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秋編②『金貨六枚分のきらめき』
第五話「最後の金貨の行方」⑵
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屋根裏部屋は標本箱であふれかえっていた。壁や机の上、床など、部屋中に無造作に立てかけてある。植物のツルで天井の梁にくくりつけられ、吊り下げられているものもあった。
中身は昆虫ではなく、紅葉やイチョウなどの秋を代表する植物の葉で、一枚一枚丁寧にピンで留められている。一部、葉の形に削った白金色の蛍石が混じっており、部屋全体を淡く照らしていた。
「ようこそ、渡来屋へ。今期の商品は秋の落ち葉でございます。『拾っておけば良かった』あるいは『拾わなければ良かった』と後悔なさっているお客様、どうぞご覧になって行って下さいませ……つってな」
渡来屋はわざとらしくお辞儀し、由良達を迎え入れた。接客業とは縁遠い、人を小馬鹿にしたような笑みを顔に貼りつけていた。
「落ち葉なんていりません。それより、私の祖父母が持っていた金貨が何処にあるのかご存じありませんか? 懐虫電燈の記念硬貨なんですけど」
由良は冷めた目で渡来屋を睨み、尋ねる。
すると、
「これのことか?」
と、渡来屋は懐から二枚のコインを取り出し、由良に見せた。二枚とも、由良が探していた懐虫電燈の記念硬貨だった。金のアリの巣画廊で拾った〈心の落とし物〉の金貨と同じく、汚れも劣化もない。
目当ての品が突然目の前に現れ、由良は我を失った。
「っ! 返して!」
反射的に、コインに手を伸ばす。
しかし由良がコインをつかむ前に、渡来屋がコインを持っている手をサッと上へやってしまった。
「タダでは返せないな。お前が持っている三枚の〈心の落とし物〉の金貨と引き換えだ」
「枚数が合わないじゃない」
「そっちの三枚は欠陥品、こっちの二枚は美品なんだ、当たり前だろう? 欲を言えば、タマの金貨も頂きたいところだが、俺でも奪い取れなかった代物を取りに行かせるのも酷だからな……その三枚で手を打ってやる」
「どうせまた〈探し人〉に売りつける気なんでしょう? 絶対に渡さないから」
「だったら、この金貨はさっさと売っ払ってしまおう。貨幣としての価値はないが、金の塊としては申し分ない。お前も金貨のことなど忘れてしまえ」
「誰が忘れるもんですか。無条件で金貨を渡すか、金貨を誰にも渡さないと約束してくれるまで帰りませんからね」
由良は誰も部屋に入れないよう、ドアの前で仁王立ちになる。客である〈探し人〉が来なければ、渡来屋も折れると踏んだのだ。
由良の「帰らない」宣言に、同行者の中林は渡来屋以上にうろたえた。
「ゆ、由良さん、帰らないなんて嘘ですよね? 私は帰ってもいいですよね?」
「いいよ。その代わり、店の余り物でいいから、適当に食べ物と飲み物を持って来てくれる? とりあえず一週間分」
「構いませんけど……由良さんが見えてる金貨、たぶん〈心の落とし物〉ですよ。私には見えませんから。そんな偽物に惑わされないで、本物の金貨探しましょうよ」
中林は由良の言動から状況を察し、引き止める。
それでも由良は折れなかった。
「……たとえ偽物でも、あの男の手に金貨があるのは許せない。あれは私にも秘密にしていた、おじいちゃんとおばあちゃんの宝物だもの。絶対、本物のコインと一緒に持って帰る」
由良はドアの前に立ったまま、渡来屋の手元にあるコインをジッと睨む。隙あらば、力づくでも渡来屋から奪い取るつもりだった。
堂々と営業妨害する由良に対し、渡来屋はコインを持った手を上げたまま、文句も言わずに静観していた。
中林は由良から鍵を託され、玉蟲匣を出て行く。言いつけ通り、外からドアの鍵を閉める音が聞こえた。
中林が玉蟲匣から出て行ってしばらくすると、渡来屋が深く息を吐いた。残った由良に対して呆れているというより、中林がいなくなって安堵している様子だった。
「ハァ……あのお嬢さん、やっと出て行ったか。よくもまぁ、あそこまでお前の奇行を我慢出来るものだ」
「おあいにく様。中林さんは私が貴方達に気づきやすいこと、知ってるもの。まさか、中林さんをここから追い出したくて、取引を吹っかけてきたんじゃないでしょうね?」
由良は冗談めかして言ったが、渡来屋はクスリともしなかった。
「……そうだ、と言ったら?」
「え?」
一瞬、由良の警戒が解ける。
その隙に渡来屋は持っていたコインを懐へ仕舞った。
「あ」
「案ずるな。これは元々、お前の落とし物だ。本物の金貨の在処を知れば、おのずと消える」
「私の?」
「そうだ。お前の金貨を求める想いが具現化し、〈心の落とし物〉になったのだ。だが残念なことに、本物の金貨は懐虫電燈にはない。かと言って、俺が他所に売っ払ったわけでもない」
