贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第10.5話「ブラック・クリスマス side暗梨」

番外:白石を拐った「術者」達

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「誰がお人好しゴリラですか、黒縄様?」
「あ、やっべ」
 朱羅が笑顔でキレ、黒縄に迫る。
 皆が笑顔を見せる中、不知火は白石を連れ去った術者のことを思い出していた。
のこと、朱羅君に言うべきだろうか? 五代君は話していないようだが……)
 平静を装い、コーラに口をつける。
 不知火は白石を拐った術者達について、陽斗達に話していないことがあった。
 そして今も、伝えるか迷っていた。

       ・

 暗梨と別れた後、不知火は五代の情報をもとに白石を追っていた。
 結界を張った名曽野駅周辺には一切痕跡が残っていなかったため、結界外の彼女にゆかりのある場所をしらみつぶしに訪れていった。
『そこのビルジングが、白石聖美の職場ッス!』
「了解」
 自宅、実家と外し、三番目に訪れたのが、白石の職場である名曽野テレビ局だった。
 時刻は、零時を回った頃。既に黒縄の妖力は正常に戻され、あとは首謀者である白石を捕らえるだけだった。
『にしても、よく生き延びたッスねー。白石氏の家も、実家も、即死不可避のトラップ屋敷だったッスのに』
「悪いね。体だけは丈夫なんだ」
 五代の賞賛に、不知火はあっさりと返す。
 白石の自宅と実家には、侵入者避けのトラップが仕掛けられていた。どちらも建物に張られた結界を本人以外が解くと発動する仕組みで、自宅は建物ごと爆破、実家は凶悪な異形だらけの異界に閉じ込めるというトラップだった。並の術者や異形ならば、生きて帰ってこられなかっただろう。
(さすが、目白氏だぜぃ。あの爆破と異形ラッシュをモノともしないとは!)
 実際にその様子を監視していた五代は、素直に感心していた。
 と同時に、恐れてもいた。不知火はいくら傷を負っても、爆破に巻き込まれても、衣服を含め無傷だったのである。
(……まさか、不老不死? FLOWーWHO SHEふろう ふーしーなのん? そんなチョコバナナなことが……でも目白氏、即死級の呪いまみれになっても生きてたしなぁ)

       ・

「五代君」
『うぇっひょぉぉーぃッ?! ぬぁんでございましょいぃッ?!』
 突然不知火に話しかけられ、五代は奇声を上げた。
 五代が考えている間に、不知火は屋上の扉からテレビ局内へと侵入していた。
 時折、夜勤の社員とすれ違うが、魔具で姿を消しているので気づかれなかった。
「あの部屋から妖気を感じる。中の様子を教えて欲しい」
 不知火が足を止めたのは、異様に静かなオフィスの前だった。
 この部屋の一帯だけ人がおらず、廊下の照明が消えている。不知火はドアのすりガラス越しに中を覗いてみたが、明かりが消えていて何も見えなかった。
『ハイ、タダイマァァァァァッ!』
「うるさっ」
 不知火はたまらず、ワイヤレスイヤホン型の札を耳から外す。
「キャーッ!」
 その時、オフィスから女性の悲鳴が聞こえた。
「っ! 白石!」
『あ、ちょ、めめめい氏タンマ!』
 不知火は五代の静止を聞かず、部屋へ突入する。
 直感的に、悲鳴の主は白石だと思った。

