贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第10話「ブラック・クリスマス」

弐拾弐:鳥の巣、消滅

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「オ゛ォォン……」
 遠井を最後に、全ての鳥マスクの救出が完了した。
 静けさを取り戻した秀星塾に、天井の巨大な鳥顔の悲痛な声が響き渡る。一体どれほどの人間を食らったのか……陽斗は考えるだけでもおぞましく思った。
「五代、今度こそ全員脱出させたな?」
『うぃ。と言っても、遠井氏以外はチャイムのせいで精神やられてたから、今後もまともに生活できるかはわかんないけどね。これ以上のアフターケアはオイラ達の管轄かんかつ外さ』
「大丈夫だよ! みんな、僕よりずっと勉強に打ち込んできた人達だもん! きっと、乗り越えられるよ!」
「命が助かっただけで十分でしょ。それよりこんな趣味の悪い塔、さっさと消して頂戴」
 暗梨は途端に興味を失った様子で、蒼劔に命じる。
 「分かっている」と蒼劔は頷くと、左手から妖力で作ったスタングレネードを取り出した。
「オ゛ァァァ……」
「そんなに腹が減っているのなら、これでも食っていろ」
 鯉に餌をやるかのように、なおも嘆く巨大な鳥の口へとスタングレネードを投げ込む。
 巨大な鳥は素直にスタングレネードを食らい、
「ゴゲェェッ!」
 直後にスタングレネードが発破した。巨大な鳥の顔は悲鳴をあげ、青い光の粒子となって消えていく。
 青い光の粒子は天井を伝い、塾全体にまで広がる。浄化された部分は「無」に変わり、虚空の闇が果てしなく続いていた。
「これで良し。じきに元の建物の姿に戻るだろう。出口が消える前に、早く脱出するんだ」
「うん! 暗梨さん、お願い!」
「……」
「あれ? 暗梨さん?」
 返事はない。
 陽斗も蒼劔も不審に思い、暗梨の顔を見る。すると暗梨は「どうしようかなぁ」とでも言いたげな顔で、二人を見ていた。
「暗梨さん、どうしたの? 早く脱出しないと出られなくなっちゃうよ?」
「そうよねぇ。自力で出られるけど、貴方達は私がいないと出られないものねぇ」
「……何が言いたい?」
「私が一人でここから脱出したら、饗牙様の仇である貴方達を始末できるって話」
 暗梨はニヤリと笑うと、二人の目の前から消えた。彼女が立っていた場所には真っ赤な彼岸花が咲いていた。
「なッ!」
「う……嘘でしょ?」
「おい、五代! 暗梨は?!」
 蒼劔はイヤホンを使い、五代に問い詰める。
 五代も慌てた様子で声を震わせ、答えた。
『じゅ、塾の玄関前! 塾のほう向いて立ってる! 全っ然動いてくんないんだけど!』
「くそッ! 妙に従順だと思ったら、最初からこれが狙いだったのか!」
 蒼劔は跳躍し、吹き抜けの床に開けた穴を通って、最上階にある玄関を目指す。
 青い光の粒子は二人を追いかけるように迫ってくる。一度でも足を止めれば間に合わない。
「蒼劔君、頑張って! 脱出したら自販機のおしるこ、おごってあげるから!」
「っ! 約束だぞ、陽斗」
『蒼劔氏、頑張って! 脱出したらオイラの陽斗氏秘蔵フォトコレクション、コピーしてあげるから!』
「……帰ったら、物理的に消去してやる」
『わーお! 陽斗氏との温度差がすごい!』

      ・

 暗梨は五代の言う通り、秀星塾の前で仁王立ちしていた。助けに戻る様子もなく、玄関をジッと見つめている。
『ンねぇ暗梨氏ぃ、冗談だよねぇ? 蒼劔氏はともかく、陽斗氏だけでも助けに行ってくれるよねぇ?』
「うっさい。どうせ自力で出てくるわよ」
『ほんとにぃ~? 出てこなかったら、不知火氏に言いつけるかんねぇ~?』
「フンッ、好きにすれば?」
 その時、玄関の鳥が「オェッ」とえずき、陽斗達を吐き出した。
 二人が脱出した数秒後に、塾は完全に青い光の粒子に包まれ、元の建物の姿に戻った。
「ほら、出てきた」
 その勢いのまま蒼劔は左手から刀を抜き、暗梨に切り掛かる。
 暗梨は刃が触れる寸前に姿を消し、かわした。
「暗梨ッ! 今回ばかりは許さんぞ!」
 蒼劔は怒りに任せ、声を張り上げる。
 気配を探ると、塾の向かいに建っているビルの屋上にいた。すかさず、刀を放る。しかし当たる前に隣のビルの屋上へ転移された。
「出られたんだからいいでしょー。それより、アンタは術式作りに専念しなさい。人間は私が転移させておくから、見つけたらどっかにまとめて置いといてー。じゃっ」
 暗梨はピッと手を上げ、姿を消す。今度は気配も消えていた。
 蒼劔は暗梨がいたビルを見上げ、チッと舌打ちした。
「あの女、五代級に信用ならんな。今のうちに始末しておいた方がいいのではないか?」
「ね! 僕達を置いて行っちゃうなんてひどいよ!」
 陽斗もウェストポーチの中でむくれる。
 比較された五代は『失礼な!』と抗議してきた。
『オイラは暗梨氏と違って、陽斗氏と蒼劔氏のために全力で頑張ってるもん!』
「ほう? 先程の暗梨との会話、聞こえていたぞ?」
『……さ、さーて、仕事仕事』
 五代はそそくさと、街に残っている生存者の現在地を探索し始める。
 その時、遠くで轟音が聞こえた。
「うわっ、何の音?!」
「居酒屋通りの方からだ」
 蒼劔が路地裏から覗き見ると、飲み屋街の建物が次々に破壊されていた。上空には黒縄と朱羅と思われる、黒髪と赤髪の人物が見える。
 どうやらこの路地裏の先で、二人は今まさに戦闘を繰り広げているらしかった。
「俺達は近づかない方がいいな。向こうは暗梨に任せよう」
「黒縄君も朱羅さんも大丈夫だよね? 死んじゃったりしないよね?」
「……朱羅がしくじったら、俺が黒縄を倒す。ただそれだけだ」
 蒼劔は路地裏に背を向け、駆け出す。
 一方の陽斗はウェストポーチの中から、黒縄と朱羅が戦っている居酒屋通りを悲しげに見つめていた。

       ・

 居酒屋通りに冷たい冬の風が通り抜け、店先に吊るされた赤提灯を揺らす。
 次の瞬間、赤提灯は黒縄が放った鎖鎌によって切り裂かれた。
「逃げンなよ朱羅ァッ! 訳のわかんねェことほざきやがって……!」
 地面に落ちた赤提灯の残骸を、黒縄を追ってきた朱羅が踏み潰す。
「いいえ! 目を覚さねばならないのは、黒縄様の方です! 貴方様も本当はご存知のはず!」
「知るか! テメェはしばらく寝てろ!」
 黒縄は通りを塞いでいた居酒屋の残骸をビルの高さほどある大蛇へと作り変える。鉄骨や鉄板で作られた大蛇は形がいびつで、目は蛍光灯が重なりあってできていた。
 大蛇は首をもたげ、頭から朱羅を丸呑みする。朱羅は金棒で大蛇の頭を中から破壊し、黒縄に向かって振り下ろした。
「寝ません! 私には黒縄様をお救いするという使命がございますのでッ!」

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