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第150話 医療施設を作ろう

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 一頻り鈴さんを撫でた後、なんで部屋が壊れてしまったのかを訪ねた。
 すると鈴さんは、こくんと頷くと何があったのかを話し出す。

「遥様やみんなと冒険に行く夢を見た」
「うんうん、それで?」
「そうしたら、遥様の横の茂みから魔物が飛び出してきたからばーんってした」
「それからそれから?」
「そうしたら腕がジーンとして起きた」
「なるほど、それで壊れちゃってたと」
「うん」
 どうやら夢の中でボクを助けた結果、現実で壊してしまったようだ。
 これは怒れない。

「うんうん、よくできました。それに夢の中のボクを助けてくれてありがとうございます。あとで雫さんにもそう言いましょうね」
「うん……」
 口数少なめな鈴さんだけど、しっかりと質問には答えてくれた。
 あとで怒らないようやんわりと口添えしておこう。
 それとは別に、部屋の壁の強度を少し考えなおそうかな?

「ところで鈴さんは何かやりたいことあったりします?」
 ちょっと話題転換。
 鈴さんについてちょっと深堀してみよう。
 
「遥様の従者兼侍女。それ以外は特に」
「あらら」
 鈴さんの返答は簡潔なものだった。
 どうやらボク関連以外はやる気が起きないようだ。

「遥様は」
「はい?」
「何かやってほしいこと、ある?」
 突然鈴さんからそのような問いかけをされてしまった。
 うーん、鈴さんにやってほしいことかぁ……。

「うーん、そうですねぇ。ボクの、友達……ですかね?」
「それはすでに。もっと他の、ない?」
「他ですかぁ……」
 どうやら鈴さんの中では、ボクは友達の範囲に入っているらしい。
 よかった。

「うー。そうなると今すぐには思いつきませんね。ところで、鈴さんは部屋関係で困ってることはありませんか? 材質強化は後で頼んでおきますけど」
 この際なので侍女のみんなの困ったことや改善してほしいことを聞いて回ろうかな?

「今はない、と思う」
 どうやら鈴さんには特に不満はないらしい。

「鈴さん、こんなところにいたのですか?」
「!?」
 雫さんが現れると同時に鈴さんがボクの後ろに隠れてしまう。
 それを見た雫さんは、少し落ち込んだように表情をわずかに曇らせた。

「鈴さん……」
「鈴さん? ちゃんと話し合いましょうね」
「ん……」
 物静かな雫さんが怒るとは思えないけど、鈴さんは明らかに雫さんを避けている。

「壊してごめんなさい……」
 鈴さんはボクの後ろに隠れながらも小さな声で雫さんにそう伝える。

「いいえ。私も少し言い過ぎました」
 雫さんはそう言うと、鈴さんにぺこりと頭を下げるのだった。

「そういえば気になっていたんですけど、雫さんはどんな感じに怒ったんですか?」
 鈴さんが逃げてくるくらいだからとっても怖い怒り方だったのだろうと思うのだけど、普段の雫さんから想像ができないのだ。

「壊しちゃだめですよ? めっ」
 優しく雫さんがそう言った瞬間、鈴さんの体がびくりと震えたのだ。

「雫、怖い……」
 どうやら雫さんの怒り方がというよりは、鈴さんが臆病なだけだったようだ。

「なるほど、よくわかりました。鈴さんはもう少し前向きになるほうがいいかもしれませんね。雫さんは特に何もないです」
 鈴さんは若干ネガティブなようなので前向きになれるよう尽力するとして、雫さんには注意すべきところはなさそうなのでこのままでいいだろう。

