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第壱章  循環多幸  壱之怪

第18話 携帯電話は店によって値段が違うから慎重に吟味しろ

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♢ ♢ ♢ ♢

 ある国に、とても貧しい少年がいました。

 少年は思いました。
 どうして自分だけ貧しくて、まわりの人は裕福なのか。
 それに、この国の王様は仕事もしないで楽ばかりしている。
 こんなことは不平等だ。

 そこで少年は、この国で噂されている願いの叶う丘へ行き、平等にして欲しいと願いました。

 すると、少年に囁く声が聞こえました。


 「君にとっての平等を教えて欲しい」


 その声に少年は答えました。


 「皆が皆、貧しさも裕福も無く同じなのが平等です」


 すると、少年に囁く声は言いました。


 「よろしい、君の願いを叶えてあげよう」


 その声を聞いた少年は、願いが叶う丘から自分の家に帰りました。
 すると、少年の家があった場所が山のようになり、お城よりも大きな家になっていました。
 少年は驚きました。
 そして、大いに喜びました。

 少年が喜びながら家のドアを開けると、この国の国民もいれば王様もいました。

 少年は驚きました。
 そして、家から出ると国が無くなっていたのです。
 王様のお城もありませんでした。
 裕福な人の大きな畑も無くなっていました。

 あるのは少年の家だけだったのです。
 そして、皆が少年と一緒に同じ物を食べました。
 皆が少年と一緒に同じ部屋で寝ました。
 何をするにも皆が少年の家で少年と同じ生活をして同じ行動をしました。

 そして、今度は少年はこう思いました。
 平等にはなったけど、自分の自由な時間が欲しい。
 こんな騒がしいのは嫌だ。

 少年はまた願いが叶う丘に行き、お願いしました。


 「平等にはなりました。だけど、これでは私の自由がありません。私に自由を下さい」


 すると、また少年に囁く声が聞こえました。


 「君にとっての自由を教えて欲しい」


 その声に少年は答えました。


 「私の家には人がたくさんいて、いつも誰かに見られているのは不自由です。自分だけの落ち着いた時間を過ごせるのが自由です」


 すると、少年に囁く声は言いました。


 「よろしい、君の願いを叶えてあげよう」


 その声を聞いた少年は、願いが叶う丘から自分の家に帰りました。
 すると、家には誰もいなくなっていました。
 自分だけの自由な家に少年は喜びました。

 そして、少年は喜びながら外に出ました。
 外に出ると少年は道を歩いている人に出会いました。

 少年はその人に挨拶をしました。
 しかし、その道を歩いている人は少年を無視しました。

 少年はすこし怒りましたが、また道を歩く他の人に出会いました。
 そして、また挨拶をしました。
 しかし、また少年は無視をされてしまいました。

 少年は不思議に思い、道で出会う全ての人に挨拶をしましたが、全ての人に無視をされてしまいました。

 そして、今度は少年はこう思いました。
 自分だけの落ち着いた自由な時間を手に入れたけど、誰からも相手にされないのは寂しい。

 少年はまた願いが叶う丘に行き、お願いしました。


 「自由にはなりましたが、皆が私を無視します。とても孤独です、私に愛を下さい」


 すると、また少年に囁く声が聞こえました。


 「君にとっての愛を教えて欲しい」


 その声に少年は答えました。


 「誰からも相手にされないのはすごく辛いです。皆から相手にされる、それが愛です」


 すると、少年に囁く声は言いました。


 「よろしい、君の願いを叶えてあげよう」


 そして、少年は願いが叶う丘から家に帰る途中の道で、歩いている人に会いました。
 すると、歩いている人の方から少年に挨拶をしてくれました。

 少年はとても喜びました。
 しかし家に帰る途中に会う人、会う人、どの人からも挨拶をされたり、話しかけて来る人がどんどん増えて来て道をふさがれてしまい、家にも帰れない程でした。

 少年は、最初は嬉しかったのですが、だんだん相手にされ過ぎて鬱陶うっとうしいと思う様になってしまいました。

 そして、少年はまた願いが叶う丘に行きました。


 「愛は手に入れました。でも、誰からも相手にされ過ぎて、疲れてしまいます」


 すると、また少年に囁く声が聞こえました。


 「君は最初に平等が欲しいと言った。次に自由が欲しいと言った。そして最後に愛が欲しいと言った。しかし、君は次から次に欲しいものが変わる。君にとって一番欲しいものはいったい何だ?」