「だったら、何処にあるのよ?」
渡来屋は板張りの床を指差し、答えた。
「地面の下だ。本物の二枚の金貨は、お前の祖父母の墓に埋まっている」
中身は昆虫ではなく、紅葉やイチョウなどの秋を代表する植物の葉で、一枚一枚丁寧にピンで留められている。一部、葉の形に削った白金色の蛍石が混じっており、部屋全体を淡く照らしていた。
「ようこそ、渡来屋へ。今期の商品は秋の落ち葉でございます。『拾っておけば良かった』あるいは『拾わなければ良かった』と後悔なさっているお客様、どうぞご覧になって行って下さいませ……つってな」
渡来屋はわざとらしくお辞儀し、由良達を迎え入れた。接客業とは縁遠い、人を小馬鹿にしたような笑みを顔に貼りつけていた。
「落ち葉なんていりません。それより、私の祖父母が持っていた金貨が何処にあるのかご存じありませんか? 懐虫電燈の記念硬貨なんですけど」
由良は冷めた目で渡来屋を睨み、尋ねる。
すると、
「これのことか?」
と、渡来屋は懐から二枚のコインを取り出し、由良に見せた。二枚とも、由良が探していた懐虫電燈の記念硬貨だった。金のアリの巣画廊で拾った〈心の落とし物〉の金貨と同じく、汚れも劣化もない。
目当ての品が突然目の前に現れ、由良は我を失った。
「っ! 返して!」
反射的に、コインに手を伸ばす。
しかし由良がコインをつかむ前に、渡来屋がコインを持っている手をサッと上へやってしまった。
「タダでは返せないな。お前が持っている三枚の〈心の落とし物〉の金貨と引き換えだ」
「枚数が合わないじゃない」
「そっちの三枚は欠陥品、こっちの二枚は美品なんだ、当たり前だろう? 欲を言えば、タマの金貨も頂きたいところだが、俺でも奪い取れなかった代物を取りに行かせるのも酷だからな……その三枚で手を打ってやる」
「どうせまた〈探し人〉に売りつける気なんでしょう? 絶対に渡さないから」
「だったら、この金貨はさっさと売っ払ってしまおう。貨幣としての価値はないが、金の塊としては申し分ない。お前も金貨のことなど忘れてしまえ」
「誰が忘れるもんですか。無条件で金貨を渡すか、金貨を誰にも渡さないと約束してくれるまで帰りませんからね」
由良は誰も部屋に入れないよう、ドアの前で仁王立ちになる。客である〈探し人〉が来なければ、渡来屋も折れると踏んだのだ。
由良の「帰らない」宣言に、同行者の中林は渡来屋以上にうろたえた。
「ゆ、由良さん、帰らないなんて嘘ですよね? 私は帰ってもいいですよね?」
「いいよ。その代わり、店の余り物でいいから、適当に食べ物と飲み物を持って来てくれる? とりあえず一週間分」
「構いませんけど……由良さんが見えてる金貨、たぶん〈心の落とし物〉ですよ。私には見えませんから。そんな偽物に惑わされないで、本物の金貨探しましょうよ」
中林は由良の言動から状況を察し、引き止める。
それでも由良は折れなかった。
「……たとえ偽物でも、あの男の手に金貨があるのは許せない。あれは私にも秘密にしていた、おじいちゃんとおばあちゃんの宝物だもの。絶対、本物のコインと一緒に持って帰る」
由良はドアの前に立ったまま、渡来屋の手元にあるコインをジッと睨む。隙あらば、力づくでも渡来屋から奪い取るつもりだった。
堂々と営業妨害する由良に対し、渡来屋はコインを持った手を上げたまま、文句も言わずに静観していた。
中林は由良から鍵を託され、玉蟲匣を出て行く。言いつけ通り、外からドアの鍵を閉める音が聞こえた。
中林が玉蟲匣から出て行ってしばらくすると、渡来屋が深く息を吐いた。残った由良に対して呆れているというより、中林がいなくなって安堵している様子だった。
「ハァ……あのお嬢さん、やっと出て行ったか。よくもまぁ、あそこまでお前の奇行を我慢出来るものだ」
「おあいにく様。中林さんは私が貴方達に気づきやすいこと、知ってるもの。まさか、中林さんをここから追い出したくて、取引を吹っかけてきたんじゃないでしょうね?」
由良は冗談めかして言ったが、渡来屋はクスリともしなかった。
「……そうだ、と言ったら?」
「え?」
一瞬、由良の警戒が解ける。
その隙に渡来屋は持っていたコインを懐へ仕舞った。
「あ」
「案ずるな。これは元々、お前の落とし物だ。本物の金貨の在処を知れば、おのずと消える」
「私の?」
「そうだ。お前の金貨を求める想いが具現化し、〈心の落とし物〉になったのだ。だが残念なことに、本物の金貨は懐虫電燈にはない。かと言って、俺が他所に売っ払ったわけでもない」
「だったら、何処にあるのよ?」
渡来屋は板張りの床を指差し、答えた。
「地面の下だ。本物の二枚の金貨は、お前の祖父母の墓に埋まっている」
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