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秋編③『誰ソ彼刻の紫面楚歌(マジックアワー)』
第四話「渡せなかった指輪」⑴
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珠緒は毎年、オータムフェス最終日の夜はLAMPで夕食を取る。翌日には日本を発つからだ。
由良も共に席へつき、「今年はこんな物を買った」とか「こんな面白い物を見つけた」など、お互いの成果について話すのだが、今年は閉店時間を過ぎても珠緒は現れなかった。
「昼間はずいぶん楽しんでたし、満足して寝ちゃったのかしら?」
由良は珠緒を待つのを諦め、店を閉めた。帰宅し、LAMPの残り物を使って夕飯の準備をする。
夕飯が出来上がった頃、タイミングを見計らったようにインターホンが鳴った。カメラを確認すると、珠緒が玄関先に立っていた。
寒いのか、顔の下半分をマフラーへ埋めている。由良は慌てて彼女を家の中へ招き入れた。
「珠緒、遅かったわね。もう今年は来ないと思ってたのに」
「急に予約が入ってさー、さっきまで接客してたんだよね。遅くなっちゃったけど、なんか食べさせてけろ」
「店の余り物で良ければ構わないけど……」
「わーい、タダ飯ー」
「後片付けは手伝ってもらうからね?」
今夜の献立は紫キャベツのロールキャベツ、黒米、柴漬け、揚げた秋ナスの味噌汁と、紫尽くしだった。黒米は別名「紫米」とも呼ばれ、アントシアンを多く含んでいるため、紫がかった色をしている。
由良と珠緒はダイニングに向かい合って座り、夕飯を共にした。
「このロールキャベツ、色はすごいけど、味は普通だね。美味しい」
「でしょ? 見た目が毒々しいせいで売れ残っちゃったの。今後はトマト煮にして、色を誤魔化すつもり」
「紫に赤かー……もっとすごい色になりそう。今度帰ったら、味見させてよ」
一年間溜まった話の種は尽きず、話題は二転三転した。
珠緒が遅れた原因である「急な予約客」の話が出たのは、二人で後片付けを済ませ、食後のティータイムをまったり過ごしていた最中のことだった。
「今日のお客さんさー、すんごい羽振り良かったんだよね。アンティークの服とかアクセサリーとか、気に入ったのは片っ端から買っていったよ。"ここからここまで、全部"なんてセリフ、日本で聞くとは思わなかったなぁ」
「どっかの社長? それともコレクター?」
「ううん、女優さん。去年鍋パで知り合った、扇華恋って人」
「あー」
扇は由良の自宅で開催された鍋パーティの際、珠緒が骨董屋をやっていると聞いて興味を持っていた。「近々伺うわ」とは言っていたが、本当に来たとは。
「昼間はオータムフェスで忙しいし、向こうも目立つのは嫌だからって、夜に来てもらったの。専属のカメラマンさんも一緒だったよ。ブログ用に写真撮ってた」
「新しい愛人じゃないでしょうね?」
「どうだろ? 顔はサングラスとモジャモジャおヒゲで見えなかったなぁ。そのカメラマンさんもいろいろ買ってくれてね、動くミイラ男の人形とか、棺から飛び出す吸血鬼の人形とか、オータムフェスで売れ残ったグッズぜーんぶ持っていってくれたよ」
由良はLost and Foundの入口で脅かしてきた人形達を思い出し、渋い顔をした。
「……アレ、商品だったのか。あんなの買って、どうするつもりなんだろ?」
「撮影で使うんだって。普段はドラマや映画を作ってるらしいよ。ちょうど、ホラーものをやるつもりだったから、助かったって言ってた」
珠緒はホクホクと顔をほころばせる。急な予約客だったにもかかわらず、彼女がひと言も愚痴をこぼさなかった理由がよく分かった。
「赤字にならなくて良かったわね」
「うん。ただ……」
珠緒は少し不満そうにむくれた。
「そのカメラマンさん、玉蟲匣の方で売ってたパープルサファイアの指輪も気にしてたんだよねー。ペアリングで、片っぽだけ先に売れたやつ」
「そんなのも売ってるの?」
「うん。片っぽしかないから破格の値段で売ってるんだけど、他のお客さんには"いわくつきなんじゃないか"って邪推されて、全然売れないの」
「オバケグッズ買い過ぎて、お金が足りなくなったんじゃない?」
「カードで支払ってたし、それはないと思うなぁ。あの指輪も買ってもらえてたら、すっごく助かったんだけど……ねぇ、由良買わない? サファイアだから丈夫だし、普段使いにぴったりだよ?」
「いらん」
由良は珠緒の提案をバッサリ切り捨てた。
元々ペアリングだったということは、先に買った誰かとお揃いの指輪をつけることになる。万が一、同じ指輪をしていると周りに気づかれたら、その誰かとただならぬ関係だと誤解されてしまうかもしれない。
