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おいでませ妖精の里
ここは狂宴の谷
しおりを挟む国境を越えて、かれこれ1週間ほど歩き続けた。
平和ボケを起こしそうなくらい何もトラブルが無く、出て来る魔物もゴブリンやモウウルフ、レッドバイソンなど可愛らしいもの。
ヴァルさんと交互に運動がてらで十分に対処している。
もうそろそろ例の谷のはず。
異世界の谷が何の整備もされているとは思えないから、いきなり谷で踏み外す可能性もあるからちゃんと周りを見渡そう。
チビうささん達にも協力して貰いながら、キョロキョロと見回しつつ歩く。
すると、頭の2匹が先に発見したようでダブルで僕の頭をポンポンしてくる。
そんなに叩いたら、揺れて危ないよ。
ふらふらと頭を揺らしながら、僕の目にも噂の谷が映ってきた。
落ちないように注意深く接近する。
左右どちらにも長く亀裂が大地を走り、その深さは真っ暗で分からない。
僕の足に当たった石が、谷に落ちて音も無いまま暗闇へと呑まれていく。
柵も何もないから、落ちたらひとたまりもないだろうなぁ。
少し唾を飲み込んじゃった。
さて、どうやって渡ろうかな。
橋とかって無いの?
こんな時の百科事典。
狂宴の谷で検索をかけると、左に1日かけて歩いた所に橋があるらしい。
何もないかと思ったら橋はきちんと整備しているんだ。
最悪、ヴァルさんにお願いして飛んで越えてもらおうと思ったけど杞憂でした。
急ぐ旅でも無いので、橋へと行きましょう。
ちょこちょこ谷の中を覗こうとして身を乗り出すチビうささんを慌てて止めながら、橋まで多分あと半日くらいまでやって来た。
今日はここでお休みにする。
朝一で出発すればお昼くらいに橋まで辿り着く予定。
ヴァルさん達を地面に降ろして、いつものキャンプセットを用意する。
さて、晩御飯を作ろう。
そしてトントンとナイフで野菜を切る僕に、どうしてこの谷が狂宴と呼ばれる由縁か教えてくれる現象が。
僕ら3人トリオで陽気に鼻歌を歌いながら料理を作っていると、僕らの鼻歌を真似るようにどこからか小さく歌声が聴こえた。
それは一つではない。
いくつもの歌声が鼻歌に合わせてくる。
もちろんバッチリと聞こえた僕は、野菜を切るのを止めて、すぐに側にいるヴァルさん達に抱きつく。
こ、怖くないよ‥。
何処からか聴こえる声に震える僕とヴァルさん。
終焉の黒炎竜でも怖いものはいくつもある。
そんな僕らを優しく頭を撫でるチビうささん。ありがとう。
そんな僕達の張った結界の周りを光りを纏った小さな何かがいくつも舞い降りて来た。
ゆ、幽霊?
どうか蛍とかでありますように。
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