滅せんめつしてもらうつもりだから、蒼劔氏の妖力で異形化しないよう、生死問わず助け出してね?』
「全員だと? 今、この街にはどれほどの人間がいるんだ?」
『ざっと、一千人くらいかな?』
「いっ?!」
「……」
 途方もない人数に、陽斗と蒼劔は言葉を失った。
 蒼劔はもっぱら、人命救助よりも異形退治をすることの方が多い。一千体の異形を倒せる自信はあっても、一千人の人間を助け出す自信はなかった。
『言っとくけど、これでも減った方だかんね? 駅にいた人間は暗梨氏が片付けてくれたし、動ける人間は自力で街の外に避難してる。無駄に被害を増やさないよう、不知火氏が結界を張ってくれたから、外から人間が入ってくる心配はナッシング。安心して救助活動に専念できるおっ!』
「……」
「……」
『えっ? 蒼劔氏、"もし、一人でも取り残してしまったら、俺はその一人を異形に変えてしまうかもしれん。そのようなことになったら、悔やんでも悔やみきれない"って……もしかしなくても、ひよってんの? ひよってらっしゃるのん?? まぢウケるんですけどぉ』
「勝手に心を読むな」
「五代さん、サイテー」
『はうっ! 陽斗氏の罵倒が、五臓六腑に染み渡るぅ!』
 五代は嬉しそうにドタバタとひとしきりもがくと、『だぁーいじょーぶだってぇ!』と二人を励ました。
『考えてもみろよ? あの不知火氏が、蒼劔氏と暗梨氏に後を任せたんだぜ? っつーことはもう、勝ち確ってことっしょ! だから、安心してレスキューしてきちゃいなYO!』
「……それもそうだな」
 蒼劔は刀を抜き、宝石店から表の通りへ出た。
 途端に、周辺を徘徊していた巨人達が蒼劔を踏み潰そうと、襲いかかる。
 蒼劔は刀……ではなく、左手からスタングレードを取り出すと、巨人達の頭上へ放り投げた。
「グォ?」
「グォォ?」
 巨人達はスタングレードを目で追い、動きを止める。
 その間に蒼劔は立ち去り、駅に向かって走り出した。背後でスタングレードが爆ぜ、巨人達は青い光の粒子を帯びた建物へと戻っていった。
「不知火に任されたからには、どんな手を尽くしてでも成功させねばならん。そのような大事なことを五代から教えられるとは、俺も焼きが回ったな」
『なっちゃう? シュラスコ。もしくは、ローストビーフ』
「俺は肉じゃない」
 五代のズレた返しに、蒼劔はすぐさま否定した。
「シュラスコ、食べてみたいなー。朱羅さんに頼んで、作ってもらおっかな? お正月料理として」
 陽斗は陽斗で、シュラスコと聞いてお腹を鳴らしている。
 陽斗の提案に、五代も『さーんせーい!』と同意した。

       ・

「おっそい! 何してたのよ?!」
 駅前に着くと、暗梨がボロボロになりながらも、街に取り残された人々を片っ端から転移させていた。耳には蒼劔と同じく、変形符で折られたワイヤレスイヤホンをつけている。
「すまない。思いの外、巨人が多くてな」
「謝罪は後! 今は時間が惜しいわ! あの塾の中にいる人間達を助け出すのに、協力しなさい!」
 暗梨が指差した先には、塾とは思えない前衛的な塔が建っていた。
 カラフルで、うねっていて、時折くちばしのモニュメントから「キェーッ!」と、鳥のような鳴き声を発する。さながら、生きたガウディ建築のようだった。
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