(紅葉谷さん一人でも悩んでるのに、これ以上関係がややこしくなったら、対処のしようがないわ。珠緒には悪いけど、悩みの種は間に合ってるのよ)
由良も共に席へつき、「今年はこんな物を買った」とか「こんな面白い物を見つけた」など、お互いの成果について話すのだが、今年は閉店時間を過ぎても珠緒は現れなかった。
「昼間はずいぶん楽しんでたし、満足して寝ちゃったのかしら?」
由良は珠緒を待つのを諦め、店を閉めた。帰宅し、LAMPの残り物を使って夕飯の準備をする。
夕飯が出来上がった頃、タイミングを見計らったようにインターホンが鳴った。カメラを確認すると、珠緒が玄関先に立っていた。
寒いのか、顔の下半分をマフラーへ埋めている。由良は慌てて彼女を家の中へ招き入れた。
「珠緒、遅かったわね。もう今年は来ないと思ってたのに」
「急に予約が入ってさー、さっきまで接客してたんだよね。遅くなっちゃったけど、なんか食べさせてけろ」
「店の余り物で良ければ構わないけど……」
「わーい、タダ飯ー」
「後片付けは手伝ってもらうからね?」
今夜の献立は紫キャベツのロールキャベツ、黒米、柴漬け、揚げた秋ナスの味噌汁と、紫尽くしだった。黒米は別名「紫米」とも呼ばれ、アントシアンを多く含んでいるため、紫がかった色をしている。
由良と珠緒はダイニングに向かい合って座り、夕飯を共にした。
「このロールキャベツ、色はすごいけど、味は普通だね。美味しい」
「でしょ? 見た目が毒々しいせいで売れ残っちゃったの。今後はトマト煮にして、色を誤魔化すつもり」
「紫に赤かー……もっとすごい色になりそう。今度帰ったら、味見させてよ」
一年間溜まった話の種は尽きず、話題は二転三転した。
珠緒が遅れた原因である「急な予約客」の話が出たのは、二人で後片付けを済ませ、食後のティータイムをまったり過ごしていた最中のことだった。
「今日のお客さんさー、すんごい羽振り良かったんだよね。アンティークの服とかアクセサリーとか、気に入ったのは片っ端から買っていったよ。"ここからここまで、全部"なんてセリフ、日本で聞くとは思わなかったなぁ」
「どっかの社長? それともコレクター?」
「ううん、女優さん。去年鍋パで知り合った、扇華恋って人」
「あー」
扇は由良の自宅で開催された鍋パーティの際、珠緒が骨董屋をやっていると聞いて興味を持っていた。「近々伺うわ」とは言っていたが、本当に来たとは。
「昼間はオータムフェスで忙しいし、向こうも目立つのは嫌だからって、夜に来てもらったの。専属のカメラマンさんも一緒だったよ。ブログ用に写真撮ってた」
「新しい愛人じゃないでしょうね?」
「どうだろ? 顔はサングラスとモジャモジャおヒゲで見えなかったなぁ。そのカメラマンさんもいろいろ買ってくれてね、動くミイラ男の人形とか、棺から飛び出す吸血鬼の人形とか、オータムフェスで売れ残ったグッズぜーんぶ持っていってくれたよ」
由良はLost and Foundの入口で脅かしてきた人形達を思い出し、渋い顔をした。
「……アレ、商品だったのか。あんなの買って、どうするつもりなんだろ?」
「撮影で使うんだって。普段はドラマや映画を作ってるらしいよ。ちょうど、ホラーものをやるつもりだったから、助かったって言ってた」
珠緒はホクホクと顔をほころばせる。急な予約客だったにもかかわらず、彼女がひと言も愚痴をこぼさなかった理由がよく分かった。
「赤字にならなくて良かったわね」
「うん。ただ……」
珠緒は少し不満そうにむくれた。
「そのカメラマンさん、玉蟲匣の方で売ってたパープルサファイアの指輪も気にしてたんだよねー。ペアリングで、片っぽだけ先に売れたやつ」
「そんなのも売ってるの?」
「うん。片っぽしかないから破格の値段で売ってるんだけど、他のお客さんには"いわくつきなんじゃないか"って邪推されて、全然売れないの」
「オバケグッズ買い過ぎて、お金が足りなくなったんじゃない?」
「カードで支払ってたし、それはないと思うなぁ。あの指輪も買ってもらえてたら、すっごく助かったんだけど……ねぇ、由良買わない? サファイアだから丈夫だし、普段使いにぴったりだよ?」
「いらん」
由良は珠緒の提案をバッサリ切り捨てた。
元々ペアリングだったということは、先に買った誰かとお揃いの指輪をつけることになる。万が一、同じ指輪をしていると周りに気づかれたら、その誰かとただならぬ関係だと誤解されてしまうかもしれない。
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