「私も頑張ります」
 雫さんも気合を入れた様子だ。

「そういえば、雫さんは居住環境関係で困ったことはありませんか? 要望でもいいんですけど」
 ついでなので雫さんにも聞いておこう。

「1つだけ」
「どうしました?」
 おずおずと手を挙げながら雫さんは語る。

「遥様と添い寝がしたいです」
 なんと雫さん、居住環境の要望ではなく己の欲望に忠実な要望を出してきた模様。

「え? えっと、構いませんけど」
 普段は瑞葉やフェアリーノームたちに埋もれて寝ているので一人増えたところで何も問題はない。

「では本日」
「あ、はい」
 雫さんは今日お望みのようだ。

「すずも」
「はい、わかりました」
 甘えん坊な鈴さんも一緒に添い寝をしたいようだ。
 といってもフェアリーノームたちに埋もれることになるだろうけど。

「それにしても部屋に関する要望がまだ出ませんね」
 今のところ2人にしか聞けていないが、特に要望らしい要望は出ていない。

「それでしたら意見を聞いてきます」
「すずも」
 2人はボクからの仕事と受け取ったのか、すぐに駆け出して行ってしまった。
 早い……。

「う~ん。それじゃあちょっとほかのことをしてみますか」
 2人が聞いて回っている間に次のやることを確認するとしよう。
 
 まずは拠点周辺を歩き回って何か変わったことがないかを確認する。
 些細なことや困ったことなどがあれば要改善、そうでなければ何かを建てたりして居心地を良く出来るよう整備をしていく予定だ。
 
 ボクたちの拠点の周辺にはお店などが多く立ち並んでいるが、全部拠点周辺の居住者向けとなっているため、外部から人が来たとしても購入することができない。
 理由はいろいろあるけど、一番はやっぱり技術的なものだったりあまり表に出したくないものだったりすることだろう。
 特にアキの料理なんかはあまりほかの世界、特に旧世界側には出したくない。

「えっと、今ある建物はっと……」
 ざっと確認したところ、武具屋に道具屋、酒場や酒屋、飲食店やフェアリーノーム食堂、カフェなどの喫茶店や共同浴場、それとラーメンなどを売る屋台などがあった。
 最近は書店もできているようで、個人で作った本を売っているらしい。
 ボクたちも出版社を立ち上げようかな?

「結構な数の商店があるから困ることは少ないか? う~ん……」
 ちなみに日用品は現在道具屋に置かれているようだ。

「あ、薬局作る?」
 日用品で思い出したのだが、この周囲には薬局がない。
 薬が必要になるかはわからないけど、薬局は必要だろう。
 せっかく各種研究所があるのだから利用しない手はない。

「となると、錬金系でなおかつ薬学に詳しい子に出店してもらおうかなぁ……」
 そうと決まればさっそく行動だ。

「薬局、薬学、薬……。あ、医者も必要だろうか?」
 医療関係は拠点内でも十分に行えるが、外にも医者はいたほうがいいかもしれない。
 でも、そういうのが得意な子はほかにもいただろうか。

 拠点に戻り医務室へと向かう。
 医務室にはミカとミナがいるので助言をもらおうという算段だ。
 ちなみに彼女たちは拠点の外に仕事場を構える気はないらしい。

「ミカ、ミナ、ちょっといいですか?」
「あ、ご主人」
「どうしました? ご主人様」
 2人とも薬などの整理をしていたようで、せわしなく動いていたところだった。

「あ、大丈夫でした?」
「はい、問題ありません」
「おなかでも痛いのですか?」
 2人ともニコニコしながらボクの言葉を待っている。

「実は、拠点の外に医療施設や薬局を作りたいんです。誰かできそうな子いますか?」
 実のところ、フェアリーノームたちの能力やできることをすべて把握しているわけではない。
 なので、だれが何をできるのかがわからないのだ。

「はい。今でしたら5名ほど医療関係の仕事に出せます」
「看護の子は20名くらい行けます。あと薬作りが得意な子も10名ほどいます」
「おぉ!」
 どうやらミカたちに聞いて正解だったようだ。
 となればさっそく開設の方向で話を進めよう。

「では申し訳ないのですが、建物が出来次第開設の方向で調整したいと思います。大丈夫でしょうか?」
 ちょっと急すぎるかな? と思いつつも彼女たちに問いかける。

「もちろんです!」
「拠点内よりも外の子たちのほうが怪我をしているようですから、いいと思います」
「ありがとうございます」
 2人ともすぐに了承してくれたので、さっそく医療施設の開設を始めようと思う。
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