       ・

「た、助けて……」
 オフィスは濃い闇に満ちていた。月明かりすら見えない。
 悲鳴を上げた女性は、今まさに闇へ飲まれようとしていた。闇は巨大なスライムのように意志を持ってうごめき、女性の体の大半を飲み込んでいる。
 女性は五代が集めた白石聖美の写真と同じ顔をしていた。不知火の直感通り、悲鳴の主は彼女だったのだ。
「っ!」
 不知火は首から下げていた錫杖を元のサイズに戻し、女性を捕らえている闇へと放った。
 錫杖は暗闇に金色の線を残し、真っ直ぐ飛んでいく。しかし闇を貫く前に何者かによって弾かれた。弾かれた瞬間、キンッと金属音が鳴り響いた。
「彼女の身柄は我々が引き取ります。邪魔立てしないでいただきたい」
 闇が引き、蛍光灯が点る。
 オフィスに白石の姿は無く、代わりに細身の若い男が鉄の槍を手に立っていた。切長の瞳をした美男で、長い藤色の髪をポニーテールにしてまとめている。洋装で、薄紫色のワイシャツに濃い紫色のベストを重ねて着ていた。足がスラっと長く、黒いレザーのパンツとロングブーツを着こなしており、槍さえ持っていなければ雑誌モデルのようだった。
「君は何者だ?」 
「術者協会の者です。貴方は……不知火具道さんですね?」
『うげっ』
 術者協会の名が出た途端、五代の通信が切れた。
(彼について、調べてもらいたかったのだが……)
 不知火は五代から情報を聞き出すのを諦め、目の前の彼に集中した。
「そうだよ。節木高校で教師をしている。ここへは課外授業の依頼を……」
「虚言は結構。今宵の貴方の行動はおおかた把握しています。彼女……白石聖美が何をしでかし、それによって何が起こったのか。それを貴方がたがどのようにして収束させたのか」
「……なるほど。そちらにも優秀な諜報員がいるようだね」
 不知火はチラッとワイヤレスイヤホンに目をやる。
 五代が裏で彼らに情報を流していたと考えたが、当の五代は『ノーノー!』と、わざわざボイスチェンジャーを使ってまで否定してきた。
『結界ノ周リ、妙ナ動キシテル鳥イッパイ飛ンデタネ。何カニ操ラレテルミタイニ。デモ、鳥カラ術ノ気配ハ感ジナカタシ、白石聖美トモ関係ナサソダッタカラ、スルーシチャッタヨ。テヘッ』
(片言で分かりにくいなぁ)
 心の中でぼやきつつも、不知火は彼らがどのようにして情報を得ていたのか、おおよそ理解した。
「術で鳥の言語を解読し、対話して索敵させていたのか。我々に気づかれたくないとはいえ、わざわざそこまでするとは」
「違うよ!」
 その時、不知火の体がふわりと宙に浮き上がった。
 見れば、中世的な顔立ちをした少年が不知火の背に抱きついている。ゆるくパーマがかかった薄い茶髪の少年で、毛先は空色がかっている。藤色の髪の男よりもカジュアルな格好で、上はオシャレなポンチョ、下は薄い青色のジーパンを着ていた。靴は真新しいスニーカーを履いており、一度も外で歩いたことがないほど底が綺麗だった。
「あの子達は僕の友達! 操ってなんかいない!」
 少年は不知火を見下ろし、むくれる。少年の体は風船のように浮き上がり、不知火から体の自由を奪った。
 どうやら彼も術者協会の者らしく、藤色の髪の男は突然現れた少年に動じることなく、冷静に不知火を見上げていた。
「術者協会は貴方がたの行動を高く評価しています。白石聖美こそが主犯であり、黒縄は被害者である、と」
「ずいぶん物分かりがいいね。気味が悪いくらいだ」
「我々とて、一方的に異形を殲滅せんめつしたいわけではありませんから。とは言え、納得していない術者がいるのも事実です。次回の定例会議に黒縄を同行させて下さい。此度の件について、本人に証言させます」
「彼が素直について来ると思うかい?」
「これは会長の指示でもあります。来なければ、危険な異形として即刻処分されるでしょう」
「……!」
 会長と聞き、不知火の表情がこわばる。いつもの不知火らしからぬ、警戒心むき出しの反応だった。
「……一応頼んではみるよ」
「お願いします。では、我々は白石聖美の痕跡を消さねばなりませんので、ご退出下さい」
「ご退出、ご退出!」
 不知火は少年に抱えられたまま、ふわりふわりとドアへ向かう。
 部屋を出る前に、「お忘れ物ですよ」と藤色の髪の男が不知火の錫杖を投げて寄越してきた。彼は錫杖をつかんでいる間だけ、黒い革手袋をはめていた。
「うひゃあっ!」
 飛んできた錫杖に、茶髪の少年は悲鳴を上げる。はずみで、不知火から手を離してしまった。
「わっ! ごめん!」
「構わないよ」
 不知火は落下している最中に片手で錫杖をキャッチし、着地する。抵抗せず、縮めて首のチェーンへ取り付けた。
「ちょっと、紫野ノ瑪シノノメ! そんな物騒な物、急に投げないでよ!」
「そんなに驚くことはないでしょう、幽空ユウゾラ。たかが魔具なのですから」
 憤慨する茶髪の少年に対し、藤色の髪の男は冷たく返す。
 そこへ「いつまでかかってンだ?」と壁の一角が闇に染まり、赤髪の少年が顔を覗かせた。茶髪の少年よりも幼い、中学生くらいの小柄な少年で、羽織っている毛皮のコートが全く似合っていなかった。
「すみません、羅門ラモン。すぐに済ませます」
「早くしろよー」
 赤髪の少年は闇へと引っ込む。白石を飲み込んだ闇を操っていたのは、彼なのかもしれない。
「……では、私はこれで。事後処理、感謝する」
 不知火は彼らに背を向け、オフィスを出た。
 後ろで茶髪の少年が「バイバーイ」と宙に浮いたまま、手を振る。藤色の髪の男は軽く会釈するのみで、言葉はかけてこなかった。
「紫野ノ瑪、幽空、羅門……聞いたことのない名の術者だ。君は何か知っているかい?」
 オフィスを離れてしばらく歩いたのち、不知火は五代に尋ねた。
 五代は聞かれた質問には嘘をつけない。己の知りうる限りの情報を、やむなく答えた。
『……朱羅氏の育ての親っす。あの三人、術者じゃなくて鬼っすよ』

(第10.5話「ブラック・クリスマス side暗梨」終わり)
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