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夏編③『水平線の彼方、青色蜃気楼』
第四話「コインランドリーサブマリン」⑶
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真冬が妄想したことで、コインランドリーの洗濯機のドアは〈心の落とし物〉となり、何処かの海を潜航中の潜水艦の窓と繋がってしまったらしい。
こうなった以上、真冬本人が〈心の落とし物〉を見るか、飽きるかまでは消えない。由良は「商店街の企画じゃないですか?」と青年を説き伏せ、洗濯が終わるまで二人でのんびりと深海生物を眺めることにした。
「青茶ありますけど、飲みます?」
「青茶ってなんすか?」
「烏龍茶のことです。本来は、茶葉の発酵の度合いを差すそうですが」
「いただきます。驚いて、喉渇いちゃって」
由良は真冬にも振る舞った冷たい青茶を、青年と分け合う。
青年は注がれた青茶を見て、「お茶自体は青くないんすね」と不思議がっていた。
「こうして深海魚を見てると、実家を飛び出した時のことを思い出すっす」
「飛び出して来ちゃったんですか?」
「家業の漁師を継ぎたくなくって……町を出れば自由に生きられると思ってたんすけど、そう上手くはいかないっすね。"実家にだけは帰らねぇ"ってバイト掛け持ちして、なんとかやってるっす」
「立派だと思いますよ」
「あざす」
青年はリュウグウノツカイが優雅に横切っていくのを目で追い、感慨深そうに呟いた。
「……生活はギリギリっすけど、実家に戻る気も漁師になる気もねぇっす。でも、こうして魚を見るのは好きだって、今日気づいたっす。魚を見たら実家思い出すと思って避けてきたんすが、もう気にしないことにするっす」
青年は「ここから一番近い水族館、何処でしたっけ?」とスマホで検索する。
水族館、と聞いて由良は思い出したことがあった。
「そういえば、商店街に金魚楼っていう金魚屋さんがあるんですけど、そこのご主人が"若い男手が欲しい"ってボヤいてらっしゃいましたよ。淡水魚ですけど、興味があるなら紹介しましょうか?」
「ホントっすか!」
青年は渡りに船とばかりに食いついた。
「金魚屋があること自体、知らなかったっす。都合が合う日にぜひ、お願いするっす」
洗濯が終わると、深海の幻は消えた。一時間近くも洗濯機の前で座っていただけだったとは思えないほど、癒された。
後日、由良は約束通り青年を金魚楼の主人に紹介した。
見た目とは裏腹に、気さくで働き者の彼を、金魚楼の主人は気に入り、新しくバイトとして雇ってくれることになった。魚に詳しいとはいえ、金魚に関しては全くの素人であるため、毎日金魚楼の主人とその孫娘から手取り足取り教わっているらしい。
青年は深海生物が見られるコインランドリーを気に入り、かよっている。由良の真似をして"開かずの洗濯機"のドアを見つめたら、深海生物の幻が現れたという。噂のせいか、夜はほとんど人が来ないので貸し切り状態らしい。
一方、由良は自宅の洗濯機が直ったので、商店街のコインランドリーには行かなくなった。通う手間が省けてすっきりした反面、ふと自宅のドラム式洗濯機の丸いドアに影が映ると、つい「深海魚じゃなかろうか」と疑う癖がついてしまった。
「ラブカとかでっかいイカとかはちょっと怖いけど、リュウグウノツカイとか虹色に光ってたクラゲとかは、また見たいかな」
由良はスマホを検索し、それらが見られる水族館が近くにないものかと調べた。
こうなった以上、真冬本人が〈心の落とし物〉を見るか、飽きるかまでは消えない。由良は「商店街の企画じゃないですか?」と青年を説き伏せ、洗濯が終わるまで二人でのんびりと深海生物を眺めることにした。
「青茶ありますけど、飲みます?」
「青茶ってなんすか?」
「烏龍茶のことです。本来は、茶葉の発酵の度合いを差すそうですが」
「いただきます。驚いて、喉渇いちゃって」
由良は真冬にも振る舞った冷たい青茶を、青年と分け合う。
青年は注がれた青茶を見て、「お茶自体は青くないんすね」と不思議がっていた。
「こうして深海魚を見てると、実家を飛び出した時のことを思い出すっす」
「飛び出して来ちゃったんですか?」
「家業の漁師を継ぎたくなくって……町を出れば自由に生きられると思ってたんすけど、そう上手くはいかないっすね。"実家にだけは帰らねぇ"ってバイト掛け持ちして、なんとかやってるっす」
「立派だと思いますよ」
「あざす」
青年はリュウグウノツカイが優雅に横切っていくのを目で追い、感慨深そうに呟いた。
「……生活はギリギリっすけど、実家に戻る気も漁師になる気もねぇっす。でも、こうして魚を見るのは好きだって、今日気づいたっす。魚を見たら実家思い出すと思って避けてきたんすが、もう気にしないことにするっす」
青年は「ここから一番近い水族館、何処でしたっけ?」とスマホで検索する。
水族館、と聞いて由良は思い出したことがあった。
「そういえば、商店街に金魚楼っていう金魚屋さんがあるんですけど、そこのご主人が"若い男手が欲しい"ってボヤいてらっしゃいましたよ。淡水魚ですけど、興味があるなら紹介しましょうか?」
「ホントっすか!」
青年は渡りに船とばかりに食いついた。
「金魚屋があること自体、知らなかったっす。都合が合う日にぜひ、お願いするっす」
洗濯が終わると、深海の幻は消えた。一時間近くも洗濯機の前で座っていただけだったとは思えないほど、癒された。
後日、由良は約束通り青年を金魚楼の主人に紹介した。
見た目とは裏腹に、気さくで働き者の彼を、金魚楼の主人は気に入り、新しくバイトとして雇ってくれることになった。魚に詳しいとはいえ、金魚に関しては全くの素人であるため、毎日金魚楼の主人とその孫娘から手取り足取り教わっているらしい。
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一方、由良は自宅の洗濯機が直ったので、商店街のコインランドリーには行かなくなった。通う手間が省けてすっきりした反面、ふと自宅のドラム式洗濯機の丸いドアに影が映ると、つい「深海魚じゃなかろうか」と疑う癖がついてしまった。
「ラブカとかでっかいイカとかはちょっと怖いけど、リュウグウノツカイとか虹色に光ってたクラゲとかは、また見たいかな」
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