贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第10話「ブラック・クリスマス」

弐拾参:黒縄vs朱羅

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「ったく、わざわざこんなとこまで来て泣きやがって。テメェは俺を倒しに来たんじゃねェのかよ?」
「申し訳ございません。つい……」
 黒縄と朱羅が居酒屋通りで交戦する、数時間前。朱羅は電波塔の足場で元の姿に戻った黒縄と再会し、感極まって泣き出した。
 さすがの黒縄もその時ばかりは正気に戻り、ハンカチで朱羅の涙を拭いてやる。まさに、魔石を当てて妖力を吸い取る絶好のチャンス……だったのだが、朱羅の頭の中には「黒縄をだます」という考えはなく、気づいた時にはとっくに朱羅の涙は拭われていた。
「ま、テメェごときが俺を倒せるわけはねェけどな。その金棒もいつ異形化してもおかしくねェし」
「……そう、ですね」
 朱羅は黒縄に金棒の柄を見られないよう、握り直す。
 実は不知火からもらった札を柄に貼っているおかげで、金棒は黒縄の術から守られているのだが、黒縄はそのことに気づいていなかった。
「単刀直入に申し上げます。黒縄様、妖力を正常に戻しましょう」
「戻す? 今の俺は正常だろ?」
 朱羅は「いいえ」と首を振った。
「今の黒縄様は精神に異常をきたすほどの、膨大な妖力を抱えておられます。このままでは有り余る妖力に体が耐えきれず、日付が変わる頃には自爆するでしょう」
「自爆、ねぇ」
 黒縄はニヤリと笑みを浮かべた。
「いいじゃねェか。俺の命と引き換えに人間共を苦しめられるなら、本望だぜ」
「……嘘をつかないで下さい」
「あァ?」
 黒縄はギロッと朱羅を睨みつける。
 朱羅は拳を震わせ、静かに怒りをこらえていた。
「前に、おっしゃっていたではありませんか。元の体に戻ったら、蒼劔殿と協力して異形から人間を守りたい、と」
「昔の話だ。今はそんな戯言、考えちゃいねェよ。だいたい、地獄八鬼の元頭目がそんな甘っちょろいこと考えるわけねェだろ」
「時の経過など関係ありません。それに、地獄八鬼は元々、立場の弱い人間や異形を救う義賊として結成されたのでしょう? 蒼劔殿となら、上手くいくと思いますが」
「だ、黙れッ!」
 途端に、黒縄の顔色が変わる。
 真逆のことをしている今となっては、黒縄にとって地獄八鬼そのものが黒歴史なのかもしれない。真相をバラされた怒りか羞恥心か、顔が真っ赤になっていた。
「地獄八鬼が義賊……? 俺が弱い人間や異形を守ろうとしていただと……?! どこの五代の入れ知恵かは知らんが、それこそ嘘っぱちだろうが!」
 黒縄は怒りで我を忘れ、朱羅の唯一の武器である金棒に手をかざす。
 金棒を異形に変え、操るつもりだったが、金棒は札によって守られ、何の変化も起きなかった。
「なッ、何で……?!」
「御免!」
 その隙に朱羅は懐から魔石を取り出し、黒縄の手のひらへと押し当てる。
「っ! テメェ、それは……!」
 黒縄は反射的に、魔石を持っている朱羅の手を払いのける。
 接触はわずかではあったが、魔石は黒縄の手のひらを介し、その妖力を吸い取った。今の黒縄がたくわえている妖力の一割にも満たない量だったが、かつてのトラウマを思い出させるには十分だった。
「えぇ。ご存じの通り、黒縄様から妖力を奪った魔石です。黒縄様の妖力を正常に戻すため、不知火殿に頂きました。自爆する前に妖力を正常に戻せなければ、蒼劔殿が貴方を殺しに来る……それだけは絶対に避けねばならなりませんからね」
 朱羅は魔石を懐へ仕舞い、金棒を振りかぶる。
「ヤツは来ねェぞ! クソガキを人質に取ってるからなッ!」
 黒縄は再度金棒に手をかざし、異形化を試みる。
 それでも金棒は異形に変化せず、そのまま黒縄の腹へ振り下ろされた。
「ガッ……!」
 朱羅の攻撃をまともに受け、黒縄の体は鈍い音を立てる。骨と臓器がいくらかイカれ、激痛が走った。
「残念ながら、とっくに蒼劔殿に解放されましたよ。今は安全な場所に匿われておりますので、黒縄様とて手は出せないかと」
「あのヤロウ、いつの間に……! つーか、何でテメェの金棒は操られねェんだよ! さては目白の野郎が、何か細工したな?!」
「お答えできません!」
 朱羅の瞳が金色に輝き、追撃する。
 黒縄は足場をすり抜け、朱羅の攻撃を避ける。朱羅も後を追い、足場をすり抜けて落下した。
「どうか今だけは私を信じて下さい! 私はただ、黒縄様をお守りしたいのです!」
「その割には、言ってることとやってることが食い違っているんだが?!」
「そうはおっしゃいましても……黒縄様、素直に魔石を受け入れるおつもりはないのでしょう? ならば、気絶させた方が早いと思いまして。どうかご理解下さい」
 言うや否や、朱羅は電波塔の骨組みへ着地し、空中で無防備になっている黒縄に向かって金棒を突く。
「するか、アホ! 俺は俺がやりたいようにやるだけだ!」
 黒縄は近くビルの屋上へ鎖を放ち、金棒を避けつつ飛び去る。居酒屋通り沿いに建っているビルで、中にいた人は暗梨が既に救助済みだった。
 朱羅も電波塔の骨組みを足場に同じビルへ飛び、窓を破って侵入する。そのはずみで電波塔の骨組みはひしゃげ、バランスを崩して倒壊した。
「一刻も早く、黒縄様をお助けせねば……蒼劔殿、どうか私を信じてお待ちになっていて下さい」

       ・

 黒縄はビルの屋上へ着くと、さっそく陽斗の気配を探った。
「さーて、クソガキの居場所は……っと」
「させません」
 が、大まかな位置すら探れないまま、朱羅が階下から拳を突き上げ、黒縄を殴り飛ばした。
「ぐはッ! テメェはどっかから出てきてンだ!」
「お褒めいただき、恐悦至極! 黒縄様がいらっしゃるのなら、どこからでも馳せ参じます!」
「褒めてねェ!」
 黒縄は指揮棒を振り、居酒屋通り一帯の異形化した建物達を集める。
 軒を連ねた居酒屋は、かつてこの場所に居着いていた異形を思わせる八匹の大蛇へと変じ、酒臭い息を吐く。黒縄が屋上から飛び降りた瞬間、鋭利な酒瓶の破片が組み合わさってできた牙を剥き、我先にと朱羅へ襲いかかった。
「今度こそ、大人しくしやがれ!」
「お断りします!」
 朱羅は次々に襲ってくる大蛇の頭を砕き、黒縄を追って居酒屋通りへと飛び降りる。
 砕かれた大蛇の頭は力を失い、物言わぬガレキと化す。黒縄は指揮棒を振るい、ガレキを集めて大蛇の頭を修復すると、再び朱羅を襲わせた。
「日付が変わるまで、残り三十分……テメェだけも逃げたらどうだ、朱羅ァ!」
「できません! 黒縄様を残して逃げるなど!」
「ならば、俺と共に残って死ね!」
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