贄原くんと3匹の鬼

緋色刹那

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第17話(第2部 第6話)「陽斗、帰省する」

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「はい、はい……それじゃあ、失礼します」

 高校生活二度目の夏休みに入り、一週間ほどが経った、ある昼下がりのこと。

 陽斗はスマホ通話を終えると、ちゃぶ台で白玉クリームぜんざいを丼いっぱい食べている蒼劔に告げた。

「というわけで来週、実家に帰ることになったから」

 ゴフッ、とむせる蒼劔。口から小豆の粒が飛び出す。

「なんだと? どういうなのか説明してくれ、陽斗」

「あれ? さっきの電話、聞いてなかった?」

「聞いていない。白玉クリームぜんざいに夢中だったからな。陽斗にはパイナップルを丸ごと使った、南国フルーツポンチを用意していると、朱羅が言っていたぞ」

「やったー! もらってくるねー!」

「待て! 先に、実家へ帰る理由を教えてくれ!」

 陽斗はサンダルをつっかけ、廊下へ出る。その後を、蒼劔が追いかける。

「はー、涼しー。去年は廊下に出るだけで地獄だったのにー」

「そんなに暑かったのか?」

「暑いってもんじゃないよー! ここのところ、年々暑くなってるんだから!」

 本格的な夏が始まる前、節木荘はプチリフォームした。吹きさらしだった二階の廊下を窓や壁で囲い、外気を遮断した上、冷暖房完備になった。

 廊下だけではない。老朽化した外階段を撤去し、代わりにエレベーターを設置。増設した一階廊下とつなげた。

 一階廊下は台所と玄関につながっている。これでいちいち外へ出ずとも、朱羅が食事を用意してくれているキッチンへ移動できるようになった。

 これらのリフォームは黒縄の指示で行われた。人間の住民である陽斗や飯沼のため……ではなく、食事のたびにドタバタと廊下や階段が騒がしくなるのが煩わしくなったから、らしい。

 廊下の窓や壁が監視避けの結界にもなっている……という事実を知っているのは、朱羅と五代だけだった。要するに一周回って、陽斗のためになっているのである。

「朱羅さーん! フルーツポンチくださーい!」

「はい、どうぞ。ついでに、お茶も持っていっていただけますか? 冷たい煎茶です」

「俺が持とう」

 パイナップルやマンゴー、パッションフルーツ、スターフルーツ、ナタデココなど、南国の果物をふんだんに使っている。陽斗は「わぁ」と目を輝かせた。

「一気に食べるなんてもったいないね。半分だけ食べて、残りは冷蔵庫に入れてもいい?」

「腐りますよ。また作って差し上げますから、全部食べちゃってください」

 居間からは、テレビゲームに熱中している黒縄の楽しげな声が聞こえた。

「うらうら……おっしゃー! 世界ランク一位だぜ! 見ろよ、朱羅!」

「黒縄様も遊んでばかりいないで、たまにはお部屋のお掃除でもなさってくださいよ」

「やだね、面倒くさい。夏は家でゴロゴロするって決めてンだよ」

「ハァ。夏休みの宿題でも用意した方がいいですかね?」

 部屋に戻ると、陽斗は口いっぱいに南国のフルーツを頬張りながら、「というわけ」のわけを話した。

「不動屋さんから電話があったんだ。昔、僕とおばあちゃんが住んでいた家が売れたんだって。だから、家に荷物が残ってないか、夏休み中に確認しに行って欲しいってお願いされたんだ」

「陽斗の実家とは、どこにあるんだ?」

「ノホホン島だよ。南にある、小さな離島だよ。海がキレイで、魚が美味しくて、すっごく良いところなんだ! 飛行機とフェリーで五、六時間くらいかかるかな? 僕はお金がないから、途中まで深夜バスで行くけど」