 その声に少年は答えました。


 「私は今、欲しいものが分から無くて悩み困っています。ですから、なにも悩まないことが、私の一番欲しいものです」


 すると、少年に囁く声は言いました。


 「よろしい、君の願いを叶えてあげよう」


 すると少年の体が突然、なまりのように重くなり動けなくなってしまいました。

 そして、だんだん息をするのも苦しくなり少年は死んでしまいました。




                 第壱章・循環多幸じゅんかんたこう・壱之怪



♢ ♢ ♢ ♢




 *1


 うーん……。
 
 さっきから後ろの方で嫌な視線を感じる……。



 「あのう、お客様? お探しの機種は見つかりましたか?」

 「あっ……。もうちょっと色々見てみます」

 「分かりました。何か御座いましたら、すぐにお声をお掛け下さい」



 すぐにって言われても……。

 まあ、もう二時間近く居たらそんな言葉も言われるか……。

 僕は無事に島から脱出することが出来たのだが──携帯電話を壊してしまい、携帯電話ショップに来ているわけなのだ。


 いや、壊してしまったのでは無く、意図せず壊れたと言う方が正しいだろう。

 ローザとか言う軍服姿の女性に入れられた半透明の檻の壁にぶつかり、その瞬間、体中に電撃のような激しい痛みを感じ、僕の携帯電話が壊れたのだ。


 大事な大事な僕の青春フォルダ(中身は全部エロ画像)までもが、綺麗さっぱり消えてしまったのだ……!

 僕の財布には一万円と小銭がちょっと。

 この一万円は、沖縄の空港で臥龍がりょうから「俺を褒めたら一万円をやる」と言われ、臥龍を褒めて受け取ったお金である。

 綺麗なお金とは──お世辞にも言えない。


 だが、この一万円は今の僕にとって、とても重要なライフラインなのである。

 そして、もしかしたら五千円ぐらいで携帯電話が売っているかと思い、携帯電話ショップに来たわけなのだが……。


 高い!

 いくら何でも高過ぎる!

 二つ買ったら新しい冷房が一台買えるほどの値段だぞ。


 これは本末転倒だ!

 まだチャプター1で本末と言うのは何だかおかしな気もするが。


 だがこの場合の本末転倒とは違う意味なのだ。

 僕は新しい冷房を買うお金を稼ぐためにアルバイトを探していて、たまたま臥龍の店先でアルバイト募集のチラシを発見して、たまたま面接に合格して、臥龍から一緒に助手として沖縄に同行すれば新しい冷房を買うと言う約束で、僕は沖縄まで行き、本当に死ぬ思いをして、やっと東京の地元である我が街羽まちば市に帰って来ることが出来たのだ。


 つまり、新しい冷房はこれから臥龍の店に行き、臥龍に冷房を買わせればいいのだが……。

 今度は冷房では無く、新しい携帯電話を買うお金を稼がなくては、ならなくなってしまった。


 冷房の為にここまで頑張って来たのに、まさに本末転倒である。


 それより、一番の問題は携帯電話の本体料金だ。

 毎月ちゃんと使用料金を払うのだから、本体価格なんて千円程度でいいのである。

 そもそも今の携帯電話には余計な機能が有り過ぎるから、こんなに高いのだ。


 携帯電話とは携帯する電話なのだから、電話とメールさえ出来ればそれでいいのである。


 ごちゃごちゃと訳の分からない余分な機能を増やすから高くなるのだ。

 このまま機能ばかり進歩しても、使う側の人間が進歩しなくては意味が無いのだ。


 と言うか、このまま携帯電話が進化し続けたら、もしかして二百……いや、百年後には脳内に直接──埋め込むようになるのでは、なかろうか。


 だとするなら、もう携帯電話ならぬ肉体電話になってしまうぞ。

 電話が肉体の一部になる……余り想像したくないな。

 ていうか、どこのトンデモ化学の世界だよ。

 それに肉体電話って……。
 いい響きでは無いな。

 むしろ、何だか気持ちが悪い。
 

 しかし、本当に余計な機能が増えたものだ。

 色々と見たが、絶対に使わないと言っても過言では無い機能ばかりである。

 このまま携帯電話ばかり進化しても、使う側の人間が進化しなければ、全くもって意味が無い。

 人間が進化せず停滞しているなら──

 それは、進化した携帯電話を使いこなせない停滞した人間が携帯するのだから。

 携帯電話では無く停滞電話と言っていいのではないのかと思ってしまう。

 だって、使う側の人間が携帯電話を十二分じゅうにぶんに活用できないのだから、携帯を持ち歩いてる人間が停滞してるってことになるだろ?


