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サルサでのんびり
喜怒哀楽の怒
しおりを挟む昼頃には訪れたはずの宿屋。
もういつの間にか窓から覗いた空は暗くなり始めていた。こんなに私は泣いていたんだ。この部屋の備品である枕が涙を吸い過ぎて重くなっている。またマールさんに怒られる要素が増えてしまった。
『大人しくまた怒られて枕を交換してもらいましょう。それと夕飯も頂きましょうね。』
「ジュズズ……うん。ちゃんと謝ってご飯食べる。」
鼻水を啜るカエデに若干幼児退行の傾向が見られた。この女の子は本当に元18歳なのだろうか?
ひたひたに重くなった枕を引き摺りながらカエデは一階へと降りていく。雑巾がけのように枕で床が掃除される。それに気付いていたなっちゃんはどうせ元々叱られるだろうから放置するのであった。
カエデが降りると厨房で23年も連れ添った旦那さんと料理を作るマールさんを発見。
また大の大人にこっぴどく怒られる恐怖にビクビクするも覚悟を決めて近付く。
お客の気配に敏感なマールさんはすぐに反応してくれた。
「あら、ようやく落ち着いたかい?」
「ま、マールさん。さっきはご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。」
「ちゃんと反省したならもう気にしちゃいないよ。」
「ありがとうございます。でも、もう一つ謝らなければならない事がありまして………これびちゃびちゃにしてすみませんでした!!」
ポタポタと水滴したたる枕を前に差し出して頭を下げる。本当は土下座まで行きたかったけど、人目があるので止めといた。
顔は床を向いているから表情を伺えないけどヌチャアって音と共に持っていた枕の重さが無くなっていた。多分、マールさんが受け取ってくれたみたい。
「……………はぁ、色々と言いたいことはあるけど潔く謝ったあんたに免じて許すよ。次からは容赦しないよ。」
「は、はい。」
「うん、それよりお腹空いたろう?夕飯を用意するから適当に座って待ってな。」
ま、マールさん…。
女将さんの漢らしい優しさにまた瞳が潤んでくる。旦那さんが居なかったら私が結婚申し込んでいた。年の差なんて性別なんて関係ない。それだけ女将さんの生き様がかっこいい。
「好きです。」
「あん、何言ってんの?早く席について待ってな。」
「あ、はい。」
とても冷静に現実へ引き戻してくれました。マールさんが声のトーン少し下げるんだもの、ちょっと怖かった。やっぱり禁断の恋とか駄目だね、堅実に真っ当に恋しましょう。
涙を拭いながら目についたテーブルにちょこんと席つく。周りには何人かお客さんが食事をしている。カップルやら冒険者らしき風貌の人達や一人呑みにふける人まで。こんな美少女一人っていう状況で声を掛けてくる人が居るかもと人知れずドキドキしていたけれど全くお声が掛からない。どういうこと?
イチャイチャするカップルはともかく冒険者達や独り身は声を掛けてもいいはず。みっちゃんが言ってたテンプレモブ冒険者なら必ずそうするって聞いたのに。冒険者も独り身も私には目もくれず親の敵のようにカップルを睨み付けていた。
もう愛し合う二人に嫉妬して男ったらみっともない。
「マーくん、あーん。」
「し、シーちゃん恥ずかしいよこんな人前で………でも、あーん!うん、美味しいよ!」
「本当?」
「ああ、シーちゃんがアーンしてくれたらどんな料理も王宮料理へと昇華しちゃうよ。」
「もうマーくんったら!」
「へへ……シーちゃん。」
「ふふ……マーくん。」
野郎ども、私も参加する。
周りを一切気にせず二人の愛の空間を作り出すバカップル。
そんな熱い熱波の振り撒きに歯軋りを起こす私達。
私がカップルまで近付く最中、目の合う冒険者や独り身達とすれ違い様にアイコンタクトをする。
お前ら、私に黙ってついてこい。
カエデの目配せに立ち上げる同士達。ある者は鼻下を指で擦りながらへへ仕方ねぇなと照れ笑いをし、ある者はおいおい俺を忘れちゃあ困るぜとニヒルに笑い立ち上げる。
彼らは全員初対面だ。
でも、心で通じるものがある。
心はいつだって一つ。
リア充爆発しろ!!!
応援ありがとうございます!
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