「ノホホン島……?」

 蒼劔は「聞いたことがあるような、ないような……」と首を傾げた。

「いいのか? 売ってしまって」

 「うん」と、陽斗は寂しげに微笑んだ。

「島にはめったに帰らないし、あの家に住みたい人が使ってくれた方がいいと思うんだ。島で新しく家を作るのって、時間もお金もたくさんかかるから」

「そうか」

 蒼劔には懐かしむ家も、死を悼む家族もいない。だから、陽斗の気持ちは分からない。

 しかし、大切な友はいる。その友の大事な思い出の詰まった家なのだと考えると、少しだけそのつらさが分かるような気がした。

「俺もついて行っていいか? 陽斗がどんなところで生まれ育ったのか、この目で見てみたい」

「もちろん! いっしょに行こう!」

 そこへ、

「俺も行くぜ!」

 一階にいた黒縄がぴょーんと床をすり抜け、畳へ着地する。すでに、ゴーグルと浮き輪を装備していた。

「黒縄くんも行くの?」

「あたぼうよ! やっぱ、夏は海だよなァ! ヒラメにタイ! アワビにウニ! エビ、イカ、タコ! 高級な魚介類が、俺様を待っているぜー!」

「夏は家でゴロゴロするって決めていたんじゃないのか?」

「ちょうど、ゴロゴロすンのも飽きてきたからな。気晴らしだ! ついでに、テメェの交通費も出してやるよ」

「いいの?! やった!」

「私も行きます」

 朱羅も黒縄に続き、上半身のみニュッと畳から生えてきた。

「お、朱羅さんも来る?」

「えぇ。新鮮な食材を調達したいですし、私の知らない地元の料理や味を教わりたいですね。ご安心を、五代殿には食糧を余分に用意しておきますよ」

「私も行くわ!」

 窓の中から、飯沼とおキョウが顔を出す。となりの部屋でスイカのフルーツポンチを食べながら、二人の話を盗み聞きしていたらしい。

「飯沼さんとおキョウちゃんも?!」

「ノホホン島って、海がきれいで有名でしょ? おキョウに本物の海を見せてあげたいの」

 それに、と飯沼はもじもじし始めた。

「私も贄原くんの故郷の味……じゃなくて、知らない料理のレシピを増やしたいし! 亡くなったご家族にもご挨拶……もとい、お墓参りしたいし。
 べ、別に、いずれ里帰り移住するかもしれないから視察しておきたいとか、そんなんじゃないんだからね!」

「そっか! きっと、みんな喜ぶよ!」

 おキョウは興味がないのか、まぐまぐと美味しそうにナタデココを食べている。ガラスの皿まで食べそうになり、朱羅が慌てて取り上げた。

 さらに、参加者は増えた。

「オレも行くで!」

 スパコーンッと、押し入れのふすまが開く。

 あぐらを組み、宇治金時のかき氷を食べていた眼帯の関西人……森中がひょこっと顔を出した。朱羅から食らった強烈な二発は、ようやく治りつつある。

「指名手配犯がバカンス行こうとしてンじゃねェよ! 見つかンだろうが!」

「息抜きや、息抜き! ずっと家ん中おんのつらいねん。たまには外で羽伸ばさせてぇな」

 森中は陽斗の誕生日に起きた騒動以降、節木荘に居候していた。

 部屋割りは一悶着あった末、消去法で陽斗の部屋の押し入れになった 。ただの荷物置き場だった押し入れは、すっかりミリタリー調に模様替えされていた。

 最初のうちは、皆「また陽斗を人質に取るかもしれない」と警戒していたが、森中は人間相手だと気さくで、陽斗や飯沼とはすぐに打ち解けた。

 次第に、穏健派である蒼劔、おキョウとも慣れ、誰よりも警戒度が高いはずの五代も、シューティングゲームやミリタリー系アニメといった共通の趣味を通じ、仲良くなった。今では、気のいい親戚の兄ちゃんといった具合である。

「ノホホン島って、陽斗みたいな体質でも安全に生きられるくらい、へーわな場所なんやろ? そないな場所に術者が……ましてや、オレを知っとる十二人将なんぞが来るわけあらへんって。顔と気配は魔具でなんとか誤魔化すさかい! なっ!」

「チッ、捕まっても知らねーからな」

 これで、五代以外のメンバーは全員ついていくと決まった。残るは、五代だけだが

「一応、五代さんにも訊いてみる?」

「どうせ、留守番だろう。今回は長旅だからな」

「あのー……」

「そうだよね。お土産たくさん、買ってきてあげよう!」

「すいやせーん……」

「あ、新聞間に合ってまーす」

「新聞じゃないっすよ! 五代屋っすよ!」

 いつからいたのか、むくれた五代が玄関に立っていた。

 キャラクターもののハンカチを握りしめ、よよよと柱にもたれかかる。涙は一ミリも流れておらず、むしろドライアイでカラッカラだった。

「アタイ抜きで旅行の相談なんて、ひどいわ! わっちも混ぜておくんなんしよ~!」

「ごめんね、五代さん! 五代さんも一緒に来る?」

「うん」

「そらみろ。やっぱ、行かねェって……ん?」

「当然だ。五代が長期間、節木荘を離れるわけがな……は?」

 皆、五代の言葉に耳を疑った。

「五代殿。今、なんと?」

「うん。だから、俺っちも行くよ? 陽斗氏の実家」

 一瞬静まり返ったのち、

「「「えぇ~~~ッ?!?!」」」

 と、五代とおキョウ以外の驚く声が、節木荘中に響き渡った。
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