 僕の場合、電話とメールとゲームが携帯電話で出来ればそれでいいのだが。


 何だかよく分からない、お友達同士のコミュニケーションを目的とした、アプリケーション等、僕には必要無いのだ。


 だから、いっそのこと、お友達が多い人用の携帯電話を高くして、お友達がいない……っじゃない。

 いないのは悲し過ぎる。

 そう。
 せめて、お友達が少なくて、コミュニケーションを余り必要としていない人用で、余分な機能を減らした分、値段も安くした携帯電話があってもいいではないか。


 それに、お友達と言っても些細なことで友情などすぐに消え失せてしまうのだ。

 友情など、すぐに夢幻となる砂上の楼閣ろうかくに過ぎぬのだ。


 あれ?

 なんで携帯電話を買いに来たはずなのに、途中から友人がいない愚痴のようになっているのだろう……。

 またネガティブになっているぞ。

 僕の悪い所だ。

 悪い所と分かっているのに、気が付くとすぐにネガティブな考えになっているのだから、たちが悪い。

 早くこの性格を直さないと。

 きっと、これが僕に友人がいない原因なのだろう。

 あえて自分から友人を作りに行くつもりも無いけれど。

 そもそも友人は作るものでは無く、自然と友人になっているものだと僕は思う。 


 でも──どうやったら自然に友人が出来るのだろうか。

 うーん……。

 分からない!



 「あのう……。お客様?」



 うっ……!

 まずいぞ。
 これ以上、この店に居たらただの冷やかしだと思われる。

 というか、二時間以上も携帯電話の値段とにらめっこをしている時点で、絶対に冷やかしだと思われているだろうけれど。



 「あっ! えっと……ちょっと欲しい機種が無かったみたいです。ま、また来ます」



 言って、僕は早々に携帯電話ショップを出た。

 きっと店員さんは「あの冷やかし、やっと帰ったよ」などと思っているに違い無い。


 あっ!

 さっきネガティブな考えは直そうと決めたばかりなのに、またネガティブなことを考えてしまっているぞ。


 人間、そうすぐには性格なんて変わらないと言うことなのだろうか。


 しかしまあ、変な携帯電話ショップだった。

 店から出たら真夏の太陽の陽射しが、殺人級の暑さで襲って来るのに、店内の店員さんは皆マスクを着用していた。

 夏風邪か?


 それにしても妙である。

 朝起きて、家から携帯電話ショップに向かう時もずっと妙だと思っていたが。道を歩き、すれ違い行き交う人々の誰もがマスクを着用していたのだ。


 花粉が多く飛んでいる四月などなら分かるが、今は真夏である。

 それに今年は猛暑だ。

 今日だって気温は四十度近くある。

 花粉は春だけでは無く一年中飛んでいるとは聞いたことがあるけど──これは異常だ。


 携帯電話ショップから出ても、それは変わらずに皆がマスクを着用して道を歩いている。

 しかも汗だくになって。

 真夏にマスクなんてしたら、きっと僕は脱水症状で倒れるだろう。

 マスクを着用していない今だって倒れそうなのに……。

 にしても──やっぱり妙だ。

 夏風邪にしては多過ぎる。

 いったい何があったのだろうか。


 もしかして、僕が沖縄に行っている間にマスクを着用するのが、若者の流行になっていたのだろうか。

 それは──いくら何でも無いな。

 だって老若男女ろうにゃくなんにょ、年齢とは関係無く誰もがマスクを着用していたからだ。


 上辺だけの流行に踊らされ──じゃなくて、流行に敏感な若者ならともかく。老人までもが流行を意識しているとは、到底思えない。


 まあいいか。

 深く考えても仕方が無いし。
 それに考えると余計に暑く感じてくるし。


 とにかく僕は、さっさと臥龍の店に行き。臥龍に冷房を買わせ、夏休み中ずっと冷房の効いた家の中でダラけるのだ。

 だから外に出ない僕にはマスクなんて必要無いのである。

 携帯電話はひとまず置いておくとして、一刻も早く臥龍の店に行こう。


 僕の冷房の為に。



 ※この話は、小説家になろうで2016年に発表した内容であり、コ○ナを題材にした内容ではございません。
  なので、不快に思われる方もいらしゃるかと思いますが、何卒、ご容赦ください。
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