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前夜の攻防戦3

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「のぅクロ坊、主は何を怖がっておるのじゃ?この世界に解放されてから今日まで主の脅威になりそうな者は居らんように見えたが…。」

『ケン爺分かってねぇーっすね。敵は身内にありっすよ。』

「なに!儂らの中に裏切り者が居るってことか!?」

『うーん、そうじゃねぇっすけど。まぁ要は旦那が皆に愛されてるってことっすよ。ケン爺細かい事は気にせず今はしっかりここを守りやしょうぜ。』

「ん?うーん…儂には良く分からん。今は主の守護に集中するわい。」

物騒な会話をする女性陣に比べて男性サイドは大人しい。
どうして女性配下の性格がこんなにも危うくなってしまうのだろうか。


そして、そんな危うい思想の娘たちがクロコ達の前に現れた。

『……来たっすね。』

先頭は当然のようにアイリス。
その後ろにシルヴィアやヤオイ、エーロ更にはクロちゃんやメシアも続いている。

「来たってアイリス達じゃのう。ほれ、お主らこんな夜更けにどうしたんじゃ?」

『あ、ケン爺!』

ケンゾウにとって彼女達は味方判定。
しっかり油断した様子で近付いてしまう。

「……ヤオイ、召喚を。」

「はい、お任せあれー!召喚『フローラルな香りに偽装した液体を染み込ませたハンカチ』。」

ヤオイの手に現れた白いハンカチ。
フローラルの香り、でも嗅いだら巨象でも簡単におねんねする。

それを片手に持って安易に近寄って来たケンゾウの鼻へフワリと添える。

「な、なんじゃ!?あ………zzz」

『クロ爺!?』

驚いた表情から一転、ケンゾウは膝から下の力が無くなったかのようにカクンと崩れ落ちてしまった。
そして、もう動かない。

「お爺ちゃんには早々お休みして頂きました。さぁクロコ、その道を開けるのであれば何もしません。ですが、抗うのであればそれ相応の躾を致しましょう。」

『くっ…。』

アイリスは口元の笑みを崩さず冷酷な道しるべを示す。
主を売るか自分を犠牲にするか、恐ろしい選択肢だ。

『そ、そんなの旦那の為に戦うに決まってるっす!あっしの命は旦那の為にあるんすから!!』

「ぶふぁっ!?」

ここでまさかのヤオイが両鼻からの大量出血によるリタイア。
男と男、雄と雄の熱い友情に興奮が抑えきれなかったみたい。

これで運良く女性陣の戦力が少し削れた。それでも戦力差は天と地ほどの差がある。
そもそもクロコ単体で互角に戦える相手がこの中では陰から監視しているニトくらい。

けど、それでも…。

「今なら腹を見せて屈服すらなら許してあげますがよろしいのですか?」

『くどいっす!あっしは退く訳には行きやせん!!』

それでも主の貞操を守らなきゃいけないんだ、ドン!!




「そう。じゃあ、シルヴィア、リリー、エーロにクロちゃん殺りなさい。それとニトは重力操作でクロコの動きを制限して下さい。」

「「「はい!!!」」」

所詮、ワンコ。
どう意気込んで挑んでもアリンコがドラゴンに勝てる訳が無い。
そもそもしっかり指揮された相手にどう立ち向かえと?

ここからのクロコは悲惨で無惨でした。

数でゴリ押そうと影で多くの分身を作るも、ニトの結界内限定の重力操作で加重されてよろよろのお爺ちゃん状態。
それをリリー達が淡々と確実に消していき、残った本体に回避不可能な全方向からの魔法と斬撃の雨霰。

世が世ならペット虐待で訴えれるレベル。
しかし、ここは異世界。
クロコのボロ雑巾の出来上がり。ピクピクと動いているのでまだギリ生きてはいる。

『くぅ…クゥーン。だ、旦那……。』

享年59話 クロコここに眠る。




「さて、皆さん行きましょうか。ご主人様の初めてを強奪するまであと少しですよ。」

「「「おうっ!!!」」」

ユウの理想達の進撃はまだ止まらない。

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